地球圏ではザンスカール戦争(機動戦士Vガンダム)が終わった。その時期の地球圏は宇宙戦国時代ともいうべき混乱期だった。地球連邦の力がかつてとは比べ物にならないほど衰退しており、もはや各地のコロニーを統率できる状態ではなくなっていた。
各地のコロニーは小国として独立して、かつての統一政府という形式は失われた。これにともない宇宙は戦国時代に突入していた。
対抗馬たる地球連邦が見る影も無く落ちぶれていく中でも、大日本帝国は依然として超大国として君臨していた。そもそも混乱しているのは地球連邦の勢力圏の話であり、日本の勢力圏は安定そのものだった。
日本からすればやたらと自分たちに突っかかってくる地球連邦が衰退するのは好都合だった。事実、宇宙世紀において、地球連邦と大日本帝国は直接的な武力衝突こそなかったものの、経済や諜報といった影では熾烈な争いを起こしていた。
だが日本に戦乱から逃れた難民が押し寄せてくるにあたって、繁栄を極めていた日本も眉を顰めた。
日本政府は難民の受け入れに関してとても厳しかった。それは人権団体が抗議するほどであったが、それでも強硬な立場を崩さなかった。
これには勿論理由がある。
そもそも史実では様々な国家が民族や宗教などで国内問題を抱えており、これが国家に重大な悪影響を与えていた。
特に移民国家で様々な民族の坩堝となっているアメリカ合衆国など、法律では自由と正義を謳いながらも実際は白人優位社会で、黒人などの有色人種は不平不満を溜め込んでいるという歪な社会になっている。
ちなみに日本では宗教問題や民族問題が表に出ないのは、国民の99%が仏教徒の日本民族で、外国人の受け入れに対して厳しい制限を施しているからだ。これは内政の安定を考えれば実に懸命な政策と言える。
この為、日本政府を裏から動かしている日本監察軍は頑として難民を受け入れなかった。一度受け入れたら難民が大量に流入して、様々な問題が発生することが分かりきっているのだ。
しかし、宇宙航路の不安定化やいくら追い返しても次々に押し寄せる難民に嫌気が差した日本監察軍は大規模な国家移転を実行に移した。
元々、『機動戦士Vガンダム』が終わった以上、これといったイベントも発生しないので、トリッパーたちも地球圏にそれほどまで拘る必要はなかった。
各コロニーにボソンジャンプ装置を取り付け、別の銀河に国家移転させるのは監察軍の技術力を持ってすれば簡単なことであり、彼らはそれを実行した。
転移した銀河系は天の川銀河からかなり離れた場所であったが、監察軍が予めこの銀河のあちこちの惑星をテラフォーミングしていたので、それらに移民するがつつがなく進んでいった。
アトランティス帝国では歴史ができ始めたので、国立の博物館や美術館を首都に建設した。優先順が低かったから、これまではそういったものはなかったけど、国威を考えるとまったくないのも困るからね。
博物館には妾が着ていた衣服やら使っていた日用品とか、妾のサイン付の書類などが展示されていた。これらはたいした物ではないけど妾が使っていたという点で付加価値が付くので、博物館に収納するに十分な価値を持っていた。
美術館は、風景画などの様々な絵画が並んでいたが、その中には光り輝く翼を広げたカリンの肖像画が多かった。そういえば画家に天使としての姿を描かせた事があったな、とカリンは思い出した。
カリンは戯れに奇跡を起こすことも多かったし、翼を広げて空を飛ぶことも多い。特に生身でありながらも大空を自由に飛び回るのは爽快で、よく空を飛んでいた。
宗教画でも天使が描かれることは多いが、アトランティスの場合はカリンを天使としてではなく女神として描いている。
ここまでは、まじめな代物なので一応納得できる。
しかし、これに合わせてトリッパー達が同人誌、漫画、アニメなどのオタク文化を保存する専門の博物館を建てたときには流石に呆れた。
カリンは「これも貴重な文化です」と主張する彼らの意見に引きながらも、予算を制限する事を条件に認めた(彼らの説得は諦めた)。
何しろ、オタクが高じてゲーム会社やアニメ制作会社を設立したり、ライトノベルや漫画雑誌の出版社を立ち上げたりと、アトランティスにサブカルチャーを広めるほど、趣味に関して彼らはやたら活動的なのだ。
しかし、この手のオタクにフリーハンドを与えると過剰に予算を使い込みかねないので、その点だけは注意しておいた。