暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
風人side
「和泉千影さんの魂は俺があの世へと連れて行ったからな」
ハッキリとそう聞こえた。
「…………………………は?」
あの世へと連れて行ったからな?どういう意味だ?いや、意味なんてすぐ分かる。あの世へと連れて行った……………………即ち、
『ありがと……だいす……』
「テメェだけは……………………許さねぇ!!」
「風人君!」
後ろから声が聞こえたが、そんなのどうでも良かった。ただ、目の前にいる千影の命を奪った奴を殺す事しか頭になかった。何故かベンチから立ち上がって、公園を去ろうとしていた黒い奴に向けて駆け出す。奴はオレが近づいてくるのを感じ取ってか、オレの方を振り向く。その瞬間には、オレの拳が奴の顔面に当たる直前。回避は不可能───────────
「!?」
──────────そう思っていた。だが、オレの腕を誰かが掴んだ。掴んだのは、奴の隣に座っていて、同じく公園から去ろうとしていた白いコートを袖を通さず羽織っている男だった。
「ッ………………なんつー力だよ…………!!」
白い奴の力は凄まじく、ピクリとも腕を動かせなかった。
「……………………一体、どういうつもりだい?急に殴りかかってくるとは。君は馬鹿か?いや、馬鹿だな」
「うるせぇよ。邪魔するなら誰だろうと容赦しねぇ」
空いている左手でそいつも殴ろうとするが、当たる直前にそいつは手を離して後ろへ大きくジャンプした。
「まったく、ゲームする前にジュースでも買いに行こうかと思ったら急に殴られかけるとはデュオも災難だね」
「………………デュオ、って言うのか。本名じゃなくてコードネームか?まぁいい。お前、今言ったよな。和泉千影さんの魂は俺があの世へと連れて行ったからな、って。乃ち、お前が千影を押して、トラックに轢かせて殺した犯人ってことだよな」
「………………は?いや、俺が言ったのは」
「やめときな、デュオ。考えてみ。言ったところで無駄だよ。言っても彼が信じるわけがない」
「…………」
(確かに、な。俺がやったのは何者かによって殺された千影さんの魂の回収。彼女を殺しはしていないんだが、彼は俺が千影さんを殺したと解釈した………………いや、普通ならそう解釈するか。俺が千影さんを殺したと分かって襲い掛かってくる辺り、彼女の友達の類いか…………不本意だが、厄介な事を引き起こしてしまったな…………)
何か言おうとしたデュオを、白い男が止めた。
「………………で?デュオが千影さんを殺していたとして、君はどうするの?」「…………………………」
そんなの決まってる。殺す。
「………………凄い殺気だねぇ。ただし憎悪まみれの………………ん?」
白い奴は有鬼子がいるのに気付いたようで、数秒の間見つめていた。そして、何かを察したように、なるほどね、と呟いた。
「この世界に神崎さんがいると言うことは………………もしかして、君は椚ヶ丘中学3年E組の…………暗殺教室の生徒かい?担任はタコの殺せんせーだったりして………………」
「!!……………………国家機密の殺せんせーを知ってるとなると、お前ら暗殺者か?それに、何で有鬼子の事知ってやがる」
「1つずつ答えると、僕は元暗殺者。で、何で神崎さんを知ってるか?言っても良いんだけど、どうせ信じないだろうから言わなーい」
「あっそ。まぁ、そんなことはどうでも良い」
「そうかい………………所で、君。デュオを殺したいと思ってるんじゃないの?」
「さーな。別に殺したいとまでは思わないが、素直に警察に自首して罪を償ってもらいたけどな」
口先ではそう言ってるが、勿論殺したいに決まっている。ただ、有鬼子の前では復讐心は見せたくなかったから誤魔化しただけだ。だが…………そんな僕の心の内も見透かしてるように、白い奴は笑う。
「そっかそっか………………じゃあ、場所を変えようか。でも、その前に」
白い奴は懐から銃を取り出して間も無く、弾丸が放たれる。弾丸はオレの顔面すれすれを通過し、パンと言う音がした。そして、誰かが倒れる音がした。後ろを振り向くと───────
「有鬼子!!」
倒れていたのは有鬼子だった。
「おい!しっかりしろ!………………何をしやがった、テメェッ!!」
「なーに、この銃に入っているのは即効性の催眠ガス入りの弾丸だよ。破裂するタイミングも設定できる便利な代物だが、これが中々作るのがめんどいんだよね」
「それを何で有鬼子に撃つ必要があった?」
「それは、彼女がいない方が事が楽に進むからさ…………君にとってね」
(こいつ…………………やっぱり見透かされてるな)
白い奴は銃をしまって言う。
「さぁて、行こうか。あぁ、彼女はそこのベンチに寝かしておきな」
そう言うと、白い奴は歩き始めた。それに続いてデュオも歩き出す。無論、オレも有鬼子をベンチに寝かせてから彼等を追い始めた。
5分ほど歩いて、着いたのは街の郊外の路地裏だった。
「さて、ここなら誰も来ないだろうね。例え、
「…………………………」
確かに人気がない場所だ。
「……………………で、わざわざここに連れてきた理由はなんだ?」
「君に1つ真相を教えてあげようと思ってね」
「………………何?」
真相、だと?
「千影さんを殺したのは、デュオじゃない」
「じゃあ、さっきデュオが言ってたのはどういう事だ」
「さーね。そんなどうでも良いことよりさぁ、君………………もし僕が
「!?………………デュオが犯人じゃなくて、千影を殺した本当の犯人がいて、お前がそれを知ってるってるって事か?」
「あぁ、知ってるとも。何故なら
殺したのは僕だからさ」
創真side
「へぇ……………………そうかよ」
誰の目から見ても明らかに、彼の纏う殺意がさらに増幅された。無論、殺意の対象は完全に僕。
「なら………………次にオレがしたいことは分かるよな?」
「殺しに来るかい?まっ、君程度じゃ僕を殺すのは無理だね。千影さんと同じくあの世に送られるのがオチだろうね~」
挑発と分かっていても、彼は乗らずにはもういられなかったのだろう。
「………………殺す!!」
そう宣言して彼は僕に向けて駆け出した。
「創真!!何であんな」
「デュオ。僕が必要とするまでそこで待機。良いね」
「……………………チッ。何がしたいのか分からんが、どうなっても知らないからな」
「ご心配どーも」
そう返事すると伴に彼の拳を避ける。その後の第2、第3撃は捌く。
「中々良い筋をしているねぇ」
「呑気に感想述べる暇があるってことは、まだ余裕なんだな」
「当然さ。君とは年季が違う」
「……………………なら、オレの本気で届くかどうか試してやる!!」
そう宣言すると、彼の攻撃速度が格段に上がった。中々速いな………………油断してたら当たりそうだ。
「……………………だが、足りないね。僕を殺すには」
「そうかい………………なら」
彼はそう言いながら懐に手を入れる。武器を取り出すのだろうか………………対先生用ナイフは人間に傷1つ与えれない。なら、可能性としては銃か?だがその予想は外れた。彼が取り出したのは───────
「手錠……………………だと?」
「予想外だったろ?これを武器にするなんてオレくらいしかいねぇだろうし」
「そうだね………………」
少し警戒した方が良さそうだ…………。
「で、それをどう使う?」
「こう使うんだよ!」
彼は複数の手錠を僕に向けて投げる。だが、僕なら余裕で避けれる。
「なーんだ、投げるだけか。ちょっと期待外れと言うか………………」
そう呟きながら彼の方に視線を戻すと、彼は投げていない手錠をメリケンサックのようにして左手に嵌めた後、右手から何かを取り出してそのまま自身の右側に放る。そして彼自身、それに注目している………?
「なんだ?」
思わずそれに目が行ってしまった。何を落とした────────スマホ?
「律!」
『フラッシュ機能、ON!』
スマホのライトが輝きだした。
「まぶっ!!」
これは────────流石に侮り過ぎてたか?
「貰った」
風人side
完璧だ。夏休みのジャックおじさんの時と同じように完璧にこっちの策にはまってくれた。これで、もう勝ったようなもんだ。オレは一瞬で距離を詰める。後は勢いに任せて全力で殴り飛ばし、意識を奪った後───────
「貰った」
左手によるストレートのパンチ。この距離なら回避も間に合わない筈。これで終わりに
「………………なーんてね」
渾身のパンチは空を切った。奴の姿は四方八方見回しても何処にもいなかった。
「クソッ、どこ行きやがった!?」
「上を見忘れてるよ」
声につられて上を見ると、何と奴は浮いていた。右手には見たこともないような銃。だが、先端からワイヤーアンカーが出ていて、それが路地裏に隣接している建築途中のビルの屋上の手すりに引っ掛かっていた。
「ワイヤー銃って所か」
「そゆこと。咄嗟の危機対処能力は暗殺者にとっては必須だろ?」
「確かにな。やっぱ一筋縄ではいかねぇようだ……………………そういや、お前の名前を聞いてなかったな」
「結城 創真。君は?」
「和光 風人だ。覚えなくて良い」
(風人…………あぁ、彼が千影さんの会いたがってる人物か……そう言えば、公園でも神崎さんが彼の名を呼んでいたような気がするな)
「おや、覚えなくて良いのかい?」
「どうせ、お前は死ぬからな」
「ほー………………そりゃ楽しみだ。さて、いい加減狭い路地裏も飽きたので、フィールドチェンジだ」
そう言うと、創真はワイヤー銃でスルスルと上がっていく。オレは建築途中のビルの柵を余裕で飛び越え、入ってすぐ左にあった階段を三段飛ばしで駆け上がって行く─────────!!
「ハァ…………ハァ…………」
屋上に到着。だが───────
「あいつの姿が無い…………」
回りに遮蔽物はなく、隠れる場所はない。まだぶら下がってるのか?そう考えて下を覗いてみるが、やはり姿は無かった。
「何処に行きやがった…………」
すると、何処からか
その時、蹴鞠からピーと言う電子音が聞こえた。無意識に何か嫌な予感がし、蹴鞠を空へと放り出す。数秒後、蹴鞠が大きな爆発をした。
「中々良い直感と反射神経だ」
後ろから声が聞こえたときには、振り向くと同時に回し蹴りをしたが、受け止められた。
「あと1秒遅ければ君は重傷を負ってたけどねぇ」
いつの間にか後ろにいた創真がニヤリと笑いながら言った。
「やっと仕掛けてきたか」
「いい加減守ってばかりも飽きたんでね」
創真は蹴りを放つが、オレは後ろにジャンプして避ける。間髪いれず、創真は銃による速射を繰り出すが、オレは放たれた弾丸を手錠で弾く。弾いた弾丸は数秒後に小さい爆発を起こした。
「時限式の炸裂弾って言った所かな?」
「…………随分と多彩な武器を使うな」
「僕の趣味は発明なんでね」
「へぇ。にしては、さっきの炸裂弾は威力が思ってたより大したこと無かったな。お前の発明品ではあの程度の爆発しか起こせねぇのか?竹林の作る爆弾の方がお前のポンコツ品よりまだ優秀だぜ?」
「…………………………あ?」
ここで初めて、創真の声に殺気が入った。
「ポンコツとは言ってくれるじゃないか………………そんなに不満なら、さっきの奴の最大威力バージョンの見せてやろうか」
──────────引っ掛かった。
内心ニヤリとほくそ笑む間に、創真は懐から出した弾倉に交換する。
「ちなみに、その炸裂弾の威力はどんくらいだ?」
「ワンチャン死ぬレベルだ」
「おーすげ。なら、その威力見てみてぇもんだな」
「なら、その目でよーく見ておけ」
創真は引き金を引き、銃口から弾丸が2発発射される。その瞬間にオレは走り出す。
(奴の弾丸は恐らくさっきと同じ時限式。爆発までの時間はおおよそ5秒だった。なら………………)
心の中で秒数を数える。
残り4秒。手錠を構える。
残り3秒。急ブレーキを掛けて止まる。
残り2秒。手錠に弾丸を上手く当て、創真の方に2つとも強く跳ね返す。
残り1秒。自分の撃った弾丸が跳ね返ってきた創真の驚いた顔が視界に映った。
「…………0」
その瞬間、創真を大きな爆発が包んだ。オレも爆発の衝撃で吹き飛ばされるが、受け身を取って止まる。創真がさっきまで立っていた場所は黒い煙で何も見えないが、死んだのは明確だ。この威力で暗殺者と言えども普通の人間が生きている筈がない。
「殺った…………敵は討ったぞ………………千影」
独り言のようにオレは呟いた。そんなオレの耳に、遠くから消防車のサイレンの音がしてきた。どうやら、今の爆発を見ていた奴が通報したのだろう。恐らく5分以内には着くな。早めに退散した方が良さそうだ。ここはビルの屋上だが、フリーランニングの技術を使えば容易に下に降りれる。そう判断した────────────
その時だった。
「……………………なるほどね。さっきの発言は、僕にこの弾丸を使わせるための罠だった訳か」
「なっ……………………」
嘘だろ、と思わず口から出そうになった。大きな風が吹いたと思えば黒煙を吹き飛ばし、そこには傷1つ無く平然と立っている創真の姿があった。
「何で………………生きてやがる」
創真はそれはね、と呟きながら地面に落ちている白い布きれを拾う。
「僕が先程まで羽織っていた白いロングコートを爆発する直前に剥いで盾代りにしたのさ。あの白いコートも僕の発明品でね。特殊な繊維によって、防御力が凄まじい。一般的な手榴弾位なら500回以上爆発を喰らっても傷1つ付かないよ。ただ僕の炸裂弾だと防げるのは1回が限界だったようだけどね………………さて」
創真は初めて笑みをフッと消す。その瞬間、強大で冷たい殺気が辺りを支配する。
「君のアイデアは中々良かった。あの挑発も僕に殺せるレベルの炸裂弾丸を使わせることだったんだね。そして、それをまんまと使って僕を殺そうとした…………ポンコツ呼ばわりしたから少しキレかけて、君の罠に全く気付かなかったよ。全力で考え出した君の創意工夫には賞賛に値する……………………よって」
創真は指をパチンと鳴らす。その瞬間、再び大きな風が吹いたと思えば、何処からか黒いロングコートが飛んできて、袖を通さずに創真に羽織った。それと同時に創真の白いズボンも黒く変色していく。そして最後に、飛んできた包帯が勝手に右目に巻かれた。
「その全力に応え、僕も本気モードで行こう」
「今度は全身黒か。いかにも暗殺者らしいね」
「黒の時代の再現………………と言っても君には分かるまい」
そう宣言すると創真は先程とは比べ物にならない速さで距離を一瞬で詰めてきた。そのままストレートのパンチを放つ。単純なパンチだが、その速度が異常と思えるくらい速い。避ける暇もなく、腕でガードする。その衝撃で後ろに吹き飛び、倒れそうになるのを何とか踏ん張る。
「なんつー威力だよ…………」
「まだ序の口だよ」
創真は羽織っているコートのポケットからナイフを何本か取り出して投げ付ける。横に走りながら、避けきれないのは手錠で弾く。弾きつつ、オレはポケットから丸い球体を取り出して投げる。創真は袖に仕込んであった銃でそれを撃つ。撃たれた瞬間、球から煙が放出される。煙幕弾だ。オレは殺気を完全にと言っていいほど消し、ナンバの歩き方で創真の後ろに回る。あいつの位置は大体分かってるので、難なく回り込めた。偶然落ちていたあいつのナイフを拾い、背後から音もなく襲いかかる。漸く創真は俺の接近に気付いたのか、素早く後ろを振り向く。だが、もう遅い。
「次こそ終わりだ」
そう呟きつつ、オレはナイフを奴の心臓部に突き刺し─────────
「はい、残念」
「…………これは!?」
ナイフが創真の身体に触れた瞬間、刃が引っ込んだ。
「もう分かったとは思うけど、これ本物じゃなくてドッキリ用に使ったりする、刃が引っ込むナイフのおもちゃ。フッフッフ…………僕の読み通りに動いてくれた、ね!」
そのまま創真はアッパーカットを喰らわす。空中に浮かんだオレをさらに回し蹴りで吹き飛ばす。地面を何度かバウンドし、鉄柵にぶつかって止まった。
「諦めたまえ。僕には勝てないよ。いい加減僕と君の格差は思い知ったとは思うけど」
「へっ…………………生憎、オレは諦めが悪い性分でね」
「……良い根性をしている。だが………………そろそろケリをつけよう」
すると黒いコートの袖口からどういう手品かは知らないが、丸くて小さい球体が沢山落ちてくる。そしてあっという間に足の踏み場も無い位の量の球体が床を埋め尽くした。
「鉄の球体………………?」
拾ってみて、一瞬眺めた後に創真の方に視線を戻すと、いつの間にか創真はオレが今いるビルのさらに一個先のビルの屋上の鉄柵の上に立っていた。そして、スマホを取り出して何回かスマホをタップしたあと、オレを見てニヤリと笑った。その瞬間、オレは何かを察して走り出す。創真がスマホをもう一回タップするのと、オレが創真のいるビルへとジャンプするのはほぼ同時だった。ビルからビルへとジャンプしたオレを後ろから爆風が襲った。だが、それのお陰もあって転びつつも余裕でビルの屋上に着地できた。後ろを振り返ると、さっきまでいたビルが大きな音を立てて崩壊しているまっ最中だった。
「あのビルに人はいなかったから、誰も死んでないよ。もっとも、死人は1人だけ出る可能性もあったけどね。にしても、派手にやり過ぎた…………後でどうにかしておこっと」
そう言うと創真は背を向けて再び、今度は別の低いビルへとジャンプし、そしてまたさらに別のビルへとジャンプして行く。この場に及んで逃げるつもりか?勿論─────
「逃がすわけねぇだろうが」
オレはそこのビルに落ちていたロープを拾った後に、ビルからビルへと飛び移り、創真を追い始めた。
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ある意味特殊な鬼ごっこが始まってから数十分が経った。互いにスピードを落とすこと無く、息をあげることも無かった。一定の距離を保ったまま、創真は逃げ、風人は追っていた。
(チッ、全然距離が縮まらねぇ。このままじゃ何時まで経っても埒が空かねぇな…………奴の動きを止めるには…………)
風人は手に持っているロープを見る。風人の考えている事はこうだ。このロープを手錠に結んでつけ、それを創真に向けて投擲して足や手に手錠を掛け、動きを止めると言うことだ。だが、そんな芸当を風人はやったことは無い。先程ロープが落ちてたのを見て偶々思い付いたのだ。それに加え、創真に同じ技は2度は通用しないだろうと、風人は短いながらも創真との戦闘で確信していた。即ち、やるからには失敗は許されない。やった事があろうと、無かろうと失敗は失敗となる。
───────────それでも
「一か八か殺ってやろうじゃねぇか」
風人は走りながら呟く。ここで千影を殺した創真を逃がせば、もう2度と遭遇しないかもしれない。だからこそ、ここで全てにケリをつける。風人は覚悟を決め、懐から手錠を取り出し─────────
「…………………………!?」
─────────取り出せなかった。いや、正確にはこうだ。
「あと1つ残っていた筈………………」
「探し物はこれかい?」
何と創真の手に手錠があった。
「いつの間に盗んだ、って顔をしてるね?いつ盗ったかって言うとね、僕が君にアッパーカットをしたついでにこっそりと盗んだのさ。気付かなかっただろ?」
「………………クソッ!!」
「そして、君はこんなことでもしようと思ってたんじゃないの………………かい!」
創真は何故か持っていたロープを付けて手錠を投げる。手錠は回転しながら飛んでいくが、風人から大きく方向がずれていた。
「残念だったな。走りながら投げるから大きく外したな」
「………………いーや、大当たりだよ」
ご存じの通り、手錠は金属。そして、金属は光を反射する。彼等が戦っている間にも空で延々と光続けていた存在──────────太陽からの光が丁度手錠の金属部に入射。そして反射した光が風人の目に入る。
「ッ!」
眩しくて目を一瞬細めてしまう風人。それが命取りと為った。その瞬間を創真は見逃さず、ワイヤー銃を発射する。咄嗟に避けることが出来ず、ワイヤーが風人の身体に巻き付き、一切の動きを封じた。
「さぁ、チェックメイトだ」
ワイヤー銃がワイヤーを巻き出す。風人はどうにか踏ん張ろうとするが、ワイヤー銃の巻く力は尋常じゃなかった。
「よっ!」
さらにダメ押しとばかりに創真は力を入れて引っ張ると、ついに風人の身体は中に浮く。それで終わらず、ワイヤー銃に巻かれ、風人は創真の方に引っ張られていく。創真は腰を深く落として構える。
「……………………ハァッ!!」
創真は中国の武術『発勁』を完璧な形で風人に決めた。
「…………僕の勝ちだ」
風人side
敵わなかった。僕の敗北だ。不思議と痛みは感じなかった。ただ、自分の身体が地面へと落ちていってるのは分かった。
……………………あぁ、死ぬんだ、僕。
短い人生だったなぁ。親孝行もそんなに出来なかったし、逆に迷惑ばかり掛けた…………
有鬼子は僕が死んだら泣いちゃいそう。有鬼子が泣いてるのも見てみたい気もするけどなぁ………………でも、僕が居なくても頑張ってください生きてほしい。それだけが僕の望みだ。あぁ、もうすぐ地面に叩きつけられるんだろうな。後は何かあるかな…………あぁ、1つあった。
「有希子、こんな僕と付き合ってくれてありがとう………………さよなら」
僕は静かに目を瞑った。そして、意識も失う───────────直前に、懐かしい
10分前。
「可愛い………………マジで可愛いわ~!!」
「ホリー君、ニヤニヤしすぎだよ?」
「だって、こーんな可愛い女の子を見たらニヤニヤしてまうわー!」
千影は照れ臭そうに笑う。彼女は新品の可愛らしい服や装飾品身につけ、実に華やかな格好をしていた。
「いやーにしても良かったー。この世界のお金が諭吉さんとかで。違ってたらどうしようかと思ってたけど」
「世界事にお金は違うんですか?」
「基本はね。さーて、創真を呼ぶか」
ホリーは創真に電話を掛ける。が、
『お留守番サービスに接続しました。ピーっと鳴りましたらご用件を………………』
「あれ?留守番?」
「どうかしたんですか?」
「いや、何か創真が電話に出なくてさ………………何してるんだろう?」
「どうしたんでしょ『早く行くんだ』……………………えっ?」
突然、千影は辺りを見回すがホリー以外に誰もいない。ただ、創真があげたペンダントが緑色に光っていた。
「どうかしたの?」
「何か、早く行くんだって声がして………………あっ、また聞こえてきました………………えぇっ!?創真さんと風人君が戦ってる!?」
「なにぃ!?…………てか、風人君って誰だっけ?」
「…………私が探してる幼馴染です。何で風人君と創真さんが………………」
『ほら、君!場所は僕が誘導するから足を動かせ!』
「えっ、ええっと…………そもそもあなたは?」
『そんなのどうだっていいでしょ。強いて言うなら、世界最高の名探偵だ!早くしないと幼馴染が危険な目に遭うよ?僕の
「!!………………分かりました。場所の案内をお願いします!」
『素直でよろしい。先ずは、そこの信号を渡って………………』
千影は謎の声の誘導に従って走り始める。
「あ、待ってよ!僕も行くから!」
ホリーも慌てて後を追う。
『………………よし。ここだ』
謎の声に案内されて着いた場所はとある河川敷だ。
『30秒後、斜めに飛び出すんだ。それじゃ、後はがんばってね~』
そして、謎の声は聞こえなくなった。
「………………ここに風人君が?それに、30秒後に斜めに飛び出せって…………どう言うことでしょうか?」
「さぁ………………ちょっと河川敷に降りて見てみるよ。川に流されてたりして」
そう言うとホリーは河川敷を駆け降りる。千影も一緒に行こうとしたその時───────丁度30秒経とうとしていた。
すると千影の後ろから、風に運ばれてパァンと言う音が聞こえてきた。振り向くと、丁度人が弧を描いて吹き飛ばされている所だった。そして、その人物を千影は知っていた。
「風人君!?」
何故吹き飛ばされて──────いや、今はそれどころではない。どうも意識を失っているのかピクリとも動かない。このままでは、地面に叩きつけられて最悪死んでしまう。
────────私が助けるんだ!!
千影の思いに答えるかのように、ペンダントが赤く光り始めた。そして、それに呼応するかのように千影の身体も赤く光りだす。そして千影は言われた通り斜めに凄まじい速度で飛び出し、
「風人君!!」
滑空しながら千影は風人に向けて手を伸ばす。間一髪で千影の手が風人の手首をしっかり掴んだ。ホッとした瞬間、赤い発光が消えた。すると、下向きの重力によって千影の身体も落下を始める。風人君だけでも守らなきゃ、と千影は風人を抱き抱え、自分を下にして落ちていく。
千影は思わず目を瞑って衝撃が来るのを待った────────しかし。何時まで経っても衝撃は来なかった。目を開けて見ると、自分たちを受け止めた黒い布の存在に気が付いた。
「ふぅ………………危機一髪だった」
「デュオ君!」
デュオは地面に2人をゆっくり降ろすと、布はコートの中に戻っていった。
「やはり、後をつけていたようだね」
遅れてやって来た創真がデュオを見て云う。
「ふん。どうせ気付いていただろうが。俺がつけていた事も折り込み済みで、そしてこんな感じで俺に助けさせようとしたんだろ」
「さーね…………とは言え、千影さんが居たのは想定外だったね。どうやってここに?」
「何か…………よく分からないんですけど、世界最高の名探偵って名乗る人物の声がして…………その声の言う通りに来たら、ここに辿り着いて………………」
それを聞くと創真は首をかしげる。
「世界最高の名探偵………………もしや、文豪の世界の超推理が作用したのか?千影さんを導いたのは超推理の魔術に組み込まれた乱歩さんのデータ…………?」
「もー創真!そんな分析は後で良いでしょ!」
自分の世界に入り掛けた創真をホリーが引き戻した。
「あの声は、創真さんと風人君が戦ってるって言うことも言ってました………………どうして戦う羽目になったんですか?」
「それはねー…………」
「なるほど…………そう言う事だったんですか…………」
自分の膝を枕がわりにして寝かせている風人を見つめながら千影は呟いた。
「彼に誤解させてしまったのは俺の責任だ。すまなかった………………で、創真。お前、何であんなことした?」
デュオが水きりをしている創真に尋ねた。ちなみに結構跳ねた。
「あんなことって、何で僕が千影さんを殺した犯人って言ったかって事?あーそりゃ単純にこの世界の暗殺教室のアサシンと本気でお手合わせしてみたかったからね」
「…………………………やれやれ」
(……暗殺教室の……アサシン?)
「それもあるが、あの状態では何を言っても鎮静化しなかっただろうしね。ここは一端無力化するのが最適解だと思ったのも事実だよ」
「ったく、お前って奴は………………」
「フフッ…………」
創真はニヤリと笑う。
「うっ…………………………」
「お目覚めのようだね」
風人はゆっくりと目を開けた。
「ここは………………あぁ、死んだのか…………」
「残念ながら君はしっかりと生きているよ、風人君」
創真が顔を覗き込むと、風人はすぐさま立ち上がろうとするが、
「ウッ!!」
「やめておきな。君の身体は大分ダメージを受けている」
「………………千影を殺した奴に心配なんてされたくねぇ」
「じゃ、僕が殺したかどうかを本人に聞いてみ」
「………………は?」
「風人君」
懐かしい声に風人はビクッと身体を震わせる。おそるおそる、といった様子で上を見る。そこには、自分を笑顔で覗き込んでいる幼馴染=千影がいた。
「えっ……………………千影?いや、何で………………だって、あの時…………夢?」
すると、千影は風人の頬をつねる。
「痛っ………………夢じゃないの………………?」
「夢じゃないよ、風人君。千影だよ………………久しぶり。元気だった?」
「あ………………あぁ…………うん………………元気…………だったよ……千影………………千影ッ!!」
身体の痛みも忘れ、千影に抱きつく風人。そして、子供のように大声で泣き始めた。千影も涙がポロポロと流れて止まらなかった。そんな絶対にあり得ない筈だった奇跡の感動の再会を、創真らは離れた所から微笑ましく見つめていた。
その後、千影は諸々の事情を説明した。死んだ後、創真らと会い、風人にもう一度会いたい、と言う自分の願いを叶えてくれたこと。当の創真らは別の世界から来た人間だったり人外だったりで、自分の死には何の関係もないこと等を。
最初の内は半信半疑だった風人だが、『千影がそう言うんだったら信じる』と言うことで何とか信じてくれ、そして創真とも和解に至った。風人はホリーによって怪我が一瞬で治された。
「いやーにしても強かったね、創真は~」
「年上にはさん付けしろよ…………」
「え~良いじゃん別に~。ほら、本気で殺りあった仲なんだしさ~」
(……こいつ、素はめんどくさそう…………これに毎日のように付き合ってる神崎さんはご苦労様だ…………)
「そう言えばさー、創真は別の世界の暗殺教室出身者なんでしょ~?」
「まぁね」
「そっちの世界にも有鬼子はいる~?」
「まぁ………………いるけど。普通にいい人だよ」
「良いなー。こっちの有鬼子はもう鬼だよ~。よく追い掛けられて大変な思いをしてるよ~。いやーほんとそっちの世界の有鬼子と交換して欲しいよ~」
「そんなに?」
「してほしい~。そっちの方が安全に過ごせそう~」
「ふーん。だってさ、神崎さん」
「え」
風人が後ろを振り向くと、そこにはいつの間にか有鬼子がいた。
「いっ、いつからそこに…………と言うか、何でここに…………」
「キバット君が連れてきてくれたの。そしたら、面白い話が聞けて良かったよー」
神崎のバックにぶら下がってるキバットに向けて風人は怒り出す。
「このクソ蝙蝠!蝙蝠の分際で余計な事をしやがって!」
「知るかよ、バーカ バーカ!気付かないお前が悪いんだよ!自業自得だ、この間抜け!」
「んだと!?テメェ、天ぷらにしてやろうか!!」
「やれるもんならやってみろや、三流!」
風人はキバットを捕まえようと手を伸ばすが、キバットはその手に噛みつく。
「いたッ!」
「手加減してやるだけ感謝しな!本気なら、今頃お前の手は粉々だぜ!じゃーな!」
そう言うとキバットは何処かに飛んでいった。
「あっ、待てやこのこうも」
追おうとする風人の肩を誰かが掴んだ。
「何処に行くの風人君?まだ話は終わってないよ?」
「あ、いや…………ちょ、ちょっと用事が…………あと手の力が強いんですけど………………一応怪我人だったし………………それと、喋る蝙蝠見て何とも思わなかったの………………?」
「別に喋るタコもいるんだからそんなに驚かなかったよ」
「そ、そっか~。じ、じゃあこの手もついでに離してくれる?」
「…………………………」
無言の圧力。
「ここの世界の神崎さん…………こわスギィ!」
「性格改変されてるな、大分…………あと、語尾に余計なのをくっつけるな」
ホリーとデュオが呟く。そんな彼等の目の前で色んな事があったのは言うまでもない。
「風人君、治してもらって5分もしない内に新しい怪我が出来たね」
「うぅ……死ぬほど効いたよ……………………」
拳骨を落とされた部分を押さえる風人。
「いやー…………にしても疲れた…………僕も最初から本気モードで行けば良かった。あんな長時間戦ったら疲れるわ」
「うわ~本気だったら直ぐ終わってる発言来た~」
「だって、本当だし」
「えー?本当に?」
「論より証拠って事で、僕の本気見せてあげようか?」
「じゃあ、見せてよ~。あ、そうだ。それでもし驚かせれたら何か奢ってあげるよ~」
風人の言葉に創真はニヤリと笑う。
「言ったね?その言葉、忘れるなよ」
「良いよ~。まぁ、創真が凄いのはもう色々と分かったし、よっぽどのじゃなきゃ驚かないよ~?」
「なら、よー見とけよ…………千影さん、少し返して貰うよ」
創真が指を鳴らすと、文豪の世界のカードがペンダントから飛び出して創真の手に収まる。収まったカードは赤く光り、『汚れっちまった悲しみに』、と文字が出る。創真は辺りに人がいないのを確認し、声をかける。
「じゃ、行きまーす」
「どうぞ~」
「せーの」
創真はその場で地面に踵落としをした瞬間、河川敷にクレーターが出来た。深さ50メートル程の。
「「「……………………」」」
風人、千影、神崎は言葉を発する事が出来なかった。創真はクレーターからすっと出てくる。なお、巨大なクレーターはホリーによって一瞬で元の状態になった。
「風人君さー。僕が本気出してたら直ぐ終わってたって言ってたのあんま信じてなかったぽかったけど、もう一回戦ってみる?」
「い、いやぁ…………遠慮しとくよ~」
(これ絶対、瞬殺されて終わるパターンじゃん!)
「そう?まぁ、驚いてたのは一目了然だったし、後で何か奢ってねー」
「は、はーい…………」
やっぱりさっきのなし!とか言ったらヤバそうだったので風人は素直に従う。
創真はふと、時計を見る。
「あー千影さん。残り時間は後20時間位だけど、何かしたいことあるー?」
「え、えっと……………………か、風人君と…………で、デートをしたい!!…………かな」
「で、デート!?あー…………千影。でも、有鬼子がそれを許してくれ」
「別に構わないよ。だって、千影さんはもう時間が来たら2度と会えないんでしょ?だったら、好きな事は全部やった方が良いと思うよ」
神崎の許可が降りた。
「おぉ!鬼にも優しい心があったのか!」
「今何て言った風人君?」
「あ…………えっと……………………先に失礼しまーすε=ε=┏(・_・)┛」
風人は逃走を開始。神崎は追跡を開始。それを見て創真らはため息をつく。
「風人君、あの頃から全然変わってない………………あぁ、もう…………」
千影は頭を抱える。
「生れた頃から隼と同じくらい馬鹿だったんだろうね………………やれやれ。だが、面白い奴だねぇ」
創真は少し面白そうに云った。一方ホリーらは、
「そういやホリー。お前、千影ちゃんを可愛くコーデしたなー」
「でしょー!このホリーに不可能はない!ねっ、デュオ?って、新聞読んでるの?」
「『世界的に有名なテロ組織が日本に潜伏の噂!?空港等では警戒体制』、か…………どの世界も物騒な事だらけだ」
「まーそんなの僕らが心配してもしょうがないでしょ………………所でデュオ。見なよ、千影さんを。可愛くて、デュオも思わず襲い掛かりたくなっただろ?」
「ならんわ!ったく………………おい創真。早めに神崎さんを止めておいた方が良いんじゃないか?」
「そーね。無いとは思うけど、風人君殺されそうだし(笑)」
そう言って創真は歩きだす。一行もそれに続く。歩きながら創真は空を見あげる。すると、黒いヘリコプターが何台も上空を通過していくのが見えた。
「……………………」
to be continue…………
これにて前編終了です。
後編は音速のノッブ様の『結城 創真の暗殺教室』ですのでお楽しみください。では、
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