カリンはマブラヴ世界の問題をほぼ解決していた。この世界からBETAを排除して太陽光を遮っていた粉塵と、各地の海や土壌を汚染していた重金属や放射能などを消去していた。
ここまでやれば後はマブラヴ世界の連中だけで後始末をやらせるのもありかもしれないが、残念ながら食糧不足という問題がまだ残っていた。
この世界では元々BETA大戦で食糧生産能力が低下していたが、大崩壊でそれが極度に悪化していた。勿論、BETA大戦や大崩壊などで世界人口は大幅に減少しているが、それでも10億人は残っているので現在の備蓄では、食糧生産能力が回復するまでに間に合わないだろう。つまり世界的に飢餓が発生して多くの餓死者が出るわけだ。
ここで食糧がないなら買えばいいじゃないと思っている人がいるかもしれないが、現状では食糧備蓄に余裕がある国家など何処にもない。どこの国でも国民を食べさせるだけで精一杯、いやそれができる国は十分恵まれていると言えるほどなのだ。
こうなるとマブラヴ世界の連中が地球人同士で内ゲバをやらかすのは目に見えている。これはカリンにとっても無視できない状況だった。
特に日本は国土が狭いのに人口が多い国だ。それは食糧生産能力以上に必要な食糧が多いという事でこの状況ではそれは痛手だった。
カリンとしても日本帝国にいるトリッパーが食糧不足で飢餓に陥るのを放置するわけにもいかない。となると日本帝国に対する食糧支援は必要であるが、あからさまに日本帝国だけを支援するワケにもいかない。
大体、直接日本を支援するとなるとあの日本政府と直接交渉しないけいけないから面倒だ。
だからアメリカを使う。というよりもそういうときの為にアメリカと交渉しているワケなのだから精々役に立ってもらおう。
「食糧支援をしてくださるのですか」
目の前のアメリカのスミス大統領が妾の言葉に驚いていた。まぁそれも分からなくもない。何しろ支援の規模が桁違いなのだから。
「はい、既に地球圏に10基の食糧生産用のスペースコロニーを移動させています。現在これらのスペースコロニーで生産された食糧を地球に運ぶ準備を進めている所です。これよって地球各国の食糧不足を解消できます」
しかし、スミス大統領の表情はやや困惑していた。彼からすれば異世界人(異星人)の提供する食糧が本当に大丈夫なのか不安なのだろうが、その一方でこの支援が困窮する国民を助ける手段になりうる可能性も考えていた。要するに不安と期待が入り混じっていたのだ。
「念の為に言っておきますが、今回使うスペースコロニーは異世界の日本つまり大日本帝国製ですから生産される食糧はちゃんとホモ・サピエンスの口に合うので大丈夫ですよ」
と、妾は安心させる為に付け加えておいた。
実はアトランティス人とホモ・サピエンスでは味覚がやや異なる。だから工業用レプリケーターで大日本帝国製の農業コロニーを製造しておいたのだ。まあ、わざわざスペースコロニーを使わずとも現地人に一般用レプリケーターを貸してやればそれですむのであるが、残念がらレプリケーターはかなり高度な機密なので貸すどころか、その存在自体を現地人に教えるべきではないと判断したのだ。
この辺りは、カリンのマブラヴ世界に人間に対する不信感が影響していたが、機密保持と言う意味では当然のことであった。
「まぁそういうわけで貴国だけでなく各国に食糧支援が可能なのですが、各国に話を通して各国に食糧を届けるのは貴国にやってもらいたいのです」
「我々がやるのですか?」
予想外の事にスミス大領領は戸惑っているのだろう。その表情がやや困惑気味だった。
「ええ、手間がかかるでしょうが、これは貴国にとっても悪い話ではありませんよ。現在各国の反米感情が非常に高いのは言うまでもありませんが、各国で食糧不足で苦しむ人たちの為にアメリカ人が献身的に働けば少しはマシになると思います。貴国も何時までも悪魔の如き扱いを受けるのはお嫌でしょう?」
「確かに」
そう、これは悪い話ではない。
最近ではEUなどのネガティブキャンペーンがやたらと酷くなっていたが、幸いな事にアトランティス帝国はオルタネイティブ7の事を知っていてもアメリカを交渉役と認めてくれていたから最低限の地位を保つことができていたが、ここでアトランティスと協力体制を築き上げればどん底まで失墜したアメリカの国際的な地位も大いに回復するだろう。
その上で反米感情を少しでも下火にする事ができればなおいい。
「分かりました。それでは具体的な内容を検討したいのですが…」
こうして、アメリカとアトランティスは次の行動の話し合いを進めていった。
その後のアメリカの活躍はかなりの物だった。スミス大統領は各国大使と話を通して準備を整えていき、アトランティスが西海岸と東海岸にボソンジャンプで送り込んだ大量の食糧をアメリカが太平洋と大西洋を使って各地に運搬していった。その結果、各国の食糧事情は大いに改善していった。
民衆は純粋に大喜びしたが、各国の為政者たちはここまで大盤振る舞いで支援を行うアトランティスの目的を図りかね大いに頭を痛めていたが、だからといって支援を受け取らないという選択肢はなかった。
仮にそんなことをすれば良くて民衆の暴動で、最悪の場合は自分たちが(絞首台に)吊るされることになるのだ。
日本帝国side
アトランティスの食糧支援によって食糧が行きわたっていき国民が一息ついていた頃、日本帝国上層部は別の問題に頭を痛めていた。
「結局、大日本帝国との接触は不可能という事か」
「はい。アトランティスは我々の要請を拒絶しています」
日本政府の意向によって日本大使は最初皇帝に接触しようとしたが、のっけから拒否されてしまった。アトランティスから言わせれば弱小国家の皇帝の代理人(将軍)のそのまた部下風情に会う必要などなかったし、日本帝国と関わるつもりなどなかったからだ。その為、日本大使はアメリカを通じて「大日本帝国と会談したい」と要望を伝えたが、彼らはそれすら拒絶した。
「大日本帝国はこの世界に関わるつもりはないようだな」
「最低でも将軍と武家がなくならない限りは不可能とのことだ」
そう、彼らにとって計算外だったのは、彼の国が近代化の過程で将軍や武家を徹底的に潰していた事だった。その為、将軍と武家が健在なこちらの日本と相容れなかったのだ。
何しろあの榊是親も最初は大日本帝国に救援を求めたがそれらの問題から拒絶されたために、アトランティスに救援を求めていたのだ。
大日本帝国の情報を録に知らずに接触を試みた彼らに突き付けられた冷徹な事実によって、彼らは道化となってしまい、更にはあからさまに大日本帝国にすり寄る姿勢を見せたことからアトランティスの不興を買う事になった。言うまでもないが、大日本帝国にすり寄る事でアトランティスに強く出るという虎の威を借りる皮算用がバレバレだったのだ。
「しかし、殿下を排除するなど不可能だ。軍の将校たちや斯衛軍が納得するわけがない。下手をすれば内乱になるぞ!」
軍部が主流である政府はこの問題に頭を抱えて大日本帝国との接触を諦めることにしたが、財界は時代遅れの将軍や武家の所為で大日本帝国との交流が阻害されてしまった事に憤りを感じていた。
彼らからすれば将軍や武家など老害でしかなかった。その思いはそれを徹底的に排除した大日本帝国が巨大星間国家にまで成長したことでより高まったのだった。
こうして日本帝国は内部不和が増大していった。