唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ! 作:ユンケ
「ただいま戻りました」
「お疲れ〜。銃トリガーについては学べた?」
作戦室に戻ると国近がテーブルの上にノートと俺が作った対策プリントを広げていたり
「基本的な事は学べました。ところで太刀川さんと出水先輩は?」
「出水くんは個人ランク戦に行って、太刀川さんは加古さんに連行されてったよ」
あ、危ねぇ……今日弓場隊の作戦室に行ってなかったら俺も連行されてポイズン炒飯を食べていたかもしれない。
「んじゃ約束通り勉強を見ますが、何かわからないところはありますか?」
「ん〜。この証明問題についてなんだけど、良いかな?」
「もちろんです。この問題はですね……」
俺は国近の横に座ってから鉛筆とノートを取り出し、自分のノートに国近が指定した図形を書いて説明を始める。
その際に国近はノートを見るべく俺との距離を詰めてくるが、国近の頭が俺の肩にくっつき、国近の胸が腕に当たり柔らかな感触が伝わってくる。
天然な国近だから狙ってやっているとは思わないが、無自覚なら無自覚で狙ってやるように中々タチが悪い気がする。
ともあれ邪念は一切出さないようにする。出したりしたら、ドン引きされて信用を落とすだろう。
人の信用は積み重ねるのは大変なのに、失う時は簡単に失うものだ。よって信用を落としやすい浮ついた感情は出さないようにするのが吉である。
俺はそのままいつも通りに国近が納得するまでつきっきりで勉強を教えるのだった。
1時間半後……
「ではそろそろ終わりにしましょう。今の状態ならテストまで毎日1時間復習をすれば赤点は回避出来るでしょう」
一段落したので国近にそう告げる。実際国近は中間の時より真面目にやっているので、これなら全科目で赤点どころか40点台後半を目指せるだろう。
「いつもありがとう〜」
国近はそう言って頭を撫で撫でしてくるが、それだけで疲れが取れるのが自覚出来る。
「気にしないでください。それと俺は今から訓練するのでパソコン借りますね」
そう言って立ち上がろうとするが、その前に国近が俺の腕を掴んでくるので国近を見ると、いつもの天然そうな表情ではなく真剣な表情を浮かべている。
「……一応聞いておくよ。どのくらい訓練するつもり?」
「3時間くらいですが」
「ふざけてるのかな?」
「はい?」
声に怒りを宿す国近に思わずポカンとしてしまう。目にも怒りの色が宿ってる。
「迷惑をかけた私が言うのも何だけど、学校終わってから2時間近く弓場隊の所で訓練して、1時間半私に勉強を教えた後に3時間トレーニングするなんて無茶だからね?」
「え?別にトリオン体だから問題ありませんが」
トリオン体なら精神的な疲れは出ても肉体的な疲れはないから全く問題ない。こちとら前世じゃ毎日肉体的にも精神的にも疲労困憊だったからな。
「それでも精神的に疲れるよね?自分の勉強とかもあるのに、3時間もトレーニングしたらオーバーワークになるしパソコンは貸せない」
国近は強い口調でそう言ってから立ち上がりパソコンを操作する。つられてモニターを見ればロックが施されていた。
「ロックを解除して欲しいなら訓練時間を多くても1時間にして。呑めないなら今後もパソコンを私が居ない時はロック状態にしてトレーニングルームを作れないようにするから」
国近は珍しく怒っている。思い返してみれば国近の言うように、俺の行動は社会人ならともかく、中3にはオーバーワークだ。国近が心配するのは当然だ。
(仕方ない。今日は訓練はやめよう)
国近が提示した1時間は妥協ラインであり、本当なら反対なんだろう。表向きの先輩が反対しているなら従った方が良い。
「わかりました。今日は訓練はしないで帰ります。ご心配をおかけしました」
俺は一礼して謝罪する。すると国近はあっさり引き下がったからかキョトンとした表情になるも、直ぐにバツの悪そうな表情にある。
「あ、うん。私も唯我君の時間を使わせてるのに、強く言ってゴメン」
「謝らないでください。無茶した俺が悪いです。国近先輩は帰るんですか?」
「……うん」
「送ります」
「……ありがと」
礼を言う国近だが、バツの悪そうな表情は消えなかった。
ボーダー基地を出て暫くの間、街を歩くが国近の表情は晴れない。実際俺の無茶が悪いのだから気にする必要はないのに。
そう思いながら俺は無言の国近の頬に人差し指を近づけてから肩を叩く。
すると国近はコッチを振り向こうとして、俺の人差し指に国近の頬の感触が伝わってくる。
国近はジト目で見てくる。
「……唯我君。今のは何かね?」
「いえ。俺のせいで国近先輩の表情が暗く、その暗さを消そうと思ったので」
「そこでそんなイタズラをしてくるとは思わなかったよ〜。唯我君って頭良いのに馬鹿なの?」
「……すいませんでした」
謝りながら国近を見るが、軽蔑の色はなく呆れの色がある。ちょっと攻め過ぎたかと思ったが、そこまで怒ってなさそうだ。
「ふぅ……ま、私が暗かったのが原因だし仕方ないか。けど唯我君」
「何でしょうか?」
「私はアホだから今後唯我君に頼らないってのは無理だけど、頼る時間を減らすように自分でも勉強する。だから唯我君はその時間をトレーニングじゃなくて休息に使って。正直唯我君のスケジュールはハード過ぎるよ」
「了解しました」
今の俺は国近の後輩だから逆らえない。しかし前世で精神力が鍛えられていたから特にハードとは思わなかったが、これがジェネレーションギャップというヤツだろうか。
「よろし〜い。お姉さんとの約束だよ」
言いながら頬をプニプニしてくる国近。以前にもやられたが、頬をプニプニするのに興味を……っ!
そこまで考えていると前方からやってくる車がフラフラしながら歩道に近い状態で走ってきて、危ないと判断した俺は車道側を歩く国近の腰を掴む。
「えっ?!」
国近が驚くのを無視してそのまま引き寄せながら右にズレると、ワンテンポおいて車がさっきまで国近がいた場所を通り過ぎている。
「飲酒運転か……チッ、カスがふざけやがって……」
あのふらつきようはマトモとは思えない。飲酒運転か居眠り運転あたりだと思うが、国近を巻き込んでじゃねぇよ。
すると……
「あの、唯我君……?」
国近の声が聞こえてきたので見れば、俺の腕に抱かれている国近が驚きの眼差しで俺を見ていた。
(しまった……思い返せば、俺の本心が露わになっちまった)
今の発言は普段ボーダーで見せている俺には似つかわしくない。余りの怒りに前世の俺を出してしまった。
(とりあえずカッとなったことにするしかない)
「……失礼。ついカッとなって下品な言葉を口にしました」
言いながら国近の腰に回した手を離す。国近は未だに戸惑いの表情を浮かべる。
「あ……うん」
「怪我や痛みとかはありませんか?」
「大丈夫……でも唯我君ってあんな一面もあるんだね」
やっぱり怖いと思われたか……これは完全に俺のミスだな。
悩んでいると国近が慌てたように両手を振る。
「あ、驚いただけで怖いって訳じゃないよ。唯我君が優しいのは知ってるから。さっきも私が危なかったから怒ったんだよね?」
「……まあ、そうですね」
飲酒運転とか居眠り運転は大嫌いだ。前世で会社の同僚の1人が飲酒運転やった事でクビになって、ソイツの仕事を回されたからな。
「さっきの私は唯我君をほっぺを突いてて車に気づいてなかった。唯我君が助けてくれなかったら危なかったと思うの。だから……ありがとう」
国近はニコリと笑いながら礼を言ってくるが、その顔を見れただけで助けた甲斐があるというものだ。
「どういたしまして。無事でなによりです」
そう言って一礼して、俺達はまた歩き出した。
その際に少しとはいえ俺が本性を出したにもかかわらず、国近は何も聞かず、いつもと変わらない態度で、目に気遣いの色を宿さないで接してくれたのが嬉しかった。
ヒロインは何人まで希望?4人は確定
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