真っ黒な空間に浮かぶ黒のモノリス。そのモノリスには”SOUND ONLY 01”と赤い文字で書かれており、その場には書かれている数字こそ違うが同じモノリスが数十も並んでいた。
そんなモノリスが立ち並ぶ中で一人の男がいた。歳の頃は40代後半のサングラスを掛けた黒髪の男は、椅子に座り机に肘を立てて口元で両手を組んでいた。つまり男の体勢は、監察軍でゲンドウポーズと言われるものだった。
「事態は伝えたとおりだ。アンカー君、君はシナリオ通りに事を進めてくれればいい」
「……状況は分かりました。しかし、もし各国が賢明な判断をすればどうなさいますか?」
モノリスの言葉にアンカーと呼ばれた男はそう返した。
「その場合は地球上のハイヴを潰してかまわない。君の艦隊にはそれができるだけの力がある。もっともまずそうはならないだろう」
「その通りだ。交渉を行うとなると国内にハイヴを抱えている関係国だけではなく、間違いなく他の国も動くはずだ。特にアメリカなどは黙ってはいまい」
「それだけではなく、各国が少しでも自国の優位を確保しようと動く筈だ。そうなれば交渉は荒れるのは目に見えている」
「つまり、どう考えても交渉は破綻する」
「そう、我々のシナリオ通りになるだろう」
複数のモノリスが口々に発言している。
彼らはあえてこの場では口にしなかったが、マブラヴ世界と接触するとなると、当然ながらアメリカを初めとする各国はアトランティスに探りを入れるだろう。
下手をすると彼らのスパイ活動でこちらが被害を受ける可能性すらあった。だから、地球派遣軍はそれにも備えないといけなかった。当然ながらアンカーもその程度の事は弁えていた。
「なるほど、しかしそれならばわざわざ基幹艦隊を動かさずとも少数の艦隊を送るだけでよいのでは?」
交渉のポーズだけなら、わざわざそんな戦力を用意する必要はない。大体、基幹艦隊ほどの大規模な艦隊を動かすとなると余計に費用がかかる。それなら少数の艦隊の方がいいはずだ。
勿論、富める超大国たるアトランティスから見ればそんな費用ははした金にすぎないが、だからといって無駄に金を使っていいわけではない。
「うむ、それは我等も考えたが、少数の艦隊の場合、勘違いした現地勢力が帝国軍に攻撃を仕掛けてくる恐れがあるのだ」
「まあ、そこまでやらなくとも臨検を要求してくる可能性はあるだろう」
「当然ながらそんな事は受け入れられん。それなら叩き潰した方がマシだ」
アトランティスの技術を他国に流出させるなど許されることではない。当然、そんな事態になれば戦争一直線だ。
「そうなると、多少コストをかけてもなめられないように戦力を見せ付けるしかない」
「つまり基幹艦隊は砲艦外交として使う訳だ。あれだけの大艦隊を見せればマブラヴ世界のバカ共でもアトランティスの力を理解するだろう」
「分かりました」
「うむ、手間をかけてしまうが任務遂行を期待するぞ。アンカー」
「問題ありません。その為の帝国軍です」
アンカーは指でサングラスを押さえつつ、不敵な笑みを浮かべた。
こうして、アトランティス支部の秘密会議(当然ながら会議の内容などは公表できない)が終了した。
「しかし、何故にモノリス?」
バーチャルリアルティ・システムを応用した遠隔会議システムを利用したアトランティスの秘密会議を思い直してカリンはそう疑問に思う。
「この方が演出的にいいじゃないですか」
そんなカリンに幹部(オタク)の一人が気軽に声を掛ける。
その光景をアトランティスの一般人が見れば驚くだろう。カリンはアトランティスでは女神として崇められており、気安く声をかけることなど不敬極まりないからだ。
しかし、トリッパーたちは他人の目がない場所であればカリンに砕けた態度を取ることを許されていた(流石にトリッパー以外の人間の前では許されない)。
「いや、どこのゼーレですか。アンカーもノリノリだったし!」
「まぁいいじゃないですか。創作物の世界に憑依するなんてテンプレやってしまうと、いろいろとはっちゃけてしまうものですから」
先ほどの会議ではアンカーと幹部達が結託してネタに走っていて、カリンも立場上それに付き合っていた。
「……少し自重しようね」
カリンは三万年以上生きてきたが、未だに中二病やオタクを理解できない。
三千世界有数の列強国家の支配者は、いろんな意味で濃い仲間に引いていた。
「……と、こんなことがあって、この俺がマブラヴ世界の地球に来ることになったのだ」
アトランティス帝国軍第七基幹艦隊司令官アンカー大将は誰もいない場所にそう呟く。
「アンカー司令、さっきから何をぶつぶつ言っておられるのですか?」
虚空に向かってぶつぶつといい続けている艦隊司令官の奇行に流石に無視できなくなり、参謀長がアンカーに話しかけてきた。
「なに、読者に説明をしていただけだ。冬月」
「何をいっているのですか? それに私は冬月という名ではないですよ」と参謀長は否定する。
「ふっ、問題ない」
「も、問題ないって…」
アンカーの奇行ぶりに大丈夫かこの人?と参謀長は疑問に思った。
アンカー司令の能力は問題ないが何故か妙な言動が多かったので、軍では変わり者と思われていたが、彼はトリッパーである為帝国上層部からは受けが良く、割りと問題なく出世した人物だ。
もっとも帝国軍に所属するトリッパーたちは多かれ少なかれ変わり者であったので、彼がその中でも(中二病が)重症であったにすぎない。
そんなアンカー大将が率いるのが、第七基幹艦隊に所属する10万隻もの宇宙艦隊だ。これらの戦力はBETAなどガラクタに貶めてしまうほどの驚異的な戦力だ。
もしも、この第七基幹艦隊の力をマブラヴ世界の政府や軍部が知れば衝撃のあまりSAN値が激減するだろう。
ちなみにアトランティス帝国軍では一個分岐艦隊が二万隻で構成されており、一個基幹艦隊は五個分岐艦隊で構成されている。
アトランティス帝国軍は、地方の州が管理している州軍と、対外戦争や地方の反乱更には三千世界での活動などに備えた連邦軍の二つに分類できる。そして基幹艦隊とは後者に当たる連邦軍の軍事力の象徴でもあった。
実はアトランティスはそこまで軍備拡張をしていなかったが、国家規模が肥大化する課程でそれ相応の軍備をするようになった(とはいえかなり軍備をケチっている)。
そうなると艦隊数が多くなりすぎてしまい運用が難しくなっていき、アトランティス銀河を制覇した時は正規艦隊(約2万隻)が18個編成で合計36万隻だったのが、現在では240個艦隊となっている。その為、アトランティスは正規艦隊を分岐艦隊と改称して、この分岐艦隊を複数含めた新たな艦隊編成として基幹艦隊を創設した。
これにより連邦軍は48個基幹艦隊という形になり、連合艦隊司令長官が基幹艦隊司令官を統率するという形式になった。
「さて、そろそろいいだろう。全艦ゼロ・タイム・フォールド準備。(※1)目標は地球だ!」
「はっ!」
いくら司令官がちょっとアレでもそれはしっかり訓練された軍人、司令部の人員は命令に従い迅速に動いた。
(※1)フォールドとは空間歪曲型ワープの一種である超時空航行技術の事で、ゼロ・タイム・フォールド(マクロスF)はフォールド断層の突破及び航行時に生じる通常空間との時間差を防ぐ事ができる。