国際連合本部ビル。そこは多くの国々が所属する国連の本部であるが為に、多くの国家の代表と会談を手っ取り早くやるには都合のいい施設だ。
アンカー大将は「私はアトランティス帝国軍第七旗艦艦隊司令官アンカー大将である」と最低限の自己紹介をしていた。
各国の代表者達は意外すぎる使者に戸惑いを隠しきれていなかったが、それでも彼がアトランティス帝国という国家の使者にして、あの未曾有の大艦隊の司令官という事なので無碍な扱いは絶対にできなかった。
こうして本部ビルで各国の代表との会談が始まり、最初にアンカーが簡単な説明を始めた。
「まずは我々について説明をしましょう。先ほどもいいましたが私はアトランティス帝国という国家の軍に所属しています。しかし、アトランティス帝国はこの世界に存在する国家ではなく異世界に存在する銀河間国家です」
アンカーの言葉に彼らが戸惑う。あまりに常識はずれな事に理解できなかったのだろう。
「分かり易く言えば並行世界やパラレルワールドとも言われる世界ですが、我々はそこからこの世界にやってきた」
このアンカーの言葉は嘘ではないが真実でもない。
確かにアトランティス帝国が存在するのはエヴァ世界の並行世界の一つであるが、このマブラヴ世界の並行世界ではない為、マブラヴ世界の人間から見ればアトランティスは並行世界に存在する国家ではないのだ。
しかし、マブラヴ世界に人間達に下位世界の事をわざわざ教えてやる必要もないので、あえて誤解を招く言葉を用いて誤魔化していた。
「ぎ、銀河間国家とはどういうことでしょうか?」
並行世界という言葉も気になるが、サラリととんでもない言葉を聞いた要人の一人がふるえながらも尋ねた。
「それは言葉の通りです。アトランティス帝国は350兆人の人口を有し、帝都が存在するアトランティス銀河を中心に127個の銀河系を支配しています」
『人口350兆人』、『127もの銀河を支配』、衝撃的な言葉に彼らは思考停止状態になった。
それが本当ならばアトランティス帝国とは自分達など歯牙にも掛けぬ次元違いの超大国であるということだ。
感情では否定したいと思うが、理性ではそれならあれほどの大艦隊を有していても可笑しくないと判断した。
「貴国の国名『アトランティス』や貴方の姿からも地球との関係が伺えるのですが?」
アトランティスとは地球の伝説において、一万二千年前に沈没したアトランティス大陸に存在していたという伝説の国家だ。最もそれは歴史的に見ると恍惚無形な伝説に過ぎなかったが、こうしてその名を冠する国家が出現したとなると話が違う。
その辺りの事情は気になる筈だ。
「それは我々が元々は並行世界の地球で誕生した種族だからです」
地球で誕生した種族。その言葉に各国の代表者達が驚く。
「最も私達アトランティス人はホモ・サピエンスではありません。私達はネアンデルタール人という種族なのです」
「ネアンデルタール人ですと…」
その場の者は、思いがけない言葉に驚く。
このマブラヴ世界の人間でもまともな教育を受けていればネアンデルタール人の事ぐらいは知っているだろう。歴史を学べば真っ先にでてくるのだ。知らないほうが可笑しいぐらいだ。
「そう、この世界ではネアンデルタール人は絶滅しました。しかし、私達の世界ではネアンデルタール人は生き残り宇宙に進出して大躍進を遂げたという訳です」
ここで、アンカーが各国の代表者たちを見渡す。彼らはあまりの話に必死に考え込んでいた。
「さてアトランティスの概要はお話しましたので本題に入ります。我々第七基幹艦隊は別滅に危機に瀕しているホモ・サピエンスの救済処置として、各地に存在するハイヴに対して戦略爆撃を行う事を提案します。つきましては国内にハイヴが存在する各国の方々に我が艦隊の武力行使を了承するどうかお聞きしたい」
その言葉に各国特に条件に該当する国家の代表達は言葉に詰まった。
要するにいきなり現れた自称異世界のネアンデルタール人に”おい、このままだとお前等絶滅するからハイヴを大量破壊兵器で潰してやろう”と言われて早々了承しないだろう。誰もが沈黙する中でソ連代表が口を開いた。
「アンカー大将、貴国の提案は最もですが、それを了承するとなると国内の者を納得させないといけません。そのため彼らを納得させるだけの物はないでしょうか? 聞けば貴国は技術が進んでいるとの事ですし」
(意訳:了承して欲しかったら良い物寄こせ! 技術提供とかでもいいぜ!)
遠まわしな催促であったが、この場にいるものたちはバカではないのでその意図位は理解できた。
当然ながら、中国やEUもこれに続いてアンカーに集り、アメリカや日本はこれに反発して収集が付かない事態になった。アメリカからすればソ連がアトランティスにテコ入れされて強大化するなど到底認められない。故に会場は荒れたが…。
「そうですか。了承するのが難しいというのであれば無理にとはいいません。ならば我が艦隊はこの世界から撤退します。BETAに関しては地球の方々にお任せします」
このアンカーの言葉に代表者たちは動きを止めた。それでは失礼しますと、アンカーが退場していくと、彼らは慌てた。
しかし、もう手遅れであった。彼らが止める間もなく、アンカーを乗せた艦艇は大気圏を突破して、基幹艦隊に合流すると艦隊は地球圏から姿を消してしまった。
そう、最初から何もないかのように。
ここにいたって各国の代表者たちは自分達の致命的な失策を理解した。アトランティスにとって地球人類の救済はついでのようなものにすぎず、故に各国が難色を示したら躊躇いもなく諦めたのだ。
彼らはアトランティスに助けてもらう機会を不意にしてしまうという大失態を起こしてしまった。地球人が自力でBETAを倒す事ができない現状で、それがどれだけ痛手であるかは誰の目にも明らかであった。
予断であるが、各国がこの一件の責任追及などで揉めてしまったのはいうまでもないだろう。
カリンside
アンカーはシナリオ通りに交渉を打ち切ったらしい。
マブラヴ世界の人間達の行動は予想通りであるが、カリンにとって彼らの行動は愚か者にしか見えない。所詮は、その程度の存在にすぎないということだろう。
「カリン様、あの男から通信が入っております」
「やはり来たか」
カリンは空間投影ディスプレイを展開して通信を開いた。そこに映っていたのは榊是親。オルタネイティブでは日本帝国内閣総理大臣だった男だ。
『どういうことですかな? 陛下』
「どうもこうも、我々は君の要請を受けて、あの世界の住民達にチャンスを与えた。それを彼らが拒んだ。それだけの事よ」
『なっ、まだ交渉の余地はありました。あのような形で打ち切るなど…』
「ほう、ではお前は我々に地球人に媚びて、ご機嫌取りでもしろというのか?」
『そ、そうはいっておりません』
カリンの冷たい視線に榊は言葉を詰まらせる。
アトランティス帝国と地球との力関係を考慮すれば、「譲歩しろ」などとはとてもいえない。ましてや、今回地球側はプライドを捨ててでもアトランティス帝国の頼らなければならない状況だったのに、集りなどしてしまった。
これではアトランティスが怒るのは当然だ。
「言っておくが、今回の事は特別な処置なのよ。本来なら即座に却下される事よ」
『……』
榊とて自分が非常に迷惑な要請を出していたのは自覚していたのだろう。返す言葉もないようだ。
「ふん、妾も暇ではない。これで失礼する」
カリンはそう言い捨てて通信を切った。
さて、どうしたものか?
あいつは気がつけばマブラヴ世界の榊是親に憑依していたらしい。確かにそれは不運としか言えないだろう。
榊是親は日本の為に必死にやっていたのに、オルタネイティブでは奇天烈な烈士のクーデターで国賊として殺されているという死亡フラグ満載の不幸キャラだ。普通ならばあんな世界に嫌気が差して逃げ出していた筈。大体、あの男はチート能力など持っていないのだから尚更だ。
しかし、あの世界の日本帝国に愛国心でも持ったか、それともあちらの人間に情でも湧いたのか、妾たちの手を煩わせてくれる。忌々しい事だ。
まぁこれであいつは打つ手を失ったわけだ。今後彼が取る道は諦めて家族と共に監察軍に亡命するというのが一番無難だろう。
できればそれを選んで欲しいが、そう上手くはいくまい。お手並み拝見と行くか。