唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第32話

「じゃあ、那須先輩を名前で呼んでもいいですか?」

 

俺の要求に那須はポカンとした表情になる。

 

「え?そんな事で良いの?何でかしら?」

 

不思議そうに尋ねる那須に対して俺は深呼吸をして口を開ける。

 

「その、那須先輩と過ごす時間は楽しく、可能なら今以上に仲良くなりたいと思ったからです。その為には名前呼びも1つの考えと思い……」

 

嘘は吐いてない。可能な限り早急に名前呼びできるようになりたいと思っていたからな。

 

そんな俺の意見に対して、那須はクスリと笑う。

 

「本当に欲が無いわね……でも、仲良くなりたいって思ってるのは私も同じ。だから……」

 

一区切りしてから那須は改めて俺を見ると優しく微笑む。

 

 

 

 

 

「その要求を受けるわ。これからは玲って呼んでね………尊君」

 

や、ヤバい。破壊力がヤバ過ぎる……!遅かれ早かれ名前呼びされる予定だったが、破壊力がヤバ過ぎて心臓が煩い。

 

しかし返事をしないのは後輩として論外なので、再度深呼吸をして口を開ける。

 

「はい……ありがとうございます。玲……さん」

 

最後は小さい声であったが、ちゃんと名前呼びは出来た。那須……いや、玲の表情は微笑んだままだ。

 

そして目的地の駅に着いたので降りる準備をする中、手に柔らかな感触が伝わってきたので顔を上げると玲が俺の手を掴んでいた。どうやら電車に乗る前と同様に手を繋いでくれるようだ。

 

そんな玲の手を優しく握り返してから電車を降りて、改札口をくぐる。

 

「ではボーダー基地まで送ります」

 

「そこまで気を遣わなくて良いわよ?」

 

「俺が勝手にやるだけです。それにもう少し玲さんと歩きたいです」

 

「もう…….」

 

玲は仕方ないなぁとばかりに苦笑いするが、俺の手を離すことなく歩き出すのでそれに続く。

 

ボーダー基地は高さ200メートル近くあるので、数キロ離れていてもその威容はハッキリと分かる。

 

「今日は楽しかったわ。改めてありがとう」

 

「こちらこそ良い気分転換になりました。明日からまた訓練を頑張れます」

 

「もしかして新しい戦術を考えてるの?」

 

「はい。まあまだ内容は言えませんが」

 

「意地悪」

 

玲は小さく頬を膨らませるが、凄く可愛らしくもありこっちが悪い事をしてるように錯覚してしまう。

 

「冗談よ。尊君にだってプライバシーがあるわ」

 

「勘弁してください」

 

多分玲が冗談なんて言わなかったら答えていた可能性が高い。

 

「でも、もし訓練で困ったことがあったらいつでも相談して。尊君にはいつも助けられてるから、私も尊君を助けたい」

 

「わかりました。その時はよろしくお願いします」

 

そう返してからは互いに無言の時間が続くが、手から伝わる温もりが幸せな気分にさせてくれる。永遠にこんな時間が続いて欲しいと思う。

 

しかしいずれ幸せな時間は終わりが来る。俺達は遂にボーダーの入り口に着いてしまった。

 

「ここまでで良いわ。わざわざありがとう」

 

玲はそう言ってくる。名残惜しいががっつくのは論外だから素直に受け入れよう。

 

「わかりました。今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ。またね尊君」

 

玲は最後に微笑んでから、トリガーを取り出してゲートをくぐる。

 

ゲートが閉じたのを確認した俺は息を吐く。

 

(とりあえず今日のデートは成功……次回にも繋がったし、互いに名前呼び出来るようになったし、最高の結果だ)

 

この調子で頑張っていこう。そうすれば俺の未来は明るい……が、問題がある。

 

この世界は異世界から侵略者がやって来ているが、それ以外は前世と殆ど変わらない世界だ。

 

よってこの世界にやってきて直ぐに立てた目標であるハーレムの設立はかなり難しい。

 

その辺り、改めて考えておく必要があるな。

 

とはいえ今日明日の事じゃないし、今は考えなくて良いだろう。

 

「んじゃまあ、とりあえず美味いもん食いに行くか」

 

折角最初のデートが成功したんだし、今後の景気付けとして奮発して美味いものを食べてもバチは当たらないだろう。

 

幸せな気分のまま、歩き出そうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?だったらウチの作戦室で炒飯でもどう?」

 

瞬間、先程までの幸せが一瞬で吹き飛び、夏にもかかわらず寒気がやって来た。

 

恐る恐る声のした方向を向くと……

 

「丁度今から太刀川君と堤君にご馳走するところだったし、唯我君にもご馳走してあげる」

 

満面の笑みを浮かべる加古と死刑執行を待つ囚人のような表情を浮かべる太刀川と堤がいた。

 

そんな光景を見ながらも俺の頭の中にはあるアドバイスが浮かんでいた。

 

 

ーーーお前は3日後に本部に来ない方がいい。本部に来たら太刀川さんと堤さんと一緒に加古さんの外れ炒飯で死ぬからーーー

 

3日前に迅に言われたアドバイスで、今になって思い出した。

 

(俺の馬鹿野郎!)

 

言われた当初は警戒していたが、玲に映画に誘われた際、その日はデートの日だからと警戒心が薄れ、玲とのデートが楽し過ぎて完全に忘れていた。

 

しかし俺はギャンブラーじゃないので、何とか逃げる為の言い訳を考えるが、その前に太刀川が笑顔(目は笑ってない)で、俺の腕を掴んでくる。

 

「折角加古がご馳走してくれるんだ。後輩として好意は素直に受け取っておけ」

 

穏やかな口調だが、腕力は強く逃げられる気がしない。コイツ、完全に道連れを欲してやがる。

 

一縷の望みをかけて堤を見るが……

 

「唯我君……お互いに祈ろう」

 

堤は悟ったような口調でそう言ってくる。いやいやいや!祈りたくないから助けろや!

 

「決まりね。じゃあ行きましょう」

 

内心堤を罵倒する間にも、加古のなかでは俺に炒飯をご馳走することが決まったようでウキウキしながら基地に入る。当然太刀川に捕まっている俺も強制的に基地に入れられる。

 

内心絶望しながらも基地を歩き、逃走できないか模索している間に加古隊作戦室に入ってしまった。

 

「じゃあちょっと待っててね」

 

加古は俺達を座らせると冷蔵庫のドアを開けて食材を取り出すが……

 

(あ、終わった)

 

沢山取り出された食材の中に生クリームのパックがあることに気付く。どんな炒飯を作るかはわからないが、生クリームがある時点でゲテモノ炒飯だろう。

 

俺は少しくらいマシな炒飯が出ること、そして生き残ったら風間に太刀川がレポートを俺と出水に任せていることをチクる、と思いながら炒飯が来るのを待つ。

 

そして……

 

 

 

 

 

 

「お待たせー、生クリーム麻婆炒飯よ」

 

予想通りハズレがやって来る。テーブルの上に赤と白のコントラストが禍々しさを醸し出す炒飯が置かれる。ハッキリ言ってクッッッッッッッッッッッッッッッッソ不味そうだ。食ったらマジで死ぬかもしれない。

 

しかし逃げたら面倒な事になるのは明白、覚悟を決めよう。

 

「「「………頂きます」」」

 

同じように覚悟を決めた太刀川と堤と一緒に一口食べるが……

 

(痛ぇっ!)

 

口の中に激痛が走る。不味いんじゃなくて痛い。

 

確かに辛いものを食べると痛みが出るって話もあるが、最初に痛いって感想が生まれるとは……

 

しかも噛めば噛むほど、痛みに加えて不味さが現れる。最早俺は炒飯じゃなくて劇物を食べているのかもしれない。

 

このレベルの炒飯を食べ続けたらいずれ毒耐性のついた肉体が手に入るかもしれない……まあトリオン体だから毒耐性ついても関係ないけどな。

 

 

 

 

 

結果、俺達は無心となって炒飯を食べ進め何とか完食したが、次の瞬間には視界が真っ暗になり、いつのまにか医務室のベッドの上にいた。

 

その際に記憶は残っていたが、口の中に痛みが残っていて、玲とのデートによって生まれた幸せが上書きされていたのだった。

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