暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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脱出の時間

 烏間先生がやって来た日から私たちは、大人しく保護されている振りをしながら、出られた時の為、あらゆる作戦を立て、共有し、連携の確認をしていた。もし、山の中まで入れたときの指揮はカルマ君が行うことになり、後はここを出るだけなのだが……

 

「……どーすんだよ。もう今日だぞ。レーザー発射」

 

 いよいよレーザー発射当日になってしまった。寺坂君の言う通り脱出の隙はなく、また烏間先生などが来ることもなかった。

 時間が経てば経つほど募っていく不安。このまま終わってしまうのではないかという不安に押し潰されそうになる。

 

 ガゴォォン

 

 そんな時だった。唐突に重々しく扉が開いたのは。

 

「いいか?本当に顔を見るだけだぞ」

「分かってるわよ。一目見れば安心だから」

 

 聞こえてきたのは女性の声。声のする方を見ると……

 

「あ~ん、生徒たち~!心配したわ~!」

「「「…………」」」

 

 ビッチ先生が先生に似合わない笑顔でやって来た……ああ、こんな時に……ビッチ先生なんだ。あまりのことに私たちがどうしようもない空気でいると……

 

 がしっ!ぶちゅ!

 

「!?」

 

 唐突に竹林君の顔を掴み、キスをする。先生がキスをすること事態は正直見慣れていたが、あまりに唐突なことに全員が固まる。

 

 ぶちゅ。ぶちゅ。ぶちゅ。ぶちゅ。

 

 そして近くに居た、矢田さん、私、渚君、三村君にもキスをする。

 いつもに比べると短いキス……ただ、キスの後に口の中に違和感があった。

 

「皆、元気?元気ならいいわ。じゃ、帰るわね」

「ほ、ほら。もういいだろ?」

「もー、外に見張りがいるじゃない。こんなことでビビらないでよ~」

 

 そう言って連れてかれるビッチ先生。

 

「じゃ、またねガキども」

 

 ガゴォォン

 

 そして、扉が閉じられる。キスされた面々は私を含め、口の中に違和感を感じる。しかし、他のほとんどの人が何しに来たのか分かっていない様子だった。

 

「な……何しに来たのよ!ビッチ先生!」

 

 茅野さんが泣きながら渚君に問いかける。と、同時に私たちは口の中の違和感の正体に気付いた。

 

「…………これは」

 

 私たち五人の口の中から機械の部品と丸めた紙が……え?何これ?

 

「僕の爆弾一式だ」

 

 …………どうしよう。色々と凄いような……というか、どうやって本当に口の中に入れたんだろう。いや、よくこれだけ入っていたというか……

 

「よし、これで脱出できる!」

「今すぐ行こう!」

「待った」

 

 やっと訪れた脱出の機会(チャンス)。そのことに、一早く脱出しようという人たちを止めたのはカルマ君だった。

 

「どうしたんだよ?早く行かないのか?」

「去り際にビッチ先生。ハンドシグナルで五分待てと伝えてきた。……恐らく、五分後が一番の脱出の好機になる」

「「「……っ!」」」

「……分かった。全員、脱出の用意。矢田。その紙には何て?」

「待ってて。えっと、これは……見取図?ここからの脱出経路が書いてあるみたい」

「見せて」

「うん」

 

 カルマ君や磯貝君が脱出の経路の確認をする。一方の私たちも竹林君が爆弾を組み立ていつでも使えるようにし、他の人たちもすぐに動けるよう軽くストレッチなどをしていた。

 そして、ビッチ先生が来てから大体五分が経過したとき、

 

 ガゴォォン

 

 再び重々しい扉が開いた。そこに現れたのは迷彩柄の服を着た男性……帽子を深く被っているけど、この気配って……

 

「……風人君?」

「ご名答~!さぁ、脱出するよ~」

 

 帽子を軽くあげ、私たちに笑顔を向けてきたのは、唯一捕まらなかった、私たちのクラスメートで私の彼氏、風人君だった。

 色々と言いたいこととかあるけど、今は脱出が優先。

 

「皆、行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 磯貝君の号令と共に、一斉に飛び出していく私たち。部屋から出ると、すぐ脇には眠らされている男の人……さっき、ビッチ先生が言っていた見張りだろうか?

 

「風人。このルートは安全?」

「うん~カメラは律がハッキング済み。だけど、音はなるべく出さないでね」

 

 それに、モタモタしていたらバレるから急いでね~といつもの軽い調子で言う。

 脱出マップは完璧のようで、私たちが通る道には誰も居なく、それでいて安全に通れている。最後の扉だけ竹林君が軽く爆破し、通れるようにする。敷地から出てすぐのところには先ほどと違い、真面目な表情のビッチ先生が。そして、私たちの分の靴が置かれていた。

 

「遅いわよ。私の完璧な脱出マップがありながら」

「ビッチ先生。これって……」

「カラスマから頼まれてね。でも、思ったより時間がかかっちゃったわ。E組教師を口実に通って心を開かせ、休憩室で見張りが談笑する習慣を作って、あんたらの脱出経路を確保するまで。でも、どこにでも居るわね。頭の固い見張りが。まぁ、カゼトが手筈通り眠らせたから問題なかったでしょうけど」

「いえす~監視室に忍び込んで律による簡単なハッキングもね~まぁ、僕も脱出に時間かかっちゃったから、お互い様ってことで~」

「え?脱出って…………風人君も捕まっていたの?」

「いやぁ~本当に辛かったよ……」

 

 すると何処か遠い目を向ける風人君。……そうなんだ。きっと、何処かで同じように……

 

「一日三食、決まった時間に栄養に配慮された豪華な食事が出て。お風呂がそこそこ広くてゆったり出来て。ベッドがふかふかでそこから出たくなくなって……」

「「「…………」」」

 

(((コイツ……殺す……!)))

 

 ……風人君はここで殺っていいと思う。

 何でこの子はそんな贅沢な生活を送っていたんだろう。囚われの身だった私たちなんて、最低限の食事。明らかに簡素な作りの共同風呂。布団もよくある敷くタイプで全然ふかふかじゃなかったし……君は追われていた身だよね?私たちは()()保護されてた立場だよ?おかしいよね?この格差は一体何なの?

 

「そして、攻撃に失敗すると補習課題という名の地獄が待っていて……あぁ、後一日早く当てたかった……」

「「「…………?」」」

 

 ……一体、風人君はどこに居たんだろう。凄い不思議だ。

 

「それよりレーザーの発射時刻は日付が変わる直前なんですってね」

 

 と、ビッチ先生の一言で我に返る。そうだ。風人君を捕らえ問い詰め吐かせることはいつでも出来る。今は、やるべきことがあるんだ。

 

「どういう結果になるか……それは誰にも分からない。けど、明日は卒業式の日なんでしょ?最後の授業……存分に受けてらっしゃい」

「「「はいっ!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆は各自家に帰って、準備するらしい。らしいと言うのは、僕は自分の家を出るときに準備はしてきたし、すべて終わるまでは帰らないつもりだからである。潜入する時に奪っておいた服をビッチ先生に押し付け、再び浅野家に来ていた。

 

「無事に会えましたか?」

「えぇ。色々とありがとうございました」

「礼には及びませんよ」

 

 この家から出る条件だったナイフ当て。結局、成功したのは今日のお昼だった。

 起床時、おはようございますという挨拶と共に、ナイフを振り下ろしたが避けられて失敗。昼食時、机の下、足で器用にナイフを蹴り飛ばしたが、受け止められて失敗。解き終わった補習課題を渡す時、確認が終わったと同時に奇襲を仕掛けるも新たな補習課題で防がれ失敗。就寝時、おやすみなさいと共にナイフで向かおうとしたが投げ飛ばされて失敗。

 失敗に失敗を重ね、最終的には気配を消して背後を取ったがすぐに気付かれ、ミスディレクションで注意の対象を余所に向けさせて、それでもアレだったのでポケットからスマホを落としてフラッシュ機能を使い視界を奪って急接近し、僕の攻撃を敢えて防がせた上で、仕込んでいたワイヤーを操り首下にナイフを飛ばす……という、もう、何で気配を消してグサッとやって終わらなかったんだよ、と嘆きたくなるレベルで何重にも手を打って何とか当てたのだ。

 思い出すと、この数日で解いた補修課題は軽く二桁……気付けば高校の範囲も平然と出ていて、難易度もやばかったなぁ……何というか、流石理事長の課題って感じだ。

 

「明日は卒業式です。……あなたたちが全員揃って参加することを祈っていますよ」

「はい!」

 

 そのまま家を出て行く。

 この数日間は色々と大変だった。でも、勉強と諸々の技術に少しだけ磨きをかけられたような……まぁ、大変だったが充実はしていた。少なくとも、逃げ惑う生活やただ大人しくしているだけだったよりはずっとマシだと思う。

 

「風人君」

「有鬼子~」

 

 屋根を跳んでいると彼女と合流する。

 

「一時間後に隣町のここに集合だって」

「りょーかい」

 

 有鬼子が見せてきた地図。なるほど、隣町から入って山を一つ超えるルートしかないのか。

 

「そうだ風人君。一回止まって」

 

 目的地に向かう途中、何処かのビルの屋上にて何故か止まるように言われた。

 

「え?何?なんかあった?」

「……ここ数日、彼女を心配させた罰を与えるね」

 

 どうしようか。凄い怒っている気がする……え?どうしよう。僕、皆の下にたどり着く前にここから突き落とされるのかな?……流石にこの体操服着ていても、この高さは死ぬんじゃないのかな?下、コンクリートだし……

 

「ちょ、ちょっと待った。えっと、流石にここはマズ……んっ」

 

 そう思っていると彼女の両手が僕の頬を軽く押さえ、そのまま彼女とキスをする。

 数秒に渡るキスの後、重なった唇が離れていく。そして、ゆっくりと彼女は僕の胸のところに飛び込む。

 

「もう……本当に心配したんだから……!」

「……ごめんなさい」

「ううん……でも、無事だったから……」

 

 僕は静かに彼女の背中に手を回す。

 そうして、数分くらい経っただろうか。静かに離れる僕ら。

 

「……後は、すべて終わってからね」

「うん……うん?」

 

 え?これで終わりじゃないの?

 

「これで終わり?数日分の寂しさを数分で埋められると思っているの?」

「……すみません。思っていました」

 

 …………どうしよう。これはしばらく彼女に頭が上がらない気がしてきたぞ……

 と、そんなことはさておき、集合場所には続々とクラスメートが集まっていた。

 

「風人。今回の作戦、お前の動きを伝える」

 

 カルマから手短に作戦を伝えられる。そうこうしている間に全員揃ったようだ。

 

「時間がない。この潜入が間違いなく最後のチャンス。最後の任務は全員無事に登校すること。……行くぞ」

 

 僕らは磯貝君の合図と共に一斉に駆けだしていく。

 殺せんせーの暗殺期限まで、後3時間。

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