暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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墓参りの時間

 今日は多くの人にとってはなんてこともない平日。何か特別なことがあるわけでなく、ただ過ぎていく他の日と何ら変わらない日。でも、僕に……いや、僕らにとってはただの過ぎていくような日ではない。

 

「大丈夫?」

「涼香こそ」

 

 今日は千影の命日。

 僕らは制服には着替えたが学校には行かない。二年目の命日……三回忌の日。別に超遅刻してなら学校に行けないことはないが……僕も涼香もこんな日に学校なんて行く気はない。流石に精神的に来るものがある。親たちもそれを分かっているため、無理に行かせるつもりもない。

 

「あなたたち……一ヶ月ぶりね……」

「そうですね……千秋さん。あれ?俊昭さんは……?」

「ごめんなさいね……あの人外せない用事があるらしいの。最近もちょくちょく遅かったし……きっと忙しいのよ」

「いえ仕方ないですよ……」

 

 実の娘の命日に外せない用事があるなんて……そんなに重要なことなんだろうか……?まぁいい。社会とはそんな都合よくいくものじゃない。そんなこと考えても仕方ないな。

 この三回忌には千影の家族以外には僕と涼香だけ。それはそうだ。そんな大所帯でやることでもないし、そんなの千影は望んでいないだろう。

 

「……安心して。大丈夫よ」

 

 千秋さんが声をかけてくる。

 去年の一周忌。僕は……いや涼香もだがまだ自分の心に整理が何一つついておらず千影のお墓の前で泣き崩れて何時間も動けなくなってしまうことがあった。

 ならこの一年でそういうことは起こさないようになったかと聞かれれば僕はまだ無理だと思う。心の中の整理が少しずつついた……けどそれは多分違う。そんなのはただのまやかし。少しはついてもどうしても彼女の死は僕らに大きな穴を開けてしまう。

 彼女が何故死ななければならなかったのか。僕の中にある些細な違和感。真犯人がいるのは分かっている。分かっていてもそれがどこの誰かが分からない以上、このたまった感情の矛先はどこにも向けれずただただ押し殺している。押し殺しすぎて僕の中にその感情がどれだけのものなのか。いまいち分からない。

 

『それでは、はじめさせていただきます』

 

 普段の僕ならここで寝ていただろう。しかも最近は何故か寝ても寝ても足りなくむしろ疲れている錯覚に陥っている。きっと、この日が近づいていることを心のどこかで考えてしまいそのせいで本当の意味で眠れていないのだろう。

 だが、眠るなんてことはしない。千影の家族の前とかは一切関係ない。ただ、そんなのは彼女に失礼だし、そもそもこの心に睡魔なんて襲ってくる余地はどこにもなかった。僕の今の心に襲ってきている睡魔は無力。何も眠たさなんて感じない。そう、この圧倒的な悲しさ以外何もかもが無力だ……。

 僕はあと何回彼女の死を考えるだろう。今日だけで何回この気持ちになるだろう。

 そんな中で嫌な思考がよぎる。もし殺せんせーが地球を爆発してくれれば楽だろうって。当然僕は死ぬだろう。地球上の生命は皆滅びるだろう。でもそうすれば僕の追い求めている真犯人もどこかで死んで、もし地獄が存在すればそこで断罪を受けるだろう。そうすれば僕の目的は果たせるんだ。

 …………でも、ダメなんだ。そんなことを願ってしまっては僕は何のためにこの3年E組で暗殺者になっているか。何のために僕があの教室にいるのか。分からなくなってしまうから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……」

 

 三回忌も終わり最後に千影のお墓の前にいる僕ら。日は既に傾き、もうすぐ暗闇が訪れる。

 僕は泣いている涼香に胸を貸しながら、ただ千影のお墓を見ていた。そこに千影はいない。分かってる。分かってるのにそこをずっと見続ける。ダメだ。ダメなんだ。

 

「強くなったね……」

 

 千秋さんが声をかけてくる。僕は泣いてはいるが去年のように泣き崩れていない。

 去年は自己嫌悪と哀しみが入り交じった涙だった。僕は目の前で大切な幼馴染みを失った。僕が守れなかった。守る力がなかったと自分を責め、ただ千影に謝り続ける涙と失ってしまった悲しみの涙。ごちゃ混ぜになって押し寄せた感情が涙となって流れ続けていた。

 だが、今年は違った。感覚として自己嫌悪の方が何故かなくなっている。開き直った?そういうわけではないが、ただ自分の無力さを責めるような感情は湧いてこなかった。今あるのはただ失った悲しみだけだ。

 

「そういうわけじゃないです…………」

 

 去年との違いはもう一つある。きっと、僕がここに来る前に感情をさらけ出した。だからその分は軽くなってるのだろう。たったそれだけのことだ。そう。たった……

 

「でも、ダメなんだ……」

 

 ずっと支えてもらう。そう言うのは簡単でも実際は難しい。支えている側がいつか自分とあらゆる重みで折れてしまう。今は折れなくても蓄積されいつかは。だから支え合う必要がある……でも、僕には支えるなんて出来ない。

 僕はただの弱者。何の力も持てず一人で立つことすら出来ない弱者。あの教室で誰よりも弱く……誰よりも脆い。そういう人間なんだ。

 

「すみません……」

 

 あれから気付けば時間は経ち真っ暗に。僕は涼香を置いて、少し離れた場所に移動する。

 

「…………何の用?せんせー。…………僕そんな気分じゃないんだけど……」

 

 無論電話は電源オフにしておいた。ただ、僕はかなり特殊な環境にある。ないとは思うが万が一何かあってもいいよう、三回忌そのものが終わったときにバイブレーションだけありにしておいた。

 そして、振動を感じ、スマホを開けると殺せんせーからの着信だった。きっと、僕が墓参りって知ってるから精神的なケアをしようと思ったのだろう。教師バカならやりそうなことだ…………とてつもなくいらないお世話だが。

 

『よ、よかった……!』

「はぁ?」

 

 何がよかったのかさっぱりよくない。後、僕は全くよくない。

 

「……切るよ」

 

 僕は通話を切ろうと――

 

『ま、待ってください。君だけなんです』

 

 ――して止まる。僕だけ?何が。

 

『君以外の既に全員に電話を試してみたんです。しかし、君以外全員に電話が繋がらないです』

 

 全員……?目的とかはともかく、結果だけ見るとおかしくはないか?

 確かに一人や二人なら分かる。通知を切っていたり気付かなかったりしたのだろう。だが、全員ダメ?それに僕以外全員というと律を除くとしても27人いる。その27人全員と連絡が取れなくなったというのか?しかも27人目に電話をかける頃には最初にかけた人が折り返しなりなんなりで連絡が取れてもいいはず。それすらないのはどう考えても不自然だ。

 

「何が起きてるの?」

『分かりません』

 

 ふぅー一回頭を切り替えろ。

 

「烏間先生には?」

『連絡済みです。君の前に連絡しましたので君を迎えに行く手はずを整えていると思います』

 

 そっか。僕だけは今日に限っては居場所が割れてるか。

 

「じゃあ、合流してみる。せんせーは?」

『私はダッシュでブラジルから戻ります』

「わかった」

 

 そう言って電話を切る僕。その後烏間先生に連絡をして落ち合う場所を決めた。

 

「ごめんね。ちょっと行ってくるよ…………千影」

 

 僕はお墓に向き直り謝ると涼香に用事ができたとメッセージを送りその場を立ち去った。

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