アトランティス帝国がマブラヴ世界に食糧支援を始めてから三年が過ぎた。
この僅か三年で何とか食糧生産能力が何とか回復した。これにはカリンが地球環境を一気に回復したのもあるが、合成食が地球の食糧事情を改善させることに成功したからだ。
これを受けてアトランティスはマブラヴ世界からの撤退を決定した。
これに驚いたのが地球各国であった。彼らはアトランティスが地球の覇者となり自分たちは彼らの属国になるしかないと思っていた。実際、アトランティスに一切頭が上がらない状態だったのだ。
しかし、彼らは支援するだけ支援して地球が何とか自立できる状態になるとさっさと撤退してしまったのだ。
各国はアトランティスの思惑が全く読めなかった。ここで「ただ単にアトランティスが慈善活動をしてくれていただけじゃないの?」と、能天気に考えるのはお気楽な一般人だけであった。
各国の為政者たちはアトランティスの思惑が全く読めなかった。
何しろ彼らは見ず知らずの異世界に投資するだけ投資して、それを回収しようともせずにあっさりと撤退してしまったのだ。彼らの常識からすればありえない事だった。
アトランティスに怯えていたソ連などはアトランティスにいつ潰されるか不安の日々から解放されたこともあったから狂喜していた。
これまで抑えていた革命輸出を再開して大いに動き出していく。
一方、アメリカは一連の食糧支援で何とか反米感情を抑えることに成功した上に、元々地球随一の国力を保有していた事もあり、未だに大国として存在していた。最もそんな彼らもこれまでの反省から強圧的な外交は控えて大人しくなっていた。
アメリカも昔のように強者として傲慢な行動をしていては拙いと判断したのだ。
EUはアメリカ叩きが上手くいかず、その後の食糧支援の事もあって反米活動を控えざるを得ない状態となってしまう。その為、アメリカが力を取り戻すのをみすみす見逃す羽目になったが、それよりも荒廃しきった祖国の復興を優先しなければならなかった。
日本帝国は、結局アトランティスとまともに交渉することは最後までできなかった。アトランティスは一貫してアメリカを地球代表として扱い続けてきたからそれも当然だったが、彼らはそれが大いに不満だった。
この結果、上層部の間で他の異世界国家と接触しようという案も出てきたが、どうやってそれを実行するのかという問題により頓挫した。
最も仮に接触に成功したとしてもその異世界国家が友好的だとは限らない。BETAのように話し合いも不可能で敵対的な存在だったら目も当てられなかっただろう。
また日本内部で将軍の権威が低下しており、武家にしても不要と考える世論が大きくなってきたこともあり、それに反発した武家の行動も相まって政治がますます混沌としていった。
「これで面倒な事も終わりね」
カリンは三千世界監察軍アトランティス支部の会議でマブラヴ世界での最終報告を聞いてそう呟いた。
「彼らには本当に迷惑を掛けられましたな」
と、宰相がため息交じりにいう。
彼らのおかげでこうむった迷惑を考えれば確かにそう言いたくもなるだろう。勿論、アトランティスの国力からすればその程度は微々たるものだが、迷惑な事には違いなかった。
食糧生産能力の不足を補う為に食糧支援を行うようになってすぐにカリンは第七基幹艦隊と共にマブラヴ世界から引き揚げた。
言うまでもないが仮にも帝政国家のアトランティス帝国皇帝がいつまでも留守では困るし、一個基幹艦隊ほどの戦力をいつまでもあの世界に配置しておく理由もなかった。そこで十基のスペースコロニーの管理と食糧支援の為に一個戦隊(艦艇が約500隻の小部隊)に後を任せたのだった。
その戦隊を指揮するブルックス准将(アトランティス支部のトリッパーの一人)は思いのほかいい仕事をして、問題なく食糧支援を終わらせて撤退した。
そういえば妾たちが結局何も要求することなく引き揚げた事で、マブラヴ世界の連中は唖然としていたと報告があった。まぁ人類の結束とか国際協調とかがこの上なく似合わない連中だけに、余計に彼らからすれば理解できない事でしょうね。
しかし、アトランティスからすればマブラヴ世界と関わっても面倒なだけである。関わらない方がいいが、その辺りはトリッパーでなければ理解できないだろう。
アトランティスとしても別に理解してもらう必要もない、というかそこまで我々の内情を知られるワケにはいかない。
マブラヴ世界のトリッパー達にしても現時点で既に半数近くが監察軍本部に移動している。その多くがマブラヴ世界に早々に見切りをつけて監察軍に行くことを選んだ者たちであったが、彼らは地球残留組と協力していたので、カリンとしても彼らの要望には配慮していたのだ。まぁそれもここまでやれば十分だろう。
しぶとくマブラヴ世界にいることにしたトリッパー達にしても後は何とかなるレベルなのだ。我々がこれ以上手を煩わせることもない。
「さてと、あの世界に関わる事はもうないでしょうね」
「そうですな。結局BETAの創造主もいなかったようです」
原作ではBETAは珪素系知的生命体によってつくられた自動資源掘削機であるとされていたが、彼らの存在は一切登場することはなかった。アトランティス支部ではこれである仮説がでた。
それはBETAの創造主たる珪素系知的生命体はとっくに滅亡しているのではないか、という物だった。というのもBETAが宇宙のほぼ全域で活動している事だった。普通に考えればそこまでBETAが増殖するには途方もない時間が必要になる。それなのにいつまでも馬鹿の一つ覚えにG元素だけを大量に生成している状況だ。
いくらなんでもこれは可笑しいと、思い調査したところ、アトランティスが干渉しているマブラヴ世界には珪素系知的生命体が存在しなかった。つまり彼らはとっくに滅亡していたのだ。
面倒だったので他のマブラヴ世界の並行世界までは確認していないが、少なくともあの世界においてはBETAの資源採掘は全く無意味だった。何しろその資源を欲している主がいないのだ。
こうしてみると、BETAは本当に欠陥品だ。珪素系生命体しか生物として認識できず、炭素系生命体を絶滅に追いやるという安全装置の欠陥。
そして、自分たちの文明が滅びた時の対策なんかも組み込んでいなかったのだ。もしも、命令を出す彼らと一定期間連絡が取れなければ行動を中止するなどといった安全策も取られてなかったのだろう。
その結果、マブラヴ世界であのような悲劇が起きたのだ。
これはアトランティスにとって別に問題ではなかった。というものクロスゲート・パラダイム・システムであの世界のBETAを一掃しても珪素系生命体と揉めることも、彼らが再びあの世界でBETAをばら撒く危険もないということなのだ。
だからスムーズに事は進み、片付いたワケである。
アトランティスとしては別に珪素系生命体と戦争になっても勝てるのは分かりきっているので問題なかったが、無駄な争いをやりたいワケではなかった。大体、国益にもならない慈善活動を嫌々やらされた挙句、高度な文明を持つ知的生命体と戦争になるなど馬鹿らしくてやっていられないのだ。
「あの世界もいろいろ問題は残っているけど、それはあの世界に人間たちが努力して何とかすればいいわ」
あの世界の地球は救われたとはいえ、各国の復興問題を初めとして、やるべきことはいくらでもあるだろう。しかし、カリンはそんな事まで一々面倒を見てやるつもりはない。
後は彼ら自身が解決していくべき問題なのだ。
あとがき
これで『旧石器時代からスタート』は終了です。元々は第一次ベヅァー戦争によって大損害を受けた監察軍の対応から始まったこの計画によって、ブリタニア一極体制から列強三カ国体制による下位世界に管理体制に移行する過程を書いてみました。