唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第35話

ドサッ

 

気がつくとベッドの上に倒れていた。結構良い線行けたがな……まさか空中であれだけの動きを見せるとは思わなかった。

 

『結構危なかったけど、まだまだね。レイガストを投げる際の挙動がそこそこ大きいから、もっと手際良く投げなさい』

 

と、ここで小南からアドバイスがある。言ってる事は間違ってないし、俺自身もっと小振りで投げたいと思ってる。

 

しかし言うは易く行うは難しだ。数メートルの近距離ならともかく、遠くにいる敵に対して溜めを作ってよく狙ってから投げないと当たらない。もちろん改善はしていくが、今日明日には無理な話だ。

 

ともあれ先輩からのアドバイスなので素直に聞き入れよう。

 

「助言感謝します。では2本目、お願いします」

 

その言葉と共に2本目を始める申請をすると、直ぐに承諾されて仮想空間に飛ばされる。

 

既に小南は両手に弧月を構えているので、俺もレイガストを展開して距離を詰めにかかる。

 

(今回は積極的に距離を詰めて相手の動きをレイガストで制限する……)

 

作戦を考えながら、走ってくる小南を迎え撃つべく俺はレイガストを弧月に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、久々のランク戦楽しみだぜ」

 

ボーダー本部の廊下にて、A級三輪隊攻撃手の米屋陽介は伸びをしながらランク戦ブースに向かう。その隣を歩く出水と三輪隊隊長の三輪秀次は呆れた表情を浮かべる。

 

「槍バカは中間試験の補習で放課後も忙しかったからな」

 

「同じ部隊だからって先生に注意された俺は良い迷惑だ」

 

「いや、悪い悪い」

 

ヘラヘラ笑う米屋による対して三輪の頭に青筋が浮かぶ。

 

「期末は2週間前から勉強して貰うぞ。そうでないなら忍田本部長に報告させて貰う」

 

「げっ、それは勘弁。前に太刀川さんが正座させられてたし」

 

「ついでに風間さんにも正座させられてたな。つか三輪隊って槍バカだけぶっち切りで成績悪いだろ」

 

出水の言葉に米屋は口笛を吹きながら目を逸らす。事実米屋以外の隊員は戦闘力が高い。

 

「それを言ったら弾バカの部隊には成績が残念すぎる2人がいるだろ……あ、そういやあの泥臭坊ちゃんって成績良いの?」

 

米屋がつい気になって質問する。ボーダー本部において唯我尊の評判は昔に比べて大分変わっている。C級隊員や一部のB級上がりたては見下しているが、B級中位以上の隊員からは粘り強さが高く評価されている。

 

「唯我?アイツはぶっち切りで頭が良いな。中間試験前に柚宇さんに勉強を教えて赤点を回避させたし、太刀川さんもしょっちゅう課題やレポートのヘルプを求めてるし」

 

「マジで?やっぱお坊ちゃんだから家で凄い教育を受けてんのか?」

 

「その可能性があるな。しかしそんなに成績が良いなら、陽介の勉強を見て貰うように頼んでみるのも悪くないな」

 

「待て秀次。流石に歳下に教わるのは勘弁だぜ」

 

三輪の呟きに米屋は突っ込みを入れる。自他共に馬鹿と判断されている米屋だが、流石に歳下に勉強を教わる事には抵抗がある。

 

そんなやり取りをしながらも個人ランク戦ブースに向かうと、たった今話題になっていた唯我がモニターに映っていた。

 

「噂をすれば……っと、小南と戦ってんのか」

 

「チッ」

 

出水の呟きに三輪は小南を見ながら舌打ちをする。近界民は全て敵と考える三輪からしたら、近界民との交流を望む玉狛支部に所属する小南は敵に近い存在だ。

 

3人の視線の先にあるモニターでは唯我と小南の戦いと、これまでの結果が表示されている。

 

唯我✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎

小南⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎

 

「あー、やっぱこんなもんか」

 

10本勝負で小南が8勝している結果を見た出水は大体予想通りと頭をかく。

 

「けど思ってるよりも食らいついてんじゃん」

 

米屋の言うように唯我は防戦になっているが、小南の腕は無くなっているし、素早い連撃に食らいついている。

 

「……試合時間を見る限り、かなり粘ってるみたいだな」

 

三輪はタブレットを操作して、2人の試合時間を確認するが全試合、3分以上かかっている。

 

「小南相手に3分以上粘れるなら大したもんだろ。ちなみに太刀川さん相手だとどれくらい勝てんだ?」

 

「10本勝負で1本、100本勝負で7、8本だな。その事を考えたら小南相手に1本取れる可能性はある」

 

実際モニターに映る小南を見ると表情に余裕はない。左腕もないのでチャンスでもある。

 

しかし唯我のダメージはそれ以上なので余裕はない。部位欠損はしてないが身体の至る所にある切り傷からトリオンが漏れていて、いつトリオン切れになってもおかしくない。

 

そんな中、小南は痺れを切らしたのかメテオラを地面に放ち、その衝撃で唯我を崩しにかかる。

 

対する唯我は既に何度もやられたからか、スラスターを起動して空中に逃れながら小南にアステロイドで牽制射撃を放つ。

 

そしてシールドでアステロイドを防ぐ小南に対して、レイガストのシールドを広げながら再度スラスターを起動して小南に向かって滑空する。

 

「レイガストで小南を閉じ込めるのか?」

 

米屋が呟く中、唯我はシールドモードのレイガストを構えながら一直線で小南に突き進む。

 

レイガストが小南を押し潰そうとする直前だった。小南は右手に持つ弧月を大きく振るい、バランスを崩しながらもレイガストの淵に叩きつけて着地場所を逸らす。

 

すると間髪入れずにレイガストが地面に当たり、アスファルトにヒビが入るが唯我はそれを無視してレイガストをブレードモードにして小南と向き合い、小南も同じようにバランスを取りながら右手の弧月を構える。

 

そして次の瞬間、唯我と小南は互いの武器を持つ手を大きく振りかぶり、ブーメランを投げる要領で互いに投げつけた。

 

結果として小南が投げた弧月は唯我の首を飛ばし、唯我の投げたレイガストは小南の胴を真っ二つにした。

 

唯我✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ ✖︎ △

小南⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ ⚪︎ △

 

同時に引き分けのマークが生まれ、ラウンジに驚愕の声が上がる。

 

「おっ、引き分けたじゃん。やるなぁ」

 

勝ってはいないが圧倒的格上相手に引き分けた事実に米屋は感嘆の声を上げる。

 

「だな。ともあれラスト一戦、ここで勝ち星を挙げれば、一皮剥けるかもしれねぇ」

 

出水がそう呟く。格上相手に勝ち星を挙げる事が出来れば、それにより自信を得て、更なる高みを上ることも可能である。

 

ラウンジにいる皆はモニターに釘付けになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ

 

小南に首を刎ねられてブースに戻った俺は息を吐く。9戦目にして漸く引き分けとなった。格上相手に引き分けたのだから、客観的に見て充分な成果だろう。

 

しかしここまで来たら1本取りたい。元々小南に実力を示して気に入られたいから始めたランク戦だが、最後に勝ち星を挙げたいという気持ちが強くなっているのがわかる。

 

『やるじゃない!さあ、最後の1本行くわよ!』

 

しかし厳しいのは確実。さっきの引き分けにより小南のテンションが上がっている。

 

(いや、絶対に1本取ってみせる)

 

そう決心して俺は準備完了ボタンを押すと、仮想空間に転送される。

 

目の前には楽しそうに笑う小南がいる。普段見る可愛らしい笑みではなく、獣のような獰猛な笑みだ。

 

しかし怯んだら負けに直結するので怯むわけにはいかない。

 

小南の行動パターンを考え、いつも通りに戦うだけだ。

 

そう思いながら俺達は互いの武器を構える中……

 

 

 

 

 

『ラスト1本、開始!』

 

アナウンスが流れだした。

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