暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
夏休みも残すとこ二日となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか。
「そうだ風人」
「なに~母さん」
「前から言ってたけど、今日明日とお父さんとお母さんいないから」
へぇ~初めて聞いたなぁ…………ん?
「いってらっしゃい~!」
「安心しろ風人。手は打った」
「え~?安心~?何のこと~?」
「どうせお前のことだ。ゲーム三昧で過ごすつもりだったろ」
「そ、そんなことないよ~」
「眼を合わせて言いなさい」
何でバレたのか。不思議でならない。
「だから、涼香ちゃんに頼んだわ。風人の面倒を見てくれるよう」
僕はペットですか?旅行前に親戚に預けられるペットですか?
「でも、涼香ちゃん用事があるみたい」
よし!僕の天下だね!
「だから涼香ちゃんが代わりの人に頼んでおいたって」
「う~ん。雷蔵かな~」
雷蔵なら懐柔すれば問題なし。
「その人にあまり迷惑を掛けないようにね」
「は~い」
「そろそろ出発時間じゃないか?」
「そうね。じゃ、行ってくるからお留守頼んだわよ」
「いってらっしゃい~」
さてと~どんなゲームからやろうかな~
ピンポーン
朝の九時ごろ。リビングにてゲーム中、インターフォンが鳴る。あ、雷蔵来たのかな~
ガチャ
「雷蔵。いらっしゃ――」
あれ~?雷蔵ってこんな背が小さかったけ?
「おはよう。風人君」
ガチャ
……おかしいなぁ。僕もう疲れてるのかな?あ、ゲームのやりすぎかな?
ピンポーン
ガチャ
「どうしたの?入れてくれないの?」
二度見て変わらない時はきっと実物だろう。よし、
ガチ
「なに閉めようとしてるのかな?」
閉めようとしたとき、足をドアのところに挟みそのままドアをこじ開けられる。
「あはは……」
おかしいなぁ~。何でパワー負けしてるんだろう?
「いらっしゃい~有鬼子」
もう諦めよう。
「お邪魔します」
玄関での一騒動を終えて、リビングに通す。
「あれ~その大きな荷物はどうしたの~?」
「ゲームと勉強道具とお泊りセットだよ?」
ゲームは大いに分かる。勉強道具は百歩譲って可。で、お泊りセットってナニ?ボクシラナイ。
「え?涼香さんとかご両親から聞いてない?」
聞いてない。
ダッシュでスマホを取りに行き、メッセージアプリを開く。そこには……!
『私の代理は有希子ちゃんにお願いしたよ~あ、有希子ちゃん泊りがけだからよろしく~』
数分前に入っていた。なるほどなるほど……
「とりあえずこの荷物どこにおいておけばいい?」
「有鬼子の家」
「うん。じゃあ、風人君の部屋ね」
「え~何でそうな――あ、はーい。分かりました~」
「案内してね」
「はーい」
僕の名誉のためと誤解のないように言っておくが決して有鬼子に屈したわけでは無い。
「ここが風人君の部屋……」
「そうだよ~」
そう言えば引っ越してからは誰も僕の部屋にあげたことはないな~ということは有鬼子が初めて?
「意外にキレイなんだね」
「ふふ~ん」
「で、私は何処に座ればいい?」
「うーん。ベッドの上かな」
(あ、どうしよう。ここまで成り行きに任せてたけど男の子の部屋に入るの初めて……というか男の子の家に入ること事態初めてかも……)
「じゃあ、ゲームしようか~」
「ダーメ。勉強も大切でしょ?」
「むぅ~」
「分かった。なら、こういうのは?風人君の指定したゲームで対戦する。私が勝ったら一時間勉強。風人君が勝ったら一時間ゲーム。これを繰り返す……でどうかな?」
ほうほう。
「よし乗った~」
で、お昼時になりました。あれから三回やって私の二勝一敗で昼食です。風人君が作るそうなので陰から見ていますが……集中しているようで怪我とかはしてないです。というか、手際がいいなぁ……あ、そういえば風人君。自分で家庭科が一番得意だと自負していたね。もしかして本当だった?
「出来たよ~」
お昼にチャーハンですか。まぁ、何かと便利ですからね。チャーハン。
「「いただきます」」
一口食べる。
「おいしい……」
お世辞抜きでおいしいです。あれ?もしかして風人君って私より料理できる?
「まぁ、料理はいつも作ってるからね~」
「え?いつも?」
「うん。ほら~この学校は弁当持参でしょ。いつも自分で作ってるよ~」
あれ?もしかして風人君って意外に家庭的?あ、どうしよう。女子としてなにか負けた気が……。
よく考えたら風人君って、勉強の教え方上手いんだよね……スイッチ入ってるときは。オフの時は『それがドーンでバーンで~』と意味不明な言葉を羅列するんだけど。……よし。
「そういえば風人君はさ」
「うん~」
「何か口調が変わる時あるんだけど……多重人格かな?」
一人称が『僕』の時が平常運転の風人君。『オレ』の時がキレてたり怒ってる時の風人君。『私』の時が真面目キャラの風人君。え?女装の時は?…………さぁ?というかアレが一番変化が大きいと思う。
「うーん。多重人格じゃないよ~」
涼香さんたち曰く、『私』と『オレ』という風に一人称が変わった時に雰囲気が変わるようになったのは千影さんの件があってかららしい。ちなみに、女装は知らなかったそうだ。…………でも、やっぱりそこか……。
「なんというか~気分的な?」
嘘かな。まぁ、教えてもらうチャンスはまだ他にもあるか。焦らないことが大切だろう。
「さぁて、片付け片付け~」
「ありがと。お礼と言ったら何だけど、夜ご飯は私が作るね」
「…………え?作れるの?」
カチーン。
真顔で見てくる風人君。どうしてこう頭に来ちゃうような台詞を平然と言っちゃうのかな~この子は。とりあえず、後でゲームで風人君をボコボコにしよう。
「作れます」
「へぇ~…………意外」
ピキッピキッ。
ダメだ抑えるんだ私。とりあえず、包丁に伸びそうになる手を止めるんだ。
「じゃあ、よろしくね~あ、片付けしてるからゲームの準備よろしく~」
「うん。分かった」
風人君の料理に毒でもいれようかな?と割と本気で考え始めてしまった。あーゲームして忘れよう。
で、あれから全勝。風人君から勉強を教えてもらう……ついでに家庭科も。
そして夕食時。
「さてと、作ろうかな」
「ふぁいと~」
「風人君って嫌いなものある?」
「うーん。強いて言えば苦いモノだけど、特にはないよ~」
「そう?なら良かった」
これならどんなメニューでもよさそうだね。無難に和食的な感じでいいかな。
「エプロン借りるね」
「ほ~い」
風人君からエプロンを借りる。普段はあまり使わないけど何となくだ。
「ほへぇ~エプロン姿似合うね~」
「そう?」
家庭科の調理実習で見ていると……あ、風人君と別の班だったし、風人君の班、何か毎回美味しいって軽い評判だったけど……まさかね。
「何というか――」
新妻と言うつもりかな?まぁ、ベタといえばベタだけど。きっと言われたら嬉し
「――鬼嫁?」
タンッ!
包丁を振り下ろしまな板に当たる音が響く。
「風人君?どういうことかな~それは?」
何で最初に鬼って付いてるんだろう?不思議だなぁ。
「ねぇ?かーぜーとーくん?」
「ひいぃぃ。ほ、包丁を持ったまま来ないで~」
「怒ってないから出ておいで」
「怒ってるよね!?絶対!」
思い切り隠れる風人君。……何だろう。同級生を相手してるとはとても思えない。
あれから静かに風人君がゲームしている間にご飯が出来た。
「出来たよ。風人君」
「はーい」
メニューはご飯、みそ汁、焼き魚、おひたしにきんぴら。
「おいしそうだね。いただきまーす」
「いただきます」
食べ始める風人君。
「うん。おいし~」
「そう?風人君には負けてると思うけど……」
「料理は勝ち負けじゃないよ~おいしければいい~」
何というか意外だ。てっきり自慢すると思ったのに……あーでも風人君って子供っぽいけど、自分が頭いいこととか運動出来るところとか一切自慢しないなぁ。そういえば。
「そういや有鬼子~」
「何?風人君」
「親から許可取ったの~?」
「うん。大丈夫だよ。あ、おかわりする?」
「うん~」
もしかしなくとも風人君に聞こうとしている……聞かなくちゃならないことって、風人君にとって触れてほしくないものなのかな?……いや、多分そうだ。私がこれからやろうとしていることは、
「片付けは任せてよ~ゲームでもしていて」
「ううん。一緒にやろ?」
「分かった~」
……風人君にとって触れてはならないブラックボックス。私がやろうとしていることは、そのブラックボックスを開けること。でも開けなくてはならない。開けなくちゃ、風人君は……私は……前に進めないだろうから。
風人君の家でお風呂に入る。……さ、さすがに混浴はしていないけど、他人の家でお風呂に入るって何か新鮮だなぁ。湯船に浸かりながらこれからどう持っていくのかを纏めておく。
で、風人君の部屋。既に私の分の布団はひいてあってもう寝るばっかだ。
「もう寝る~?」
私たちはベッドの上で隣同士で座っている。
…………これから私は風人君にとって最低なことをする。
「ねぇ、風人君。期末テストの権利覚えてる?」
「…………え?まだ使われてなかったっけ?」
……あ、これは割と本気で分かってないやつだ。
「私のお願い……聞いてくれる?」
「……分かったよ~約束だもんね」
「風人君。和泉千影さんについて教えて」
一瞬風人君が固まったと思った次の瞬間。私はベッドの上に押し倒された。あまりの速さに反応できなかった。
「なぁ、有鬼子。…………誰から聞いたその名を」
怖い……風人君の放つ殺気は本物だ。既に手は抑えられ、仰向けになってる私のお腹の上に風人君が乗って動かないようにされている。もう逃れられない。でも、
「涼香さんだよ」
「…………忘れろ」
威圧されてる……これが風人君の触れられたくない部分の重み……でも。私は引き返さない。
「私は知りたいの。風人君の心の闇を。苦しみを。……聞いたよ?涼香さんと篠谷君から」
「ふーん。で?」
何で風人君はそんなどうでもいいって顔をしてるの?…………本当にどうでもいいなら私は押し倒されていないでしょうに……ああ、もう。こういうところが変に大人ぶって……!
「風人君が千影さんのことで一人で苦しんでるって!ずっと独りで苦しんでるって!」
「ふざけてんの?お前はそれを知って何が出来んの?」
「ふざけてないよ。風人君の苦しみの捌け口になれる。風人君の苦しみを少しでも和らげられる」
「そんなの必要ねぇ」
……必要…………ない?
「ふざけないでよ!何度も自殺しようとしていたくせに!苦しんでるくせに!」
「…………っ!もういい……黙らせる」
右の拳を高く上げる。そして、そのまま振り下ろそうとする。
私は怖かった。襲い来るであろう痛みが怖い。でも、私は風人君の眼を見続ける。怒りに染まった眼を。ただ、いつもの怒りとは違ったどこか不安定さを持つ眼を。
「……どうしたの?殴らないの?」
右の拳が私の顔に当たる寸前で止まる。僅かにだが拳圧によって風を感じた。今のは寸止めを狙った?違う。完全に私を壊す気だった。でも、自身の左手で右の手首を思い切りつかんでいる。
自分の中で葛藤が起きているというの?でも、それぐらいじゃないと、今のは説明がつかない。
「…………分かった。話すよ」
数分だろうか。その膠着状態が続いた後、風人君による拘束が解ける。
「…………でも、この話はあんまりしたくない。いや、墓場まで持っていくつもりだった。だから」
「皆には秘密。分かってるよ」
「うん……これは――」
――これは僕と千影の