唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第26話

「コーヒーで良いか?」

 

「ゴチになります」

 

リーゼントの男……弓場にそう聞かれたので頷くと、弓場は缶コーヒーを自販機で買って渡してくるので俺は一礼してからチビチビ飲む。

 

(つかなんで俺は呼ばれたんだ?)

 

頭に疑問符を浮かべながら弓場を見る。

 

弓場拓磨

 

B級弓場隊の隊長でポジションは銃手。

 

しかし彼は「離れた場所から弾丸で援護する」普通の銃手ではなく、「近距離にて高威力で高速の弾丸をぶち込む」攻撃手に近い戦闘スタイルの銃手だ。

 

原作では見た事ないし、この世界に来てから弓場のスタイルを知ったが、戦闘記録を見た時は度肝を抜かれてしまったくらいだ。原作を読む限り銃手は援護ポジションと思っていたからな。

 

 

そんな彼は先程個人ランク戦を済ませた俺に対して、時間があるなら付き合って欲しいと言ってきて、俺が承諾するとラウンジまで行きコーヒーを奢って今に至る。

 

「それで何の用でしょうか?正直言って俺と弓場さんには接点がなかったと思いますが」

 

問題はそこだ。俺と弓場は今日まで話したことはない。弓場の年齢は迅と同じだが、太刀川隊に弓場と同年代の人はいないし、心当たりが全くない。

 

「まぁおめェーの立場からしたらそう思うわな。実はお前に頼みがあるんだが、最近ウチの隊に入った帯島は知ってるか?」

 

「えぇ、まあ」

 

帯島ユカリ

 

原作ではまだ登場してなかったがBBFによれば弓場隊の万能手であり、今はまだ攻撃手として弓場隊に在籍している。

 

この世界に来てから戦闘記録を見たがガード、カウンター重視の攻撃手で中々新鮮だった。

 

後ボーイッシュで結構可愛い。まるで妹のような雰囲気がする。

 

「帯島は中々のセンスを持ってるがBに上がったのはつい最近で、来シーズンからチームランク戦に参加する。防衛任務の数も少なくて戦闘経験はまだ殆どねぇ。だからアイツに稽古をつけてやって欲しくておめェーに頼みに来たんだよ」

 

「はぁ……でも同じガード、カウンタースタイルでも俺はレイガスト、彼女は弧月を使うんで参考になるかわかりませんよ」

 

刃トリガーについて、防御にリソースを割くのは同じだがレイガストと弧月では全く違う。

 

「いや、防御やカウンターじゃなくてアイツには攻めパターンを増やして欲しいんだよ。そんでおめェーの防御力を見て力を借りたいと思ってな」

 

なるほどな。確かに俺の防御力は、マスタークラス以下の攻撃手なら殆ど凌げるレベルに達している。そんな俺を訓練相手に使えば、「どうやって防御を崩せばいいのか」を考え続け、必然的に攻撃パターンを増やさないといけないし、方針としては悪くない。

 

そして個人ランク戦ではなく、わざわざ俺に頼むという事は秘密裏に鍛えたいのだろう。

 

来シーズンまでに個人ランク戦をやりまくれば強くなれても敵に情報を与えてしまうからな。

 

「話はわかりました。結論から言いますと俺は構いません。ただその代わりと言ってはなんですが、こちらのお願いも聞いていただけないでしょうか?」

 

「何だ?」

 

弓場にそう言われたので俺はお願いを口にする。すると弓場は目を見開くがやがてニヤリと笑う。

 

「面白ェ事考えるな。良いぜ、ギブアンドテイクだ」

 

「ありがとうございます。とはいえその件については暫くはやらないつもりなんで、帯島の方の話にしましょう。わざわざ俺に頼むって事は太刀川隊か弓場隊の作戦室で訓練をするのは当然ですが、今日から早速やりますか?」

 

個人ランク戦については早く切り上げたのでかなり体力は余っているので、今からやっても問題ない。

 

「いや、俺達はこれから防衛任務だから明日以降に頼む」

 

「わかりました。では俺のシフトを渡しますので、御宅のシフトと被らない日にしましょう」

 

「だな。んじゃ連絡先を交換するぞ」

 

そう言われたので携帯を取り出して連絡先を交換する。そして弓場のアドレスを確認するとシフト表を送信する。

 

「送りましたので今日の夜に都合の良い時間とかを教えてください。可能な限り力になります」

 

「悪ぃな」

 

「お気になさらず。では宜しくお願いします。話が終わりなら失礼します」

 

「あぁ。んじゃ宜しく頼むぜ」

 

最後に一礼してからこの場を去る。予想外の邂逅であったが、気にしない。遅かれ早かれ弓場には接触する予定だったし僥倖と言えるだろう。

 

作戦室に戻るべくエレベーターを待っているとドアが開くので中に入ろうとした時だった。

 

「あ、唯我君。ちょうど良かったわ」

 

エレベーターには那須がいて微笑みを浮かべてくる。

 

「あ、どうも。ちょうど良かったってどういう事ですか?」

 

内心照れながらも動揺を見せないように注意しながら質問をする。

 

「元々唯我君に用があったの。今週の土曜日なんだけど、予定とかある?」

 

「いえ。防衛任務は入れてないですが」

 

「もし唯我君に用事がないなら、一緒に映画に行かない?チケットが2枚手に入ったの」

 

何だと?!まさかのデートのお誘いだと?!絶対に行きたい。

 

しかしがっついたら引かれるのは間違いないから落ち着いた対応をしよう。

 

「俺としては興味はありますが、チームメイトとは行かないのですか?」

 

「くまちゃんは柿崎さん達とバスケットで遊ぶ約束をしてて、茜ちゃんは家族で日帰り温泉に行くみたいで、小夜ちゃんは外に出るのが好きじゃないからね。それで前からお世話になってる唯我君を誘おうと思ったの」

 

「そうでしたか。ではご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

「ええ。じゃあ集合場所や集合時間は金曜日の夜にまた話しましょう」

 

「わかりました。当日は宜しくお願いします」

 

「ええ。楽しみにしてるわ」

 

良し、言質はとった。いよいよ初めてのデートだ。このチャンスをモノにしないといけない。

 

もちろん今回のデートで付き合えるなんて微塵も考えてはいないが、また次も遊ぶことが出来るようにするのは絶対だ。

 

そこまで話していると太刀川隊作戦室がある階に着き、ドアが開く。

 

「元々俺に用があったなら作戦室でお茶でも飲んで行きます?いいとこのどら焼きもありますよ」

 

ついでに3日前に作戦室を掃除したので特に汚くないので招いても問題ないはすだ。

 

「そうなの?じゃあお言葉に甘えて」

 

那須が頷いたので一緒にエレベーターから降りて廊下を歩く。正直言って今から土曜日が楽しみで仕方ないが表に出さないようにしないといけない。バレたら引かれる可能性もあるからな。

 

そう決心しながらも廊下を歩き、作戦室のドアを開けると……

 

 

 

 

 

「前から言っているが、大学に入ったらランク戦の数を減らせ。ボーダー推薦を使ったからといって単位が優遇されるわけじゃない。寧ろお前はA級1位として名が知られているのだから……」

 

「……すいません」

 

太刀川は正座をしていて、太刀川の師匠にしてボーダー本部長の忍田が腕を組みながら説教をしている。内容から察するに大学から太刀川が課題をやってない事が報告を受けたのだろう。

 

出水と国近の姿は見えないが逃げ出したのは明白。ここにいるのは危険だからな。

 

そう判断した俺はそのまま作戦室のドアを閉めて、ポカンとしている那須を見る。

 

「取り込み中のようですし、もてなしは出来ないようです」

 

「そうみたいね……ラウンジに行く?」

 

「そうしましょうか」

 

俺達は部屋の中から聞こえる叫び声をスルーして、再度エレベーターに向かって歩き出す。

 

やはりやるべき事を放置するのは良くないな。あんな風に地獄を見ることになるが、そんなな絶対に避けるべきだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの時の俺は知らなかった。

 

那須と出かける土曜日に、この上ない天国とこの上ない地獄を同時に経験するということを。

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