アトランティス銀河を制覇し、他銀河進出を進めてから既に一万数千年の月日が流れた。
この長い期間の間にアトランティスは着々と勢力を高めていき、現在では300兆人の人口を誇り127の銀河系を支配する大帝国となった。とはいえ領土拡大はこの辺りが限界だった。
確かに宇宙には膨大な数の銀河が存在しており、下位世界全てを含めると無限の領域があるだろう。だが、領土にできる地域は無限でも、”一つの国家が統治できる人口や領域”は有限であった。
カリンはそれを嫌というほど理解していた。いかに文明が発達しても無理なものは無理なのだ。
既にアトランティス帝国は中央集権から連邦制に移行していた。これは国家の規模が大きくなりすぎていたからだ。
127の銀河をそれぞれ州にすることでアトランティスを127の州に分け、それぞれの州政府にかなりの権限を与えて地方統治の円滑化や合理化を進めていた。これは政治だけでなく軍事でも起きており、帝国政府の指揮下にある連邦軍と、州政府の指揮下にある州軍に分かれていった。
元々カリンは全宇宙の支配者を気取る積もりなどない。可能な範囲で無理なく国を治めていくだけでよかった。
ここまで、アトランティスが拡大したのは人口増加政策のおかげで、それによってここまで人口を増やし国力を増大し続けることができた。とはいえ、この勢いで人口が増え続けると、将来的には現在の領土でも足りなくなる。
そうなれば統制不可能なまでに膨れ上がった人口を抱えながら、統治可能な限界を超えて領土拡大をやる羽目になり、結果的にアトランティス帝国が破綻するか、いくつかの国家に分裂することになるのは目に見えている。
カリンにとってそれは望ましくない。
だから方針変更を行い、人口を調整することにした。といっても中国のようにいきなり一人っ子政策などするつもりはない。それでは急激な少子高齢化社会になってしまうからね。
あくまで人口増加を抑えるために、これまでの人口増加政策を段階的に見直していく。
段階的にやることで社会に与える悪影響を抑えつつも過剰な人口増加を抑えていけばいい。
紀元前3500年頃、原作開始の約5500年前。この時期になると地球でも文明が誕生します。
それが世界四大文明の一つにして世界最古のメソポタミア文明。
この文明の発祥の原因は、チグリス河とユーフラテス河にある。この両河は定期的に増水しており、運河を整備することで恵まれた農業地帯となったのだ。この農業の発達が文明の誕生を促し、紀元前3500年にメソポタミア文明が誕生した。
このように農業と古代文明の発祥は密接に繋がっており、農業が古代文明に必要不可欠な要素となっている。
最もアトランティス人から見ればやっとといったところだ。
確かに文明が誕生したのは地球の歴史的に見ても画期的なことだが、アトランティス帝国は24000年以上前からメソポタミア文明など足元にも及ばない高度な文明を保有しており、現在においては、アトランティス銀河を含めて127の銀河系を支配する銀河間国家という化け物じみた超大国となっていた。
そんなアトランティス人から見れば、「洞窟暮らしをしていた原始人が少しはマシになった」という酷評を受けても仕方ないだろう。
兎も角、これで人類(ホモ・サピエンス)の歴史が誕生することになる。事実上この辺りが歴史の始まりになるだろう。
そんな地球には偵察衛星が多数配置されており、更に地球近郊ではアトランティスの調査船が存在していた。
これの目的は正確な歴史の編修だ。当たり前であるが、歴史というのは記録されなければ後世に残らない。
しかも古今東西で歴史は時の権力者の都合のいいように編集されるものである為、例え記録があっても信頼性に乏しいという問題もある。その為、誰かが第三者視点で正確な歴史を編修しておかないと、きちんとした歴史を残せないのだ。
更に上空からだけでなく、地球上にも情報部がスパイ(調査員)を送り込んでおり、彼らは各地の道具やら文化などの収集を行い、様々な情報を集めてくる手はずとなっている。
これには少々手間がかかるだろうが、今後のことを考えると諜報活動のノウハウは必要になるだろうから、この文明の諜報活動はその練習に丁度いい筈だ。
将来的には地球各地の書物、美術品、工芸品などを入手することになるが、可能な限り歴史に影響を与えないように配慮する。
時が来れば、この世界のホモ・サピエンスは自滅する。だが、彼らが生きた証はアトランティス帝国が保存し続けてあげよう。
どこかの誰かさんのように、わざわざ詰まらない墓標を用意して、『人類の生きた証』などと言わなくても妾たちが記録に留めておくほうが有難いでしょう?
看守side
刑務所惑星。星間国家として大拡張したアトランティスは、惑星そのものを刑務所にしていた。
現代日本でもそうだが、大国アトランティスにとっても罪人の管理にはそれなりに費用がいる。禁固刑のように犯罪者を三食食わせて閉じ込めておくだけというのは税金の無駄だ。
それに嫌気がさしたカリンは、宇宙進出してからは殖民していない惑星そのものを凶悪犯の刑務所にすることにしたのだ。
アトランティスでは死刑囚は生かしておいても金の無駄なのでさっさと死刑にするが、死刑囚でなくても10年以上の禁固刑になった囚人は多い。そういった重犯罪者たちを男女別に刑務所惑星に放り込んでやるのだ(男と女を一緒にして刑務所内で恋愛だの出産だのとされたら迷惑なので、惑星刑務所は男性用と女性用とに別れている)。
この刑務所はアトランティス人の一般人が入植していないだけでテラフォーミングはきっちりされているため、気候は温暖で暮らしやすい。食料も豊富な魚介類だけでなく、いたるところに人間の味覚に合う果実などが存在しており、食料の確保に困ることはない。
しかし、そこはまったく開発されていない自然豊かな場所で、囚人たちは何の道具も渡されることなく、この惑星に放り出される(反乱防止の為)ので、彼らは石器などの原始的な道具を使い原始人のような生活を送ることを余儀なくされていた。
勿論、この生活環境も罰則の一環である。刑務所惑星では、囚人たちは国から一切面倒を見て貰うことなく、自力でサバイバル生活を余儀なくされる。高度な文明を誇るアトランティス人にとって、このような生活は狭い牢屋に入れられるよりもきついのだ。
この刑務所惑星は罪人を放り込むだけで事足りるが、流石に監視を一切しないわけにもいかないので、人工衛星で法務省所管の看守たちが監視していた。
「しかし、罪人の監視なんて何もないから暇でしょうがないですね」
「そういうな。これも仕事だよ」
男は愚痴を零す同僚に答える。
確かにその気持ちは男にも分かる。大昔の刑務所は高い壁に囲まれて囚人が脱走しないように看守が常に注意を払わなければならなかった。
しかし、惑星刑務所は違う。惑星規模の刑務所は大気圏そのものが壁として機能する。
ここから脱走するには宇宙船が必要であるが、何も道具を持たされず原始的な生活を余儀なくされている囚人たちがそんなものを用意することなど不可能だ。その為、囚人が脱走するには外部の人間が手引きするしかなく、囚人たちはそれを監視する役割も担っていた。
最も、そんな事をする者等これまで一人もいなかった。
そんな派手なことをすればすぐにばれるからリスクが大きすぎるのだ。だから看守とは、ただ囚人たちを見守るだけという悲しいお仕事であった。
「確かに暇な仕事だが、逆に考えれば楽な仕事でいいじゃないか。原始人みたいな生活をしているあいつらから見れば天国だよ」
「そうですね。そういえば原始人といえば俺たちの先祖も地球にいた頃はあんな生活を送っていた訳だよな」
「いや、食料が確保しやすい分、あいつらの方が随分楽だろうさ。ご先祖様の苦労は相当なものだったらしいしな。結局、地球に残ったネアンデルタール人も二万年前に絶滅したからな」
男は歴史で学んだことを思い出す。
「地球といえば、俺たちの同胞たちが滅亡した後で、ホモ・サピエンスとかいう種族が繁栄しているらしいが、どういう奴等だ?」
「たいした事はねえよ。一応文明らしきものはあるが、原始人に毛が生えたようなものらしい。所詮は未開人さ」
男は地球人を未開人と呼ぶが、これはアトランティス帝国では珍しいことではない。
高度な文明を手に入れて、列強の一角にまで成長したアトランティス人からすれば未熟な古代文明など児戯にも等しいのだから。