1998年3月某日。アトランティス帝国の武力行使によって全てのハイヴが殲滅され、世界中の人々がその情報を知った際に狂喜乱舞した。
何せBETA大戦が始まってからというもの人類は連戦連敗で、一つとして良い情報は伝わってこず、冗談抜きでこのままでは人類が滅亡してしまうと危機感を抱いていた。
それは凄まじい恐怖とストレスを人々に与えていて、それからの開放感もあり喜びはひときわ大きかった。
そして、オルタネイティブ6を見事成功させて人類を救った日本帝国総理大臣榊是親は前代未聞の英雄として日本だけでなく各国で絶賛されるようになった。
しかし、誰も彼もが榊首相に好意的であったわけではない。確かに一般人は榊首相を賞賛していたが、各国政府や軍部はそうではなかった。特に将軍を崇拝している日本の軍人は問題だった。
榊首相は光州作戦で国連の要求をのんで、彩峰中将を戦犯として差し出した事で陸軍からかなり恨まれていた(第三者から見ればどう考えても彩峰中将が悪い)。
最も榊首相から言わせれば、彩峰中将が日本国民を守る為にあのような事をやってしまったのならまだ許せただろう。だが彼が守ったのは朝鮮半島の避難民、つまり反日国家の民衆だった。他国人それも反日主義者の彼らを守る為に日本の国益を大きく損ねるなどどう考えても許せることではなかった。
その上、オルタ6では将軍を無視して単独で事を進め、あまりにも将軍をないがしろにしていると沙霧尚哉大尉などからますます敵視された(では将軍主導でやったとしてアトランティスに相手にされるのか、という肝心な事は彼らの頭にはない)。
こういう状況下で榊首相が軍縮を行い、民需転換を図ろうとした事で、軍部の反発をますます招いてしまった。
実の所、榊首相の軍縮は間違ってはいない。日本帝国は、1980年に徴兵制度が復活して、その後幾度となく改正された結果、男子だけでなく女子まで徴兵対象になった上に、対象年齢も引き下げられるという国家総動員体制になっていた。勿論、これが国力や経済に与える影響は非常に痛かったが、戦時であれば仕方ないと受け入れるしかなかった。
しかし、BETA大戦が終わってもこのような国力を無視したような軍備は必要ないし、史実の大日本帝国の過ちを知る榊首相としては軍縮を選ぶのは当たり前だった。
更に榊首相に反発したのは軍部だけでなく、将軍家を含む五摂家や武家もそうだった。何しろオルタ6は榊首相一人でやったようなもので、将軍は何一つ知らされていなかった(アトランティスとのやり取りは監察軍の機密なども絡むのでトリッパーでない者には下手に教えられなかった)。
彼らが榊首相にコケにされたと怒り心頭になっており、激しく対立して言った。
こうして日本帝国は激しい政争が勃発していた。
アメリカside
ユーラシア大陸各地に存在していたハイヴが根こそぎ殲滅された時、一般人は無邪気に大喜びしたが、各国の政府関係者と軍部は顔を青ざめた。
アトランティスの攻撃を各国はまったく察知できなかったのだ。それはアトランティスがその気になれば自分達など容易く潰せるという事を示していた。その為、各国は少しでも情報を得ようとハイヴ跡を徹底的に調査したが、アトランティスがどういう兵器を使い、またどうやってハイヴまで打ち込んだのか皆目検討も付かなかった。
徹底的な調査でわずかに分かった事といえば、“アトランティスが使用した大量破壊兵器は核兵器を遥かに凌ぐ攻撃力を有する事”と“使われた大量破壊兵器がG弾や核兵器のような副作用がないクリーンな兵器である事”だけだった。この為、更なる情報を手に入れる為にアメリカはアトランティスと接触することに成功した日本帝国に対する諜報活動を活発化させていた。
「それで、何か分かったか?」
「駄目でした。何も情報はありません」
アメリカ合衆国大統領の質問にCIA長官はそう答える。
「何故だ。何故情報が何も掴めん!」
「それがオルタ6の核心部分は本当に榊首相しか知らないようなのです」
「バカな。ありえんだろう」
そう、常識的に考えればそれはありえない。何故なら、日本帝国はアトランティス帝国と接触してユーラシア各地のハイヴ掃討を依頼したのだ。そうなると普通に考えればその件に関して政府間での交渉はあったはずだ。いくら首相でも閣僚にすら何も教えずに単独でアトランティス政府と話し合いなんかするわけがない。
そう、大統領の考えは常識的に考えれば、その通りだった。しかし、トリッパー達の世界を超えた繋がりを知らぬ以上、彼らが真相に行き着けるわけがなかった。
「しかし、こうも情報が掴めないのは不味いな」
「今後、日本帝国が強大化するということでしょうか?」
それはアメリカの不安材料だった。
かつてアメリカと張り合っていたソ連もEUもBETA大戦で没落した為、現在は唯一の超大国となったアメリカの天下と言えるが、日本帝国も本土が無事である為ある程度アメリカに張り合える状態な上、榊首相がオルタ6を成功させて人類を救済した英雄になった為に、日本帝国の国際的地位が著しく上昇してしまった。
それはアメリカをして脅威に感じさせるほどの物で、更に榊首相がアトランティス帝国と繋がりがある事も考慮すると、ますます油断できない相手だった。
「目障りだな」
「では暗殺でもしますか?」
「いや、それでは日本の国際的地位がそれほど低下しないし、我々が疑われる恐れがある。だから日本人に榊を排除させようと思う」
「といいますと?」
「日本にはいろいろと内憂があるという事だ」
「なるほど確かにそうですな」
大統領が何を言いたいのかCIA長官は理解した。
「うむ、我が合衆国の為にも英雄殿には退場してもらうとしよう」
大統領はそう発言した。