唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第30話

「あの、那須先輩。筐体が色々ありますがどうしますか?」

 

那須に誘われてプリクラを撮ることになったのは良いが、プリクラの筐体は複数あり、どれを選んだら良いのかわからない。

 

那須もゲーセンに慣れてないからが、悩むような素振りを見せているがやがて1つの筐体を指差す。

 

「アレはどうかしら?筐体に男女の写真が載せられているし、男性にも向いているスタンプとかがあるかもしれないわ」

 

「俺はプリクラに詳しくないんで任せます」

 

結果、那須が提案したプリクラに入り、金を入れてから写真撮影の準備をすると……

 

『彼氏は彼女を抱きしめてね〜』

 

そんなアナウンスが流れてくる。

 

「えぇっ?!」

 

那須は目を見開いて驚くが、要するにこの筐体はカップル向けのプリクラって訳だ。男女の写真がプリントされていたのはそういう意味なのか。

 

しかしどうすればいいのか?正直言って抱きしめたいが、引かれたら嫌だ。

 

チームメイトの次に映画に誘ってくれたって事はそこそこ好感度はあると思うが、抱きしめて良いレベルかは判断がつかない。

 

(惜しいが、自分から遠慮するべきだな)

 

俺は即座に判断した。那須が嫌じゃないかもしれないが、今回のデートの目的は今後に繋げることだ。今後もデート出来るなら抱きしめるチャンスは生まれるだろう。

 

「すみません那須先輩。抱きしめるのは少し恥ずかしいので……」

 

物凄く残念だが、それを出さずに遠回しに遠慮する。本当に残念だが。

 

「そ、そうね。私もちょっと恥ずかしいわ……」

 

那須は俺の意見に同意するが、羞恥の色はあっても嫌悪の色は顔にないので次回以降なら可能かもしれない。

 

「あ、じゃあさっき手に入れたぬいぐるみを2人で持つのはどうかしら?」

 

「なるほど……そうしましょうか」

 

那須の提案に頷くと、那須は鞄からさっき俺がクレーンゲームで手に入れたウサギのぬいぐるみを取り出して右手に持つので、俺は那須の右側に立ち、左手でウサギのぬいぐるみを支える。

 

2人でぬいぐるみを持つ中、撮影される。そうなると次は落書きか。

 

モニターに撮られた写真が表示されるが、ぬいぐるみを2人で抱える姿は……

 

「な、何というか……これはこれで恥ずかしいわね……」

 

那須の言う通りだ。2人で肩を寄せながらぬいぐるみを持つ姿は、まるで子供を持つ夫婦に見えなくもなく、結構恥ずかしい。まあ将来はウサギのぬいぐるみではなく、本物の子供を2人で持ちたいけど。

 

「そうですね……まあ折角撮ったんで落書きをしましょうか。俺はプリクラやったことないんですが、どのような感じでやるんですか?」

 

「えっと……こんな感じ」

 

那須はポーチの中から小物入れを出すが、そこには那須隊で撮ったプリクラがあり、「ずっと一緒」って可愛らしい文字が書かれたり、カラフルなマークが散りばめられている。

 

「じゃあ私は唯我君の周りを落書きするから、唯我君は私の周りを落書きして」

 

そう言われる。先輩の命令に拒否する選択肢はない。

 

しかしそこそこ好感を持たれてるし、ここで多少攻めるか。

 

俺は那須の近くに「優しくて綺麗な先輩」と書き、周りに綺麗系のマークをそこそこ付けてモニターから離れる。

 

次に落書きしようとした那須はモニターを見ると、恥ずかしそうに睨んできた。

 

「ちょっと唯我君……変な事書かないでよ」

 

「えっ?ただ思った事を書いたのですが」

 

「お、思った事って……」

 

「嫌でしたか?俺にとって那須先輩は優しくて綺麗な先輩です」

 

「嫌じゃないけど恥ずかしいわ……あ、そうだ」

 

那須は言うなり、落書きを始めたかと思えば暫くしてモニターから離れて決定ボタンを押し、筐体の外に出る。

 

モニターを見れば、プリント中の文字が出ていてどんな落書きをしたかわからない。

 

やむなく俺も筐体の外に出てプリントアウトされるのを待つ。暫くするとプリントアウトされるので受取口から取り出してみると……

 

「な、那須先輩。これは……」

 

俺の近くには「努力家で可愛い後輩」の落書きと、大量の可愛らしいマークが散りばめられていた。

 

那須にそんな風に評価されて嬉しくもあるが、恥ずかしくもある。

 

対する那須は悪戯をした子供のようにはにかむ。

 

「あら?私は思っただけの事を落書きしただけよ。嫌だった?」

 

「……嫌じゃないですが、恥ずかしいです」

 

「ならお互い様ね」

 

「……はい」

 

どうやら痛み分けで終わったみたいだ。しかし那須に思ったよりも好かれているとわかったし、良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

それから俺達は他のゲームを楽しんだが、那須が何度も可愛らしい反応を見せてくれたので、バスが遅れたのは良かったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間半後……

 

「あ、そろそろ時間ですから映画館に行きましょうか」

 

ゲーセンの後に昼食や本屋、インテリアショップなどを回った俺達だが、ふと時計を見れば上映開始まで15分を切っていたのでここらが潮時だろう。

 

「そうね。それじゃあ行きましょう」

 

那須の言葉に頷き、映画館がある方向に歩いていると……

 

「あら?嵐山隊ね」

 

屋内にある小型ステージにて嵐山隊が四塚市のマスコットキャラと一緒に子供に手を振っている光景が目に入る。嵐山隊は三門市での活動を中心としているが、隣の四塚市で活動していてもおかしくない。

 

木虎はまだ嵐山隊に入ってないが、あのプライドが高く、負けず嫌いの木虎もいずれあんな風に活動をするのだろう。

 

というかアイツは俺に闘争心を剥き出しにするのはやめて欲しい。転生して間もない頃にボコしたからか、会う度にランク戦しろランク戦しろと、俺に対してのみヒャッハー系戦闘員になるからな。

 

「それにしても嵐山隊は忙しそうですけど、ボーダーってある意味ブラック企業じゃないっすか」

 

嵐山隊は普通の防衛任務やランク戦に加えて、入隊式のオリエンテーションや広報イベント、仮入隊の指導などもやっている。現時点で嵐山は高3で綾辻は高1、時枝と佐鳥は中3だが、中高生にしてはブラック過ぎる。

 

前世でブラック企業で働いていた俺から見ても、中高生にしては結構キツいだろう。

 

「そうかもしれないわね。けど上層部からしても仕事を減らすのは難しいと思うわ」

 

「でしょうね。ボーダーはまだまだ生まれたばかりの組織ですから」

 

ボーダーは近界民から街を守る為に必要な組織であるが、組織が公になって三門市と提携するようになってからまだ3年弱しか経っていない。

 

よって組織的にまだ不安視されてる部分が沢山ある。例えば「子供に武器を持たせて戦場に出すのは危ない」とか「近界民を倒せるのはボーダーしか居ないから、それを利用して支配者の立場を狙っている」みたいに批判的な意見も少なくない。

 

もちろんそんな意見にも正当性はある。実際1年半後に起きる大規模侵攻ではC級が拉致されたり死者が出たりするし、ボーダーに良い感情を持ってない政治家もいる。

 

これらの意見を無くすのは無理だが、弱める事は可能だし弱めないといけない。

 

そんな中で重要なのは嵐山隊のような広報担当の人達だ。どれだけボーダーを認めてくれる人を増やせるかは広報にかかっているから、仕事を減らせないのは当然だ。

 

しかし……

 

「那須先輩も広報の仕事を偶にやってますが、もしも負担が多くなったら直ぐに言ってください。上層部に対して、父に出資額を減らすように頼むと脅しますから」

 

那須も偶に体の弱い人に対するコマーシャルに出ているが、体の弱い那須に負担がかかるのは見過ごせない。

 

そしてボーダーにおける最大のスポンサーの息子である俺が脅せば那須の負担を減らせるだろう。

 

「気持ちは嬉しいけど、その辺りはちゃんと考慮して貰ってるわ。だから脅しなんてしちゃダメよ?」

 

那須はメッ、って俺の頭を小さく叩いてくる。仕草が可愛らしい。

 

「わかりました」

 

ともあれ考慮して貰ってるなら脅すつもりはない。

 

俺は頷きながら嵐山隊の行動を眺めながら映画館に向かう。

 

そして映画館に入ると入場ゲートにて、チケットを見せて指定されたシアターの座席に座る。席は後ろ側でそこそこ良い席だ。

 

始まるまで待機していると人がぞろぞろ入ってきて、席の8割近くが埋まったところでブザーが鳴り、辺りが真っ暗になる。

 

そしてコマーシャルを適当に流し見する中、本編の映画が始まるので意識を集中するべく肘掛に手を置こうとする。

 

 

ギュッ

 

しかしなぜか柔らかい感触がしたので目をスクリーンから肘掛に向けると……

 

 

 

「「あ……」」

 

俺の右手は俺同様に肘掛に置こうとした那須の左手を握っているのだった。

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