暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

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真実の時間

 風人君の元担任が……千影さん殺しの真犯人?

 

「ハハハッ!安心しろ和光風人!テメェが壊れる前に全部教えてやるから楽しみにしな!」

 

 笑う竹原と呼ばれてた男。

 それに対し風人君の纏う空気は一変していた。

 

「……ざけんなよ……!」

「いけない!風人君!落ち着きなさい!」

「……テメェは……テメェだけは……!ぜってぇ許さねぇ…………!!」

「へぇ~許さない……ねぇ?じゃあ、どうするんだ?」

「オレがお前を…………コロス」

 

 風人君から溢れ出すドス黒い感情の波。醜く暗く冷たい殺気が辺り一帯を支配し、誰も口を開けなくなるようなプレッシャーが感じる。私たちに向けられてないはずなのに、私たちは恐怖で震えてしまう。

 

「はははっ」

 

 その男は笑った。風人君から向けられている殺気がなんともないように笑った

 

「じゃあ、第二問だ『俺は誰でしょう?』」

「んなの知るかよ!」

 

 風人君が強襲する。だが、それを軽くあしらって壁に向かって投げ飛ばした。

 

「ガハッ!」

「不正解っと。仕方ねぇな。じゃ、自己紹介しときますか」

 

 な、何なのこいつ……まるでペースがつかめない。いや、それだけじゃない。この男……恐ろしく怖い。殺意で怖いとかそういう問題じゃない。ただ、狂いすぎてる。あの鷹岡よりも恐ろしい勢いで狂っている……!

 

「俺は自称『ガキ専門の殺人鬼』。裏では『ジョーカー』って呼ばれてる」

 

 さ、殺人鬼……!?

 

「ってもよぉ。俺は美学ある殺人鬼だ。そんじょそこらの殺人鬼と一緒にされちゃ困るがなぁ」

 

 ゲラゲラと笑うジョーカ-。殺人鬼に美学……何を言ってるの?

 

「ガキは面白れぇよ?痛めつけがいがあるし、殺そうと思えば簡単に殺せる弱い存在だ。加えて、そのガキが死んだときの親や友人の反応がまた滑稽でよ」

 

 ガンッ

 

「……黙れよ」

 

 近くのコンクリートの壁に拳を叩きつけて威圧する風人君。向けられているはずの殺気。だがジョーカーはなんともないのか話を続けた。

 

「和光風人もさ。和泉千影をトラックにはねさせた時なんか爆笑でさぁ。はははっ。お前らにも見せてやりたかったぜ。このガキの泣き叫ぶ姿を」

「黙れって言ってんだろうがああああああぁぁぁっ!!」

 

 完全にキレてる。人格の入れ替わりなんて関係なしにもう殺意や怒気を含む復讐心しか残ってない。

 風人君が一瞬でジョーカーに近づき拳を突き出す。だが、

 

「おせぇよ!」

「グッ……!」

 

 拳を避けると腹部に膝蹴りを入れ、風人君は膝をつく。嘘。風人君が戦闘で……?

 

「んじゃ、場所変更。俺もそろそろ行こうかな?ここだと死神の奴が巻き添えにしそうだし」

 

 そう言って歩き出すジョーカー。そして、上へと繋がる扉の前で、

 

「さぁて、ついてくるよなぁ?和光風人」

 

 振り返って挑発するような笑み浮かべ、去って行った。

 

「…………コロス……!」

「風人君!あの男を相手にするだけ無駄です!あの男は脱出した後私がやります。だから……!」

「止めんなタコ!オレは千影の敵討ちをする!誰が何と言おうと…………オレがアイツを殺す!」

 

 風人君は立ち上がると同時にジョーカーを追って消えた。

 

「いけない!あのままでは……!」

 

 しかし、今の風人君に私たちの声は届かない。

 

「フン、彼らを倒すなんて無謀ね。確かにカラスマも人間離れしてるけど、死神はそれ以上よ?それに、カゼトの方も。ジョーカーはあんな風に性格と思考こそ底辺のゴミクズだけど実力は十二分にある。勝ち目はゼロよ」

 

 首についてる爆弾を外し、冷徹な表情で言うビッチ先生。

 

「ビッチ先生……」

 

 すると、カルマ君が嘲笑うように口を開いた。

 

「怖くなったんでしょ?こんなゆるい学校生活に慣れ親しんで、殺し屋の感覚を忘れかけてきて。俺ら殺してアピールしたいんでしょ?私は冷徹な暗殺者ってね」

 

 その言葉にビッチ先生は苛立ち、牢屋に向かって爆弾を投げつけ叫んだ。

 

「うるさい!アンタらに私の何が分かるってんのよ!考えたことなかったのよ!こんなフツーな世界を楽しむことに!弟や妹みたいな奴らと遊んで、恋愛の事で相談したり、悩んだり……そんなの違う、私が過ごす世界はそんな眩しい世界じゃないのよ」

 

 どこか板挟み状態になってるように感じる言葉。先生の中でも何か葛藤があるように思える。 

 すると、何か通信が入ったようで走り去っていくビッチ先生。

 壁にあるモニターを見ると、一つには烏間先生が扉を開けようとしているところ。別のモニターには向き合う風人君とジョーカーが映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら大丈夫だろ」

 

 怒れる風人を前にしても笑みを浮かべるその男、ジョーカーは続けて言った。

 

「さぁ。お前はいつまで壊れずに持つかなぁ?」

「殺す!」

 

 風人は男の懐に入り込みそのまま拳を突き出そうとして、

 

「おせぇよ!」

「グハッ!?」

 

 その拳が当たる前に膝蹴りによって後ろに飛ばされる。

 

「あぁ。今からするのは授業中の雑談だから聞き流していいぞ?俺はさ。基本は間接的に人を殺すんだよ」

 

 ジョーカーは話をする。キレてる風人の耳には一切届いていないがそんなのどうでもいいようで、話続ける。

 

「直接は手を下さない。お前らの時みたいにただ押しただけとか、精神的に追い込むだけとか。ああ、後は不良どもをけしかけたこともあったな」

 

 その間も風人は何度も攻撃を仕掛けるが全て軽くあしらわれ、手痛い反撃を喰らう。

 

「よくやるのは精神破壊だな」

「耳障りなんだよ!」

「なら耳でも塞いでろっと!」

 

 突っ込んでくる風人に対して横に半歩ずれて避けるとがら空きとなった背中に回し蹴りを決める。

 

「さてさて。なら授業再開がてらの第三問『なぜこんなに時間をかけているでしょう?』ああ。答えは二つあるからね」

 

 時折芝居がかった口調で風人に話しかけるジョーカー。

 

「知るかよ!」

「不正解です」

 

 その瞬間、風人は蹴り飛ばされる。

 

「正解は君をじっくり壊していくためと君が絶望するのを見るため」

 

 そして、倒れていたところを頭をつかんで無理矢理立たせる。

 

「俺が好きな顔っていくつもあんだよ。怒りにまみれた顔。殺意むき出しの顔。反抗的な顔。憎しみを隠しきれない顔。でもそれらは一番じゃない。一番はな…………絶望に染まった顔さ」

 

 ジョーカーは顔を歪ませ、風人に笑いかけるように話す。

 

「もう少ししたら死神が水を流してあの牢屋の連中は死ぬ。きっともがき苦しむだろうなぁ。中学生二十何人かがすぐには死なず、苦しみながらじわりじわりと死んでゆく……想像するだけで興奮しねぇか?で、テメェはそいつら(クラスメイト)を失った絶望で顔をゆがめる。生きる気を失わせる。正気のない顔も想像するだけで溜まらねぇよなぁ!」

 

 そのまま床にたたきつける。

 

「ハハハッ!死神と組んだのもその表情を見るためだ!あぁ、でも残念。あんなに大勢のガキを死神に殺させるのはもったいない。俺にもあのガキを何人か分けてほしいぐらいだ。なぁ。そうは思わないか?」

 

 倒れ込む風人に向けてにやついた笑みを浮かべる。

 

「カハッ!……んなこと知るかよ……!」

 

 拳を地面に叩きつけてふらふらになりながらも立ち上がる。

 

「大体分けられたやつがいたところで……何する気だクソ野郎」

「あははっ。なんだなんだ?興味津々か?」

「…………」

「おっと、これは違ったな。返答次第じゃ二度と口も開けなくしてやるって感じか」

 

 風人は肯定も否定もしない。ただただ睨みつけている。

 

「そうだな。テメェみたいにじっくり壊すのも楽しいだろうなぁ。拷問まがいのことをしてから殺すのも一興。ああ、女なら強姦して、心と身体を壊して自殺に追い込むのも楽しいな。それにあいつらには首輪(爆弾)ついてるし、俺には絶対逆らえねぇ。なんだ、完璧じゃねぇか。夢が膨らむなぁ?おい」

「やっぱり…………テメェは生きる価値ゼロだ……な!」

 

 鋭い蹴りを繰り出す風人。だが、それも受け止められてしまう。

 

「おぉっ?なんだぁ。今のクラスメイトたちがそんな風に扱われる想像でもしたのか?」

「なわけ……!」

 

 しかし、その止められた足を軸に回転し、そのまま蹴りを顔面に向けて放つ。

 

「ははっ。そうだ。ここで第四問」

 

 が、支えとしていた足を離され、ジョーカーは簡単に避けた。

 

「『君は何故椚ヶ丘でエンドのE組に落とされたでしょう?』」

 

 一瞬風人は固まる。突然質問の方向性が大きく変わったからだ。

 しかも、風人の中ではそんなこと推測できていたこと。そんなの風人自身の素行不良さが原因で理事長が落とした。今更過ぎてしかも自分の中で答えが出ている風人は固まるしかない。

 

「正解は、俺が仕組んだからでしたぁ」

「は……?」

 

 思わず疑問を口に出す風人。

 

「お前不思議に感じてなかったのか?クククッ。そりゃぁ思い当たる節でもあったんだろうなぁ」

「どういうことだぁっ!」

「俺はお前の元担任だぜ?お前が転校するのが椚ヶ丘って聞いたときになぁ。向こうに成績とか送らないといけなかったんだよ。これは理事長に聞いたんだけどよぉ。そのままの成績とかの資料を送っただけではお前はA組に入れたらしいんだわ。それじゃあつまらねぇ。だから成績を改ざんしてやったさ」

 

 風人は理解が追いつかなかった。いいや。この逝かれた思考を理解したくなかった。

 

「なぁに。いじったのは欠席数だけさ」

「…………っ!」

 

 ここで風人は怒りの中矛盾に気付く。

 それは夏休み。理事長室で理事長が風人に向けて言ったこと。

 

『君は中間テスト総合学年五位。期末テスト総合学年二位。学力は充分。授業の欠課も()()()()()()()()()()()()()()()本校舎復帰……君の場合は本校舎へ行くか。その権利をもうすでに持っている』

 

 当時の風人は何も思わずスルーした。しかし、今となっては無視できない。

 風人は授業を確かにサボっていた。だが、授業自体は出席していたはずだ。つまり、欠課扱いにはならないはず。だがこの言い方ではまるでが欠課が無視できないくらい多かったようではないか。そんなの授業を出ていたのにありえない。

 しかも欠席数と言っても欠席数は重要である。当然、この男だから理由の方には理由なし、遠回しにサボりと書くだろう。そう書かれては進学校側は素行不良とみなす。風人自身にサボり癖があるせいで些細な矛盾に気付かなかった。

 

「だが、E組で暗殺やってるのは想定外もいいとこだ。ッチ。落ちこぼれクラスで一緒に劣等感を味わっていればよかったものがよぉ」

 

 悪態をつくジョーカー。ジョーカー側の唯一にして最大の誤算は殺せんせーの存在。彼のせいで風人が思わぬ方向に成長していたのだ。

 

「おっと。今の問答で君の殺意が減ったか?面白くねぇので特別問題。君の同級生で行方不明者が何人かいるのは知ってるよね?さて『彼らはどうなったでしょう?』」

「あぁ!?テメェが糸を引いてやがったのか!」

「あはは。君なら俺が和泉千影殺しの真犯人ってことから簡単に推測できたと思うけどなぁ。安心しろ。あそこで近年起きていた小学生から高校生の絡む事件や死の裏には大概俺がいるからな」

「何が安心しろだぁ!何人に手をだしゃ気が済むんだテメェは!?」

「気が済む?はははっ。俺は貪欲な人間さ。俺のこの欲望は満たされることはねぇよ。一生なぁ」

 

 狂気の塊。

 風人の殺気にジョーカーも当てられ続けているが、ジョーカーのこの常人と逸脱した狂気に風人も当てられ続けている。

 風人は微塵も理解できなかった。この男の思考が一切分からなかった。

 

「ははっ。というわけで答え合わせだ!特別に見せてやるよ!」

 

 そして風人の背後の扉から現れた数人の男女。全員風人と同じくらいの年齢だ。

 

「なっ……!」

 

 風人は目を見開いた。

 いくら他人に興味がない彼だったとしても彼の通っていた学校は小学校中学校共にそんなに生徒数はいない。他クラスであっても何度か顔を合わせたことくらいはあった。そこに並んでいるのは名前は知らなくとも見覚えのある奴らばかりだったのだ。

 

「どうして……!どうして……!!」

「どうして?おかしなこと言うなテメェは。こいつらは俺が拉致し、俺が人形(マリオネット)としたやつらさ。こいつらには身体以外何も残ってない。思考も感情も理性もな。なんせ、俺がこいつらの心を徹底的に破壊してやったんだからな。こいつらは俺のコマ(奴隷)たちだ」

 

 すると何を思ったのか風人に手を差し伸べるジョーカー。

 

「さぁてと。じゃあここまで心が折れなかった君に特別サービスだ。和光風人。俺と来いよ。そうすればこれ以上傷つけず命も取らない。ああ、もちろんお前の心も壊さない。それに加えてこいつらは俺の所有物だがお前が気に入ったやつがいれば分けてやるよ。ほら、こいつらは元同級生たちだ。それ以外にももちろんいるが、犯したいなら存分にやればいい。殴りたいなら存分に殴っていい。こいつらを好き放題させてやるよ。…………なぁ、最高の条件だと思わないか?」

 

 心が折れかけてる人間にはまるで自分に降りた唯一の救いの糸。断ればどうなるかなんて分かってる。嫌でも恐怖を植え付けられ、絶望的な未来しか残されてない中の光。普通の人間なら、心はもう持ってかれるだろう。そう、

 

「……断るに決まってんだろうがあぁっ!」

 

 普通の人間ならだ。

 

「ほう?まだその目でいられるのか。たいしたものだ」

「ざけんなよ!何が人形だ!何が奴隷だ!何が所有物だ!そいつらはテメェのモノじゃねぇ!人間だろうがぁっ!!」

 

 残された力を使って叫ぶ風人。だが、ジョーカーの心に響くことはない。

 

「テメェは千影を殺した!オレはアイツの未来を奪ったお前を殺す!テメェのようなやつと組むぐらいなら死んだ方がマシだ!」

「そうか。なら、お前ら。三十秒やる。こいつを」

「ぐはっ……!?」

「殺さず壊せ」

「「「はい」」」

 

 ジョーカーは風人を地に沈めると、彼の所有物たちに託すことにする。

 

「飽きたし、そろそろ最終問題にしよう。『和泉千影はなぜ死ななければならなかったのか?』なぁ?一番こいつが知りたいんだろう?」

「…………!」

「ハハハッ。元同級生たちから味わう暴行。それを受けても俺に殺気を放ってくるか……クククッ。いいだろう。このまま教えてやるよ」

 

 その部屋に響くのは何かを殴ったり蹴ったりする音と呻き声とジョーカーの笑い声。

 そんな中ジョーカーは語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まず、俺の標的(ターゲット)は和泉千影だけじゃなかった。和光風人。テメェも標的(ターゲット)だったんだよ』

「「「……っ!?」」」

 

 トランシーバーアプリから聞こえてくるのは衝撃の真実。風人君も標的だったというの……?

 

『そう。俺はお前ら二人を壊して殺すそれか人形にしてやろうと考えたさ。お前らが小五の時になぁ』

 

 嘘でしょ……千影さんがちょうど二年前。すなわち中一で亡くなってる……そのさらに二年前から動いていたというの?

 

『お前らを標的にした理由は単純だ。お前らの顔は整っている。だから歪んだ顔が、絶望した顔が見たかった。それだけだ』

 

 なにその理由……!そんなあの男の自己満足の為に千影さんは殺され風人君は狙われたの?

 そんなの……誰も救われなさ過ぎる。救いがなさ過ぎる。よくある恨みとかそいういうものじゃない。そんなの千影さんが、風人君が可哀想すぎるじゃない……!

 

「こ、殺せんせー!?」

 

 こちらでは殺せんせーが真っ黒になって怒っている。当然だ。そんな理由で人が一人死んで一人殺されかけているんだ。

 

『俺の方針でどちらかを徹底的に破壊してからもう片方を精神的に崩壊させるってのは決まってた。そこで、どちらを破壊させたら楽しいかって考えたさ。あの普段は物静かで大人びてる和泉千影か、負の感情なんて知らなそうな純粋なお前か』

 

 かつての同級生たちに足蹴にされている風人君を笑いながら告げている。

 

『まぁ。お前を破壊するのは骨が折れそうだったし、和泉千影は中々の逸材。ありゃぁいい女だ。いい女を俺の手で徹底的に破壊しようとしたわけだ。もちろん。精神的にも身体的にもなぁ?そこで、いじめを起こさせた』

『うっ…………いじめ……だと?』

『ああそうさ。いじめは分かりやすく簡単だ。相手を孤立させるにも、精神的に負荷をかけるのもな。まさかお前。和泉千影が目が正しく見えていないことが知られたからいじめられたと勘違いしてないか?』

 

 風人君の話では、大元を辿ればそれが露呈したせいでいじめが起きた……いや、いじめが起きようとしていたと言っていた。まさか……違ってたと言うの?

 

『バーカ。全部俺が仕組んだことだ。気付かないか?お前らが頭いいせいでいじめは学校側も認知していたはず。なのに、何でいじめは消えなかったのか。何で繰り返されたのか。なぁ、分からないかぁ?』

 

 確かに少し違和感を感じる。今になってみれば、いじめとなりそうなことは全て風人君が潰していたはずなのに、なんでそれでも何度も再発し何度も風人君が潰していたのか。根っこが相当深ければ何度も執拗に繰り返されるかもしれない。ただ、それは今回のケースには当てはまらないと思う。なら、なおさらそんなに執着する理由がないはず。

 でも、そんなのって……たった二人を潰すために職権を乱用していたの?二人を潰すために彼らの同級生たちを利用したというの?

 

『だが、これにも誤算があった。お前と岩月涼香が一切和泉千影から離れようとしなかった。お前らの歳の心理だと、普通はいじめられっ子から離れたくなるもんなのになぁ』

 

 そう。普通はいじめと無関係でいたいし、関わるとしてもいじめられてる側を守ると自分がいじめられる。そう思って普通はずっといじめられている側に立ち続けるのは余程の事がない限り起きないはず。

 

『最初のプランじゃ、和泉千影が孤立したとこを俺自身の手元に誘導。後は徹底的に身も心も破壊してそれをテメェの前で見せつける予定だった……が一向に孤立しねぇせいで没にした。で、時が来るまで他の奴らで遊びながらプランを練り直した。そして、俺はお前らが中学一年にしてようやくその時が来た』

 

 所々私たちですらジョーカーという男の狂気を感じる言葉がある。そんな狂気にやられそうになるが……その時って……? 

 

『お前ら初めて大喧嘩しただろ?ククッ。ようやく和泉千影が孤立したって思った。だから二年前の今日。最初はあそこで拉致しようとした。だが、お前の声が聞こえた。お前がいると何かと厄介だから諦めようと思った。でもな都合よくトラックが来たんだよ。だったら、お前の目の前で殺してやろうって、思考を切り替えたわけだ。ははっ!これが真実だよバーカ!たくよぉ!目の前で大好きな大好きな幼馴染みが死んだってのにテメェは生き延びやがって!まぁ、壊れてくれたから充分楽しめたんだけどなぁ』

 

 じゃあ、千影さんが死んだのって……

 

『っと、余裕で三十秒経ってたな。お前らやめていいぞ』

 

 風人君の周りから離れていく元同級生たち。

 

『和泉千影を殺した真犯人は俺って言ったが、本当はお前なんだよ。お前があの場に現れなければ和泉千影は死ぬことはなかった。お前さえいなければ和泉千影は死ぬことはなかったんだよ』

 

 ――――――もっとも、生きているといえる状態かは知らないがな。

 

 ジョーカーの笑い声が牢屋にも届いている。

 千影さんが死んだのは……風人君を絶望させるため。絶望させたかったのは絶望した顔が見たかったから……最低すぎる。そんな理由って……残酷すぎるでしょう。

 

『…………コロス…………ぜってぇ……ぶち殺す!!!』

『すげぇなおい!こんなの聞かされボコボコにされてまだその目でいられるのかよ!』

 

 お腹を抑え大笑いする。そしてしゃがみ込んで風人君の目を見て言い放つ。

 

『そうだなぁ。まだ連絡がないって事は水は流れてない。今から死神に頼んであの牢屋から一人拝借しよう。あの女から聞いたんだが確か、お前の彼女。あの牢屋の中に居るんだってな。名前は……神崎つったっけ?今からその女を目の前で、心も身体も女としても人間としても何もかもを壊してやろう。そうすりゃあお前も絶望するだろ?な?あの時以上の目の前で奪われる感覚ってやつを味合わせてやるよ』

『黙れぇっ!!』

 

 風人君は頭突きを放つも軽く避けられる。

 

「安心してください。もう首の爆弾は外してありますし、彼がここに来たとしても私が守ります」

「こ、殺せんせー……」

 

 お陰で少し落ち着いた。大丈夫……こっちには殺せんせーがいるのだから。

 

『有希子にまで手を出すつもりか!』

『ああ。そう言ったんだよ。と言っても前に手を出そうとしたことはあるんだがな』

『…………はぁ?』「…………えっ?」

 

 トランシーバー越しに私たちの声が重なった。……え?

 

『お前。中二の夏休みにあの女と何回か会ってただろ。たく、その女のせいでお前の精神状態は回復に向かってしまった。ほんと、余計なことしてくれる。そのまま大人しくすさんでいればよかったのになぁ。だが、そこで思った。今度はその女を壊せばお前はまた壊れてくれるってな。だから不良どもを使おうとしたのに勘のいいテメェは気付きやがって』

 

 う、嘘でしょ……?あの時のアレにこの男が関わっていたの……?不良たちが勝手にやろうとしたように見せかけて裏で糸を引いていたの……?この男は一体なんなの……?

 

『あれにも関わってたのかよ……!もう話はうんざりだ!テメェはオレがコロ……!』

 

 立ち上がった風人君。しかし、

 

『あぁ……!?』

 

 立ち上がるもすぐに自身の身体を抱きかかえるように再び倒れ込んでしまう。

 

『なに……この痛み……!全身がぁ……っ!』

『はぁ?』

『うぅ……!お、お前は……!』

 

 倒れ込みながら風人君はジョーカーの方に顔を向ける。

 

『お前は……!千影を殺した……!』

『何を今更……ああそういうこと』

『お前は僕がころぐふっ!』

 

 ジョーカーは何かに納得すると、風人君を蹴り飛ばして言った。

 

『なんだ。お前は俺が壊す前から既に()()()()()わけか』

 

 そして一瞬で興味が失せたような、つまらない眼を風人君に向ける。

 

『どういう……がはあぁっ!?』

 

 聞こえてくる風人君の悲痛の叫び。ジョーカーは仰向けになった風人君の腹に拳を叩き込んだ。

 

『寝てろ。なぁに、目が覚めたらお前は生きる気をなくしてるさ』

 

 そして、風人君が動かなくなったのを見るとジョーカーは立ち上がり、風人君に背を向けた。

 

『もっとも、目が覚めることがあればだけどな』

 

 そう言い残して……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何がどうなってるんだ……!気付いたら全身がボロボロであの男は無傷。

 何も分からないけど、あの男を進ませたらダメだ!アイツは僕がやらないと……!アイツは千影を…………!

 でも……ダメだ。身体に力が……それに、今ので意識が…………保て……な……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしなさい!風人!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 薄れゆきそうになる意識の中、僕はその声を確かに聞いた。


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