ソ連side
アトランティス帝国によって再び地球上のハイヴが掃討されただけでなく、月が再生して地球環境が修復されたことで普通の一般人は大いに喜んだ。しかし、各国要人たちはアトランティス帝国の圧倒的な力に驚愕していた。そして、その恐るべき帝国とあのアメリカが交渉を進めていることに危機感を抱いた。それはアメリカと対立するソ連にとって尚更だった。
「アメリカに対する情報収集を強化しろ! 第三計画で用意した超能力者たちを使っても構わん!」
「はい」
「それと、アトランティスが我が国をどう思っているかも知る必要があるな」
共産党幹部たちにとって再び地球に現れたアトランティス帝国は恐怖そのものだった。何しろ相手は皇帝を頂点とした帝政国家に対して、ソ連は帝政を打倒して共産主義国家になっているのだ。帝政国家と共産主義国家が相容れるとは思えない。
最悪の場合、ソ連はアトランティス帝国に敵視されてBETAと同じようにあっという間に一掃されてしまう可能性すらあるのだ。故に彼らにとっては死活問題だった。
「しかし、アトランティスは確かに帝政国家ですが、かなり変わった政治体制ですな」
アメリカが公表してきた情報を整理していた幹部はそう述べた。アメリカから提供された歴史資料にはアトランティスの政治体制の情報も含まれていたのだ。
アトランティス帝国は立憲君主制国家のような議会が存在しない皇帝を頂点とした帝政を引いていた。これは歴史的に見ても珍しくない。一昔前には地球各地でそんな国家は多く存在していた。
しかし、帝政国家でありながら貴族が存在せず、皇帝すらも世襲制ではないというのは異常だった。アトランティスでは皇位継承は、皇帝が家柄や血筋などを度外視して人格と能力のみで次期皇帝を選んで指名するという形になっていた。
最も初代皇帝が即位してから三万年以上がすぎていたが、カリンが未だに健在なため一度も使われたことのない制度であった。
「アトランティスの超実力主義というやつか」
アトランティス帝国が掲げる超実力主義。それは権力を世襲によって引き継がせるのを否定する考えだ。
これによってアトランティスは帝政国家にも関わらず身分が皇帝と臣民しか存在しない。つまりアトランティスは皇帝以外は皆平等であり、例え貧乏な臣民の家で生まれた子供であっても本人の実力によっては大臣や宰相どころか、皇帝に認められれば次の皇帝にすらなれるという制度だったが、勿論これには裏があった。
そもそもトリッパーというのはランダムで憑依するが、自分の子供がトリッパーになる可能性は極めて低く、ブリタニア帝国皇帝シドゥリにしても後継者となりうる子孫は全員非トリッパーなのだ。
おまけにトリッパーにするということは、本来存在するはずだった人物を殺すことに等しく、自分の子孫がそうなるのは気が引けたのだった。
こうなると、カリンにもしもの事があったときに備えて、トリッパーの為の国家を維持するために帝位を優秀なトリッパーに継承させる仕組みが必要となり、血筋に依存しない帝位継承を正当化するために超実力主義を掲げるようになったのだった。
「いずれにしても暫くは露骨な革命輸出は避けた方がいいな。彼らの逆鱗に触れかねん」
「そうだな」
こうしてソ連は強大な帝政国家の存在に怯えながらも取るべき方針を検討していた。
EUside
欧州各国の現状は極めて厳しかった。元々BETA大戦で国土を失うなどの甚大な被害を受けており、戦後は何とか復興しようと努力していたものの大崩壊によって台無しになってしまった。
更にそこに欧州に火星から来た着陸ユニットが落下してオリジナルハイヴを築かれてしまうという悲惨な状況で、その後のBETAの侵攻によって欧州各地に新たにハイヴが築かれて欧州が蹂躙されているところだったのだ。
そんな欧州はアトランティスの攻撃で国内のハイヴは殲滅されて再びBETAが一掃されて救われた。
これはいい。だが問題なのは、アメリカが欧州各国の承認を受けることなく地球代表としてアトランティスの武力行使を勝手に承認したことだった。
これに関してEUがアメリカに抗議してもアメリカは「そうしなければ地球は見捨てられていた」とか「アトランティスに地球を救ってもらうためには必要なことだった」などと言うばかりだった。
勿論、それなら仕方ないねと穏便にすませてくれるほど彼らはお人よしではなかったし、反米感情がこれ以上ないほど高まっていたことも相まって、アメリカに対する不平不満はとどまる事はなかった。
「あの犯罪国家は我々を蔑ろにしておいて、地球の代表面してやがる。一体どこまでふざけているんだ!」
「そうだ! その通りだ!」
その場の空気は反米一色だった。
「まぁ済んだ事は仕方ない。それよりこれからどうするのだ?」
EUの緊急会議で集まった各国の代表者たちは一通りアメリカを罵倒した後、イギリス代表がそう発言した。
「アメリカに出遅れたのは痛いが、我々もアトランティスと接触すべきだ。これ以上アメリカの好き勝手にさせるワケにはいかんからな」
と、ドイツ代表の言葉に各国代表たちも頷く。
「では、アトランティスとの接触を優先するという事でいいな。後アメリカに釘をさしておく必要があるな」
「それならアトランティスにアメリカがどれだけ愚かな国が教えてやればいい。そうすればアメリカと交渉するのを躊躇するはずだ。我々はそこに付け入ればいいのだ」
「ふむ、それはいい考えだ。では、それでよろしいかな?」
と、イギリス代表が発言すると他の国もそれに頷いた。
こうして、EUはアトランティスと接触を試みる一方で、オルタネイティブ7の前後の事情を喧伝して、アメリカに対するネガティブキャンペーンをやるようになった。
日本帝国side
「よりにもよって、あのアメリカが地球代表だと! 世も末だな!」
「まったくだ。アトランティスも我々を無視してアメリカなんかと交渉しやがって!」
日本帝国を牛耳っている軍部はアトランティスの行動に激怒していた。彼らから言わせれば自分たちを差し置いて、このような事態を招いたアメリカを重視して交渉するアトランティスや、自分たちの仕出かした重罪を棚に上げてのうのうと地球の代表面をしているアメリカの行為は許しがたいものだった。
だが、彼らは理解していなかった。自分たちの行動がアトランティスの不興を買ってしまってしまったという事実を…。
「しかし、アメリカから提供された情報によれば異世界にはアトランティス以外にも強大な星間国家が存在するらしい。特に大日本帝国とは是非接触すべきだ!」
「ああ、異世界では我々日本人が強国になっていたんだ。彼らの後ろ盾があればアトランティスなんかにでかい顔をされずにすむぞ」
国粋主義者たちは異世界に存在するアトランティス帝国に匹敵する巨大星間国家”大日本帝国”の存在を知って大いに勢いづいて、異世界の日本と接触しようと考えた。
しかし、彼らの行動は列強や監察軍の裏事情を知る者からすれば失笑物だろう。大日本帝国はマブラヴ世界を助ける価値がないと切り捨てており、曲がりなりにも彼らに情けを掛けて助けてくれているのがアトランティス帝国なのだ。
言うなれば彼らは滅亡の危機から自分たちを助けてくれた大恩あるアトランティス帝国を罵り、自分たちを無視している大日本帝国にすり寄ろうとしていたのだ。はたから見て愚か者にしか見えなかった。
トリッパーside
とあるホテルでトリッパー達が集まっていて、そこで話し合いがされていた。
「……という事でアトランティスはアメリカを地球代表として扱って交渉するようだ」
「本当にアメリカで大丈夫なのか?」
一人の男がそんな懸念をこぼしたが、彼の気持ちは分からなくもない。オルタネイティブ7で、あそこまで盛大に自滅したアメリカに任せることに不安を覚えない者はいないだろう。
「確かにそうだが、他よりはマシだろう。ましてや日本帝国など論外だしな」
「そういえばその件で日本の上層部はカンカンらしいぞ。本音はアトランティスに無視されたのが頭にきているらしい」
「ふん、あいつらはプライドだけは高いからな。身の程を弁えないのさ」
ちなみに彼らが地球代表としてアトランティスと交渉する、というのは却下されている。それは何故と言うと、そんなことをすれば彼らがアトランティスと繋がりがある事がばれてしまうからだ。それは機密保持の関係上よろしくない。
過去にはトリッパーの事を貴重な資質の持ち主で特別視されているという情報を下位世界に流して何とか誤魔化かしたトリッパーもいたが、この世界で下手にそんなことをすれば誘拐→尋問(自白剤付)→人体実験というフラグを立てるだけだ。そのトリッパーが生き残っていられたのは幸運としか言えないだろう。
「それにアメリカが交渉相手ならば我々の存在を隠すためのいいカモフラージュになる」
榊是親を含めたマブラヴ世界に存在しているトリッパーはすべて日本人である。その為、アトランティスが不自然に日本を重視して各国の注目を浴びるのは彼らにとって好ましくなかった。