地球博物館。それはアトランティス帝国帝都アトラスにある古今東西地球各地の文化財を収集した博物館だった。その収蔵リストは凄まじく、遥か古のメソポタミア文明時代の物まで存在する。
まさに地球の歴史の始まりから記録された博物館だ。
その博物館を白いドレスを着たカリンが歩いていた。彼女のドレスは腰まで届く銀髪と白い肌によく合っていて、カリンの美貌をより引き出していた。
ちなみにカリンが着ているドレスは桜小路ルナ(月に寄りそう乙女の作法)が原作で着ていたドレスをコピーしたものだった。その理由はカリンが最近パソコンゲーム『月に寄りそう乙女の作法』をプレイして、そのドレスが気に入ったからだ。
そんなカリンに一人の軍人が近づいてきた。
「アンカー大将、おぬしはこの博物館をどう思う?」
と、カリンはその軍人アンカーに話しかけた。
「そうですな。古今東西本当にいろいろな物がありますな。前世の記憶を持つ私たちには懐かしいものです」
そう、地球に関するすべての文化財というか、その時の文化的な物、珍しい物など多種多様にそろえていた博物館だから当然日本に関する収蔵品も多い。それらを見ていれば思うところもあるだろう。
ちなみに地球から回収された品の中でも、絵画、彫刻、陶芸などの美術品は『地球美術館』に収蔵されていて、書物や歴史的な資料とかは『地球資料館』に送られているので、それらの品々はここでは展示されていない。
まぁ地球から回収した物品が多すぎるから、ある程度は分散させないと収蔵スペースが足りなくなるわけです。実際この博物館だけでも収蔵品が多すぎて広大な広さが必要となっています。
「しかし、何故長きに渡り調査活動などしていたのですか?」
アトランティスによる地球(エヴァンゲリオン世界)の調査はカリン個人の意向で進められていた。この件にはアトランティス支部は賛成も反対もしなかったのだ。
確かにこの調査活動は大した費用はかかっていない。しかし、それでもそれなりのコストを5500年に渡ってかけてきたのだ。アンカーにはカリンが何故そんなことをしたのか分からなかった。
「アトランティスは監察軍の技術を用いて建国したけど、その関係で一から文明を発達させたわけでなくて、いきなり高度な文明から始まっているわ」
カリンはマクロス船団を足掛かりに国家建設を行った。その為、アトランティス人は古代や中世という段階を経験することなく、いきなり平成日本をも圧倒する文明を与えられた。
「まぁ中世の生活なんか送りたくないからさっさと近代化させたワケだけど、この弊害もあるのよ」
文明発達というプロセスを踏まずにいきなり高度な文明を持つ国家になった結果、建築一つとっても高層ビルとか現代建築なんかはあっても伝統的な建造物はないし、日本の能や歌舞伎でみられるような伝統芸能なんかもない、文化という点では貧しい国になったのだ。
つまりアトランティス帝国は、アメリカのような人工国家だった。まぁ言語からして人工言語のエスペラントを使っているのだから今更な話であったが。
勿論、アトランティス支部のオタク達の暗躍もあり、萌えや燃えの文化は発達している為、サブカルチャーは豊富であったが、彼らにしても一から伝統芸能を作り上げようとはしなかった為に、ハイカルチャーは外部からのコピーで構成されている。
まぁこれも悪いワケではない。古代日本も大陸から様々な文化を取り入れて自分なりにアレンジして自国の文化にしていった経緯がある。それを考えれば他の文化を収集していい所取りやアレンジをするのはアトランティスにとっても有益であった。
実際、アトランティスの食文化などは地球の影響をかなり受けている。
「これを何とかするには地球との文化交流が一番手っ取り早いけど、アトランティスの存在は伏せておかないと原作が崩壊してしまうからね。だから地球人にばれないように調査していたのよ」
原作通りサードインパクトを発生させて、この世界をアトランティス帝国が独占する。それが当初からの計画だった。だからこそ地球に対して表だって関われなかったのだ。
仮にアトランティスが地球と交流していたら、カリンは原作崩壊を阻止しつつ、技術の流出に気をつけねばならなくなり面倒な事になっただろう。
それを避ける為には極秘調査という手段を取るしかなかった。
「まぁ諜報活動のノウハウを確保する為というのもあるけどね」
アトランティスは諜報活動をやる必要性が低い。地球のように多数の国家と国交を持っているわけでないし、数少ない国交を持つ他の列強にしても極めて薄い関係であったので、諜報活動をする必要がなかったのだ。
こうなるとその手の技術を磨くためにその手の活動もやらないといけない。確かに現在は必要ないが、これからも必要ないとは限らないのだ。
「さて、前置きはこれぐらいにして、アンカー大将基幹艦隊の準備はいいですか?」
「はい、第七基幹艦隊はいつでも動かせます」
「そうか。ならあの世界に行くとしましょう」
「本当によろしいのですか? 正直私は気が進みませんが」
現在アトランティス支部はマブラヴ世界のトリッパーたちから滅びゆく地球の救済を求められていた。
勿論、これが一人や二人ならカリンは拒絶しただろうが、百人以上のトリッパーが要請したとなればカリンもこれを受けざるを得なかった。とはいえ、前回助け舟を与えてやったのに、盛大に自滅して余計な手間を掛けさせるような連中を助けることに抵抗を覚えないわけでもなかったが。
「気持ちはわからないでもないけど、さすがにあれだけのトリッパーに要請されれば無下にはできないわ。私としてもできるだけ手間を省くつもりだから安心しなさい」
あの世界の地球の状況は酷い物だった。地球のBETAを排除するだけなら簡単にできるが、宇宙全域に広がっているBETAから地球圏の防衛、崩壊した月の再生、地球環境の再生、困窮する地球人類に対する支援など考えるだけでも鬱陶しくなる。
これらはアトランティス帝国からすれば大した出費にならないだろうが、面倒だと思うのは仕方ないだろう。
「精々、正義の国をやってあげましょう」
これからアトランティスは無償で地球を助けて支援してくれるという「何処の正義の味方だよ!」と突っ込まれるような活動をするのだ。
トリッパーを含めた本当の事を話せない以上、嫌でもそうしないといけない。
これには宰相も「これは私のキャラではありませんな」と呆れたコメントまでしていたぐらいだ。まぁ気持ちは分からなくもない。無償で他国に支援するおバカな国家なんてセカンドインパクト前の日本ぐらいなものだったからね(この世界ではセカンドインパクト後はさすがの日本もまともな行動をするようになった)。
そんなのと同じような目でみられるのは嫌だが、真相を話せないからそうするしかない。
「それに、どうせやるなら楽しまないとね」
と、カリンは微笑した。