唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第54話

「お疲れ〜。まさかレイガストを使うとはね〜」

 

那須が客席に戻ると国近が迎えてくる。唯我の姿は見えない。

 

「バイパーとの連携に使えると思いましたから。ところで尊君はどちらに?」

 

「トイレに行ったよ。私は今から飲み物を買いに行くけど一緒に来る?」

 

「ではご一緒します」

 

那須が頷き、国近と共に訓練室から出ようとすると、離れた席から1人の女子がやって来る。

 

「玲ちゃんお疲れ!2回戦は直ぐだけど頑張って!」

 

やって来たのは那須のクラスメイトの小南。圧倒的な強さ故に決勝トーナメント進出が確定しているが、那須自身小南に勝てる気は全くしないくらいだ。

 

「ありがとう桐絵ちゃん。まあ出水君がいるから決勝トーナメント進出は難しいけど」

 

「出水君は普段はヤンチャだけど強いからね〜」

 

国近も那須は負けると暗に言っているが、那須は特に怒りは湧かない。

 

出水に勝ってるのは機動力のみで、トリオン量や合成弾作成時間、トリオン操作能力や空間認識力など射手に必要な要素全てで負けているからだ。出水と撃ち合いが出来る射手は二宮くらいで、下手な攻撃手も出水に近寄る事すら出来ないだろう。

 

そんな会話をしながらも3人で自販機の方に向かっていると……

 

「ん?尊に香取じゃない。試合前に牽制し合ってるのかしら?」

 

視界の先で唯我と香取が向かい合っているのを発見する。しかし……

 

「そんな雰囲気じゃないと思うな〜」

 

「香取さんが凄く睨んでるわね」

 

それは違うだろうと国近が言って、那須は頷く。離れて場所にいるが香取は唯我を思い切り睨みつけていて、唯我は面倒臭そうな表情を浮かべている。

 

3人は2人がヒートアップしたら止めに入ると決めて、2人の近くにある物陰に身を隠すのだった。

 

 

 

 

 

 

「退いて、邪魔」

 

俺に舌打ちをするや否や喧嘩腰で顎を動かして、退けってジェスチャーをしてくる香取。

 

いきなりの態度にいらっとするが、こういったタイプの人間に反論すると面倒な事になるのは明白だからスルーするに限る。

 

「はいよ」

 

俺は適当に返事をして去ろうとするが、香取は目を細めてくる。

 

「何その態度?喧嘩売ってんの?」

 

うわ、面倒くさいな。適当に返事をした相手に一々突っかかるなよ。

 

「売ったつもりはない。というかお前こそいきなり喧嘩売ってんじゃねぇか。俺はお前に恨まれることをした覚えはないが?」

 

確かに嫌われてるポジションだが、あからさまに敵意を向けられた事は香取が初めてだ。

 

「どこがよ。最近強くなったからって、烏丸君の後釜って自覚してるのを見てるとムカつくのよ」

 

あ〜、そういやコイツもとりまるファンだったな。まあ確かにとりまるファンからしたら嫌われるだろう。実際二宮隊と雑談した事は何回かあるが、とりまるファンの氷見は割と素っ気なかったし。

 

「別に自覚はしてない。まだ烏丸の後釜に相応しいとは一度も思ってない」

 

大分実力がついて足手纏いは卒業したと思うが、烏丸の後釜として相応しいかって問いについては自他共にNoと答えるだろう。

 

俺の実力だとA級隊員と戦う事は出来ても、A級隊員相手に点をガンガン取るのはまだ無理だ。メインが足止めの時点で点を取れる烏丸より下であるのは明白だ。

 

「どうだか。最近じゃ那須先輩や国近先輩や小南先輩を侍らせてるみたいだけど、烏丸君みたいにモテる為に良い顔してるの?」

 

烏丸の真似をしている訳ではないが、間違っちゃいない。仲良くなるために色々アプローチをしているのは事実だ。

 

まあ壁に耳あり障子に目ありっていうし、誰かが聞いているかもしれないので否定するけど。

 

「そんなつもりはない。大体烏丸と俺じゃイケメン度が違い過ぎる」

 

まあ原作の唯我の髪型はやめたけどな。アレは客観的に見てもモテるイメージがわかない。

 

しかしそれを差し引いてもイケメン度に差はある。

 

「当然じゃない。そうなるとあの3人に見る目がないって事ね」

 

どこまでも俺の事を嫌っているようだ。まあ碌に努力もせずコネでA級1位になったことを踏まえると、香取がそう言うのも致し方ない。

 

しかし……

 

「そうかもしれないな。で?言いたい事はそれだけか?」

 

「何?開き直り?」

 

「そのつもりだ。過去が過去だけに、俺と仲良くしてりゃ3人が見る目が無いって思われるのは仕方ない。だからこそトーナメントで勝ち上がる必要がある」

 

そう言うと香取の表情に怒りの色が宿る。暗にお前を倒すと言ったからな。

 

「3人に良いところを見せたいって訳?はっ、随分と不純な動機ね」

 

「違うな。俺が自分の実力を見せたい相手は観客だ。観客の大半は「小南や那須や国近は見る目が無い」って思ってるだろう」

 

これについてはマジでそう思う。

 

「俺の忌々しい過去の所為で、3人が悪く言われるのは我慢ならないんでな。何としても勝ち上がる事で俺の存在を示し、少しでも俺の悪評を消し、俺が原因で生まれた3人に対する低評価を無くさないといけない」

 

仮に今後どんどん仲良くなっても俺の悪評がある限り、3人にもそれが付き纏うので、今回のトーナメントをキッカケに少しずつ俺の悪評を消す必要がある。

 

そんな俺の言葉に香取は鼻で笑う。

 

「ご立派な意見ね。自分の所為で3人が悪く言われるのが嫌だから勝ち上がるなんて、そんなにあの3人の事が好きなの?」

 

安い挑発だな。そんな挑発にブラック企業で鍛えられた俺が怒るわけない。

 

「当然だろ。3人ともベクトルは違えど本当に素晴らしい女性だ。敬意を払う事、好感を持つ事の何が悪い?」

 

堂々と認め、事前に敬意を払う事と言ってから好きと言えば疚しい感情がないように見せつける。

 

太刀川や出水あたりに聞かれたらヤバいが、周りには正隊員は居らず、C級隊員は何人かいるが香取の雰囲気から距離をとっているので香取がバラさない限り、今の発言は広まらないだろう。まあ香取に話す友達がいるとは思えないし大丈夫だと思うが。

 

「話が終わりなら行かせて貰う。決勝トーナメントに出場する為にデータの見直しをする必要があるからな」

 

「さっきからは私を眼中にないみたいな言い方ね……!」

 

「眼中にない訳じゃないが、勝つつもりではあるな」

 

負けたら決勝トーナメントに進めない以上、勝つつもりだ。

 

「本っ当にムカつくわね……!だったらアンタを負かして、現実を教えてあげる」

 

香取は不機嫌丸出しのまま、飲み物を買わずにそのまま去って行く。香取の進行上にいるC級隊員はビビってるが、C級隊員をビビらせるなよ……

 

内心溜息を吐きながらも俺は飲み物を持って、少し遅れる形で訓練室に戻る。

 

そしてさっきまで観戦していた席に戻るが、玲の姿も国近の姿も見えなかった。あの2人もトイレか?

 

(ま、直ぐに戻ってくるだろうし、今の内にデータの見直しだな)

 

俺はタブレットを起動して、最近の香取の戦闘記録の見直しを始めるのだった。

 

 

 

 

 

香取が自販機前から去り、唯我が訓練室に戻っている時だった。

 

「あんの馬鹿……!堂々と恥ずかしい事言ってんじゃないわよ……!」

 

「………」

 

「………」

 

物陰に隠れて2人のやり取りを聞いていた小南は恥ずかしさ全開により真っ赤になっていた。その後ろにいる那須と国近は小南以上に真っ赤になって俯いている。

 

唯我と香取のやり取りを聞いて、序盤は香取の喧嘩腰の態度に腹が立った3人だが……

 

 

ーーーご立派な意見ね。自分の所為で3人が悪く言われるのが嫌だから勝ち上がるなんて、そんなにあの3人の事が好きなの?ーーー

 

 

ーーー当然だろ。3人ともベクトルは違えど本当に素晴らしい女性だ。敬意を払う事、好感を持つ事の何が悪い?ーーー

 

 

 

香取の挑発に対する唯我の返答を聞き、香取に対する怒りの感情は一瞬にして唯我の発言に対する羞恥へと変わった。

 

元々尊敬されていると思っていた3人だが、自分達の存在が知られてない状況の中で毅然とした態度で肯定した以上、本気で尊敬されている事が改めて認識できた。

 

しかも尊敬的な意味とはいえ、あそこまで堂々と好きと言うとは完全に予想外だった。

 

あんな風にハッキリと自分達に対する好意を宣言した事により、3人の中では羞恥と嬉しさがゴチャ混ぜになっていた。

 

特に那須と国近は衝撃的過ぎて喋ることすら出来ない状態となっていた。後輩としてだけではなく、異性としても気に入っている相手からの好意にオーバーヒートしてしまっている。

 

結果、ギリギリオーバーヒートしてない小南が頑張って2人を立ち直らせて、冷たい飲み物を買って身体を冷やしてから訓練室に戻るのだった。

 

しかし彼女らの頬は朱に染まったままであった。

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