榊是親side
地球人類がアトランティス帝国という異世界の国家との交渉に失敗してから十年が過ぎた。戦況は日に日に悪化の一途を遂げ、ユーラシア大陸の大半がBETAに制圧された。
この十年で一介の政治家に過ぎなかった榊是親は、何とか日本帝国総理大臣に就任した。
最も原作を知るトリッパーであれば、『マブラヴ世界の日本帝国総理大臣なんて何処の死亡フラグだよ(笑)』とか『時代遅れの武家や奇天烈な烈士の相手なんかしてられるか』と嘲笑するだろう。それぐらい損な役割と言えるが、それでも榊は総理大臣になった。
彼はこの日本帝国を救う為にはそれなりの権力が必要だと痛感したからだ。
榊から言わせれば日本帝国を救うには、アトランティス帝国にBETAを殲滅してもらうしかない。その為には、アトランティス帝国が地球各地のハイヴに武力行使する為の政治的フリーハンドを与えないといけない。つまり各国がアトランティスの攻撃を了承しないといけないわけでこれが問題だった。
そもそもアトランティスはこのマブラヴ世界を助けても何のメリットがない。軍を動かすだけ金の無駄な状況で、遥かに格下の国家群とわざわざ交渉してまで助ける気などなく、ましてや彼ら相手に譲歩など論外だった。だからまともな交渉にすらならなかった。
だったら日本支部や本部ならどうかというと、彼らは榊の事は知っていたらしく、通信自体が拒否されて繋がらないという状況であり、芳しい返答を得られないとはいえそれでも話には応じてくれるアトランティス支部はまだマシであった。
監察軍全体で厄介事を持ち込んでくる嫌な奴と認識されている事を榊は嫌と言うほど思い知った。
こういう状況下では榊にとれる選択は、各国をまとめて無条件でアトランティスの武力行使を了承させるしかなく、その為に総理大臣になった榊は、アメリカのオルタネイティブ5に対抗する形で、オルタネイティブ6を立ち上げた。
これは”地球やBETAとは異なる第三勢力に助けを求めて、彼らにBETAを排除してもらう”と言う物で、この第三勢力がアトランティス帝国を指していることは誰の目にも明らかであった。
これにはオルタネイティブ5(G弾推進派)に反発する者たちの協力もあったが、榊の精力的な働きにより、もしアトランティス帝国とのコンタクトに成功すれば彼らの武力行使を日本が変わりに了承してもいいという許可を取り付けることに成功した。
このような、許可を各国が出したのは、事実上無理だと判断していたからだ。
あの交渉の決裂の後で焦った各国がアトランティス帝国とコンタクトを取ろうとしたが、一向に成功せず、今ではどこの国も諦めていて「どうせ実現できるわけがない」と思っていたのを榊が巧みについたのだ。
こうして1997年の年末には最後まで粘っていたソ連や中国の許可を出してくれたのでようやく準備が整った。
こうしたオルタネイティブ6に反発しているのが、オルタネイティブ4派とオルタネイティブ5派だった。
榊から言わせれば、この二つの計画はどっちにしても時間稼ぎにしかならず、人類を救うことはできないと判断していた。
何故かと言えば、オルタ4は肝心の00ユニットの開発が行き詰まっている上に、例え成功してBETAの情報を入手できたとしても、それを活用してBETAを排除できるだけの力が人類にあるか甚だ疑問であるし、オルタ4は人類側の情報が重頭脳級に流出してしまい戦況が不利になるというデメリットがある。つまりこっちが敵の情報を入手しても、その結果BETAが人類の情報を入手して対処してくれば戦況に貢献するどころか余計不利になる恐れすらある。
第一、仮にオリジナルハイヴを潰しても月や火星からハイブユニットが降下してきたら意味がない。
オルタ5に関してはもっと酷い。そもそもアメリカはG弾を過信しているが、あれはBETA由来の技術だ。つまりBETAからの借り物の兵器にすぎず、作ったアメリカ自身がG弾の特性を良く分かっていない一方で、BETAはG弾の特性を知り尽くしており、あっさりとG弾に対応していくだろう。
おまけに別の惑星に移民と言うのも現実性がない。
そもそも恒星間航行技術や惑星開発のノウハウなどこの世界の人間は保有してしない。そんな状況で成功できるわけがないだろう。
それらは、あのアトランティス帝国ですら監察軍から技術やノウハウを手に入れて上で、長い時間をかけて磨き上げていった代物なのだ。
おまけにこのマブラヴ世界の宇宙には最低でもBETAの上位存在(重頭脳級)が10の37乗も存在しており、BETAの総数にいたっては全宇宙ではおそらく10の50乗にも届く勢いであろう。つまり何がいいたいかというと、この宇宙に存在する惑星の大半はBETAに制圧されているというわけである。
こうなると、移住先である蛇遣い座バーナード星系に本当に地球型惑星があるか分からない上に、そこにBETAが存在しないという保証も、これからもBETAがやってこないという保証もないし、その地球型惑星にしても、大気成分などがちゃんと居住に適しているかという問題もある。何せテラフォーミング技術すらないのだから、人間が居住するのに向いていなかったりしたら目も当てられない。
これらの事を考えると、オルタ5を実行したとしても奇跡でもおきない限り、人類が生き残ることは不可能で、精々高価な墓標(宇宙移民船団)を残すだけの結果となる。
だからこそ日本帝国を救う為、ひいてはこの世界に人類を救う為には何としてもアトランティス帝国の支援が必要なのだ。その為に必要な下準備は終わったので、アトランティスを動かすことさえできれば人類を救うことができるだろう。
しかし、問題もある。来年の一月に朝鮮半島南部で国連軍と大東亜連合軍の撤退を支援する光州作戦が実施されるのだが、彩峰萩閣中将が避難民救出を優先してしまった為に国連軍司令部が壊滅してしまう。
当然ながら国連は彩峰中将を戦犯として身柄引き渡しを要求してきたので、榊は日本国内で厳正な処罰を下す事を条件に国連を納得させたが、その結果クーデターに繋がる遺恨になってしまった。
これは榊から言わせれば「じゃあどうしろと言うのだ!」と叫びたくなるほど理不尽な事だ。国連に引き渡しても国内で厳正に処罰しても遺恨となるならどうしようもないのだ。
これからアトランティスにハイヴ掃討を依頼しないといけないので、光州作戦には時間的に間に合わない。だから彩峰中将には念入りに注意しておかないといけないだろう。
頼むから自重してくれよ。