旧石器時代からスタート   作:ADONIS+

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30.国益(アトラス暦30052年=西暦2002年)

 ガーゴイルは周囲を見渡して見ると、国際色豊かな人たちが立ち並んでいた。

 

「ふむ、我々はアメリカと会談するつもりでしたが、やけに飛び入り参加が多いですな。まぁ別に構いませんよ」

 

 その言葉にアメリカは顔を引きつらせた。そう、確かに彼らはアメリカの申し出に応じてくれたが、いざ会談となるとアメリカ以外の国が押し寄せていたという事態になっていた。

 普通に考えればこれは非礼であろう。アトランティスの不興を買うわけにはいかないアメリカ政府高官にとって胃が痛くなるような事だった。

 

 最もそれは飛び入り参加してしまった各国も同様だっただろう。大崩壊後の一連の混乱で中国のように国家崩壊してしまった国家もあったが、日本帝国、ソ連、EU、オーストラリアなどはまだ国家が崩壊していなかった。といっても彼らも被害は甚大なものであるし、地球環境の激変とBETAによって滅亡するのは時間の問題と言えた。

 それ故、彼らはアトランティスとの交渉をアメリカだけにやらせるわけにはいかなかった。そもそもこんな事態になったのはアメリカの所為であり、そんな奴らに地球の代表面をされてたまるものか、という思いもあった。その為、各国の在米大使が代表として割り込んできたのだが、その方法が拙かったと彼らはやっと気付いた。

 

「さて、本題に入る前に何か質問はあるかな?」

 と、いうガーゴイルに各国の代表は「お前なんでそんな恰好をしているんだ?」と突っ込みたかったが、それをするほど彼らは馬鹿ではなかった。何しろ相手は宇宙人(自称異世界人)だ。その常識が地球人と異なるのは十分に考えられた。その為、別の質問をすることにした。

 

「では、我が国はアトランティスとの国交を結ぶ事を望んでいるのですが、それは可能でしょうか?」

 と、日本大使が聞いてきた。

 

 日本帝国はまずアトランティスと国交を結んでから支援を求めるという方針だった。これはいきなり国交もない国から支援を求められても断られる可能性が高い為だった。

 

「残念だが、アトランティスは外交には積極的ではない。なにしろ領土、資源、市場、国防などがすべて自国だけで賄えるから手間をかけてまで他国と国交を結ぶ必要がないのだ。まぁそれ以外にも問題がある」

「問題ですか?」

 日本大使はガーゴイルの明確な拒否の言葉に落胆しつつも、少しでもガーゴイルから情報を引き出そうとしていた。

 

「それはこの世界の国々はアトランティスとつり合いが取れないことだ。アトランティスのような列強における国家の評価基準は基本的に文明レベル、国力、軍事力の三点で総合的に判断される。まぁ国の精神や国民の民度なども考慮されるが、重要なのはその三つだ。はっきりいってこの世界の国家は我々と対等に付き合えるだけの水準ではないのでまともな国交は結べないのだ」

 

 アトランティスから言わせればマブラヴ世界のような辺境世界の弱小国家と国交を結んでも利益はない。むしろ知識や技術の流出のリスクがあるから不利益が大きい。

 

 このガーゴイルの言葉に、地球各国の代表たちはアトランティスが350兆人もの人口と127の銀河を有する未曾有の超巨大星間国家であることを再認識させられた。

 

「そうですか。残念ですが仕方ありません」

 日本大使にとって残念であったが、よく考えてみればアトランティスにとってこの地球の国家と国交を結んでもメリットがないのは分かりきっていた。その為早速本題を切り出す。

 

「それでアトランティスは四年前のように地球からBETAを排除して頂けるのですか? 勿論、各国はアトランティスの武力行使を了承することで纏まっておりますが」

 

 地球各国、正確にいえば現時点で国家崩壊していない各国はアトランティスの武力行使を無条件で了承することを事前に決めていた。それをしたのは、以前その辺りでアトランティスと交渉が決裂してしまった苦い教訓からだった。

 彼らはこれでアトランティスがBETAを排除してくれるかもしれないと期待した。勿論、現状ではBETAを排除しただけでは地球滅亡は避けられないだろう。

 この苦境を乗り切るためにはアトランティスの支援が必要なのは誰の目にも明らかだった。だからこそ彼らはこの交渉でその足掛かりをつかもうとしていた。

 

「どうやら勘違いしているようだが、今回我々は地球に干渉しに来たわけではない。あくまで調査目的に過ぎない。それは既に通信で伝えている筈だ」

 

 しかし、ガーゴイルのその言葉に各国代表の顔が青ざめた。

 そう、彼らはアトランティスの通信の真意を読み違えていた。アトランティスは別に地球人の誤解を避ける為にそのような宣言をしていたワケではなかった。

 地球に干渉しないという事は、地球を侵略しないという意味ではなく、地球を救済しないという意味だったのだ。

 

「宰相殿、それではこの世界を救わないのですか?」

 険しい表情の榊がガーゴイルに尋ねる。

 彼はアトランティスに地球の救済を要請しており、その結果としてこの会談が実現していたのだ。

 

「榊くん、君も分かっているだろう。今更BETAを駆逐しても地球は救われないのだよ。本当にこの世界を救おうとするならばどれだけの事が必要だと思うのだね。そしてそれを我が国がやる理由はないよ」

 

 いくらアトランティスでもここまで荒廃してしまった地球環境を修復するのはそれなりに手間がかかる。それに見合うだけの見返りなど得られるワケがない。

 

「それにアトランティス帝国は慈善団体ではない。君も首相であったならば分かるだろう。無償で他国に支援する国家など存在しないのだよ。それとも地球人は我が国を動かすだけの代価をもっているのかね?」

 

 ガーゴイルの言葉に榊は沈黙した。分かっていたのだ。こうなるだろうという事は。

 国家というものは国益を追求する。例え国家が綺麗ごとを言ったとしてもそれは建前で、国益にそって動くものなのだ。良い悪いは別にして、そうでなければ国家運営などできない。

 本当の意味で正義の国など物語の中にしか存在しないのだ。

 

 ガーゴイルと榊の会話に、各国の代表者たちは狼狽える。こうまで拒否されては支援を引き出すことはできないだろう。

 言うまでもなく滅亡寸前の彼らに圧倒的な国力と文明を誇るアトランティスに差し出せるものなどありはしない。

 

「ならば、せめて難民を受け入れて頂きたい。現在アメリカを初めとして各国で無辜の民が犠牲になっています。一刻も早く彼らを保護しないといけないのです」

 と、アメリカ大統領はガーゴイルに必死に訴えた。

 彼は難民としてでも国民を守り次に繋げると考えた。生きてさえればいずれ国家再建もかなうだろう。とにかく、今は生き延びるのが先決なのだ。

 

「難民の受け入れか。それはできないな」

「な、何故ですか!」

 BETAに追われた人々を保護する事さえ嫌がるガーゴイルにアメリカ大統領は言いつのる。

 

「国内に難民を受け入れても邪魔なだけだ」

「邪魔ですと…!」

 ガーゴイルの冷徹な良いようにアメリカ大統領は怒りを募らせた。

 

「そうだ。そもそも国内に大勢の難民など受け入れたらそれだけでも負担になる。それに難民たちが待遇改善を求めてデモなぞされては迷惑だ」

「ならば入植が行われていない居住可能惑星に彼らを受け入れたらどうですか?」

 榊は少し考えてそういった。

 

 アトランティス国内には居住可能なようにテラフォーミングを施しているが、まだ移民がされていないという惑星もそれなりに存在している。その惑星に難民を住まわせる事は可能なはずだ。

 いうなれば無人惑星に難民を隔離して、国内の確執を防ぐという提案だった。

 

「そして世代交代をしたら、難民たちがその惑星を私物化したあげく独立して反アトランティス国家になるのが目に見えているな。我々には何の利もない」

 と、ガーゴイルは切って捨てた。

 もし、そうなったらアトランティスにとっては面倒極まりないだろう。

 

 ここまでくると各国代表者たちはアトランティスから支援を受けるのは至難の業である事を嫌でも理解できた。何とか突破口はない物かと思案にくれたが名案が中々浮かばず、仕方なく休憩を取る事にした。

 

 

 

日本帝国side

 

 アトランティスとの交渉が難航しているというよりも支援を引き出せそうにないという情報は、在米日本大使より日本帝国に伝えられた。当然、この情報には将軍と上層部を焦らせた。

 何しろ彼らは後がない。交渉が上手くいかないから諦めるというわけにはいかなかった。文字通り国家の存亡をかけて交渉に挑まなければならないのだ。その為、現地の日本大使だけでは心もとないと、将軍は追加の代表者の派遣を決定した。

 

 また、同時に伝えられた榊是親の生存に彼らは驚いた。クーデター以降行方不明となりまったく所在がつかめていなかった榊是親がアトランティスに助けられていたとは思ってもいなかったのだ。

 一方でやはり榊はアトランティスと強い繋がりを持っていると彼らは再認識した。出来ればその繋がりを活用したいと思ったが、それが無理である事は彼らが一番よく理解していた。

 まぁ中には厚顔無恥にも「榊は何故アトランティスを説得しないんだ!」と交渉が上手くいかない状況を榊の怠慢の所為だと非難する者もいて、まともな良識派からは白い目で見られていた。

 

 

 

カリンside

 

「やはり地球人たちは諦めが悪いね」

 レッドノア内部で、一連の会談をモニターで観賞していたカリンは苦笑した。

 

「彼らにとって滅亡の瀬戸際ですから、当然の事でしょう」

 ガーゴイルも地球人たちの行動は予想通りだと考えていた。

 

「まぁいくら彼らが粘っても我々が断れば意味はない。榊が文句を言うでしょうが、それを宥める為にあの娘は確保しているから、最終的には榊も折れるでしょう」

「確かにそうですな」

 アトランティスはただ無為に会談を進めていたワケではなかった。地球の注意を会談に向けさせてその間にある事をしていたのだ。

 

「しかし、折角このレッドノアを持ってきたというのに使わないのも勿体ない。どうせなら続きの会談はここでやるとしよう」

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