唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ! 作:ユンケ
「終わったわね。唯我君に出来るのは1秒でも長く生き延びることだけね」
観戦室にて加古望がそう呟く。視界の先にあるモニターでは自分の元チームメイトにしてNo.1射手の二宮匡貴が大量分割したハウンドで唯我尊を追い詰めている。
対する唯我尊はレイガストとシールドを巧みに駆使して防御している。現時点ではトリオン体にダメージはないが、歌川と戦った時に比べて余裕が全く無く、本人も必死な表情を浮かべている。
直ぐにはやられないと思うが、逃げきれるとは思えない。
「あの、やっぱり唯我君は厳しいですか?」
加古の隣に座る那須が質問をする。
「厳しいどころか無理ね。実力差もあるけど、相性が悪過ぎるから」
「相性、ですか?」
「玲ちゃんに復習として質問するけど、銃手・射手の特徴と欠点はわかる?」
那須は質問をされたので改めて考え直す。B級に上がって初めての防衛任務で加古から説明を受けたが……
「特徴は少し離れた場所から視野を広くして、射撃と戦術で戦局をコントロールする事。欠点については射撃トリガーの威力が低いのに加えて、シールドの性能が上がっているので攻撃手に寄られると不利な事です」
那須の返答に加古は頷く。
「その通り。基本的に銃手と射手は攻撃手に寄られないようにするポジション。だけど唯我君は違う」
お茶を飲んで一息ついてから改めて口を開ける。
「唯我君はレイガストで攻撃手の攻撃を捌き、相手がイライラして攻撃が乱れたらカウンターを仕掛ける異色の射手」
実際ボーダーで古株の加古からしても唯我の戦い方は異常だ。これまで見た銃手や射手は攻撃手に寄られたら、時間稼ぎをするか仲間と合流するのが基本であった。
しかしまさか攻撃を捌いてカウンターをするとは予想外であった。寧ろ射撃トリガーを使う攻撃手じゃないのかと思ってしまっている。
「つまり唯我君は攻撃手に寄られても対処出来るから銃手・射手の弱点を克服出来てるの。けど反面として防御に比重を置いているが故に射撃トリガーの撃ち合いを苦手としている」
「あっ……確かに歌川君と戦っている時、射撃する時に殆ど動いてませんでした」
戦局をコントロールする事が仕事である射手が殆ど動かないのは普通じゃない。恐らくレイガストの重さが原因で機動戦が出来ないかもしれないが、射手らしくない。
「そして二宮君は持ち前のトリオンをふんだんに利用したゴリ押し戦術を得意として、機動力が高くない唯我君は格好の的ね」
幾ら防御力が高くてもいずれ削り殺される未来が容易に想像できる。
「加えて唯我君のトリオンは平均よりちょっと下で、二宮君の半分以下だし、唯我君の射撃は簡単に防がれるわ」
「で、でも唯我君にもチャンスはありますよね?レイガストによる投擲なら……」
那須は先程唯我が見せたスラスターを利用したレイガストの投擲を思い出す。あの威力なら一矢報いることも不可能じゃない。
「確かにアレなら二宮君を倒せるかもしれないけど逆に言うと二宮君を倒せる武器はそれしかないわ。二宮君もそれをわかってるから、油断しないで唯我君を一方的に攻撃出来る距離をキープしている」
モニターを見れば二宮は激しい攻撃をしているが、逃げる唯我との距離をキープしているし、両攻撃をしないことで即座にシールドを展開できるようにしている。
これなら唯我が相打ち狙いで攻撃してもガードされるし、ガードを突き破ってきた場合でも回避出来る状態である。
「でも出水君の方に逃げてるし、チームとしては勝てるかもしれないわね」
加古が呟く中、モニターでは爆発が生じた。
ドドドドドドドドッ
轟音と共に周りの建物か壊れ、その衝撃で地響きが聞こえてくる。ハッキリ言って災害だ。
しかしそれを意識を向けるわけにはいかない。何故なら災害を引き起こす怪物がこっちを見て、攻撃しているからだ。
目の前にいる怪物、二宮は冷たい表情でキューブを取り出して何百に分割して射出してくる。
当然食らうわけにはいかないのでシールドを展開するが、即座に破壊されて手に持っているレイガストにも襲いかかる。
「ぐうっ……!」
手に伝わる衝撃に何とか耐えているが、何度も二宮の攻撃を受けたレイガストが破られて、俺の右手が飛ばされる。
それによりトリオンが大量に漏れたのを自覚しながらも新しくレイガストを作り直し、グラスホッパーを使って後ろに跳ぶ。
出水との距離は200メートルちょい。出水は自分に100メートルくらいまで近づけと言われたので、後100メートルちょい。
普通に走れば余裕だが二宮に背を向けたら即死するので、二宮と向かい合い尚且つ攻撃を防御しながら行かないのいけないので物凄く時間がかかっている。
既に二宮と邂逅してから1分ちょい経っているが、既にトリオンは多く削れたのに進んだ距離は100メートルちょい。
つまり出水のオーダーに従うなら後1分ちょい、二宮の攻撃をやり過ごさないといけないが……
「メテオラ」
二宮はそう呟くと、地震と俺の中心付近の地面にメテオラを撃ち込み、地面を爆発させる。
爆風が生まれ、嫌な予感がしたので俺はシールドモードのレイガストを前方に置いて、更に固定シールドを展開して守りの体勢に入る。どんな攻撃をしてくるかはわからないが、即死はないだろうから一発やり過ごしてから逃走すれば……っ!
そこまで考えていると煙の中から弾丸が8発飛んでくるが、飛んできた弾丸はレイガストを簡単に破壊して……
「嘘、だろ……?!」
固定シールドをボロボロにして、挙句に3発は俺の左手と脇腹、右足を吹き飛ばした。
『警告、トリオン漏出甚大』
そんな警告音が聞こえると同時に煙が空へ上っていく。
(あの破壊力……間違いなく徹甲弾だな)
さっきのメテオラは合成弾を撃つための目眩し且つ時間稼ぎって訳か。嫌な予感がしたから守りに入ったが、その守りを破ってくるとは……トリオン量という努力じゃどうにもならないって現実を嫌でも考えてしまう。
トリオンは殆ど無く、両手と片足がない俺にもう出水のオーダーをこなすのは無理だ。それについては仕方ないがせめて最後に一矢報いてやるつもりだ。
そう思う中、ついに煙が晴れてトリオンキューブを分割する二宮を確認すると同時に俺はレイガストを展開して、それを口に咥えて……
「ふらふたー、ほん!(スラスター、ON!)」
スラスターを起動して二宮の元に一直線に突き進む。推進力を感じながらも二宮との距離を詰めるが、二宮は冷静さを崩すことなく指を向けてくる。
「無駄な悪あがきだ」
二宮の言葉と共に放たれた弾丸は俺の下半身を吹き飛ばし、レイガストの一部を破壊してレイガストの推進力を破壊する。
しかしまだ終わりじゃない。ベイルアウトまで数秒あるはずだ。だから……
「グラス、ホッパー……」
最後にグラスホッパーを欠けたレイガストにぶつけて、レイガストの欠片を二宮に飛ばす。
更に悪あがきをしてくるとは思わなかったようで二宮が驚く中、レイガストの欠片は、二宮の右足を僅かに削る。
『戦闘体活動限界、緊急脱出』
最後の悪あがきが成功したのを自覚する中、そんなアナウンスが頭に流れ俺の身体は光に包まれた。
最後は泥臭く格好悪かったが、初陣としては悪くない結果、だよな……?
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