暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~   作:黒ハム

9 / 130
風人の時間 IFルート 後編

 …………………………え?今、なんて言った?

 聞き間違いじゃなければ私に向かって誰?って聞いた?

 

「あ、あはは……もう風人君ってば。起きて最初に冗談を挟むなんて……」

「すみません。先程から言っている風人君と言うのは僕のことですか?」

「あはは……ね、ねぇ……お願いだから……冗談って言ってよ……」

「わっ!?ご、ごめんなさい!何か泣かせるようなことを言ってしまいました?」

 

 おかしいな……なんだか視界がぼやけて上手く風人君のことが見えないや。

 膝から力が抜けて地面に座り込んでしまう。

 すると手の甲に冷たい液体が落ちてきた……あれ?もしかして私泣いてるのかな?

 

「千影ちゃん居る?そろそろ点滴の時間らしいけど……え?」

 

 入ってきたのは声からして風人君のお母さん。よく見えないけどこの状況に少なからず驚いているみたいだ。

 

「あの、すみません。何だか状況がつかめないのですが……」

 

 ダメだ。これ以上聞きたくない。もう何も聞きたくない。

 あの風人君がこんな真面目な口調で、ふざけた様子も嘘偽りもない様子で……

 

「…………僕は誰ですか?」

 

 ……そんな最悪の現実を突きつけないで…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和光風人。それが僕の名前ですか」

 

 あれから落ち着くことが出来たのはその日の夜だった。風人君のお母さんに私のお母さんを呼んでもらって、なんとか落ち着くことが出来た。

 落ち着いている間に目を覚ました風人君にお医者さんたちが検査などを行ったらしい。

 細かいことは分からないが今の所、脳などに大きな異常は見受けられない。だから、脳の異常というより頭部への直接的なダメージの影響で記憶を失っているとの見解だった。

 

「で、そちらの方が和泉千影さん。僕の幼馴染みですか」

 

 先程、必要最低限なことだけ教え、そのことを反芻する風人君。

 一パーセントくらい冗談を続けていると信じたかったが既にその可能性がゼロだというのは証明されてしまった。

 言い方は悪いけど風人君は正真正銘の記憶喪失なのだ。

 

「僕は交通事故に遭いこのような姿に変わり果てたと……なるほど」

 

 変わり果てた……と表現するのも無理はない。両腕、両足にはギプスが付いており満足に身体を動かせない。その上、首にもギプスが付いているおかげで顔も動かせない。頭はもちろん、入院着の下も包帯でぐるぐる巻き。今の彼は何も自分で出来ない存在になってしまった。

 それでも彼が落ち着いて見えるのは要因は二つだと思う。一つは彼が天才であること。記憶は失っても才能だったり習慣が失われていないようで、あのマイペースな性格が消し去られ頭を使って現状を冷静に分析している。もう一つは彼以上に私が取り乱した姿を見せたためだろう。自分より慌てている人間を見ると落ち着くことが出来る感覚だ。

 

「ごめんなさい。事故のことも勿論ですが自分や和泉千影さんのことを含め、何も思い出せないですね」

 

 その言葉に……いや、これまで彼が話してきた言葉の全てに嘘はない。

 

「気にしなくていいのよ。きっと思い出せるわ」

「ありがとうございますね」

「そろそろ面会時間も終わる。何かあったら声を出してくれ。そうすれば対応する」

「はい。ありがとうございます」

 

 そして部屋から出て行く私たち。

 

「大丈夫?千影」

「…………うん」

「無理しなくていいのよ。今日はゆっくり休みなさい」

「…………うん」

 

 そのまま私は自分の病室に戻り、ベッドで横になる。

 

「…………私のせいだ」

 

 風人君は私なんかを助けるために全てを失った。

 

「…………私のせいだ……!」

 

 手を強く握り締める。

 砕けるくらい強く歯を噛み締める。

 私のせいだ。全部私のせいだ。私が喧嘩なんかするから。私がワガママなんて言うから。私が悪い。全て私が悪い。なんでなんでなんで?神様は私を苦しめて。それ以上に私を苦しめて。ねぇなんで?なんで?

 結局睡魔が訪れたのは横になってから数時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ私は知らなかった。

 その事実は更なる絶望へと私を突き落とすことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風人君が目覚めて何日かした。あれからも毎日面会に行った。

 私は風人君が目覚めてから今まで以上に一人で居るのが怖くなった。だから風人君の隣に居続けた。時には面会時間を過ぎてもいようとして……その時の記憶はない。

 いつしか私たちは同じ病室で入院することになった。

 担当医曰く、私を治すためには風人君と同じ病室にする必要があるとのこと。何を言っているのかさっぱり分からなかったが、一緒にいられるならそれでいいと思った。気付けば週二日程だったメンタルケアとかそういうのも週五日に増えていたけどどうでもよかった。

 そして悲劇は起こった。

 

「すみません……僕は……誰ですか?」

 

 風人君が目覚めてから一ヶ月と少しが経った頃だろうか。目が覚めた風人君は私に向かってそう聞いてきた。

 

「あと君は……誰?」

 

 もう二度と聞きたくなかったその言葉を。

 風人君は再び記憶喪失になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから月日は経ち、事故から一年が経過した頃だろうか。

 

「ごめんね。いつも押してもらって」

「ううん。気にしないで風人君」

 

 車椅子に乗る風人君を押して中庭の散歩をするのが最近の日課だ。 

 いつしかの全身包帯ぐるぐる巻きから大分回復した風人君。もう少しすれば()()は完全に治り、運動とかしても大丈夫だそうだ。所々傷跡は消えないそうだが()()には目立った後遺症はないそう。少しずつリハビリもして、彼もまた元の生活に戻るために頑張っている。ただ最初の何週間かの完全に寝たきり生活とか諸々のせいで事故前よりも筋力や体力などはどうしても落ちている。まだまだ普通の生活を送るにはどうしても時間が必要だ。

 そして風人君はただの記憶喪失ではなかった。彼は周期的に記憶がリセットされてしまう。事故が起きる前の記憶をすべて失い、目覚めてからも大体一ヶ月ごとに記憶がすべてなくなる。いつ記憶が戻るのか。このリセットがなくなるのか。誰にも分からないし、永遠に戻らない、なくならない可能性もあるそうだ。

 私は私で入院生活を続けている。と言っても実はかなり前に退院許可が降りて退院したのだが……その日の夜、私は恐怖などで発狂し、暴れ回ってしまう。何とかお父さんが力尽くで押さえてくれていたけど、あの時の私は理性の残ってない半狂乱の獣みたいだったそうだ。まぁ、獣って言うのは自分でつけたものだし、私にはその程度がふさわしい。それから頃合いを見て何度か退院したが……結果は察しの通りだ。

 私が治る目処が立たない理由はいろいろあるらしいが、一つは元々凄いストレスがかかる状態でいたこと。全色盲によって私の心には負荷がかかっており、そこに風人君が目の前で自分のせいで死にかけるとか諸々あったがために、今の私の精神状態は常に導火線に火の付いた爆弾。些細なきっかけですぐに爆発する状態になっている。

 だから通常の学校復帰とかは現状からすると絶望的。今では風人君と院内学級みたいな感じのところのお世話になっている。まぁ、そんなことどうでもいいんだけど。

 

「また忘れてしまうんだね……僕は」

 

 事故が起きてから多くのことが変わった。

 風人君は日記を付けている。毎日毎日……いつリセットされてもいいように付けている。日記の最初のページには彼自身のプロフィールなり、私や涼香ちゃんのこと、後は家族のことが書かれている。記憶を失った彼が最初に見て必要なものを頭に入れるためだ。もちろん彼自身が記憶喪失になってしまうことも知っている。…………どんな気持ちなのか私には推し量ることができない。今見ている全てを、感じている全てを忘れると知っている。彼は何度も死んでいるのだ。何度も死んで何度も最初からスタートしている。今目の前にいる彼はもうすぐ消え、また新しい彼が生まれる。……残酷な話だ。

 私の方を話すなら日記をつけてはいるが……毎日はつけなくなってしまった。几帳面とは程遠い存在となった気がする。後は雨や雷が苦手になったかな。雨が強く降る程ネガティブになっていくし、雷が落ちるとあの事故がフラッシュバックされてしまう。フラッシュバックが起きると私は一言で言えばダメになる。事故を受けた本人は雨が降っても雷が鳴っても記憶が戻るようなことはなく、ダメになった私のそばにいてくれる。記憶のリセットがいつ起きたとかでその時々の対応が変わるが……総じて彼が離れたことは一度もない。きっと私もあの日に一度死んだのだろう。そう思わずには居られなかった。

 

「大丈夫だよ。私が付いてるから」

「ありがとね」

 

 嘘だ。

 彼は記憶を失ったタイミングで日記を取り上げ、私がいなくなれば彼の中に私という存在は消えてなくなる。皮肉めいた言い方をすれば私という存在は今の彼に取ってはその程度なのだ。居なくても気付かれない。存在が消えたとしても何にも思われることがない。

 多くの人は私のことを、記憶喪失となった彼を支える少女みたいな感じで思ってるだろうか。

 だが事実は違う。彼が居なければ私は存在できない。そこまで堕ちたのだ……私という人間は。

 

 

 

 

 

 私は救われない。彼はもう生きていない。

 

 和泉千影はもう居ない。今の私は少女ですらない何かだろう。

 

 和光風人は消え去った。今の彼は昔の彼ではない別人だろう。

 

 

 全てを失った二人の物語。

 

 

 和泉千影は心を失った。 

 

 

 和光風人は記憶を失った。

 

 

 

 絶望しかない現実。

 

 

 

 今の私は……何者なんだ?いや、もう何者とかどうでもいい。心なんていらない。

 

 

 

 

 誰か…………

 

 

 

 

 

「…………助けて」

 

 

 

 

 

 その心の叫びは届かない。

 

 

 

 

 

「いつか救われるよ」

 

 

 

 

 

 

 ああ、応えてくれた彼もまた消えてしまう……やっぱり…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救いなんてこの世界にはないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これはIFルート。
あったかもしれない物語。
絶望の中、最後に幸福に至るために藻掻く物語。



というわけでIFルートでの暗殺教室の過去編。
本編では風人が一人で苦しんで壊れてしまった。
IFでは二人は生きているものの二人ともが壊れてしまっている。
本編以上に絶望的な始まり、本編以上に救われる可能性がある物語。



一応の補足。
風人に声をかけていた男の人はトラックのドライバーです。
本編では千影を轢いた人はそのまま逃げましたが、IFルートではそのまま風人と千影の元に残っています。
またこの人は本編の人よりも速度をそこまで出さず、千影の飛び出しにいち早く気付きブレーキを踏んで減速を試みたため、結果風人は追いつくことが出来てそのまま轢かれてギリギリ死ぬことはなかった。
些細なことで運命は変わる。
本編のルートとこのIFルートの分岐はこのトラックのドライバーの誰かと言うことです。



うーん。この続きが気になりますかね?
この時点で本編とは全く違う暗殺教室になりそうですが……まぁ、やるとして本編完結後ですね。
アンケートを設置しておきますので興味があれば答えてください。期間は……まぁ本編完結まで放置でいいかな?お気楽にどうぞ(なお、やるとなっても本編の更新速度は遅くならないので悪しからず。後想像に難くないと思いますがこのルートは有鬼子様はヒロインではないので)


もちろん次回からは通常の投稿に戻ります。

このIFルートの続きは気になりますか?

  • 気になる
  • どちらでも
  • 興味なし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。