暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 作:黒ハム
「しっかりしなさい!風人!」
僕の聞いた声。僕は顔をあげると……
「千影……?」
そこには千影がいた。宙に浮いてるみたいだけど。確かに千影だ。
「もう、僕も死ぬのかな……」
そうか。千影が僕を迎えに来たのか。なるほど……。
「ごめんね。敵を取れなくて……」
パンッ
次の瞬間。僕は千影に平手打ちをされた。
「……え?」
「何弱気になってんのよ!あなたはまだ生きてるでしょ!」
「……何が起きているのか分からない。……けど、アイツは僕よりも強い」
気付いたらボロボロになっていて何が起きたか分からない。でも、アイツがこんな風にしてきた。それだけは分かる。そして、僕がアイツに勝てないことも。
「…………和光風人は私のせいで二つに分かれてしまった」
すると、目の前の千影が唐突におかしなことを言い出す。
「あなたは知らないけど、和光風人は二つに分かれてしまったの」
二つに……分かれてしまった?
「えっと…………何が分かれたの?」
「人格だよ」
……へ?人格?
「たく。一から説明が必要なのかよ」
すると、凄く聞き覚えのある声がする。
「よぉ。主人格の方のオレ」
その声がした方を向くと、
「……え?」
そこには
「オレはもう一人のお前だ」
「……整理が追いついてないんだけど」
「なんか二人の風人君を見ると凄いね……」
鏡があるわけじゃない。いや、そういう話をしているわけでもないけど……
「本当に……何がどうなってるの?」
「じゃあ、私から説明していくね」
間に立って千影が説明を始める。
「まず、風人君の中に別の人格が生まれたのは私が死んでからなの。それは自覚があるよね?」
「…………うん」
僕の中に『オレ』と『私』という大きく二つの人格というか感情が生まれた。
「でも普通の人にとっていくつかの人格……まぁ、そこまで行かなくても見せる顔が有るって言うのは普通のことなの。家族に見せる顔や学校で見せる顔、恋人だけに見せる顔とかね。別に自覚しているから何の障害もない……普通ならね。そして風人君の中のも普通のに分類されるものだったの……最初はね」
「最初は?」
「うん。風人君の中にある怒りや憎しみといった負の感情。それを前面に出すときにあなたは『オレ』という一人称になってそれらを吐き出す。少し前まではこうだったはず」
確かに……まぁ、そこまで意識してないけどあの時から怒ったりすると一人称が変わってるのは気付いていた。だから多分そういうことなんだろうと思った。
「じゃあ、何で分かれたの?」
「風人君の心が限界に達したからよ」
「限界に?」
「そう。あなたにはそんな自覚はないと思う。でもね。無意識の間にも風人君の心には負荷がかかっていたの」
心に……負荷が?
「人には自衛本能があるのは知ってるよね?風人君の心は風人君自身が壊れないようにもう一つの風人君を生み出したの」
「それがオレってわけだ」
そう言ってもう一人の僕は僕の目を見る。
「解離性同一障害。確かではないけど風人君はそれに近いものを患っているの」
解離性同一障害。簡単に言うと……
「多重人格?」
「そんな感じ。症例の中には心理的ストレスが原因なものがある。風人君は私の死ぬ瞬間を間近で見てしまった。その時のトラウマがトリガーとなってるの」
「で、でも今までそんな感じは」
「左手首」
僕はとっさに左手首にある無数の古傷を見る。
「風人君は自分を傷付ける、自傷行為をしていた。確かに自殺しようと首吊りとかを試みたこともあったでしょ?でも、それよりも自分を傷付ける回数の方が多かった。そうやって自分を傷つける痛みで私を失った心の痛みを掻き消したり誤魔化そうとしていたのよ」
「そ、そんなこと――――」
「ないって?ううん。あるの。風人君が自殺しようと、死のうとしたのは本当。でもね。その中にはそういう目的が含まれていたの」
千影が説明してくれる……でも、何これ……僕が僕じゃない?何で?あの時はただ死にたいからやっただけのはず。なのに、そんな事考えているはずがない。僕の知らない僕がいるの?意味わかんないよ……全然。
「でも、自殺はやめたでしょ?風人君は生きる道を選んだ。それは普通。生存本能ってやつだね」
違う。そんなのは違う。僕が自殺をやめたのは自殺する意味がないと思ったからなんだ。そんなことしても何も解決しない。何も生まない。だからやめた。それだけなんだ。生きたいとも死にたいとも考えなかっただけなんだ。
「それを悪いとは言わない。でも、そのせいで一つの捌け口を失った」
僕は自殺を捌け口なんて考えていない。考えていないはずなのに……!
「そして中学三年生になって暗殺が始まった。風人君はその中で色んな殺意というものを覚えていき触れていった」
「そ、そうだけど……」
「そんな殺意に溢れる生活していく中で、風人君は無意識の中で私を殺したやつに対する憎悪や殺意といった感情が膨らみ始めていたの」
「……え?」
「ゆっくりと時間をかけて膨らんだその気持ちは風人君を押しつぶしてしまいそうになる。だから、さっきも言ったように風人君の心はもう一つの人格を作ったの。あなたとは分けられたね」
まさか、じゃあ……。
「君は……僕の憎悪や殺意が生み出した……」
「それだけじゃない。憎悪、怒り、殺意、恨み、無力感、後悔…………お前が今まで押し殺してきた感情すべてで出来ている。お前という人格には千影のことで、悲しみしか残ってない」
「あなたは今日。悲しみしか感じていないことに違和感を持った。それは夏休みの終わりに神崎さんに気持ちを吐き出したから悲しみしか残ってないとあなたは思った。でも本当は違うの。本当はそれ以外の感情がもう一つの人格の方に行ってあなたの中になかっただけなの」
あぁ……そうか。そういうことか。僕の中から消えたと思っていたものは本当は消えたんじゃなくて君が全部引き受けていたんだ。
「納得した?」
「…………大体は」
「で、問題はここからだ」
すると、もう一人の僕が言う。
「何が起きているのか分からないって言ったな?オレは全て持っている。オレはお前が表に出ているときの記憶も、無論オレが表に出ているときの記憶も全て持っている。オレが前に出ている間はお前の人格は眠っている状態にあるからお前は知らないがな。ま、お前の人格が前に出ていてもオレは起きているが」
何それ……まるで生み出された
「現状、身体はボロボロで意識を失いかけている」
「意識を……失いかけている?」
「朦朧としている感じだ。オレがギリギリ前に出てつなぎ止めている」
もうてっきり失ってると思ってたのに……。
「この場で選択肢は三つある」
「三つ?」
「ああ。一つは諦めて意識を失う。次目を覚ますか覚まさないかは知らんがもう諦めるって事だ」
そうか。意識を失ったらもう二度と目を覚まさない可能性もあるのか……。
「もう一つは人格を完全に分ける」
「どういうこと?」
「オレが出てこれるのはお前が怒りを感じたりトラウマを思い出した時。オレには前に出るタイミングもましてや消えるタイミングもコントロールできない。さっきオレが消えたのはあらゆる出来事を引き合いに出され、怒りが振り切れてそっちの人格を起こしちまったんだ」
「……はぁ?」
「オレはあくまでお前の中にあるんだ。オレのキャパがオーバーしたらお前のとこに行くんだよ」
……自分なのによく分からない。
「要するに君で抱えきれなくなった感情が僕に流れ込んで、その拍子に僕が起きたってこと?」
「そういうことだ。で、人格を完全に分けると、オレはお前と好きなタイミングで入れ替われる」
「となると?」
「さっきのように途中で入れ替わることなく最後まで戦えるわけ。多分だけどな」
……はぁ。
「で、最後の一つがお前が消えることだ」
…………はぁ?
「今、和光風人の中にはオレとお前がいる。人格が二つあるって事はさっきのようなイレギュラーが起きかねない」
「でも、二つに完全に分かれればいいんじゃ……」
「いいか?オレはお前と好きなタイミングで入れ替われるって言ったが逆もしかりだぞ?」
「逆……ああ」
僕からも好きなタイミングで入れ替われるんだ。
「それに二つに分けたとすると和光風人という人間は二つの人格、二つの心を持って生き続けることになる。当然、完全に分かれたから今後オレたちが交わることない。しかも完全に分けるから記憶も共有しない。となると、ここを乗り越えた未来を考えたときにクソ生きづらくなる」
なるほど……。
「無論それは未来の話で、現在の話ならお前が消える。そうすればオレがお前の消えた分だけ完全に復讐心で満たすことができる。だからさっき以上に歯止めを外すことができる」
僕が自分を保つための逃げ道として君を生み出した。
そして僕が消えることで僕のスペースが空くからその分君が支配できる……。
「あくまでお前が主人格だ。決めるのはお前だ」
僕に決定権が委ねられる。なんとなくだがタイムリミットは近いことは分かる。
千影の方を見るも彼女は何も言わない。ただただ僕の答えを待っている。
決めると言われても僕が表に出てもやつには勝てない。それはやる前から知ってる。なら、やつに勝つには君の方に出てもらった方がいいんじゃないか?多分完全に分かれるより、もう僕が消えた方が和光風人自身の勝率が少しとはいえ上がる。それに君は僕に持ってないものをすべて持ってる。だったら、僕なんかいらないんじゃないか?僕という存在はいない方がいいんじゃないか?
『風人君!』
……………………あれ?今、有希子の声がしたような……。
『死なないで!風人君!風人君!』
死なないで…………か。
それは和光風人に言っていて和光風人の中の僕という人格に向けた言葉ではない。それは分かってる。分かってるのに…………
「……………………よし」
「決めたか?」
「僕は――――」
ドンッ!
爆発が牢屋の中で起きる。私たちが外した首輪型爆弾だ。でも、今の私には関係ない。
「風人君!」
壁に擬態するため隠れる中、私は必死に呼び掛ける。音声はカメラ越しにモニターを見ているであろう死神には届かないそうなので必死に呼び掛ける。
「神崎さん……」
「風人君!お願いだから……」
モニター越しだが、ボロボロの風人君が倒れて動かない姿が映っている。
「お願いだから……」
戦って勝ってなんて言わない。私を守ってとも言わない。お願いだから……
「死なないで……」
今の私のたった一つの願い。
だけど、その願いが届いたのか分からない。一切動く様子もなく何も音も聞こえてこない。
「神崎さん……」
「風人君!ねぇ起きてよ!風人君!」
檻の中で、私の声だけがこだまする。しかし、何も答える気配はない。
「そんな…………」
何度呼びかけても答えは返ってこない。そんな…………本当に…………。
「お願いだから!風人君!返事して!生きているなら返事だけでもいいからして!」
私の両目から涙が流れ始めた。風人君は死んでいない。生きているんだ……そう信じたいのに涙が流れる。止めたいのに止まらない。涙が流れてしまう。
「うぅ…………」
何で返事をしてくれないの……?何で…………うぅ…………。君が死んだら……私は……どうすればいいの……?ねぇ…………風人君。お願いだから……。
私は力なくスマホを落としてしまう。幸い床は殺せんせーがコーティングしてるおかげで音もなくただ静かに。
そしてその静寂の中に音が響く。
『ぐふっ!……て、テメェ…………どうして…………!』
「「「…………っ!?」」」
ジョーカーの声だ。今までの声音とは違う。
『どうしてまだ立ち上がれる――――――――和光風人!』
咄嗟に画面の方を見ると、そこには確かに立っている風人君がいた。