カリンの別荘では、三千世界監察軍アトランティス支部の秘密会議が行われていた。
その議題となったのが、マブラヴ世界に対する武力行使であった。
それはいいのだが、カリン以外の者たちは額に第三の眼がある仮面をつけていて、まるで昔懐かしの悪の組織の戦闘員のような格好で、更にその場で流されているネオアトランティスのテーマ曲が異様な空気を醸し出していた。
こうして見ると悪の秘密組織の会議にしか見えないが、この場にいるものたちはカリンを筆頭にアトランティス帝国の政財軍の要人ばかりだった。
「榊是親は最低限の仕事はしたようだな」
カリンは榊是親の要望に眉をひそめたが、その仕事ぶりはそれなりに評価した。
「よく、マブラヴ世界の各国の了承を取ったものだ。その手腕は認めるべきだな」
カリンをしてそれは認めざるを得ないほどの行動力で、これでアトランティスが地球に存在するハイヴに対して武力行使する際の政治問題が解決された。
「皇帝陛下、現地の情勢ですが原作どおりに光州作戦では彩峰中将の行動で国連軍が大損害を受けたようです」
「榊は動かなかったのか?」
原作知識を持つトリッパーならば光州作戦の失態は防ごうとするはずだが、どういうことだ?
「榊は彩峰中将に事前に注意していたようですが、中将はそれを無視して原作通りの行動をしたようです。ただ原作と違うのは彩峰中将を戦犯として国連に引き渡した所です」
「ほう、それは災難だな。しかし彩峰中将を国連に引き渡してしまうと軍内部の不満が爆発するのではないのか?」
「それは原作のように国内で処罰しても同じなので、早々に切り捨てたようですね」
「そうか、さてどうしたものか。皆の意見を聞きたい」
カリンは幹部達に意見を聞いてみた。
正直な話カリンとしては干渉しようが不干渉だろうが、どっちでも構わない。それ故に他の者の意見を取りあえず聞くことにしたのだ。
「そうですな。準備ができている以上ハイヴ殲滅をやっても宜しいかと」
「確かに榊がここまでやっている以上無碍にはできませんし、政治問題が解決した以上断る口実もありません」
その場の意見は概ね介入に流れていた。
「そうか。ではマブラヴ世界に艦隊を送ってハイヴを潰す。これでいいな」
カリンはそういって周囲に者を見ると彼らもそれに頷いた。
こうして会議は終了したが…。
「ところで宰相、その格好はやりすぎではないのか?」
「皇帝陛下。申し訳ありませんが、この場では私の事はガーゴイルとお呼びください」
そういう宰相にカリンは顔が引きつる。
宰相(自称:ガーゴイル)の格好は赤い背広に黒いとんがり頭巾、お面に勿論白手袋という物で、特に白手袋は手袋をしたままで指パッチンができる特注品であった。
前世の彼は『ふしぎの海のナディア』のガーゴイルのファンであった。それ故、現世ではアトランティスの宰相といったらこれでしょうと思いっきりネタに走った格好をするようになり、有能ではあるものの筋金入りのオタクであった。
「……そうですか。わかりました」
カリンはそんな宰相にため息をついた。
1998年3月某日。日本帝国では榊首相が「本日の正午に全世界に向けて緊急発表がある」と伝えた。このいきなりの事に閣僚を筆頭に何も知らなかった者たちは驚く(日本でも榊首相しか知らなかった)。
そして正午の各国のマスコミが集めた記者会見で、榊はオルタネイティブ6の存在を公表して、ハイヴを国内に抱える各国の了承を得た事を知らせた。
更に榊は独自にアトランティス帝国政府とコンタクトを取ることに成功し、ハイヴ殲滅の為にアトランティスの協力を取り付けることができたと発表した。
これらの発表に各国のマスコミは騒然となった。
次々に質問が飛び交い、大いに荒れることになったが、そうこうしている内に地球各地のハイヴが次々に吹っ飛んでいるという衝撃的な情報が飛び込んで来た。
驚くことにそれはカシュガルのオリジナルハイヴですら例外ではなく、地球上の全てのハイヴは消滅したのだった。
この日を持ってBETA大戦は事実上終結することになる。
ここで時間を少し戻す。
マブラヴ世界に展開しているアトランティス帝国艦隊。それは三千世界列強国家の軍隊というだけあって、その力は絶大なものであった。とはいえ、今回動いた艦隊はそのごく一部、カンナヅキ級対地攻撃艦が30隻という小戦隊にすぎない。
しかし、カンナヅキ級は『機動戦艦ナデシコ』の木連優人部隊戦艦かんなづき級を参考に建造されており、当然ながら跳躍砲(地球側の呼称ボソン砲)を保有していた。
この跳躍砲とは爆弾をボソンジャンプさせて送り込む装置で、原作ではディストーション・フィールドすら飛び越えてナデシコに直接打撃を与えていた。
これらの艦隊にガーゴイル(笑)が乗り込んでいた。
ちなみにこれらの艦隊は無人化が進められており、ガーゴイルと同じように仮面を被った兵士達(アンドロイド)が動かしていた。
『ガーゴイル様、指定の時間です』
「そうか、では全艦跳躍砲発射用意!」
『はっ!』
ガーゴイルの命令で動くアンドロイド兵士達(見た目はネオアトラン兵士)。計画では榊の公式発表の直後に攻撃を実行することになっていた。そうする事で、この攻撃が正当な物であると誰の眼にも明らかにして政治的正義を確保するのだ。
それと同時に艦内にバベルの光のテーマ曲が流れ出す。
『全艦、N2爆弾装填しました』
「私の怒りを思い知るがいい。BETA君」
ガーゴイルが発射の合図である指パッチンをすると、30隻にも及ぶカンナヅキ級が一斉に跳躍砲でN2爆弾を転送した。
同時刻、カシュガルハイヴの奥深くに存在する重頭脳級または上位存在ともいわれるそれの前に三発ものN2爆弾が転送された。重頭脳級がいきなり目の前に現れたそれに対処する前にそれらが一斉に爆発した。
N2爆弾は『新世紀エヴァンゲリオン』で登場するクリーンな大量破壊兵器だ。核兵器のように深刻な環境破壊を行う事がない上、有効範囲内の破壊力は核兵器を凌ぎ、原作でも「地図を書き変えないといけない」とまで言われたほどで、いくら頑丈さが売りのハイヴといえど至近距離からそんなN2爆弾を食らえば一溜まりもない。
N2爆弾はカシュガルの重頭脳級だけでなくユーラシア各地のハイヴに存在する頭脳級にそれぞれ一発ずつ送り込まれていた。
BETAを襲った災厄はそれだけではなかった。各地の重頭脳級を初めとした頭脳級が消滅したのを確認したガーゴイルは第二派を送りつけた。この第二派としてハイヴ地上付近にフレイヤが転送された。
このフレイヤは『コードギアス 反逆のルルーシュ』で登場した新型核兵器で、巨大なエネルギー球体が発生して一定範囲内のあらゆる物質を完全に消滅させる。その際に爆発、熱反応、放射能などは全く発生しないので地球環境に悪影響を与えないクリーンな大量破壊兵器だ。
これによりハイヴ地上付近及び地下のBETAの生き残りも全滅した。
こうして”あいとゆうきのおとぎばなし”は呆気ない終焉を迎えた。
戦術機で戦闘をするどころか、地上戦一つしていないというマブラヴ世界の世界観をぶち壊すような行動だが、アトランティスからすれば有象無象のBETAと一々地上戦などやっていられないのだ。
それにだらだらと地上戦などしてBETAが進化してしまうのは面白くないので、ガーゴイルはBETAが状況を把握できないように一気に潰したのだった。
「愚かな不良品の末路だ」
そんなBETA殲滅もガーゴイルからすればなんら感慨に思うことはなかった。
彼らからすればBETAなど安全装置もろくに付いていない不良品の資源掘削機に過ぎない。だからこれは不良品の除去作業といえるだろう。
こうして用が終わったガーゴイル率いるアトランティス艦隊はマブラヴ世界から立ち去った。