唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ! 作:ユンケ
食堂に着いた俺は券売機に向かう。見ればカレーやラーメンを筆頭に如何にも会社の食堂に置いてあるようなメニューが表記されていた。
(BBFでは食堂の人気メニューについても書いてあったが何が人気なんだっけ?)
BBFは何度も読んだが、そこまで細かいことは覚えていない。もう少し読み込んどけば良かったな。
(仕方ない。シンプルにカレーにしとくか。ぶっちゃけ凄く腹が減っているから何でも良いし)
俺は券売機に金を入れてカレー大盛のボタンを押す。するとチケットが出てきたのでそれを持ってカウンターに向かう。俺は今日まで太刀川隊の作戦室以外には行っていなかったので食堂も初めてだが、前世にて働いていた会社の食堂に似ていたので特に問題ない。
そしてカレーを受け取った俺は食堂の隅にある席に座って食べ始める。うん、前世でよく食べた社員食堂の味がするな。
妙に懐かしい気分になりながらカレーを食べている時だった。
「悪いんだけどさ、相席良いかな?」
いきなりそんなことを言われた。相席だと?既に時計は1時を回っているので食堂は割と空いている。わざわざ俺と相席なんてする必要はないのに。
疑問に思いながら顔を上げて、相席を提案した奴の顔を見ると……
「じ、迅悠一……!」
まさかのS級隊員である迅がいた。予想以上の大物に絶句していると迅は人を食った笑みを浮かべながら頷く。
「うんそう。俺は実力派エリートの迅悠一、よろしく」
「は、はい。よろしくお願いします」
「うん。それでさ、ちょっと相席しても良いかな?」
ニコニコと笑いながらそんな事を言ってくるが返答に窮してしまう。
正直に言うと迅とは余り関わりたくない。原作でも飄々と掴み所のない人間だったのはハッキリ覚えている。
前世にてワールドトリガーのファンとして迅はカッコいいと思うが、転生した俺の立場からしたら余り、というかメチャクチャ関わりたくない。多分俺に相席を頼んだのも何かしらの意図があるのは容易に推測出来るし。
しかし明確に拒否するのも立場的に気が引ける。何せ向こうはボーダーの中でも最重要な存在なのだから。一応今の俺は入隊したばかりのひよっ子だから拒絶するのは難しい。
(仕方ない。了承はするが速攻で食べて逃げよう)
そうするしかない。迅には急用があると言って逃げれば良いし、周りにいる第三者が咎めてきたら『S級隊員と飯を食うのは恐れ多い』って言い訳すれば良いか。
「どうぞ」
「ありがとね」
迅は笑いながら礼を言って俺の向かい側に座ってラーメンを食べ始める。様子を見る限り、今の所特におかしいところはないが、コミックス4巻で迅は意味のない事はしないって嵐山が言っていたから俺と相席したのにも意味がある筈だ。
そんな事を考えながらも俺は残っているカレーを一気に食べるべくスプーンを「そういえばさ」取ろうとしたら目の前にいる迅が話しかけてくる。
「な、何ですか?」
一応この世界では俺は迅の後輩なのでシカトする事は出来ない。周りに人が結構居る中でシカトなんてしたら評判が下がるだろうし。
え?元々下がってるから大丈夫だって?馬鹿野郎!これ以上下がったら上げるのが難しいじゃねぇか。
閑話休題……
俺が若干警戒している中、迅の口が開く。
「率直に言うけどさ……君、唯我じゃないだろ?」
いきなりの不意打ちだった。迅の顔を見ればさっきまで浮かべていた人を食った笑みは消えていて、真剣な表情を浮かべていた。
「……何を言っているんですか?俺は唯我尊ですよ」
自分で言うのもアレかもしれないが、ここで動揺を表に出さなかった俺は凄いと思う。迅に見抜かれたかはわからないが、多分顔に動揺を出してないと思う。
「身体はね。でも中身は違うでしょ」
迅は断言する。確信を持った口調は俺に息を呑ませる。そんな態度を出したら自白しているようなものだと理解しても、誤魔化すことが出来ない。
「……」
「沈黙は肯定とするよ。それで君は誰なんだい?ボーダーの敵?」
なるほどな……それが目的で俺に近寄ってきたのか。
しかし敵かどうか判断が難しい。俺は別に近界民ーーーアフトクラトルやガロプラの連中に情報を売って三門市に危害を加えるつもりはない。こっちの世界にやって来た近界民やトリオン兵を排除する考えに異論はない。
しかし味方だと断言するのは難しい。別にボーダーと敵対するつもりはないが、唯我尊の肉体で強くなったり、ボーダーの女子を狙っているなど原作改変を行おうとしている。それがボーダーにとって良い方向に向かうかは判断出来ない。
よって返答に窮していると迅は苦笑いを浮かべる。
「おいおい。味方か敵か答えるのに悩むのか?」
しまった。考え事をし過ぎた。下手したら疑われるな。
「すみません。ただ一つ言うなら……俺は街に被害を与えるつもりはありません。これについては嘘ではないです」
俺が暴れて街に打撃を与えた所で即座に取り押さえられるのがオチだし、何だかんだ防衛任務をやっている内に仕事に誇りを持つようになったし。
俺がそう言うと迅は納得したように頷く。
「だろうね。まあ本人の口から聞けて良かったよ」
「そうですか……というか余り疑ってないんですね」
俺が迅の立場ならもっと疑っている自信がある。
「うん、元々君が街に危害を与えないって俺のサイドエフェクトが言っていたしね」
出た。迅の名台詞。原作を読んだ時もインパクトが強かったなぁ……
「ただ気になるのは、どうして精神が変わったの?もしかして二重人格?」
「いえ、二重人格ではないです。それと理由についてはいつか話すので今追求するのは勘弁してください。」
ぶっちゃけ自分の正体については余り話したくないし、上手く話せる自信がない。何せ俺は転生者だ。
俺が『仕事をしていたら、いつのまにかワールドトリガーって漫画に出てくる唯我尊に転生した』なんて言っても絶対に信じてもらえないだろう。嘘を見抜くサイドエフェクトを持つ空閑がいるならともかく。
「良いよ。ただ君の力が必要になる時は必ず来る。その時には力を貸して欲しい」
俺の力が必要になる時……つまり原作で起こるイベントだと思う。まあ原作ではラッドによるイレギュラー門だの空閑の入隊だの第二次大規模侵攻などにおいて、原作知識は役立つだろう。
「……わかりました。その時になったら協力します」
俺としてもこの世界に転生した以上、しっかりと働くつもりだ。その為に迅に協力するのは吝かではない。
俺が了承すると迅は満足したように頷く。
「ありがとね。いや〜、良かった良かった。一応断られる未来もあったから不安だったよ」
え?俺が断る未来もあったんだ。俺の中では断るって選択肢は無かった……もしかして無意識のうちに断るって選択肢を作っていたのか?
「そうですか。ちなみに何で俺が唯我尊の精神でないと見抜いたんですか?」
太刀川隊のメンバーには何度も何度も『お前は本当に唯我か?』って質問は何回もされたが、ここまで断言したのは迅が始めてだ。未来視のサイドエフェクトがあっても精神の鑑定は出来ない筈だ。
だから俺は思わず見抜いた理由を尋ねてしまう。
「ん?それはな、確定していた未来が変わったからだよ」
確定していた未来が変わった?どういう事だ?
俺が頭に疑問符を浮かべていると迅が口を開ける。
「俺のサイドエフェクトは少し先の未来を見るんだけど、確定しているような未来は年単位先まで見れるんだ。それで入隊した直後に唯我尊の未来を見た時は何年経っても太刀川隊のお荷物扱いされている未来だったんだよ。だけど……」
迅は水を飲む事で一旦区切り、コップにある水を飲み干すと再度口を開ける。
「さっきランク戦をしている君を見た時、お荷物ではなく太刀川隊のメンバーとして活躍している未来が見えた。未来は少しの事で幾らでも変わるけど、確定していた未来が変わった事は初めて見た」
「なるほど……確定した未来が変わる理由があるとしたら、唯我尊の肉体に宿る精神が変わったからって思ったんですね?」
「うん。今の君は上層部から聞いてきた話と全く違うしね。それで俺は二重人格だと思ったんだけど、二重人格って考えは違うんだよね?」
「違います」
二重人格というより輪廻転生だろう。前世も人間道だったけど。
「なるほどね〜。あ、それと連絡先を交換しとこうぜ。もしも困った事があったらこの実力派エリートが力になる」
カレーを食べるのを再開すると迅はポケットから携帯を取り出して俺に渡してくるので、俺もポケットから携帯を取り出してそのまま連絡先を交換する。
正直に言うと迅とは余り関わりたくないが、状況によってはこの男の助けが必要になる可能性があるからな。加えてここで拒否したら敵愾心があると疑われてしまうし。
「じゃあ俺はもう行くけど。話に付き合ってくれてありがとね」
迅はそう言ってから空になったラーメンの容器を持って立ち上がって去って行く。いつの間に食べ終わったんだ?俺の方が先に食べていたというのに……
(いつかバレるかもしれないとは思っていたが、予想よりも遥かに早かったな……)
まあバレちまったものは仕方ない。それに迅の様子を見る限り俺の正体を知ったからってどうこうするようには見えなかったし。
(原作改変……どうなるかはわからないが、まあ何とかなるだろう……多分)
ヤバくなったら迅が忠告するだろうしな、うん。
そんな事を考えながら俺はカレーを食べるのを再開したが、若干冷めていて、迅の話を聞きながらも食べるべきだったと後悔したのだった。
ヒロインは何人まで希望?4人は確定
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