暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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風人の時間 過去 結

 千影の葬式は静かに幕を閉じた。

 僕はあの日涙が枯れるまで泣いた。文字通り涙が枯れるまで……。

 

「……今日もサボってるの?」

「……うっさい」

 

 あれから二週間が経った。僕と涼香は幼馴染を。大切な人を失ったショックで一週間ほど学校には行かずに家に……自室に籠っていた。

 今週のはじめ。ようやく学校に来た僕ら。ただ、僕としてはクラスメートの反応が鬱陶しかったし教師もだ。お前らに同情されたくねぇ。同情するだけ目障りだって。

 

「最近さ。つまんないんだよ~」

 

 僕は屋上に来てのんびり寝ている。今は昼休み。だけど、今日はここに朝からいる。

 

「この学校に僕と張り合える奴がいない。ああ――」

 

 ――本当につまらない。退屈だ。

 

「何かさ~涼香。心の中にぽっかりとデカい穴が空いているんだよ~」

「……うん。私も……」

「つまらないだけじゃない。もうこの穴を埋めてくれるような存在はいない」

 

 あの日。僕の中に生まれた感情はいろいろとある。

 

「風人……変わったよね」

「そう?」

「うん。変わったよ」

 

 変わった……のか?

 

「まぁいいや~。帰るよ今日は」

「今度テストだよ?いいの?」

「興味ない」

 

 僕は鞄を持ちそのまま帰る。帰り道で、いつもとは違い裏道を通るが、

 

「おいおい。ここはお子様が通るところじゃねぇぜ?」

「かかっ。通りたければ金を出しな。通行料だ」

 

 はぁああ。

 

「テメェら如き下等生物共に払うものなんてねぇーよ」

「このクソガキ!」

 

 そう言って殴りかかってくる不良かヤンキーか。

 

「クソガキであるオレに負ける気分はどうだい?クソヤンキー?」

「て、テメェ!」

 

 数分後。

 

「あー金でも手に入ったし、ゲーセン行くかー」

 

 僕は千影が居なくなってから荒れた。哀しみを紛らわせるためにワザと不良とかヤンキーに絡みカツアゲして金を巻きあげる。巻きあげた金をゲームに費やす。

 もちろん絡むときは顔は隠している。だって、バれると面倒だし。

 

 あの日から僕の中に二つの人格みたいなものが出来上がった。

 

 

 一つは失った怒りを表す僕の凶暴性の塊のような存在である『オレ』

 もう一つは失った哀しみを表しそれを補おうとする存在である『私』

 

 

 二つとも前面に出すと疲れるが使い道がある。僕はそれを使って自由を謳歌する。そんな日々だった。

 でも、同時にどうしようもない空虚が押し寄せるようなそんな日々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい」

「「お、お邪魔します……」」

 

 さらに月日は流れ、冬休み。僕と涼香は千影の家を訪れていた。

 去年までは僕ら三人は、年越しを共に過ごしていた。でも、今年は……いや、今年からそれが出来ない。

 

「あのひき逃げの犯人。捕まったんだってね」

 

 僕らは居間に通されコタツに入る。すると、千影のお母さんから話が出る。

 千影を引いた運転手は程なくして捕まった。ひき逃げという罪を犯したから。

 

「でも話によると、まだ罪の重さを分かってないらしいわ……」

 

 でも、そのひき逃げ犯が言うには千影が急に道路に飛びだしてきた。だから千影が悪いと言って、自分は悪くないと主張し続ける。まるで、子どものように。

 だが、それが真実だろうが虚偽だろうが、千影を轢き殺し、逃げたという事実だけは変わらない。

 

「でも未だ分からないことがあるの」

「分からないこと……?」

「それっておばさん。千影が道路に飛び出したことですか?」

「えぇ。いくら黒と白しか見えてないとはいえトラックの存在くらい気付いていたはずなの。だから――」

 

 ――何で千影が急に飛びだしたのか。何で轢かれたのかが不可解だ。

 

 そう続ける千影のお母さん。そう言えば……

 

「ごめんね。最初からしんみりさせるような話しちゃって」

「いえ……まだ誰の心の整理もついていないですから」

 

 記憶を呼び起こせ。あの千影がこっちに振り向いたとき、何かが変じゃなかったか……!

 

「さて、今日は手伝いに来てくれてありがとね」

 

 まさか……!

 

「……絶対見つけ出す……!」

「どうしたの?風人君」

「……千影が死んだのは事故じゃない……殺された」

「どういうことなの?」

「あの時。千影の近くに誰か立っていたんだ。そいつが押した可能性がある」

「で、でも……可能性じゃないの?」

「妙なんだ。なら何でそいつは千影を引き止めなかった?なら何でそいつはオレが行った時には消えていたんだ?」

 

 もし、ただの無関係な人なら千影を引き止めていてもおかしくない。もし、無理だったとしても現場から音もなく消えるのはおかしい。

 

「……きっと警察がその人と轢き逃げの関係性を白日の下に晒してくれるわ。日本の警察を信じましょう」

 

 僕は子どもだ。訴えるだけの力もない。捜査する力もない。なんて…………なんて僕は無力なんだ。天才?笑わせるな。大切な人を守れないなんて……そんな天才いらない。

 ただ、もし本当にそいつが殺したのなら…………絶対復讐してやる。

 

「話を戻しましょうか」

 

 今日の目的は大掃除と千影の部屋の片付け。

 千影のお母さんが言うには自分一人では千影の部屋は片付けられないとのこと。そこで白羽の矢が立ったのが僕ら二人。一人では受け止められなくても、三人ならまだ受け止められるかもしれないという期待のもとだ。

 

「何気に千影ちゃんの部屋入るの久々かも……」

「同感だね~」

 

 前に入ったのは……いつだろ。少なくとも中学入る前だね。

 

「あの時より女の子らしい部屋だな~」

 

 前よりぬいぐるみとかそういうものが増えた。そんな気がする。

 

「あ、このノート」

 

 そこには日記、中学一年生と書かれていた。

 

「……日記つけてたんだね。千影って~」

「うん。小学校一年生からつけてるって言ってたけど、知らなかった?」

 

 知らない。

 

「にしてもマメだね~」

 

 僕は適当に一冊とって読んでみるが一日足りとて抜けている日がない。まぁ、時々英語とか外国語で書かれている日はあるけど。気分転換?

 

「…………千影。凄いな……」

「どうしたの?」

「ん」

 

 そこに書いてあったのはこうだ。

 

『6月✕日

 今日は昨日までの雨が止んで空に虹がかかっていた。虹って七色に見えて、キレイらしいけど、本当にそうなのかな?私には灰色にしか見えないけど……あ、でも風人君がキレイって言ってたからきっとキレイなんだね!私もそんな虹が見れたらいいのになぁ~』

 

 まだ続いているが、これは小学校一年生の時の。漢字が使ってるとかじゃない。

 

「ネガティブに思ってない」

 

 自分の世界が灰色。隣の世界はカラフル。小学生とかなら、よくある他人が持つものを羨ましがるってのがない。

 

「あの子ね。一度も言わなかったのよ」

「何をですか?」

「『自分の目が異常なのはお母さんのせいだ』とか『この目のせいで』とかそういうことを今まで言ったことがないのよ」

 

 なるほど。表面上は折り合いをつけていたわけね。それを隠し続けていたんだ。……やっぱり。

 

「なるほどです~…………あ」

 

 中学一年生の最後のページ。つまり、死ぬ前日の日記だ。

 

『10月△日

 今日は風人君と喧嘩をしてしまった……いや、喧嘩じゃない。私が風人君の思いに理不尽に怒っただけだ。怒って暴力をふるって最低だ。明日は誠心誠意謝ろう。土下座でも何でもして許しを請おう。それでもし、許されなかったらどうしよう……私の大好きな人に嫌われたらどうしよう……。不安で一杯だ。書き始めたらキリがない。でも、私は自分の非を認め謝らないといけない。たとえ、許さなかったとしても。……許してくれると嬉しいなぁ……』

 

 …………。

 

「バカが……許すに決まってんだろ……なに不安になってんだよ…………何年一緒にいたと思ってんだよ……」

 

 目が潤い始めた気がする。でも、今涙を流すわけにはいかない。

 僕のせいだ。僕が避けたから。僕が避けなければ、彼女が死ぬことなんて無かった。

 

「大丈夫?」

「すみません~大丈夫です~続けましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二年の夏休みになった。僕は基本授業とかをサボっていた。正確には授業は受けるから出席扱い。ただし、基本全部爆睡。でもテストの点は取るし、忘れ物もしない。提出物はしっかり出すし宿題もこなす。前に担任から授業態度が悪すぎると注意されたが、言葉巧みに黙らせた。単純だ。僕がやったのは授業中の睡眠。サボり。授業妨害とかは一切していない。

 ちなみに親も呼んでの三者面談でも言われたが僕はどこ吹く風。うちの学校には夏休みの初めに懇談があるが、その時に終わらせた夏休みの宿題を全部持っていったらやっぱり黙った。

 

 退屈だった。

 本当につまらなかった。

 もう僕を制御するような存在はいない。自由だが自由過ぎてもつまらない。

 僕は今は何にも捕らわれない自由の鳥。千影という大切な友であり、僕を籠の中で制御し共に過ごしていた存在。でも僕と言う鳥の前にもうその友はいない。鳥籠はない。壁もない。目的も目標も意味も価値も何もかもを失った。僕はただ、目的も当てもなく空を飛んでいるだけの存在。

 ああ……やっぱり、こんな世界からいなくなれば楽なのかなぁ。僕もアイツの世界に……

 

 

 

 

 

「……キミ、小学生?」

 

 

 

 

 

 そんな時、僕のこのつまらない日常をぶち壊し、運命を変えてくれるような人に出会った。この出会いが僕の中の止まっていた時を進めようとはこの時の僕はまだ知らない。

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