暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
聞いていた話と違う。
中学生集団。普通の中学生が、少し訓練で強くなった程度だと聞いていたはずだったのに。
どうしてそんな奴らがここまでやれる?
どうして、俺たちが追い詰められている?
こっちに向かっている敵の数は分からない。それに対してこちらの小隊は既に半壊。
「はい。これでしゅーりょー」
横から気の抜けた声が聞こえてくると共に、声のする方へと銃を向ける。
次の瞬間。俺の視界に飛び込んできたのは、こちらの顔面を的確に狙った……
ボコッ!
「ふぅ~これで何Killしただろう?」
「誰も殺していないでしょ?ほら、さっさと簀巻きにするよ」
「へーい~」
ということで、今々飛び膝蹴りを顔面にぶち当ててノックダウンさせた人をぐるぐる巻にしていく。
「こっちは片付いたよ~」
有鬼子が何やら打ち込んでいるのを尻目に、指揮官カルマへの連絡を済ませる。
『了解。そしたら、そろそろ本隊と合流。また、もう少し崖に近いところに二、三人いるらしいからついでに撃破しておいて』
「りょーかい~崖から突き落としておくね~」
ということでさっさと移動。さっき、誰かの断末魔が聞こえてきたけど……あぁ、あれがカルマの言う人間エサだっけ?まぁいいや。
「じゃあ、こっちも~っと」
見ると二人が崖際で固まっていた。全く、ダメだな~崖際で固まっていたらさ……
「片方が躓くと二人仲良く奈落の底だよ?」
後ろにいた人の足下めがけワイヤー付きの手錠を投げる。そのままワイヤーに足を引っ掛けさせ、軽くバランスを崩させる。そして、近くにあった手頃な石を後頭部にぶつけさせ……
「い、いきなり押すなよ!押したら落ちるだろ!?」
「誰かに引っ掛けられて何かをぶつけられたんだ!俺じゃね……」
「そこまで言うなら押すねーえーい」
近くに居た相方に向かって倒れ込むさっきの人。こっそり近づいて、最後にその人の背中を優しく蹴って押してあげる。最後の一押しってやつだね。
「「ぎゃあああああああ!」」
「崖の滑り台。楽しんできてね~」
二人纏めて崖下に落ちていく。まぁ、ここの崖はそこまで高くないから精々全治一、二週間で済むでしょ。
ただ、今の悲鳴を聞いても反応があまりないってことは、この辺の敵さんは全滅させたかな?まぁ、それならいいや。
「容赦ないね」
「うん~。だってバラエティの定番でしょ?」
押すなよって言って、押すのは定番だと思う。つまり、あの人たちは、本心では押して欲しかったに違いない(違います)。僕はあの人たちの気持ちを汲んで押してあげた。それだけだね。
「そろそろ行こう?これ以上風人君による犠牲者を出さないために」
「えー僕、そんなにイタズラしてないよ~それより有鬼子の方が酷いじゃん。僕が倒した相手に麻酔銃ぶち込んで確キル入れてるじゃん」
「当然。ダウンさせた相手に確キル入れるのは、こういうのの定番だよ?」
いや、多分この場合だと確キルと言うより死体蹴りっていうと思うんだ。
「せめて、念押しだよ?」
既にダウンしている相手にそんな……あ、何でもないです。何でもないので(鬼のような)笑顔を向けないでください。怖いです。控えめに言って恐怖です。
「やっほー。ただいま合流しました~」
「あはは……その分だと何人犠牲になったんだろう」
「う~ん、分かんないや。とりあえず二人は崖から突き落としたよ」
「…………生きてる?その人たち」
「だいじょーぶでしょ~」
渚をはじめ、クラスメートの多くが集まって動いていた。少人数のチームに分かれての撃破作戦はほとんど終わったようだ。
何で僕が有鬼子とペアなの?って聞いたら、僕の行動を管理出来るのは有鬼子しかいないとのことだ。酷いなぁ。僕は(今回は珍しく)しっかり指示に従っていたのに。
「……っ!止まって!」
順調に進んでいるように見えていた。
突然、目の前から明らかに強者の気配がする……この人が例の伝説の傭兵……そう思っているとクラスメートの一人が弾丸のように飛んできた。
「危ない!」
その軌道に居たししょーを間一髪で渚が庇って避けさせた。
「……失礼した」
そう言って姿を現したのは、如何にも怖そうなおじさん。確かに烏間先生の三倍強いって言ってたけど……納得だ。これはヤバい。ジョーカーとか比じゃないね。
「君たちの力を低く見積もり過ぎていたことを謝罪しよう。ここからは、本当の私を教授し――」
「けっこーでーす!」
目の前の強敵……ホウジョウさんって言ったけ?その人が眼鏡に左手をかけ、なんか言っているのを無視して近付いていき、跳び蹴りを喰らわせようとする。
「――そうかい」
その蹴りは左腕で防がれた。どうやら、眼鏡を外すのを中断し防いだようだ。だがそう思うのと同時に、右腕に持っていた銃で殴られ飛んでいく。
「容赦ないなぁ……」
両腕をクロスして防いだものの、勢いよく木に着地。片手で中学生一人吹き飛ばすとか規格外過ぎでしょ。
「全く……人の話は最後まで聞くものだ」
そう言いながら再び左手を眼鏡にかけるが、飛んできた麻酔針を捕るため、眼鏡から手を放して左手でキャッチする。
「部下の実弾ライフルを使いたまえ。それがないと互角にもならんぞ?」
……いや、それでも音もなく飛んできた麻酔針をキャッチする、なんて離れ業をしたアンタはどうかしていると思うんだけど?
「……では、行くぞ」
と、眼鏡にまた手をかけたタイミングでカルマが奇襲を仕掛ける。その手にはスタンガンを棒状にしたものを持っていて、触れた相手に電気を流せるものである。
「フン」
眼鏡を外すのを中断し、カルマは吹き飛ばされ、僕の横にやって来る。
「……小賢しい」
そう言って左手で眼鏡を外そうとするけど、そこに向かって杉野が手頃な石を投擲。ホウジョウさんが石の飛んできた方を向くと、有鬼子がフラッシュを焚く。その眩しさに乗じて、一斉に近接戦闘が比較的得意なメンバーがホウジョウさんに向かっていった。
「あれ?もしかして合図って……」
「一撃離脱……合図はアレだよ」
確かに、この人と遭遇戦にしたら合図が出次第、一撃離脱で仕掛けるって聞いてたけど……マジ?合図ってあの人が眼鏡に手をかけたらじゃないの?だって、あの人って眼鏡を外すと戦闘のスイッチが入るんでしょ?
「まぁ、風人のタイミングはベストだったし、お前がズレるのは読んでいたから問題ない」
「ズレるって酷いなぁ……でもまぁ。もう一度行ってくるよ……っと!」
ホウジョウさんが持っていた長銃が蹴り落とされ地面に落ちる。それを悪用され……拾われないように三つほど手錠を投げて、銃の位置を遠くへとズラす。これであの人には僕たちの連携をかいくぐりながら銃を拾うことはできない。
バァン!
竹林君の投げた爆弾が空中で爆発する。そっちに気を取られていた隙に僕は手錠を五個くらい同時に投げ当てて、こっちに気を向かせる。
ボッ
こっちに気が向いた瞬間。反対側の上空よりイトナ君のドローンに搭載された麻酔銃を律が撃つ。これにより、首筋に麻酔針が刺さった……が。引っこ抜かれてしまう。あれ?おかしいな……これって象すらも気絶すると聞いたような……聞いてないような。
ま、まぁ?烏間先生が南の島で、そのレベルのガスを受けてもしばらくは動けたように、この人に効かないことも計算の内。
麻酔針が当たったタイミングで、近接戦闘を仕掛ける部隊の攻撃が一斉に止む。
パァン!
攻撃が止んだ中、わずかに感じた気配。その気配のする方へとホウジョウさんは向くと、そこに木からぶら下がった渚がいきなり現れ、クラップスタナーを放つ。あまりのことに対応できず、一瞬仰け反るホウジョウさんの後頭部を押さえながら木から足を放す渚。
「カルマ!」
そして岩の上に居たカルマはその声と共に高く飛び上がる。
ゴッ!
カルマの踵落としが顔面に、渚の膝蹴りが後頭部に鈍い音を立てながらぶち当たる。
ドサッ!
二人の攻撃でホウジョウさんは地面に仰向けになって倒れた。
一瞬の静寂。
パァン!
そして、倒したことを確信したカルマと渚はハイタッチを躱す。
「ちょ、まだ動いている!」
「ホントだよ~!」
ゴンッ!
気配を完全に消し、背後に回っていた僕の踵落としが、ホウジョウさんの後頭部に勢いよく突き刺さる。この人がまるでゾンビのように起き上がりそうになったときの、渚とカルマのビクッとした表情はお笑いものだ。実に滑稽であった。
「ちゃんとトドメ刺せクソッタレ!カッコつけてハイタッチとかしてんじゃねーぞ!」
「ぷくく。倒したことを確信してハイタッチまでして……ぷくく。かっこ悪~」
「「…………」」
寝そべる形になったホウジョウさんを蹴り起こして、寺坂や僕らによるスタンガンなどによる電流責め、速水さん、千葉君による麻酔銃乱れ打ち。最早、死体蹴りを超えたただの鬼畜の所業。
一通り終えた後、両手両足に手錠を何重にもかけ、更に普段より多目にぐるぐる巻にした。
「よし行くぞ!バリアの中に入ってしまえば殺せんせーの権力内だ!」
と、喜ぶのもいいのだが……
「……まだ意識あるよ。この人」
「フルコースを喰らったのに……バケモノ過ぎるだろ」
「…………よく生きてるなぁ……この人」
「まともにやっていたらと思ったらゾッとするわ」
……何故か意識がまだあるんだよね……本当に人間ですか?普通の人はここまで喰らったら……うん。ここまで喰らう前に意識を手放しているよ?絶対に。
と、そんなことを考えている間にバリアの中に入ることに成功。そして……
「音だけでも……恐ろしい強敵を仕留めたのがわかりました。成長しましたね。皆さん」
「「「殺せんせー!」」」
せんせーとの感動的な再会……なのはいいんだけど、全員が各々の武器を取り出しながらせんせーの下に駆け寄っている。まぁ僕も手錠片手に行っているから同じなんだけどね。
しかし、感動的な再会の余韻に浸って居られる時間は長くない。空には発射予定のレーザーの光が、今にもこぼれ落ちそうなくらい輝いている。僕らは、状況を説明すると共に、逃げることを提案するが……
「いいえ。きっと逃げられないですよ」
殺せんせーは落ち着いた様子で棄却する。
「地球の命がかかっている以上、ここまで来たら誰を人質にしようと発射は止めない。それに、爆発しなかったとしても、これだけ強力な力を持ち奔放に活動する怪物を世界各国は恐れないわけがない。息の根を止めてしまいたい……そう思うのが妥当でしょうね」
確かにそうだ。このせんせーは明らかに人を超えている……知っている人からすれば無害かもしれないが、知らない人からすれば恐ろしい怪物。ここで仕留めておきたいと思う……か。
「もっと早く来ることが出来ていれば……私たちも捕まっていなければ……もっと打つ手があったかもしれないのに……!」
「おそらく結果は変わらなかったでしょう。君たちのような勢力が居ると言うことで、危険視され、捕まれば厳重な監視下に置かれていた。また、発生装置の防備も完璧……今の君たちの能力と装備では呆気なく捕まってしまう。この作戦は完璧だ。技術、時間、人員……そのすべてが惜しみなく注ぎ込まれている」
ここまで大がかりな計画……それなのに僕らはその予兆すら感じ取れなかった。一週間前にレーザーが堕ちたあの日……もうあの時点で、手遅れだったのかもしれない。
「私はね。世界中の英知と努力の結晶の暗殺が、先生の能力を上回った事に敬意を感じ、その標的であったことに栄誉すら感じます」
せんせーは誇らしげに。一切悲観することなく告げる。でも……そんなことを言ったら……
「じゃあ、私たちが頑張ってきたことは……無駄だったの?」
矢田さんが僕らの感じ始めていることを口にする。
「無駄な訳がありませんよ。君たちは、先生が爆発する確率が1%以下突き止めてくれた。そこから沈んでいたE組の明るさが戻り、この1ヶ月間。短かったですが楽しかった。その過程が、心が大事なのです。これまでに習ったことを全て出して、君たちはせんせーに会いに来てくれた。これ以上の幸福はありませんよ」
「はぁ……何というか、やるせないというか……うまくいかないもんだね……」
「風人君」
そう言うとせんせーの触手が頭の上に乗っかる。
「皆さんも。先生からアドバイスを。これから先、大きな社会の流れに阻まれ、結果が出せないことがあります。でも、社会に原因を求めたり、否定してはいけません。それは時間の無駄……世の中そういうもんだ、と悔しい気持ちをやり過ごしてください。そして、その後考えるのです。社会の激流が自分を翻弄するなら、その中で自分はどう泳ぐべきかを」
せんせーは僕らの目を見て、話を続ける。
「やり方はここで学んだはずです。いつも正面から立ち向かう必要はない。君たちがここで学んだことを、殺る気をもち何度も何度も試行錯誤すれば、いつか必ず素晴らしい結果に結びつくです。君たちは全員、一流の暗殺者なのですから」
「……ここでも授業かよ」
寺坂がそうやってぼやくと、せんせーはいつも、僕らを教えている感じで、あくまで教師として答えた。こんな時だからこそできる授業と。……やれやれ、このせんせーは……僕らを導くチャンスだと思えばこれだから……。
「でもね。君たちが本気で私を助けようとしてくれたこと……ずっと、涙を堪えていたほど嬉しかった」
一人一人の頭に軽く触手を置き、ハンカチまで取り出して答える。
(……なんで、そんなに落ち着いてられるんだよ。殺せんせー)
その姿はいつもと変わらないように思える。
(
「……ところで中村さん。激戦の中でも君の足音はおとなしかったですねぇ?」
「……え?何で足音で分かるの?というか、どうやって分かるの?」
「ヌルフフフ。私くらいになれば、風人君が二名ほど敵を崖から蹴り落としたことも音で分かるのです」
……いや、そこまで行くと地獄耳過ぎて引くんだけど……え?なにこのせんせー。生徒を足音で判別しているだけじゃなくて、行動すら音で分かるって……
「しかも、甘い匂いが先程から……!」
鼻の穴を拡げて、よだれまで垂らしている。とてもさっきまでいい話をしていたとは思えない。
中村さんは呆れながらその匂いの正体を取り出し、せんせーの前に置く。
「確か雪村先生は、今日を殺せんせーの誕生日にしたんだよね?だから、ケーキを持ってきたんだよ」
そこには小さなケーキ。
「す、凄い……!一切形が崩れていない……!な、何てことだ……!」
僕なら一瞬で崩す自信がある。だって、存在を忘れると思うから。
「まぁね~。簡単に崩れてしまうこのケーキを、ここまで崩さず運んだ私の体術を褒めてほし……聞けよ!」
ちなみに殺せんせーは中村さんの方に目もくれず、エサを前にした腹ぺこの犬のようによだれを垂らしていた。まじかこの教育者。生徒の凄さより飯かよ、スイーツかよ。
「ああもう!皆!準備はいい!?」
中村さんがロウソクに火をつけてケーキに刺しに行く。
「サンハイ!」
中村さんの合図で皆がバースデーソングを歌い始める。
え?なにそれ聞いてないよ?というか、ケーキが出てきた辺りから僕、聞かされてないから知らないんだけど?
「くせぇ仕込みしやが……って!」
「まったくだ……って!」
文句を言った寺坂が片岡さんに耳を引っ張られ、それに便乗した僕が有鬼子に思い切り足を踏み抜かれた。痛かったです。女性陣が怖いです。だから、僕も歌います。
歌っていると烏間先生とビッチ先生も到着した様子。
「1本しかねぇから!大事に消せよ!」
「あれ?じゃあ、殺せんせーって1歳……あ、黙ってまーす」
皆が盛り上がっている中、有鬼子が僕の頭を掴んだので静かにしています。はい。
そして、殺せんせーが息を吹きかけようとした次の瞬間。
ザッ!
何かがケーキを打ち抜いた。
「ハッピーバースデー」
校舎の屋根の上……そこには柳沢ともう一人が立っていた。
「世界一残酷な死を、プレゼントしよう」
そう言って後ろの奴のファスナーが下ろされていく。
「先生。僕が誰だかわかるよね?」
そこに居たのは……バケモノへと変わり果てた二代目死神だった。