暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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カルマ(と風人)の時間

 決着はついたようなので、僕らは、烏間先生を起こしつつおじさんを拘束する。そして中広間の調度品を使って、おじさんの身体を見つかりにくいように隠した。

 烏間先生は磯貝君の肩を借りてなんとか立ち上がって歩き始めたものの、今にも足元から崩れ落ちそうである。

 

「……駄目だ。普通に歩くフリをするだけで精一杯だ。戦闘が出来る状態まで、三十分で回復するかどうか……」

 

 あれ?なんで象すら一瞬で気絶するというキャッチフレーズの毒ガスを吸って動けるんだろう?

 烏間先生がいくら頼りになるとはいえ、完全に回復するまで待っていたら交渉の期限に間に合わなくなてしまう。殺せんせーは動けないまま、ビッチ先生は不在。つまりまだ先は長いが今までのようには先生たちの力を借りることは無理みたい。向こうの刺客は一人というわけがないだろう。未知の敵を相手に僕らの力が通用するか否か。そこが鍵か……

 

「いやぁ、いよいよ『夏休み』って感じですねぇ」

 

 あの僕でさえ不安を多少は隠せないでいる中、そんな僕らを他所に場違いな発言をする殺せんせー(バカ)がいた。何言ってんの?

 全員から白い目で見られブーイングが発生した。

 

「何をお気楽な!」

「一人だけ絶対安全な形態のくせに!」

「渚、振り回して酔わせろ!」

「にゅやーッ!?」

 

 言われた渚は持っていた袋詰めの殺せんせーを高速回転させ、せんせーは堪らず悲鳴を上げて苦しんでいた。で、たっぷり殺せんせーを振り回し終えた渚がせんせーに問い掛ける。

 

「殺せんせー、なんでこれが夏休み?」

 

 問い掛けに対して殺せんせーは高速回転のダウンから立ち直って真面目に答えを返す。

 

「先生と生徒は馴れ合いではありません。夏休みとは先生の保護が及ばないところで自立性を養う場でもあります。普段の体育で学んだことをしっかりやればそうそう恐れる敵はいない。君たちならクリア出来ます。この暗殺夏休みを」

 

 あぁ、なるほど。そういうこと。

 

「でも、自分が絶対の安全圏にいることは変わらないよね~」

「ヌルフフフ。そうですよ」

 

 うぜぇー。

 と、進む四階は何事もなくスルー。しかし、五階の展望回廊に差し掛かった時、僕らは足を止めた。

 

「めちゃくちゃ堂々と立ってやがる」

「……あの雰囲気」

「あぁ、いい加減見分けがつくようになったわ。どう見ても『殺る』側の人間だ」

 

 狭くて見通しがよく隠れる場所もない五階展望回廊。その通路の窓にもたれ掛かって静かに佇んでいるおじさんがいる。ただ、そのおじさんの纏う空気が明らかに一般人とは違っていた。なんていうかさっきのおじさんと違って殺気が漏れてる感じなんだよね。

 さぁて、このおじさんはまず間違いなく犯人側の刺客だろう。でも、ここを回避して進むルートなんてあったっけ?うーん……

 

 ビシッ!

 

 そう考えていると窓ガラスにヒビが走った。え?素手だよあのおじさん。というか、指圧で砕いた感じなんだけど。

 

「つまらぬ。足音を聞いた限り強いと思えるものが一人もおらぬ。精鋭部隊出身の引率の教師もいるはずなのぬ。どうやら……スモッグのガスにやられたようだぬ。半ば相討ちぬと言ったところか。でてこいぬ」

 

 あーこれヤバいわ。皆あのおじさんの前に立ったけどヤバいわ。

 

「「『ぬ』多くね、おじさん?」」

 

(((言った!よかったカルマと和光がいて!)))

 

 どうやら、カルマも同じことを考えていたみたい。うんうん。やっぱ気になるよね~ 

 

「『ぬ』を付けるとサムライっぽい口調になると小耳に挟んだぬ。格好良さそうだから試してみたぬ。間違っているならそれでもいいぬ。この場の全員を殺してから『ぬ』を取れば恥にもならぬ」

 

 何だろう。そうか、きっと日本の友人に騙された可哀想なおじさんぬなんだ。そうかそうか……。

 

「可哀想ぬ……」

 

(((コイツ明らかにバカにしているだろ!?)))

 

 ハンカチを目元に当てる。あぁ、なんて可哀想なおじさんぬ何だろうぬ。

 

「素手……それが貴方の暗殺道具ですか」

「こう見えて需要があるぬ。身体検査に引っ掛からぬ利点は大きいぬ。近づきざま頸椎をひとひねり、その気になれば頭蓋骨も握りつぶせるぬ」

 

 わーお。

 

「だが面白いものでぬ。人殺しのための力を鍛えるほどに暗殺以外にも試してみたくなるぬ。すなわち闘い……強い敵との殺し合いだぬ」

 

 おじさんぬはそう言って烏間先生を一瞥したものの、磯貝君に支えられて立っているのもやっとな姿を見て落胆を露わにする。

 

「だががっかりぬ。お目当てがこの様では試す気も失せたぬ。雑魚ばかり一人で殺るのも面倒だぬ」

「ちょっと待ってよ、おじさんぬ」

 

 今の言葉は頂けない。僕らが雑魚だって?

 

「渚ー殺せんせー借りるよ~」

「え?うん」

 

 僕は堂々とおじさんぬのところに向かう。そして、

 

 バリッ!

 

 殺せんせーを思い切り窓ガラスに叩きつける。

 

「おじさんぬが何を基準に雑魚とか言ってるか知らないけどさ~あまり舐めないでくれる~?」

「ほう。なら、貴様が戦ってみるかぬ。少年よ」

「ふっ。甘いねおじさんぬ。僕と戦いたいなら――」

 

 僕は殺せんせーを投げ渡す。

 

「――その自慢の握力でそいつを砕いてからにするんだね」

 

(((アホかアイツは!?)))

 

「分かったぬ」

 

(((分かっちゃったよ!?)))

 

「ぬぬぬぬぬ!」

 

 片手では無理だと判断したのか両手で力を込める……だが、やはり砕けない。

 

「ふっ。おじさんぬには無理だったかぬ。じゃあぬ。強くなってからまた会おうぬ」

 

 そして、僕はおじさんぬの横を通って先に進もうと……

 

「ぬ!通さぬぞぬ!」

 

 あ、バレた。

 

「撤収だぬ~」

 

 僕はおじさんぬが両手で持っていた殺せんせーを蹴り飛ばしてキャッチし、皆のところへ向かう。

 

「アホかお前は!」

「いやぁ~あの流れだったら通してくれるかな~って」

「全く、交代だよバカゼト」

「分かったよ~バカルマ」

 

 僕はカルマとハイタッチする。選手交代だ。

 

「やれやれぬ。こうやって一人一人相手するのも面倒だぬ」

 

(((いえ!本当に面倒なのはそこのバカだけです!)))

 

「ボスと仲間を呼んで皆殺しぬ」

 

 そう言いつつポケットから携帯を取り出して仲間を呼ぼうとする。

 次の瞬間、展望回廊に飾られていた観葉植物を振り抜いたバカルマの一撃が、おじさんぬの携帯を窓ガラスごと叩き割った。

 

「ねぇ、おじさんぬ。意外とプロっていうのも普通なんだね。ガラスとか頭蓋骨なら俺でもさっきのバカでも壊せるよ。……ていうか速攻仲間を呼んじゃう辺り、中坊とタイマン張るのも怖い人?」

 

 あー僕もタイマン勝負にすべきだったなぁ~

 

「止せ!無謀――」

「ストップです、烏間先生」

 

 危険と判断して止めに入ろうとした烏間先生。そんな先生に対して殺せんせーは制止の声が掛ける。

 

「顎がひけている」

 

 あ、本当だ。いつもは顎を突き出して相手を見下すような感じなのに。

 なるほど、いつもと違うようだ。カルマに任せるかぁ~致し方なし。

 

「ギブだったら言ってね~」

「誰がお前に託すかっての」

「……いいだろう。試してやるぬ」

 

 おじさんぬも自分と正面から対峙するカルマの様子を見てやる気にはなったらしい。上着を脱いで改めて構え直した。

 観葉植物を振り回して殴り掛かったカルマ。しかし、おじさんぬに難なく掌で受け止められて握り潰されてしまう。

 

「柔いぬ。もっと良い武器を探すべきだぬ」

「必要ないね」

 

 使い物にならなくなった観葉植物を投げ捨てたカルマ。仕掛けてきたおじさんぬと真正面から相対する。

 

「凄い……全部避けるか捌いてる」

「烏間先生の防御テクニックですねぇ」

 

 確か、殺し屋にとって防御技術は優先度が低い、っていう理由で烏間先生は授業で教えていなかったっけ。おそらく、カルマは烏間先生の動きを見て覚えたのだろう。だからおじさんぬの攻撃も全て避けるか捌ける。

 しばらく二人の攻防は途切れることなく続いていたが、ふとおじさんぬは攻撃の手を緩めて動きを止めた。

 

「……どうしたぬ?攻撃してこなくては永久にここを抜けられぬぞぬ」

「どうかな~。あんたを引きつけるだけ引きつけといて、その隙に皆がちょっとずつ抜けるってのもアリかと思って」

 

 そんなこと微塵も思ってないくせに。

 

「……安心しなよ。そんな狡いことはなしだ。今度は俺から行くからさ。あんたに合わせて()()()()、素手のタイマンで決着をつけるよ」

 

 え?カルマが……正々堂々?アイツ、毒にでも頭やられたのかな?

 

「……良い顔だぬ、少年選手よ。お前とならやれそうぬ。暗殺稼業では味わえないフェアな闘いが」

 

 カルマはおじさんぬの言葉が終わると同時に駆け出した。その勢いのまま飛び蹴りを繰り出し、おじさんぬに反撃させる隙を与えず攻め続ける。

 その甲斐あっておじさんぬの体勢を崩すことに成功した。その隙を逃さずカルマはすかさず追撃を仕掛け、

 

 

 おじさんの持ってた毒ガスがおじさんぬからカルマに向けて噴射された。

 

 

 そして倒れ込んでいくカルマの頭をおじさんぬが掴んで持ち上げる。

 

「一丁上がりぬ。少し長引きそうだったんで『スモッグ』の麻酔ガスを試してみることにしたぬ」

 

 なるほどねぇ。体勢を崩したのはわざとというわけか。カルマの隙を作るためにねぇ。

 

「き、汚ねぇ……そんなモン隠し持っといてどこがフェアだよ」

 

 毒ガスを持ち出したことに吉田君から非難の声が上がる。が、そんなのおじさんぬ(殺し屋)が受け付けるわけがない。

 

「俺は一度も素手だけとは言ってないぬ。拘ることに拘り過ぎない、それもまたこの仕事を長くやっていく秘訣だぬ。至近距離からのガス噴射、予期していなければ絶対に防げぬ」

 

 本当、()()()()()()()()()だけどね。

 

 

 次の瞬間。スモッグおじさんお手製のガスがカルマからおじさんぬに向けて噴射された。

 

 

「――――奇遇だね、二人とも同じこと考えてた」

 

 そう言ってカルマが憎たらしい笑みを浮かべている。やれやれ、甘すぎだよおじさんぬ。カルマに騙し打ちで挑もうなんてさ。しかも、今までから進化した警戒マックスのね。

 毒ガスを食らったおじさんぬは足腰を震わせながらもナイフを取り出した。

 

「ぬぬぬうううう!」

 

 そして、カルマに突き刺そうとするが、そんな身体の痺れた状態でカルマを捉えられるわけがない。切りかかる腕を掴まえられ関節を極められて床へと叩きつけられる。

 

「とーう」

 

 空いた方の手を封じ込める為に参戦する。別にタイマンって言ってたのカルマだけだしー。僕そんなの知らないしー。

 

「ほら寺坂も早く早く。ガムテと人数使わないとこんな化けモン勝てないって」

「へいへい、テメェが素手でタイマンの約束とかもっと無いわな」

 

 促された寺坂に続いて他の皆も駆け出し、倒れたおじさんぬの身体に男子全員でのし掛かった。まぁ、これだけの人数で抑え込んだらオッケーかな?

 色々あったけど、無事に縛り終えて芋虫状態にされたおじさんぬ。おじさんぬは悔しそうに呻いていた。

 

「毒使いのおっさんが未使用だったのくすねたんだよ。使い捨てなのが勿体ないくらい便利だねぇ」

「何故だぬ……俺の毒ガス攻撃、お前は読んでいたから吸わなかったぬ。俺は素手しか見せていないのに……何故だぬ」

 

 そんなおじさんぬの疑問にカルマは答えた。

 

「とーぜんっしょ。素手以外の全部を警戒してたよ」

 

 やっぱりかー。

 

「あんたが素手の闘いをしたかったのはホントだろうけど、俺らをここで止めるためにはどんな手段でも使うべきだ。俺でもそっちの立場ならそうしてる。……あんたのプロ意識を信じたんだよ。信じたから警戒してた」

 

 こう語るカルマの目には勝者が敗者に向けるようなものではない。どちらかというと真摯な眼差しだ。

 

「大きな敗北を知らなかったカルマ君は期末テストで敗者となって身をもって知ったでしょう。敗者だって自分と同じ、いろいろ考えて生きてる人間なんだと。それに気づいたものは必然的に勝負の場で相手を見くびらなくなる。敵に対し敬意を持って警戒できる人を戦場では『隙が無い』というのです」

 

 殺せんせーがカッコよくしめる。

 

「……大した奴だぬ。少年戦士よ。負けはしたが楽しい時間を過ごせたぬ」

 

 カルマの言葉を聞いたおじさんぬは満ち足りた様子で自身の敗北を認めた。でも、最後はおかしいよ?だって―― 

 

「え、何言ってんの?楽しいのはこれからじゃん」

「カルマ隊長~既に準備は整えております~」

 

 カルマは懐からわさびとからしのチューブを、僕はカルマの鞄から専用のクリップを取り出した。

 

「……なんだぬ?それは……」

「わさび&からし。おじさんぬの鼻の穴に捩じ込むの」

「隊長~ブートジョロキアの準備もできています~しょうがはいいですか?」

 

 そう言いながら僕らはおじさんぬの顔にカルマの持ってきた専用のクリップ等を付け終えて……

 

「「さぁおじさんぬ、今こそプロの意地を見せる時だぬ」」

 

 僕はわさびを。カルマはからしを、それぞれおじさんぬの鼻の中にぶち込んだ。




何だかんだでいいコンビなカルマと風人。
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