マブラヴ世界に訪れていたレッドノアは、アトランティス帝国が建造しただけあって凄まじい性能誇る宇宙船だったが、際立って強力だったのがクロスゲート・パラダイム・システムであった。
このクロスゲート・パラダイム・システムは、悪用すれば三千世界の列強として君臨しているアトランティス帝国すらも滅ぼしかねない代物であった。そうなると戦略兵器として管理が特に厳しくなるのは当然のことだった。
この対策としてレッドノアのメインエンジンのオンオフを切り替えられるマスターキーが存在していたし、更にクロスゲート・パラダイム・システムには別のセキリティが仕掛けられていた。
アトランティス支部はここでもネタに走り、ブルーウォーターをクロスゲート・パラダイム・システムの作動キーにしていた。
このブルーウォーターは普段は二つに分かれて一つはカリンのペンダントとして装飾品として使われているが、もう一つは本国の宮殿に保管されている。だから現在のレッドノアはフルスペックを発揮できない状態であったが、別にそれは問題なかった。
ちなみにブルーウォーターの融合や操作などはカリンの天魔の力で行われる仕組みになっていた。三千世界監察軍ではカリンの天使や悪魔の力についてはある程度の研究が進んでいた為にその手の技術も確立していたから、それを流用していたのだ。
さて、このレッドノアは元々カリン専用の儀礼艦として建造されたものである。その為、このレッドノアを使用するならカリン自ら乗り込む必要があった。
これは形式的な問題であるから宰相がネタのためにレッドノアを貸してほしいと言っても「はいそうですか」とはいかない。この問題をクリアするにはカリン自らがレッドノアに乗り込んでマブラヴ世界に同行しないといけなくなったのだ。とはいえ、カリンはこの会談はガーゴイルに任せていたので、あまり関わってはいなかったから地球に直接降りることもなかった。まぁ放射能や重金属などを含めた環境汚染が酷いあの世界の地球に降りたくなかったという理由もあった。
こうしてカリンはのんびりしていたわけであるが、ここで問題が発生した。愚かにも日本帝国がレッドノアにESP能力者を連れて来てしまった。
これの狙いは明らかだ。リーディングで情報を手に入れる事だろう。
大した害はないとはいえ情報が流出するのは面白くないので、香月博士には釘を刺しておいた。
「さてと、こうしてただ待つというのも芸がないかな?」
マブラヴ世界との交渉はガーゴイルに任せていた。これは裏を返せばやることがなくて暇ということだった。
一応、暇つぶしに使える娯楽品はレッドノアに持ち込んでいるから、それで何とかなるかとも思ったが、それをするだけでは面白みがない。まぁこれでも三万年以上も生きていた為に大概の娯楽には飽きてしまったというのもあるけどね。
カリンは皇帝という立場にある。通常ならば内政チートに励むオリ主のように書類に囲まれて仕事に追われている状況でもおかしくないだろう。
だが、そこはアトランティス支部が支配する帝国だけあって、皇帝が仕事を沢山していたらトリッパーたちの内政チートでやることがそれだけ減ってしまうという事情もあり、カリンは臣民をまとめる為の権威としての役割と支部のまとめ役しかしていなかった。ぶっちゃけると国家の大まかな方針だけを決めて政策すらも丸投げという状態で、ようするに普段はやることもなく、ヒマを持て余している事が多い。
「そうだね。折角だし多少の話ぐらいはしておくか」
カリンは思い付きを実行するために、侍従に連絡を入れた。
夕呼side
当初の想定通りアトランティスとの交渉は難航していた。アトランティスは地球を助ける気はないとはっきりと主張しており、彼らを動かそうにも何も手札がない状態だった。
現在の困窮する地球各国がアトランティスに代価として差し出せるものなどないし、空手形も通用しないだろう。これではアトランティスから支援を引き出すのは不可能と言わざるを得なかった。
そんな停滞の中でも時間がすぎるもので、夕食の時間となった為にガーゴイルが私たちを食事に誘った。何でもこのレッドノアのレストランはビュッフェ形式、より正確にいえばシュティング・ビュッフェを採用しているらしい。
宇宙人(自称並行世界のネアンデルタール人)の食べ物など大丈夫かという懸念はあったものの、ガーゴイルが言うにはホモ・サピエンスとネアンデルタール人の食性は共通で味覚もほぼ同じだから問題なく、実際に榊も彼らと同じ食事をしているらしい。ここで味覚がほぼ同じといったのはやはり味の好みに多少の違いがあるとのことだ。これは各国でも微妙に違うので当たり前といえるだろう。
こういわれると断ることは出来ないので、各国代表団はガーゴイルに誘われるままに食事に出かけた。
「同席していいかしら?」
私が席に座ると、向かい側に一人の少女がいて話しかけてきた。その少女は先ほど自分に文句を言ってきた少女だった。
「ええ、構わないわ」
夕呼は本心としては断りたかったが、断ると角が立つと思い了承した。そして私と同じテーブルについた少女は黙々と食べ始めた。
「それにしてもここの食事は美味しいわね」
食事を一通りすませた夕呼はそう少女に話しかけたが、これは別に世辞ではなくまぎれもない事実だった。
アトランティスは元々大規模農業と企業農業を目指していて、これによって食糧生産の合理化が進み食糧価格を低下させることに成功していたが、ブリタニアのレプリケーター革命がアトランティスにも普及した後は臣民たちの衣食住がただで賄えるようになっていた。
わざわざ言うまでもないが食糧というのは生活必需品だ。一部の高級品を除いてそれらの食糧価格が上昇すればそれだけ臣民の生活に負担がかかる。だからこそカリンは食糧価格を低く抑えるべく苦労していたし、レプリケーター革命にも積極的に行ったのだ。
人間は衣食住さえ問題なく確保されていれば多少の社会問題があっても現状を無理に変えようとしない物だ。そういう意味でもレプリケーターさえあればよほど酷い統治をしないかぎり市民革命など発生しない。
ちなみにこのレストランに並べられている食事は一般用レプリケーターによってコピーされた食品を使っていて、徹底的な品質管理によってはっきり言うと平成日本における某国の食品なんかとは比べ物にならないほどに安全な代物だった。
更に味についても違う。分かりやすく言うと平成日本では肉や野菜などは品種改良が進められていて、優れた品種だけを食べる事ができるという贅沢ができるが、大昔の中世ではそんな事はできず、不味い食材を使った不味い料理を食べるしかなかった。
これは時代によって食材のレベルが向上したと言えるだろうが、アトランティス帝国も遺伝子操作などによって都合のいい品種を作り出していた為に、マブラヴ世界とは根本的に食材レベルが違っていたのだ。
ここで遺伝子組み換え食品と言うと危険だというマイナスイメージがあるが、それは偏見で十分な技術力があれば安全で都合のいい品種を作り出すことも容易だ。ようするに技術的に成熟しているかどうかが問題なのだ。
そういった意味ではアトランティスによって遺伝子組み換え食品というのは最早枯れた技術の産物であった(それはアトランティス建国前どころか古代ベルカ時代の技術である)。
元々マブラヴ世界はBETA大戦で食糧事情が悪化しており、従来の天然食料は不足して不味い合成食を食べなければならない状況になっていた。それが現在では地球環境の激変により合成食すら満足に作る事ができなくなり、世界的に飢餓が深刻化している状況になっていた。
そのような情勢の彼らにとって、アトランティスの食事は美味しいと絶賛するしかないだろう。
「それは、そうでしょう。妾たちは長年食材の改良を進めていたわけですから違いがあって当然です」
少女は自国の食文化を誇っているようだ。
「……というかあんた誰よ?」
夕呼はこの少女の正体が今一理解できなかった。外見からすればどこかのお嬢様という感じなのだが、それにしては榊の反応が可笑しかった。
「妾の名はカリン・エレメント」
と少女は名乗ったが、夕呼はそういわれても誰なのかわからない。
地球各国はアトランティスの情報をほとんど知らないのだ。これでは例え有名人であったとしてもわかるわけがない。
「そうじゃなくて、私はあんたがどういう立場の人間か聞きたいのよ!」
アトランティス帝国というだけあって、この少女はアトランティスの名家か貴族の令嬢ではないかと思うが、それを確認したかったのだ。
「ああ、そういうことね。一言でいえば皇帝です」
「はっ?」
カリンがさらりと告げたあまりと言えばあまりの言葉に、夕呼は呆けたような言葉を漏らした。
「だからアトランティス帝国皇帝よ。わかった」
と、カリンがダメ押ししたことで、夕呼はカリンの地位を理解した。
そしてよりにもよってアトランティス帝国の皇帝陛下に対して行ってしまった自分の言動を思い出してビシッと固まった。
解説
■レプリケーター革命
ここの『短編及び中編集 レプリケーター革命』でブリタニア帝国で発生した革命。これによって経済などが激変している。
■一般用レプリケーター
ここの『短編及び中編集 レプリケーター革命』で開発された一般人が使用することを前提とした第三世代レプリケーター。