唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第49話

「……良し、これで全員分の最終調整は出来たよ」

 

7月25日(日)の午前9時、つまりトーナメント開始1時間前に太刀川隊作戦室にて国近が俺と太刀川と出水にトリガーを渡す。

 

「サンキューな。さぁて、久しぶりのトーナメントだし楽しみだぜ。俺は待ち合わせの約束してるから先行くぜ」

 

太刀川は好戦的な笑みを浮かべトリガーを受け取って作戦室から出て行く。やる気満々だな。まあヒャッハー系攻撃手だから仕方ない。

 

「あざっす。俺も槍バカ達と会う約束してるんで先行きます。唯我も遅れんじゃねぇぞ?」

 

「当然です」

 

出水も作戦室から出て行く。それを見送った俺はトリガーを手に持ち国近に話しかける。

 

「俺は一足先に会場の訓練室に向かいますが、国近先輩は同年代の人と行動するんですか?」

 

「んんー、何人かに一緒に見ないかって誘われたけど断ったよ。当日は唯我君と一緒にいて、試合ごとにサポートするって言ってね」

 

「そうなんですか?」

 

初耳なんだけど。確かに1試合ごとに国近がアドバイスをしてくれるのはありがたいが、同年代からの誘いを断っているとは驚いた。

 

「学校じゃいつも一緒にいるからね。それに唯我君には期末試験で大きな借りが出来たのもあるからね〜」

 

国近はそう言ってくる。期末試験で国近は40点未満が1科目も無く、自己最高記録を出していた。

 

「それに……最近の唯我君はどうにもほっとけないんだよね〜、うりうり〜」

 

そう言って国近は俺の頬に指を当ててグリグリしてくる。もう完全に子供扱いされているが、俺的にはご褒美でしかない。

 

「そうでしたか。それならこちらもお言葉に甘えますのでよろしくお願いします」

 

「ほ〜い」

 

国近が了承しながらグリグリをやめたので俺は立ち上がり、支度を済ませて国近と作戦室を出る。

 

「いや〜、それにしても勉強が無いって凄い開放感だよね〜」

 

国近は伸びをして胸を揺らしながらそう言ってくる。確かにテストが終わった後の開放感は凄い。まあ赤点を取る不安のある生徒からしたら、テストが返ってくるまでは地獄だろうけど。

 

しかし今は夏休みだから部活や補習のない人は学校に行かなくていいので、良い気分だろう。

 

それについては紛れも無い事実だが……

 

「夏休みの宿題は早めにやりましょうね」

 

夏休みの宿題を疎かにすると夏休み終盤が地獄になるからな。つか前から思っていたが、夏「休み」なんだから、休みに宿題をさせんなよ。

 

「は〜い」

 

「まあ分からないことがあったら手伝いますよ」

 

「それは助かるけど、唯我君の宿題が終わってないなら無理しないでね?」

 

「あ、俺は昨日全部終わらせました」

 

「嘘っ?!」

 

国近は珍しく驚きを露わにするが、前世で社会人だった俺からしたら中3の問題は簡単だし、量も少なく感じた。

 

「唯我君の事だから嘘じゃないだろうけど、早過ぎない?」

 

「嫌な事は先にやる主義なんで」

 

前世の俺は学生時代に夏休みの宿題は7月中に終わらせて、8月は遊びとバイトに全てを費していたくらいだった。嫌な事は真っ先に終わらせるのが1番楽だ。

 

そして夏休みの残り期間については、射撃訓練と女子と仲良くする事に全てを費すつもりだ。最近国近とも仲良くなってきたし、2学期に入るまでに互いに名前呼びするくらい仲良くなりたい。

 

「国近先輩も後1週間で終わらせたらどうです?そしたら8月はゲーム三昧ですよ?」

 

「1週間は厳しいけど、それが良いかもね〜ま、頑張ってみるよ」

 

国近が了解の返事をするのを確認しながらエレベーターのボタンを押す。そしてドアが開くと……

 

「あ、尊君……国近先輩もお久しぶりです。トーナメントを一緒に見学するのですか?」

 

エレベーターにいたのは玲で、優しい微笑みを浮かべてくるが、国近を確認すると不安そうな表情に変わる。

 

「そだよ〜、唯我君には色々お世話になってるしサポートするつもり」

 

一方の国近はのほほんとした表情でそう返すが、気の所為かいつもより声に力を感じる。

 

「そう、ですか……ねぇ尊君」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「私も一緒にいて良いかしら?尊君と一緒に見たいわ……」

 

不安そうな表情+上目遣いで見てくる。そんな表情されていると断る選択肢は生まれなかった。

 

「俺で良ければ構いませんよ」

 

すると玲は不安そうな表情を消して先程見せた微笑みを浮かべる。

 

「嬉しいわ。ありがとう」

 

「どういたしましてぇ?!」

 

「うんうん。唯我君は誰にでも優しいねぇ〜」

 

返事をしようとした頬に痛みを感じたので横を見ると、国近が満面の笑みを浮かべながら俺の頬を突いているが先程よりも力強い。作戦室でも突いてきたが、あの時はグリグリで今はゴリゴリで結構痛い。

 

「国近先輩痛いです。離してくれると助かります」

 

「ほ〜い」

 

国近は簡単に指を離すが、面白くなさそうな雰囲気だ。

 

そうこうしているとエレベーターが開くので歩き出そうとすると、玲がいつものように俺の右手を握ってくる。玲を見るとクスリと笑みを浮かべるが、俺の左手に柔らかな感触が伝わると驚愕の表情に変わる。

 

左手を見ると国近が俺の手を握っていた。これは予想外だ。

 

「えっと?国近先輩?」

 

「ん〜?那須ちゃんはいいのに私はダメなんだ?お姉さんショックかな〜」

 

「いえ。駄目じゃないですが」

 

実際俺としては役得だから駄目なはずはない。というか国近から手を握ってくるのは予想外だった。一瞬だけ本性を見せた際は嫌われると思っていたが、寧ろ仲良くなれたように思える。

 

「尊君……」

 

玲はそう言ってギュッと手を握る力を少しだけ強めてくる。そんな玲も可愛く、悪くない気分だ。

 

そう思いながらも2人と手を繋ぎながら歩いていると訓練室に到着する。訓練室にある客席からは200人近くいるC級隊員が、40人から50人くらいいる正隊員が、スーツやワイシャツを着た職員が100人近く確認できた。

 

思ったよりも多い。ボーダー職員も楽しみにしてるのだろう。

 

とりあえず適当な席に座ると、左右に国近と玲が座る。訓練室は席に挟まれていて向かい側にも席があるのだが、正面には太刀川を始めとした大学1年生組がいて、太刀川と加古は俺に気付くとニヤニヤ顔を見せてきてイラッとくる。

 

炒飯魔神には勝てないが、ダンガー野郎には勝てる算段がある。

 

俺は太刀川に「ニヤニヤ顔を消してください。でないと期末レポートの代筆について風間さんや本部長に報告し、今後課題の手伝いはしません」とメールを送る。

 

30秒くらいすると太刀川は携帯を取り出してメールを確認すると即座に真顔になって頭を下げてくる。やはり太刀川には風間と本部長の名前が効くようだ。

 

 

そう思いながらボンヤリと開始時間まで待とうか考えていると……

 

「あ、尊じゃん!」

 

後ろからアニメ声が聞こえてきたので振り向くと小南がこっちに近づいていた。

 

「お疲れ様です小南先輩。今日当たったらよろしくお願いします」

 

「どれくらい強くなったか見てあげるわ!あたしも強くなった所を見せるからね!というかアンタ、玲ちゃんと知り合いなの?」

 

そんな風に笑顔を向けながら質問してくる。まあ普通接点は思い浮かばないわな。

 

「以前道で苦しんでる時に助けて貰ったのよ」

 

玲はどこか警戒するように小南を見る。一方の小南は玲の雰囲気に気付くことなく俺を見る。

 

「へぇ〜、アンタ真面目で優しいなんてやるじゃない」

 

そう言って頭をわしゃわしゃしてくる小南だが、同時に左右から圧力を感じてくる。

 

「小南先輩。流石に人前で子供扱いするのは恥ずかしいです」

 

「ごめんごめん。ま、玲ちゃんは良い子だからしっかり敬いなさいよ」

 

「もちろんです。玲さんは素晴らしい女性ですし尊敬してます」

 

「なら良し……あ!あたし准にも挨拶するからもう行くわ。あたしと当たるまで負けんじゃないわよ!」

 

小南はそう言って嵐山がいる方向へ走り去っていった。すると直ぐに手を引っ張られたので横を見ると玲が恥ずかしそうにしている。

 

「ねぇ尊君。私のこと、素晴らしい女性と思ってるの?」

 

恥ずかしそうにしている玲は可愛いが、ここで正直に伝える。

 

「はい。普段は美しく、ランク戦では跳びまわる姿は格好良く、チームメイトの為に熱くなる姿は素敵だと思います」

 

実際玲はチームメイトがピンチになったりベイルアウトすると熱くなるが、そこからは情熱を感じる。

 

「そ、そう……ありがとう」

 

玲はモジモジしながら俯き、手をにぎにぎしてくる。この反応からして、告白したら成功するかもしれないな。

 

そこまで考えていると反対側の手を強く握られるので玲から目を逸らすと、国近がジト目で見てくる。

 

「唯我君って本当に女たらしだよね〜」

 

「事実を言っただけで、別にたらしたつもりはありません」

 

まあ口説いてる自覚はあるけど。

 

「じゃあ私のことはどう思ってるのかね?」

 

国近の事か……

 

「そうですね……一緒にゲームをして和ませてくれたり、戦術を練る手伝いをしてくれたり、トレーニングステージを作ってくれるなど色々な方向で助けてくれて、居なくなったら困ると思ってます」

 

実際国近とはお互いに助け合っているが、国近の協力が無かったら俺は伸び悩んでいたかもしれない。

 

「ふ〜ん。それは良い考えだね〜」

 

俺の意見に国近は口元を緩ませながら俺の手をにぎにぎしてくる。左右にいる美少女が俺の手を握ってくるなんて天国過ぎるわ。

 

内心ドキドキしながらも、それを表に出さずに2人の手を握っていると訓練室にブザー音が鳴り……

 

 

 

 

 

 

『会場の皆さん!長らくお待たせしました!これより1dayトーナメントを開催します!』

 

訓練室にある巨大モニターに実況システムの考案者の武富桜子が映る。いよいよ始まりのようだ。

 

 

 

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