唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第19話

モニターにて唯我がベイルアウトすると二宮隊に1点が追加される。これで太刀川隊と二宮隊が1点ずつで風間隊が0点となる。

 

「唯我君……」

 

モニターを見る那須は残念そうに唯我の名前を呼ぶ。那須も唯我が勝てる確率は限りなく0に近いと思っていたが、いざベイルアウトすると残念な気持ちになってしまう。

 

その時だった。

 

「はっ、あんな無様にやられるなんてな。俺だったら恥ずかしくて死んじまうぜ」

 

「どうせ勝てないんだから諦めたら良いのに」

 

「マグレで1点取れて良い気になったんだろ。所詮コネ入隊のお坊ちゃんだしな」

 

「たかがランク戦で熱くなるなんて、寒っ」

 

そんな風に唯我を馬鹿にする一部の隊員が那須の目に入る。耳には不愉快な嘲笑も聞こえてきて、那須は思わず立ち上がろうとするが加古が止めに入る。

 

「放っておきなさい。あんな先のない人間に文句を言うなんて時間の無駄よ」

 

予想よりも冷たい声で止める加古に那須は息を呑む。

 

「先がない、とは?」

 

「言葉通りよ。今の唯我君の戦いを嘲笑うような人間は強くなれないし、ボーダー隊員として失格よ」

 

「断言しますね」

 

「当然よ。チームランク戦はチームのランクを決める試合でもあるけど、本質はチームの練度を上げる訓練よ」

 

「はい。実際ランク戦前には予習をしますし、負けたら反省会をやりますし、勉強だと思います」

 

那須は頷く。自分としてはチームメイトと勝ちたいと思っているのでランク戦前には予習をしっかりとするし、負けたら次は同じ負け方をしないように復習をしている。

 

「ええ。そしてチームランク戦が訓練なら、本番は何かわかる?」

 

加古の問いに那須は一瞬だけ考える素振りを見せるが、直ぐにハッとする。

 

「3年近く前にあったような侵攻、ですよね?」

 

「そう。C級時代にやった合同訓練も個人ランク戦もチームランク戦も全て今後起こるかもしれない大規模侵攻に備えた訓練。ボーダーとしてはあの時の二の舞にならないように働いているわ」

 

「そうですね。私の家は無事でしたが、友達は家を失ったり引っ越したりしましたね」

 

那須の友人の中からは死者は出てないが、三門市を去った友人は数多くいる。しかし那須は寂しいが仕方ないと思う。生身でトリオン兵に追われたらトラウマになってもおかしくないのだから。

 

「そして大規模侵攻がまた起こったらボーダー隊員は市民を守る為に持てる力を全て出さないといけない。それこそさっきの唯我君のように勝てない敵と相対してピンチになっても、最後の最後まで悪あがきをする事がボーダー隊員としての責務よ」

 

加古がそこまで話すと那須は理解した。つまり……

 

「訓練で悪あがきをしないで嘲笑う人は、本番の大規模侵攻でボーダーの責務を果たせない……って事ですか?」

 

那須の質問に加古は頷く。

 

「ええ。今笑った人達は所詮は訓練で熱くなる必要はない、本番ではちゃんとやれるって考えてるようだけど、練習しないで本番で出来るわけないじゃない。そんな連中に構っても時間の無駄よ」

 

加古の言葉にさっきまで怒っていた那須は落ち着きを取り戻していく。

 

「そうですね……見苦しい姿をお見せしました」

 

ペコリと頭を下げて椅子に座り直す。

 

「良いのよ。それにしても玲ちゃんが怒りを露わにするなんて思わなかったわ」

 

さっきまでとは一転して楽しそうに笑う加古の言葉に那須は恥ずかしくなる。

 

「か、からかわないでください」

 

「ごめんごめん。それで?前から気になってたんだけど唯我君とはどこで知り合ったの?」

 

楽しそうに聞いてくる加古に那須は逃げれないと判断したのか、恥ずかしそうに口を開ける。

 

「……以前道端で体調を崩したんですが、その時に通りかかった唯我君が車を呼んで自宅まで運んでくれたんです」

 

「なるほどね。てっきりスポンサーと広告関係かと思ったわ」

 

「いえ。そういった仕事で唯我君と関わったことはないですね」

 

唯我はボーダーのスポンサーの息子で、那須は体が弱い人をトリオン体で元気にできないのかというテーマの研究に参加する形でボーダーに入隊してテレビでPRした事もあるので、そういった類の繋がりと加古は考えていた。

 

「なるほど、つまりプライベートな関係って訳ね」

 

「……間違ってないですけど、妙な言い方じゃないですか?」

 

「気のせいよ」

 

加古は笑いながら顔の横に星を作りながらモニターを見る。モニターでは二宮が動いているが僅かだが削られた右足が引っ張られる形なので、本来の速度よりかなり遅くなっていた。

 

(まあ私としては二宮君のあんな表情を見れて満足ね)

 

加古は二宮の不機嫌丸出しの表情を見て、楽しそうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

光に包まれたかと思えば、気がつけば背中に軽い衝撃が走りベッドに横たわっていた。

 

二宮の攻撃によりベイルアウトした俺は身体を起こす事なく、さっきまでの試合を思い出す。

 

初陣がA級ランク戦で1点取り、敵チームの隊長をある程度足止めした。

 

第三者から見たら実績を残しただろうし、俺自身もチームに貢献出来たと思う。

 

しかしそれでも尚悔しい気分だった。歌川と戦った時に歌川が苛立つまで粘ったから崩せたが、歌川が苛立つ前に隙を見つけて反撃して倒せたら二宮に捕まらずに出水に合流出来た。

 

それに歌川を倒せたのも二宮のハウンドが歌川を縫い付けたからだ。仮に二宮のハウンドが無かったら、レイガストの投擲で倒せなかった可能性もある。

 

二宮相手に殆ど何も出来なかったのは仕方ない。今の俺じゃ実力差があり過ぎるからな。

 

しかしメテオラによる爆風が生まれた時に逃走を選択していたら、二宮が徹甲弾を作って放つ前に距離を取れたかもしれない。

 

最後の悪足掻きについても結果的に二宮の足を少し削れたが、第三者からしたら滑稽に見えたかもしれない。

 

ベイルアウトしてからアレをやっておけば……って考えているようじゃまだまだ未熟だ。

 

(とりあえず今回の戦いで俺が目指すべきスタイルは見えてきた)

 

基本的な攻撃手や射手になるつもりはない。何故ならウチの隊の戦闘員は基本を極めているからな。俺が同じように努力してもデッドコピーでしかない。

 

俺は俺にしか出来ないスタイルを身に付ける。誰かのスタイルを参考にすることはあっても同じスタイルにはしない。

 

そしてそのスタイルを極めて太刀川隊で活躍出来るようになりたい。

 

 

 

唯我尊に憑依した当初の目標は『強い唯我尊となってボーダーの可愛い女子と仲良く、あわよくばハーレムを築く』だが、ただ強くなるのでなく、どうやって強くなるかを考えるのは楽しい。

 

前世でワールドトリガーを読んだ時、自分だったらどんなトリガー構成にするか妄想をしたが、いざランク戦を経験するとトリガー構成について深く考えてしまう。

 

最終目標がブレることはない。ボーダーの可愛い女子と深い関係になりたい気持ちは変わらないが、それまでの道のりは長いし、道中楽しむことにしよう。

 

そう思いながらベッドから降りて、国近がオペレートする部屋に戻る。

 

「お疲れ〜。初陣にしては良かったよ〜」

 

国近はパソコンを操作しながら、のほほんとした表情で労ってくる。そんな表情を見ていると癒される。

 

「お疲れ様です。しかし実際に終わってみると、色々な課題が見えてきました」

 

本当に色々考えさせられたし、良い経験になったのは間違いない。

 

「なら良かった。これからも頑張りたまえよ」

 

国近は頭をポンと叩いてからオペレートに移る。国近からしたら後輩の頭を叩いただけだろうが、俺からしたら子供に子供扱いされたようなもので、何とも複雑な気分だ。

 

そんな事を考えながら国近の後ろからオペレートを見るが、オペレーターって機器の操作上手いなぁと思ってしまう俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ」

 

「どうしたんですか、加古さん」

 

「大した事じゃないわ。唯我君は初陣で頑張ったから、今日の夕方に太刀川君や堤君と一緒に炒飯をご馳走しようと思っただけよ。玲ちゃんもどう?」

 

「え……す、すみません。今日までくまちゃんとご飯食べる約束してるので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

「どうしたの唯我君?まだ二宮君の怖さが忘れられない?」

 

「いえ、何というか死の予感を感じました……なんだったんだ?」

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