唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ! 作:ユンケ
「ど、どうしたんですか?」
不安そうな表情を浮かべる玲に思わず聞いてしまう。原作の唯我尊のように尊大な態度は誰が相手でも一切出してないから、嫌われるような事はない筈だが、玲の表情を見ると何かやらかしてしまったように思えてしまう。
「……ううん。何でもないから尊君は気にしないで」
そう返してくるが、何でもないって表情じゃない。
「もしかして何か不愉快な気分にさせてしまいましたか?だとしたら直ぐに消えます」
心当たりはないが、無理に問うよりも一旦引くのも選択の1つだ。
しかし俺が去ろうとした瞬間、玲は俺の手を掴んでくる。
「違うわ。尊君は何も悪くないわ。私が悪いの」
「そうでしたか……玲さんが良ければ話してくれませんか?」
「えっと……」
玲は戸惑うが、先ほどよりも抵抗が弱い。
「玲さんが悩んでいるなら力になりたいです」
掴んでくる手を優しく握り返して、玲と向き合う。すると玲は恥ずかしそうに目を逸らしながら、やがてポツリと呟く。
「夕方に尊君、国近先輩と商店街付近で歩いてたよね?」
予想外の質問をしてくる。夕方に国近と歩いていた……そういや国近の買った食材を持ちながら歩いていたな。
「え?あ、はい。それがどうかしましたか?」
「その……2人が並んで歩いているのを見たら、理由はわからないけど羨ましいって嫌な気分になっちゃって……」
そんな風に言ってくるが……
(え?もしかして嫉妬?)
俺はラブコメ主人公じゃないので人の感情については、機敏かどうかは判断出来ないが鈍くはないと思う。
そう考えると玲の俺に対する好感度は結構高いかもしれない。
しかしがっつくのは論外だ。どんな世界でもがっつく男は引かれる運命なので、がっつかず尚且つ俺も鈍いフリをするべきだ。
「そうですか……あの玲さん」
「何?」
「さっき俺が国近先輩と並んで歩いた事を羨ましく思ったのなら、今から一緒に歩いて帰りませんか?」
敢えて嫉妬しているとは言わず、羨ましいと思っているなら自分もどうかと誘いをかける。これなら多分提案を受けてくれるだろう。
「えっ?良いの?」
「どの道途中までは同じ帰り道ですから。あ、玲さんが嫌なら無理強いはしません」
どんな時でも無理強いはしないで本人の判断に委ね、玲と一緒に過ごしたいという疚しい気持ちを表に出さない。それが重要だ。
「嫌じゃないわ。尊君が良いなら一緒に帰りたいわ」
玲は首を横に振って俺の手を握り返してくる。
「わかりました。では夜も遅いですし、行きましょう」
言いながら俺達は手を繋いだまま歩き始める。玲を見ると先ほど見せていた不安そうな表情は無くなって、俺と目が合うと恥ずかしそうに目を逸らす。正直言ってメチャクチャ可愛い。
「やっぱり尊君の手、気持ちいいわ」
「玲さんの手も柔らかくて気持ちいいです」
「ありがとう。ところで唯我君は来月のイベントに参加するの?」
来月のイベントとなれば、例のトーナメントだろうな。それ以外考えられない。
「出る予定です。他の人の戦いも見たいですし、経験にもなりますから」
まあ小南から出ろって言われたしな。
「頑張り屋な尊君ならそう言うと思ったわ。桐絵ちゃんとのランク戦の記録、見たけど凄かったわ」
「最後はギリギリ食らいつけましたが、序盤はボコボコにされたんで恥ずかしいです」
9戦目と最終戦は引き分けと勝ちを挙げれたが、かなりギリギリだったし、それ以外は敗北したからな。結構恥ずかしい。
「ううん。記録の尊君からは桐絵ちゃん相手に本気で勝とうとする執念が伝わってきたわ。あんなにやる気に満ちた姿を見せた尊君が恥ずかしがる必要はないと思う」
玲はそう言って手に籠っている力を強める。それにより更に幸せな気分になる。
しかしやる気って言っても、小南に気に入られたいって酷い動機だけどな。まあ口にするつもりはないが。
「あんな風に頑張ってる尊君を見たら、私も一層頑張らないとって思えたわ。私も参加するけど当たったらよろしくね」
「もちろんです。しかし絶対に無理はしないでくださいね」
何度も玲と接しているが、その度に身体の弱さが露呈していたので無理しないで欲しいのが本音だ。
「ええ、無理はしないわ。心配してくれてありがとう」
玲は優しく微笑みを向けてくる。そんな微笑みを向けてくるとこっちも少し踏み込むとしよう。
「いえ。それと玲さんにお願いがあるのですが、良いですか?」
「お願い?何?」
玲が不思議そうに聞いてくるが内容が内容だから緊張してしまう。だから俺は一度深呼吸をして、緊張をほぐしてから口を開ける。
「今はテストがあったりで忙しいと思いますが、夏休みあたりには落ち着くでしょうから……玲さんさえ良ければ、また一緒に出かけませんか?」
2度目のデートを求めてみる。前回のデートは好印象だったし、絶対とは言わないが多分OKを貰えるかもしれない。
そう思いながら返事を待っていると……
「良いわよ。元々私も夏休みに尊君と遊びに行きたかったの」
そんな返事が返ってくる。了承の返事を聞いた俺は喜びを露わにしかけるが、表に出さない。
「ありがとうございます。前回は楽しかったですから次回も楽しめるように頑張ります」
「私も楽しかったけど、前回のように迷惑をかけないようにするわ」
玲は迷惑と言うが、身体の弱さなら仕方ない事だから迷惑なんて思わない。
「俺は迷惑なんて思ってません。玲さんと過ごす時間は幸せですから」
「も、もう……からかわないで頂戴」
玲は顔を赤くしてそう返す。更にひと押しするか。
「からかってなんていないです。今でも玲さんと遊んだ事を思い出す度に幸せな気分になります。玲さんは迷惑をかけたと思っているようですが、楽しくありませんでしたか?」
「そんな事ないわ。私も思い出すと幸せな気分になるし、尊君から貰ったぬいぐるみは私の宝物よ……あっ……い、今のは忘れてっ」
恥ずかしそうに慌てるが、そんな可愛らしい仕草を見せてきたら忘れるのは不可能だ。
「努力します……まあ無駄な努力に終わると思いますが」
「……意地悪」
そんなやり取りをしながらも歩き続けると、漸く玲の家に到着した。
「ここまでですね」
「ええ。遊ぶ予定はまた今度決めましょう。お休みなさい」
「はい。あ、それとさっきの慌てた玲さんは可愛かったですよ」
最後にちょっとからかいたくなったのでそう口にする。
「えっ?!た、尊君!」
「ではお休みなさい」
玲が真っ赤になって慌てる中、俺は小さく一礼して早足で玲の家から去る。
小南が照れるのも可愛いが、玲が照れるのも負けず劣らずだ。やっぱ美少女の照れ姿は最高だな。
そう思いながら俺は早足で自宅に向かうのだった。
「もう……居なくなるのは早いわね……」
那須は唯我が見えなくなるとそう毒づきながら家に入る。
そして自室に戻り鞄を机の上に置くと、ベットに上がり以前唯我から貰ったぬいぐるみをギュッと抱きしめる。このぬいぐるみは唯我から貰って以降、玲のお気に入りで夜になると抱きしめながら眠りにつくほどだ。
「本当に尊君って意地悪なんだから……いつもいつも私に恥ずかしい気持ちにさせて……尊君の馬鹿」
そう言いながらも那須は自分の口元が緩み幸せそうな表情を浮かべていることに気づくことはなかった。
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