暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
波乱の修学旅行は終わった。皆旅行の疲れが溜まり、帰りの新幹線でほとんどの人が眠っている。
「むにゃ~もう食べられないよ~」
私の膝を枕にして、夢を見る風人君。
膝枕している理由は私が風人君に私の膝に枕を乗せるよう言ったからだ。膝というか太ももというか。
「よく寝てるね」
「ふふっ。本当にね」
凄く可愛い寝顔だ。夢の中で何か食べてるのかな?でも、本当に、
「好きなことを自覚しちゃったからかな」
今までより、とても彼が愛おしく思えてしまうのは。
「でも神崎さん。いつから気になってたの?」
「分かんないけど、もしかしたら最初からかも」
「へぇーゲーセンで会ったんだっけ?どんな出会いだったの?」
「うん。あれはね……」
あれは去年の夏休みのこと。風人君との出会いは夏休みが始まって間もなくだった。
私はその頃。家の呪縛が嫌で髪を染め、服も普段着るような感じじゃなくて何と言うかサバサバしたような服を着ていた。アクセサリーも付け、慣れない化粧もして。自分では無い、自分とは全く別の……もう一人の自分を作り出していた。
「チャレンジャー?」
私がやっていたのは格闘ゲーム。もちろん一人でも遊べるが向かい側の機体に居る人と対戦ができる。チャレンジャーということは向こう側に座る人が対戦を申し込んできたということだ。
当然拒否する選択もある……が。わざわざ挑んでくれたんだ。受けてあげるのも一興だろう。
「Ready……Fight!」
画面では試合が始まる。私の操作するキャラは謂わばスタンダード。全ての能力が平均的で初心者が使いやすいキャラ。当然、私は初心者ではないが、割とこういうキャラは強い。なぜなら、バランスが取れているから。対して相手の使うキャラは性能がピーキー。いかにも上級者が好みそうなキャラ。
このキャラはスピードと手数が重視な反面、その小ささゆえに軽く、ダメージを受けた時に大ダメージを貰ったり、後、一撃一撃がそこまで重くない。強いかと聞かれたら本当に使う人によるって感じだ。だから、使い手の腕がはっきり分かれる。
でも、残念。例え上手かったとしてもこのキャラの動きは分かってる。セオリー通りなら、最初からガンガンスピードを生かした攻めを――
「……動かない?」
攻めてくる素振りを一切見せない。なら、私から……
「へぇー……面白い」
あのキャラはカウンターを使うには向いていないはず。理由としてはカウンターで失敗した時のリスクが他のキャラに比べ圧倒的にデカいからだ。それにも関わらず初手からカウンター戦術とは、これはこのキャラをよく知らない人が操作しているのか、それとも……
「You Win!!」
結果は私の勝ち。でも圧勝とはいかずに僅差での勝利。一回でも操作をミスしていれば負けていた。今まで……というか昔から私はゲームが強かった。相手に圧勝することがほとんどで負けたことなんてそのゲームをやりたてだった時くらい。でも、私はこのゲームはそこそこやっていた。普通の人にはこんな僅差でなんてことはないはず。
私は興味本位だった。どんな人だったんだろうっていう純粋な興味。上からな言い方になるかもしれないけど、こんなにもゲームで私を熱く、楽しませてくれた人だ。一目見るだけなら罰は当たるまい。
「……キミ、小学生?」
と、見たところ相手は小学生の高学年くらいの子だ。
「違います~僕は中学二年生です~」
そういうと、その子は胸を張り、立ち上がる。背は私より小さいかな。150cmくらい?
「えーっと……」
あ、どうしよう。会話が続かない。というか、私の驚きに向こうが返したって感じだから……次なに言えばいいんだろう。
「そういう
「…………(ピキッ)」
私はかつてないほどの殺気を覚え、目の前の男の子の顔を鷲掴みにします。
「おばさんじゃないです……中学二年生です……!」
「いひゃいれしゅ……はにゃしてくだしゃい……」
と、痛そうにするこの子を見て手を放します。どうしましょう。思わず手が出てしまいましたが、これは怒らせてしまった……?
「うぅ……でもさ~。そんな化粧して、髪染めている人。僕と同い年とは思えないな~」
「こ、これは……」
「まぁいいや~お姉さん。強いね~見た目バカそうで軽そうなのに~」
この子どうしてくれよう。
「お姉さん~名前はなんて言うの~?あ、僕は和光風人~よろしくね」
私は迷った。ここで自分の名前を告げていいのかと。もし、椚ヶ丘中学の人なら後々に厄介なことになる。
「和光君は……」
「風人でいいよ~」
「じゃあ、風人君はどこの中学に通ってるの?」
「○○中学ってところ~」
聞いたことがない。ということは少なくとも椚ヶ丘中学の付近ではなさそうだ。
「私は神崎有希子」
「ほへぇ~神崎さんかぁ~見た目と違って話し方が丁寧だね~」
どうしてこの子は一言も二言も余計なのだろうか。
「ねぇ神崎さん~次は別のゲームで遊ぼ~」
「……はぁ。いいよ。どうせ暇だし」
もし、この時に断っていたら未来は大きく変わっていただろう。まぁ、当時の私の知るところではないが。
「神崎さん強いね~」
「そういう風人君もかなり強かったよ」
あの後、シューティングゲーム、ダンスゲーム、落ちゲー、リズムゲーム、レースゲームなどあらゆるゲームで対戦した。感想としては、彼は強い。強いうえにトリッキーな動きをしてくるから動きが読めない。動きどころか考えも読めない。
ただ一つ言えるのは彼とゲームすることは楽しかった。本当に楽しい。半ば自棄になってここにきた感じだけどこんなに楽しいとは思わなかった。
「ねぇ。風人君って、今夏休み?」
「いえ~す」
「じゃあさ、また一緒に遊ばない?」
あれ?今私なんて?
「うん~いいよ~」
快諾してくれる風人君。でも私は驚きました。今日知り合った赤の他人からの誘いを何の迷いもなく受ける風人君に対しても、その赤の他人。しかも異性である彼に次の約束を取り付けた私に対しても。
「次いつ来る~いつでもいいよ~」
「夏休みの宿題あるから……毎日は無理でも週に二日か三日くらいならいいかな」
「夏休みの~宿題?」
目の前の彼は首をかしげてまるで『何それ?』って顔をしています。
「あーもう終わってるからいいや~」
……おかしいなぁ。まだ七月下旬。夏休みに入ったばっかなのに何でもう終わらせているのだろう。あぁ、きっと宿題が少ないんだね。
「じゃあ、今度の土曜日にまたここでね。じゃあね。風人君」
「うん。またね~」
私は駅に、彼は多分家の方に歩いて向かいます。家、このへんなのかな?
彼とは週に二日か三日のペースで一緒にゲーセンで遊んでいました。まぁ、時にはゲームショップに行ったりもしたけれど、本当に楽しい時間でした。
しかし、私には分かっています。もうこの時間も終わりだということを。
私と彼はゲーセンで会ったゲーム仲間。お互いの家も知らないし、連絡先も知らない。私は学校が始まってしまえば、ここに来ることは出来ない。文字通りの最後です。
だから、私は彼と会う最後の日、彼とは決別をする気でいました。しかし、
「……遅いなぁ」
いつまで経ってもいません。いつもならゲームの台の前にいたりするのに今日に限って何処にもいません。
「……約束したのに」
彼と約束したのに、守られない。
……あーでもそれが普通かな。こんな約束、別に破っても咎めようがないし、そもそも今まで付き合ってくれたのだ。文句言える立場じゃないか。
「……しっかりとお別れとお礼。言いたかったのに」
この先出会う確率はゼロとは言わないけど限りなくゼロに近い。しかも私は彼に文字通りの素顔を晒していない。つまり、会っても向こうが気付かない可能性だって十分にある。
彼のような人ともっと早くで会えていれば変われたのかな。もし、彼が一緒に、この先もずっと居れたら良かったかも…………でも、そんな希望が叶うことはもうないんだ。
「……時間だね」
私は彼に対する想いを全て心の中に仕舞い込む。二度と開くことのないであろう心の奥底に。
「じゃあね。風人君。今までありがとう」
私は一言告げ、立ち去っていく。もう二度と会うことのない彼に向かって……。
「うわぁー和光くん。約束破っちゃったの?」
時は現在。帰りの新幹線の中に戻る。話を聞いた茅野さんが真っ先に口にした。
「うん。あの時は内心モヤモヤしていたの。急に現れたと思ったら煙のように消えて、でこのE組に入って殺せんせーが来たと思ったらふらっとまた現れたの」
あの時最後に言いたいことはたくさんあった。でも、今の彼には言えなかった。
「どうしても聞けなかったの。風人君に『あの時なんで約束を破ったの?』ってね」
「なんで?」
「風人君のことだから忘れていたかもしれないし、ゲームのし過ぎとか下らない理由だったかもしれない。でも、もしかしたら私が嫌になって約束を破ったかもしれないって思うと聞くのが怖かった」
そう思うと今の関係を保てなくなってしまうから。
「でも、修学旅行を通して真実を知れたの」
その真実は私がまるで想定していなかった真実であり、風人君が言っただけなら絶対に信じなかったようなものだった。誰だってそうだろう。まさか、自分が攫われるような計画をされていて、それから影で救っていただなんて。
「風人君の優しさにもね」
それに風人君はこの事を私に告げなかった。私は彼に感謝するだけの理由がある。いや、感謝どころの話じゃないかもしれない。もし、風人君が救ってくれなかったら、私はここに居なかったかもしれない。あの人たちと同様のところまで堕ちて遊び道具として扱われていたかもしれない。
風人君は私の恩人だ。この事を彼が引き合いに出して私にあの手この手の事を言ったりやったりすればいいのに彼はその手のことを一切考えない。まるで、助けるのが当たり前なようだ。
「ふむふむ。それで風人君といつくっつくのでしょう」
「ちゃっかり話に加わってこないで下さい。殺せんせー」
「えぇーだって、二人のいちゃつきシーンをもっと見たいですよ」
「くっついたとしても見せませんよ」
そういいながら私は彼の頭に手を置いてゆっくり撫でる。ふふっ。本当に可愛いなぁ。
「……むにゃ。有鬼子の鬼~バカ~」
そしてグーを作って思い切り振り下ろす。
「……むにゃ~?朝~?」
「おはよ風人君」
「うぅ~なんか頭に痛みが……」
「気のせいじゃない?ほらまだ着くのは当分先だよ?」
「はーい」
再び私の膝に頭を乗せて、寝始める風人君。私は風人君のことが好きです。ですが、それとこれとは話が違いますよ。
こうして私たちの修学旅行は幕を閉じます。
あと、この時、殺せんせーと茅野さんが目を見開いていましたがスルーしておきます。
ところで、この時期の神崎さんの口調とかってこんなんだったのだろうか?