旧石器時代からスタート   作:ADONIS+

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31.徳(アトラス暦30052年=西暦2002年)

 アトランティス帝国との会談の継続を望む地球各国の代表団は、続きの会談は宇宙船の中でやるというアトランティスの通達を受けて、彼らは榊是親に案内されてレッドノア乗り込んでいった。

 そんな彼らであるが、レッドノアの巨大さに圧倒されていた。

 

「まったくこんな巨大な宇宙船が存在するなど信じられないよ。我々ではこんな物はとても建造できない」

「しかし、随分と内装に凝っているようだな」

 そう、アトランティスのそれは軍艦とは思えないものだった。

 

「……このレッドノアは儀礼艦として建造されています。それ故です」

 榊は彼らの疑問に答えた。

 

「それにしても驚きましたわ。貴方が生きていたとはね」

 と、榊に言ったのは香月夕呼だった。

 

 彼女は悠陽が送り込んでいた追加の代表者の一人だった。それには夕呼が連れてきた社霞も含まれていた。

 社霞が参加しているのはリーディングでアトランティスに対する交渉カードを手に入れようとしての事だった。ようするにまともにやっても上手く交渉が成功する見込みがないので、アトランティスの弱みを握って交渉しようとしたのだ。

 これは悪辣ではあったが状況を考えると手段を選んでいられなかったのだろう。しかし、彼女は交渉の場にESP能力者を連れていくという行動が相手にどう受け取られるか甘く考えていた。まさか社霞の事をアトランティスが知っているとは思いもしなかったのだ。

 

「いろいろあったのですよ。詳細は秘密ですが」

 下位世界人に余計な情報を与えないというのは三千世界監察軍にとっては常識だった。その為、榊是親も余計な事まで話すつもりはなかった。

 

「そのいろいろの部分を聞きたいのです」

 夕呼は榊からアトランティスの情報を少しでも聞き出そうとしていた。あわよくば交渉カードでも手に入るのではないか、と思っていた。

 

「それに関しては貴方たちが知る必要はないわ」

 そこに一人の少女が割り込みを掛けてきた。

 

「何故、貴女がここに!」

 その少女の登場に榊が驚愕した。

 

「あら、この船に妾がいるのは可笑しくないでしょう」

 

 その少女は歳のころは15から17辺りと、そこいらの女子高生にしか見えない外見だった。

 ツインテールにまとめられた銀髪に碧眼、天使を連想させるほどの美貌。その服装は美しい銀髪に合わせた白いドレス。そのドレスは肩と背中が大きく露出しており、腹部の左よりと髪の右側に白の花が付けられて、少女が首から下げているネックレスには青い宝石(ブルーウォーター)が輝いていた。

 彼女こそがこの儀礼艦レッドノアの主にして、アトランティス帝国皇帝カリン・エレメントであった。

 

「貴女誰よ?」

 いきなり話を止められた夕呼は不満に思って、カリンに不機嫌そうな表情を見せた。それはカリンの見た目が女子高生にしか見えないため、どう見ても要人には見えなかったからだ。

 

「ふふ、別に妾が誰かなんてどうでもいいでしょ。それより榊、妾の言いたいことは分かっているわね」

「……言われるまでもありません」

 言外にこの世界の連中に余計な事を言うなと警告を受けた榊はそう答え、カリンはそれに微笑した。

 

 次にカリンは夕呼に呆れたような視線を向けて、「それにしても地球人は交渉する価値もないようね」といった。

 

「何ですって!」

 このカリンの言葉に夕呼は激発する。

 

「そこの娘はESP能力者でしょ。そんな者を交渉の場に連れてくるなんて貴方たち正気? はっきり言ってケンカ売っていると思われるわよ」

 とカリンは社霞を指さしながら指摘した。

 

 そう交渉の場というものはある程度の常識というものがある。それを考えれば交渉の場に相手の心を読む能力者なんぞ連れていけば敵対行為と見做されても仕方ないだろう。特に今回のように相手の不興を買わないように気を使わなければならない場合は論外と言えた。

 

「なっ、何故それを!」

 夕呼は狼狽えた。そもそも超能力者の事は機密だったから、誰も知る者はいなかった。いくらなんでもまだリーディングすらしていないのにばれるとは思いもしなかったのだ。

 

 夕呼は知るよしもなかったが、榊の要望を受けてからアトランティス帝国上層部はマブラヴの原作や外伝などを一通り確認していたのだ。まぁいい歳のオッサン達(アトランティス支部の幹部達はそれなりの歳である)が揃ってエロゲーをやるという痛い光景であったが、それは余談と言えた。

 

「まぁいいわ。精々無駄な交渉を頑張る事ね」

 カリンは言いたいことだけ言ってその場から立ち去る。 

 

「くそっ! 忌々しいわね」

 

 ばれてしまった以上霞を使うのは下策だ。彼女はこの船から降ろすしかない。

 そして今回の一件が交渉に与える影響は大きいだろう。元々成功する確率など無きに等しいものであったが、これでゼロになったといっても過言ではない。

 

「榊是親、貴方あの女が何物なのか知っているの?」

 榊は日本帝国の元首相であったが、今ではただの人に過ぎないため、夕呼の言葉には敬語の欠片もなかった。

 

「知ってはいる。しかし、私の口からは言う事は出来ない」

「また秘密というワケ」

「それもあるが知っても意味がないからだ。それよりも他の国の代表たちにこの失態をどう説明するのかね?」

 

 そう、榊に指摘されて夕呼は他国の代表たちが自分を睨み付けている事に気が付いた。

 各国の代表団は日本帝国がESP能力者を連れてきたことでアトランティスの不信を買ってしまい、交渉が余計に難航する事を理解したのだ。それだけに夕呼を見る目が厳しかった。

 こうして夕呼はアトランティスとの交渉の前に各国に対して弁明する羽目になった。

 

 

 

 

 

「ふむ、少々問題があったようだね」

 レッドノア内部の会議室で交渉団を見たガーゴイルは各国の代表団を見てそう皮肉った。

 結局、レッドノアに乗り込んだ交渉団の一人が交渉開始前に船から降りる事になり、地球側は大恥をかくことになった。

 

「さて交渉の続きだが、前回でも言ったが我々アトランティスは地球に干渉しない。故に地球の事は地球人が何とかしたまえ、それが筋と言うものだよ」

 と、ガーゴイルは最初から突き放してきた。

 

 そう言われたからと言って、この状況で「はい分かりました。自分たちで何とかします」とは口が裂けても言えないマブラヴ世界の各国は、文字通り土下座外交をしてでも支援を求めたが、当然ながらそれは受け入れられなかった。

 こうして平行線のまま時間だけが過ぎていき、代表団の焦りが見え始めて来たころ香月夕呼はガーゴイルに質問をすることにした。ちなみに彼女が今まで黙っていたのは先ほどの失態で立場が悪くなっていたからだ。

 

「宰相閣下、アトランティスが地球に干渉しないという主張は分かりましたが、それでは過去の地球への行動は如何なる理由で行われたものでしょうか?」

 

 そう、本当の意味でアトランティスが地球に不干渉政策を徹底しているならば、わざわざ地球に10万隻もの大艦隊を率いて交渉にきたり、榊是親に要請されたからといって地球上のハイヴを殲滅したりはしなかっただろう。

 つまり以前は干渉したが、今回は干渉しない何らかの理由がある筈だ。それが分かれば何かの糸口になるかもしれない。

 

「我々と榊是親はかなり前から接触していた。その為、彼に対して義理立てしたに過ぎない。まぁ榊に免じて地球人には二度もチャンスを与えてやったというのに、榊を抹殺しようとしたり、こんな結果を招いた地球人には呆れてものが言えないな」

 

 このガーゴイルの言葉にアメリカと日本の代表団が呻いた。

 アメリカはアトランティスと繋がりのある榊を始末するためにクーデターを唆した挙句、オルタネイティブ7で地球そのものを破滅させた愚行を犯し、日本はクーデターを起こして直接榊を殺しかけたのだ。

 自分たちの行動が、アトランティスの地球人に対する評判低下に繋がっていたと指摘されて黙って受け入れるしかなかった。

 

「はっきり言うと地球人など支援しても国益にならないし、そもそも国家に対して国益を度外視して善意の支援を求める方が可笑しい。どうしても支援が欲しければ我々ではなく慈善団体にでも助けを求めるべきだよ。最もこの世界にそんな都合のいい組織が存在すればだが」

 

 無償でBETAを排除して地球環境を修復してくれる慈善団体。もしくは自分たちをBETAのいない居住可能な惑星に移民させてくれるだけの能力を持つ慈善団体。言うまでもないがそんな都合のいい物が存在するわけがない。

 

「しかし、ここで我々を見殺しにするのは人道に反するのではないのか!」

 EU代表がヒステリックに叫ぶ。最早なりふり構っていられないのだろう。

 

「人道ね。そんな言葉を君たちが言うとは思わなかったよ」

 ガーゴイルにとってはそれは失笑物だった。

 そんなガーゴイルに各国代表たちが苛立つ。

 

「我らアトランティス人は並行世界において三万年前に地球を離れて以降同族同士で戦争するなどという野蛮な行動はせずに皇帝陛下の元で皆が協力してここまで来た。しかし、君たち地球人は違った。愚かにも有史以前から同族同士で争い続けてきた」

 

 アトランティス帝国はカリンという絶対的な君主がいた為に、三万年という長い歴史においてもアトランティス人同士の内戦などという事態は一切発生しなかった。これは地球の歴史を振り返ればどれだけ偉大なことであるかは言うまでもないだろう。

 ちなみにアトランティス帝国が存在する世界の地球人はサード・インパクトを引き起こして自滅するという最悪の状況である為に、余計にカリンの功績は高く評価されていた。

 

「そしてBETAという地球人共通の外敵が現れても地球人は協力することなく足の引っ張り合いを続けてきた。はっきり言ってBETA大戦で地球人がBETAに勝てなかったのは地球人の愚かさの所為だ」

 

 BETA大戦で滅亡の瀬戸際まで追い詰められた状態であってもマブラヴ世界の人間たちは協力することなく争い続けていた。現在の終末においても地球各地で各勢力は協力することなく資源や食糧を求めて争っていて、そこまで仲が悪いのかとアトランティス帝国を大いに呆れさせていた。

 

「そんな愚かな者たちをどうして見ず知らずのアトランティス人が助けると思うのだね。それとも君たちは自分たちが無関係の異世界人に滅びるのは惜しいと思わせるだけの徳でもあるというのかね?」

 

 ガーゴイルの言葉に彼らは何も言い返せなかった。

 そう、彼ら地球人の歴史を振り返れば、自分たちには見ず知らずの異星人が善意で助けてくれるだけの徳があるとか、異世界人から見て滅びるには惜しい思わせるほど素晴らしい種族である、と胸を張って言い切れなかったのだ。

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