暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
その姿はまさにバケモノ。こんなバケモノが元人間なんてどうやっても信じられない。
「そのタコと、同じ改造を施しただけだ。違う点は彼が自ら強く望んでこの改造を受けたこと」
改造……?改造ってレベルなのか……これ?殺せんせーよりバケモノらしいんだけど。
「想像できるか?人間の時でさえ君たちを圧倒した者が、比類なき触手と憎悪を得た。その破壊力を」
次の瞬間。僕は宙を舞っていた。僕だけではない。クラスメート、誰一人も反応できず、ただ宙を舞っていた。
ドドドドドドッ
耳がやられるほどの激しい音。えぐれる地面。堕ちる僕ら。
何が起きたのか一切分からなかった。
「
起き上がると、殺せんせーに対しての触手による猛攻が行われていた。
耳の痛みなどにやられつつも考えるが……要するに、スピードが倍……!そんなのどうにか出来る相手じゃない。
「二代目の超人的とも言える動体視力と直感力は、触手によって増幅。超音速の世界にも容易く順応した」
何だよそれ……!容易く順応って……!
「最大の違いは継続的運用を考慮に入れていない触手設計。寿命は持って3ヶ月。それと引換に凄まじいエネルギーを引き出す。さらに、死ぬ時にも爆発のリスクはない。安全かつ完璧な兵器だ!」
「でもそれってさー……二代目も使い捨てのコマってこと?」
明らかに短すぎる寿命。どう考えても長く使っていく気がない。
「ああ。その通りだよ」
しかし、柳沢は呆気なく肯定した。
「そうやっていつも……!他人ばっかり傷付けて、自分は安全なところから……!」
ししょーの怒りの隠った声。その声に対し、
「俺に死の覚悟がない……そう思うかね?」
首筋に注射を打ち込む柳沢。その目は僕たちには想像ができないほどの狂いが見えた。
「命などどうでもいい。全てを奪ったお前さえ、殺せれば!」
柳沢の身体に変化が現れる。ヤツの身体は人間の原形を留めながらも、バケモノへと変わっていく。
「体の要所要所に触手を少しずつ埋め込めば、人間の機能を保ったまま超人になれる」
超人と言っているが、バケモノとさして変わらない……そう思っていると一瞬で殺せんせーの背後に移動。左目からせんせーの細胞を固まらせる光を放った。
「モルモット……生徒たちに一生の傷が残るような、無残な死を!」
そこへ二代目の触手による攻撃が迫る。
「なんのっ!」
それを触手で防ぐせんせー。
「……皆さん。先程言い忘れていたことがあります。どれだけ正面戦闘を回避してきた殺し屋にも、人生の中に数度。全力を尽くし、戦わねばならない時がある……先生の場合、それが今です!」
そこからせんせーと二代目、柳沢による規格外の戦いが繰り広げられる。一撃一撃が衝撃波を生み、動きはほぼ見えない。ただ分かるのは二代目の攻撃、柳沢のサポート……このコンビは殺せんせーの力を遙かに超えている。
流石の僕らも、誰一人この戦いに介入できない。この音速バトルを前になにもすることが出来ない。次元が違いすぎる。圧倒的な強さ、それを前にして逃げる……そんなことすらできない。
絶望に暮れる……が、少しずつ戦いに変化が起きていた。
「かわし……」
「はじめている……?」
確かに殺せんせーが劣勢であることは変わっていない。でも、被弾が明らかに減っていた。
「律。見える?」
『えぇ。人数、パワー、スピード……圧倒的とも言える戦力差。それを工夫で埋めています』
「…………どこまでもせんせーだね……」
せんせーは僕らに弱者なりの殺り方を教えてきたと思う。対等ではなく、戦力差があって、そんな中でどんな風にその戦力差を覆すか。その姿を今も見せてくれている……僕らに示そうとしてくれている。
一通りの攻防が終わったのか、双方地面に着地し動きを止める。
「道を外れた生徒は教師の私が責任を取ります。だが、柳沢……君は出ていけ。ここは生徒が育つための場所。君に立ち入る資格はない!」
「……まだ教師何ぞ気取るか。ならば試してやろう」
指ぱっちんと共に一瞬で僕らの近くに移動する二代目。
「分からないか?我々が何故このタイミングを選んで来たか」
パワーを溜め始める二代目。その矛先は僕ら生徒……!
「いけないっ!」
「守るんだよな?先生ってやつは」
一瞬の閃光、そして砂煙が僕らを襲う。
しかし、僕らの誰にもダメージはない。
それが意味することは、今の二代目の一撃を全て殺せんせーが防いだと言うこと。
「「「殺せんせー!」」」
たった一撃でせんせーはボロボロになる。僕らを守るために自らを盾にし、身を削る。
そんなせんせーの姿を嘲る柳沢。容赦なく、二発目、三発目と指示を繰り出していく。
そのすべてを受け止め、僕らに一切のダメージを与えさせないせんせー。
「ターゲットと生徒が一緒にいれば、こうなることは必然。不正解だったんだよ、今夜ここに入ってきたお前らの選択はな!」
柳沢は僕らに非常な現実を突きつけようとする。
「やめろ柳沢!」
そんな姿に業を煮やした烏間先生が銃を構える。
「これ以上生徒を巻き添えにするな!さもなくば……」
次の瞬間。烏間先生が柳沢による肘打ちで吹き飛ばされる。
あの烏間先生が防御も碌に出来ずに吹き飛ばされる。柳沢ですらこの強さ……!
「どんな気分だ!大好きな先生の足手まといになって、絶望する生徒を見るのは!」
……ずっと前から知っていた。
気付いていたのを気付かぬふりしていた。
殺せんせーの最大の弱点。それは……
「分かったか!お前の最大の弱点は……」
……僕ら。
「なわけないでしょう!!」
頭の中をよぎった考えをも塗り潰す勢いの殺せんせーの言葉。
「正解か不正解かではない!彼らは命懸けで私を救おうとした!恐ろしい強敵を倒してまでここに来てくれた!その過程が!その心が!最もうれしい贈り物だ!」
「弱点でも足手まといでもない!生徒です!!」
「全員が、私の誇れる生徒たちです!!」
殺せんせーの熱弁。しかし、柳沢には響かない。
「そうかそうか。だがな?お前は間もなく力尽きる。そこまでして守った生徒も、全員俺の手でなぶり殺す。お前が、我々の人生を奪ってまで手にした1年。全て無駄だったと否定する。それで、ようやく我々の復讐は完成する」
それどころか、更なる狂気さえ感じる。
「さぁ、続けるぞ。生徒をちゃんと守れよ。お前の可愛い生徒を」
次の瞬間。聞き慣れた短い発砲音と共に何かが二代目の顔を横切る。
そして、見えたのは殺せんせーの横でナイフを構える……
「逃げて殺せんせー!どこか隠れて回復を!」
茅野の姿だった。
そこに容赦なく二代目の攻撃が刺さる……がギリギリのところで躱し、持っていた対殺せんせー用ナイフで触手に傷をつける。
「ほう……なるほど。これを見切れる動体視力が残っていたか」
「よすんです!茅野さん!」
せんせーの言葉。しかし、茅野は退こうとしない。
「ずっと後悔してたの……私のせいで、皆が真実を知っちゃったこと。皆の楽しい時間を奪っちゃったこと。……だから、せめて守らせて?先生の生徒として」
「君は正しかったんです!あのお陰で皆は正しいことを学べたのだから!」
茅野にせんせーの意識が向いた瞬間。二代目がせんせーを吹き飛ばす。そして、
「二代目」
柳沢の指示で二代目が力を溜める。二代目を倒そうと迫る茅野。
そして、その触手による一撃は……
茅野の胸を貫いた。
落ちる茅野。
「茅野!」
地面に着く直前に滑り込みでキャッチする。頭や足をぶつけないようにギリギリのところで抱えた……が、間近で見てもその傷は酷かった。
「はははははははは!姉妹揃って俺の目の前で死にやがった!はははははははは!本当に迷惑な奴らだなぁ!姉の代用品として飼ってやっても良かったが、あいにく穴の空いたアバズレには興味は無く」
「……黙れよ」
おかしそうに笑っていた柳沢。そいつに向かって片足で手錠を蹴りつけた。
「……黙れよ……カスが」
呆気なくかわされたがそんなの気にしない。
「はははははははは!そうか!キサマは二度目か!目の前で大切な仲間を失うのは!」
「…………っ!」
その一言が僕の中にあったリミッターを外す。
殺す。殺気が、ヤツに対する殺意が溢れ出て来る。
今にも向かおうとする僕を押さえたのは、せんせーの触手だった。
「…………!」
止めないで……そう言おうと思った僕は殺せんせーを見て、言葉を失った。
それはさっきまでのような黄色ではなく、ドス黒く染まっていた。
「それだ!その色でなければフルパワーは出せない。その闇の黒こそが破壊生物の本性だ!」
今まで見たことのない色。その色を見せたことに満足そうな表情の柳沢。
「だが、ボロボロのお前の渾身のド怒りも、二代目が真の力で否定する」
柳沢が二代目に何かを注入する。すると、二代目の気が膨れ上がり、それは近くに居る僕たちを吹き飛ばす勢いだった。
「離れよう!」
抉れていく地面。土の塊が風圧と共に襲い来る中、渚が提案する。
「ここにいたら確実に巻き添えだ!」
「……分かった。離れよう」
「逃げるのだって俺たちの立派な戦術だよ」
茅野をそのまま抱え、二代目やせんせーから離れていく僕たち。
確かにそうだ。僕がやるべきなのは、あのバケモノたちの戦いに真正面から介入することじゃない。僕らは僕らのやるべき事をする。
「……ここで、終わる」
僕らが離れると、二代目の今までで最も強力な一撃が放たれる。
その一撃を受け止める共に、殺せんせーから白い光が溢れ出す。
「……いや、黒い……?」
「……違う。黄色だ……」
「いや、赤……」
「緑……」
「青!」
「白……!」
色が何色にも変わり、そして最後には白色になる。
「……教え子よ。せめて安らかな……卒業を」
殺せんせーから純白なエネルギー砲が発射される。
その一撃は二代目を飲み込み、その風圧でついでに柳沢を吹き飛ばす。
そして、瀕死の二代目に向かう殺せんせー。懐から対せんせーナイフを取り出して、
二代目を刺した。
そして、少しした後。二代目は粒子となって空に散っていった。