旧石器時代からスタート   作:ADONIS+

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27.悪趣味(アトラス暦30052年=西暦2002年)

 とある会議場、そこでは三人の女性が話し合っていた。

 その三人とはブリタニア帝国皇帝シドゥリ・エルデルト・フォン・ヴァーブル、三千世界監察軍日本支部長の佐天令子、アトランティス帝国皇帝カリン・エレメントだった。彼女たちはいずれも三千世界の列強と呼ばれる超巨大帝国の実質的な統治者だった。

 

「確かにマブラヴ世界の現状はけして明るいものではないから、こうなる可能性も否定できないか」

「確かにそうですが、実際にそれを見ると呆れて言葉もありませんね」

 カリンの言葉に令子が同意した。

 

 大量のG弾によって完全に崩壊した月と、それによって大規模な環境の激変が発生している地球。まさに終末を迎えつつある世界。それは三千世界の列強諸国の定期会議で議題となっている世界の現状であった。

 

 彼女たちにとって地球のハイヴが消滅しても月や火星、その他の惑星ではBETAが健在である事を考慮すると楽観的になれるものではなかったが、あの世界の人間たちがちゃんと協力できれば生き残る事ができる程度にはお膳立てしてやっていたが、結局それは無駄になってしまった。

 

 

 

 マブラヴ世界のトリッパーである榊是親を助けてから三年が過ぎたこの時期、監察軍本部はマブラヴ世界に調査船を送り込んでいた。

 これは監察軍本部がラインを繋げている下位世界の確認のために定期的にやっている事であったが、これでマブラヴ世界の異変が判明した。

 

 これらの情報を知った榊は監察軍本部を動かして地球を救済しようとしたが、これには本部は難色を示した。というのも、それをやるとなると必要とされる手間とコストが馬鹿にならないからだ。

 以前アトランティス帝国が最低限度の行動でマブラヴ世界を助けていたが、それはある意味限定的な武力行使による害虫駆除という行動であったが故に、手間とコストは可能な限り抑えられていた。

 しかし、現状では地球のハイヴを潰してもマブラヴ世界は救われない。環境の激変でマブラヴ世界の人類が自力で生存できる状況ではなくなってきたからだ。

 

 この状況を何とかするには監察軍がマブラヴ世界の人間を異世界にでも移民させるか、地球環境を回復させるしかない。勿論、監察軍の技術をもってすればその程度の事はできるが、今回は無人惑星を開発するのとはわけが違う。現地には多くの主権国家が存在するから実行するには政治問題があるし、それを何とかするには地球各国と交渉しなければならない。

 

 言うまでもないが、マブラヴ世界を助けても監察軍やブリタニア帝国などの列強には何のメリットがない。

 おまけにあの世界はアトランティス支部が助けてやったにも関わらず盛大に自爆していた。だから榊がいくら本部のトレーズやブリタニア帝国のシドゥリに訴えても彼らが許すはずもなかった。

 愚かな連中の為に一々面倒な交渉して、安くないコストを払ってまでマブラヴ世界を助けてやる必要などどこにもないのだ。

 

 しかし、榊はそれで諦めることなく、今度はアトランティス支部に強く要請して、アトランティス支部に迷惑を掛けていたが、紆余曲折の末にアトランティス支部が榊に譲歩してマブラヴ世界との会談に応じることにした。ちなみに榊は事情を把握していた日本支部には門前払いされていた。

 

 

 

「でも月が消滅だなんて、どこのドラゴンボールよ」

 令子がマブラヴ世界の人間たちの愚行を嘲笑する。

 そういえばあの世界で二回も月が消滅していたのに地球には特に影響がなかったようだが、普通ならただではすまないはずだ。まぁ別の世界の話だから今回は関係ないけどね。

 

「それで、アトランティス帝国はどうするの?」

 そう、シドゥリがカリンに尋ねた。

 以前の彼女は監察軍を統括する存在であった。そもそも昔の三千世界監察軍はブリタニア帝国皇帝直轄機関だったのだ。現在の監察軍は列強三カ国の国際機関になっているために彼女の影響力は大幅に落ちていたが、現在でもかなりの影響力を保持していた。

 

「そうですね。まず我々が地球と接触しないと話になりませんから、使者を送るワケですが、それは榊にやってもらいます」

 と、カリンが発言した。

 

「あいつを使うの?」

 それに令子が意外そうな顔をした。

 榊は政治家として優秀であるが、厄介な要求をする人物として嫌われていた。それだけに榊を使うのは意外だったのだろう。

 

「ええ、メッセンジャーボーイとして私たちの意向をマブラヴ世界の連中に伝えるぐらいはできるでしょう? 大体あの連中の相手は榊が一番手馴れているからね。それに真打は宰相にやってもらいますから」

 

 まがりなりにも過去にマブラヴ世界で国家指導者をしていただけに榊の方がやりやすいという事情もあった。それに最も嫌なマブラヴ世界の人間と最初に接触するという仕事を忌々しい榊に押し付けるという面もあった。

 ちなみにここでいうメッセンジャーボーイというのはあくまでこちらの主張を相手に伝えて、更に相手の意向を私たちに伝えるだけの何の実権(榊自身はアトランティスでは無位無官なので何一つ決められない)がない上に気苦労ばかりが多い仕事です。といっても私たちにここまで面倒を掛けさせるのだから、それぐらいやってくれないと納得できませんよ。

 

 まぁ榊の期待通りに行くわけではないけどね。とカリンは内心で嘲笑いながらも先日のアトランティス支部の会議を思い出した。

 

 

 

 榊の強い要望を受けたアトランティス支部ではそれが議題になったが、当然ながら否定の意見が強かった。そもそも榊は前回もアトランティス支部に厄介事を持ち込んできて、それを始末してやった経緯があるのだ。それなのにまたこんな要求をされたらたまったものではない。

 しかし、ここで宰相が異議を主張した事で会議の流れが変わった。

 

「どういう事かしら宰相?」

 と、カリンが訝しげに宰相に尋ねる。

 

「皇帝陛下、この場ではガーゴイルとお呼び下さい」

「……ではガーゴイルどういうつもり?」

 宰相の奇行に最早突っ込みを入れるのも面倒になったカリンはそれを軽く流した。

 

「確かに、この要請を受けてマブラヴ世界の愚かな人間たちを助けてやっても、アトランティスには何のメリットもありません。余計な手間と気苦労をするだけの無駄な浪費と言えるでしょう。しかし、問答無用で榊の要請を拒否するのも何です。ここはポーズだけでもあの連中と会談の場を設けてやればいいでしょう。勿論、彼らを助けてやる必要はありません」

 

 つまり、榊の要求通りにマブラヴ世界の人間と会談の席を設けるが、交渉そのものは決裂させるというわけである。確かに交渉を決裂させる方法はいくらでもある。例えば彼らが我々に助けを求めても無理難題ともいえる代価を要求するなり、国益にならないと突っぱねるなり、いくらでも方法はある。だが、問題は誰がそれをやるかだろう。

 それを宰相に尋ねてみると、「それは提案した私がやります」と返答された。

 

「ほう、ガーゴイル殿は人が悪いですな。マブラヴ世界の人間に微かな希望を与えておきながら、彼らを絶望のどん底に突き落とそうとは」

 幹部の一人が宰相の悪辣さ気付いて感心した。

 

「ふっ、ガーゴイルならば一度ぐらいは愚かな人間(ホモ・サピエンス)共を嘲笑ってみたいのだよ」

 

 ああ、そういう事か。元ネタのガーゴイルらしくマブラヴ世界の連中をダシに悪役をやりたいとは悪趣味だね。理由はどうあれアトランティス帝国は前回地球を助けているから、我々が彼らとの会談の席を設ければ、マブラヴ世界の連中は自分たちを助けてくれるかもしれないという淡い希望を持つだろう。そこを突き放して絶望させてやるというワケだ。

 確かに宰相ともあろうものが国内で悪役なんてできないから代わりにあの連中を嬲りたいのだろう。まぁ別にいいか。あの連中が宰相にどれだけ弄ばれようがこちらに実害はない。

 

「それなら、この件はガーゴイルに一任するとしよう。皆もそれでいいな」

 と、カリンは幹部たちを見渡しながら確認する。

 幹部たちも宰相の悪趣味に呆れながらも別に反対する理由もないのでそれに合意した。

 

 こうして表向きは榊に譲歩した(実際は宰相の趣味の為)アトランティス帝国が動き出した。

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