唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第56話

 

『さあ選手の入場です!赤ゲート!放つ弾丸は縦横無尽!狙った敵をどこまでも追い詰める美しきバイパー使い!那須玲選手!』

 

武富の言葉に、男性隊員を中心に歓声が上がる。赤ゲートから入る玲を見ると、さっきまでと違って真剣な表情を浮かべている。

 

「良かった。ちゃんと切り替えたみたいね」

 

俺の右腕に抱きついている小南が安堵の息を吐く。確かにさっきまでと違い顔を上げている。多分俺と香取のやり取りを聞いていたのだろうが、復帰してくれたのは良かった。

 

最も、試合後にどう接してくるか全く読めないのが若干不安だけどな。

 

(というか国近は未だ無言で俯いたままだが、どうすりゃいいんだ?)

 

腕に抱きついてくる力はあるので意識はあるんだろうが、肩を叩いても反応しない。かといって左手を国近の身体から離そうとしたら抱きしめる力を強めてくる。

 

どうしたものかと悩んでいる間にもアナウンスは続く。

 

『続いて青ゲート!付けた渾名は千差万別!素早い動きと斬撃で敵を撹乱!王子一彰選手の入場です!』

 

アナウンスと同時に青ゲートから黒服のイケメンが訓練室に入る。爽やかな笑みを浮かべているが武富が言ったように変なあだ名を付けることで有名らしい。

 

俺はまだ話したことがないので自分に対する渾名については知らないが出水によれば、自分の名前が公平(fair)だからフェアリーって呼んだり、国近を柚宇(ゆう)だからユウTuberって呼んだり、香取隊の若村をジャクソンと呼んだりと、中々ぶっ飛んだ渾名を付けるらしい。

 

よって余り関わりたくない人間である。まあ三上に対してみかみかと呼んだり、穂刈に対してポカリと名付けていることからわかりやすい渾名もあるみたいだがな。

 

『両選手開始地点に向かっています!この勝負についてどう考えてるでしょうか?!』

 

『そうですね。那須は射手で王子は攻撃手ですから、那須は建物を盾にバイパーで攻めるでしょう。対する王子ですが機動力があるので前回那須相手にカウンターを狙った堤とは反対に積極的に攻めるでしょう』

 

だろうな。1回戦で玲と戦った堤は取り回しの悪い散弾銃を使うから住宅街に入らなかったが、一方の王子は機動力があり、スコーピオンやハウンドも装備しているので住宅街に入っても上手く立ち回れるだろうからな。

 

加えて王子は元弓場隊で常にB級上位にいた。実戦経験も玲に比べて多いだろう。俺の見立てだと8ー2で王子が勝つ。

 

そう思っている中……

 

 

『予選トーナメントEブロック2回戦第1試合、開始!』

 

試合開始のアナウンスが流れる。同時に王子は走り出し、玲はキューブを展開して分割して放ちながら住宅街に向かう。多分バイパーだな。

 

それに対して王子もキューブ……ハウンドを展開して分割すると、弾速重視で放つ。

 

すると玲の放った弾が様々な動きを始めるが、王子が放ったハウンドは追尾性能を発揮してバイパーと相殺される。

 

『おおっと!那須選手のバイパーが相殺された!』

 

『那須のバイパーはあらゆる方向からの攻撃が厄介ですが、あらゆる方向に行く前に潰しましたね。速攻を得意とする王子らしいやり方です』

 

そして王子も玲と同じように住宅街に入ってくる。玲の弾丸に恐れをなしてないようだ。

 

「王子も弓場隊にいた時は二宮隊と何回もやり合ってたから、躊躇がないわね」

 

小南が玲を追いかける王子を見ながらそう呟く。確かに二宮を相手にしたら玲の弾はそこまで怖くないかもしれない。

 

というか……

 

「あの、国近先輩。そろそろ返事をしてください」

 

未だ無言になっている国近がどうしても気になってしまう。

 

思わず話しかけると国近は漸く顔を上げて、真っ赤になった顔を俺に向けてくる。

 

「……ねぇ唯我君。さっき香取ちゃんと話したことって本当?」

 

「ちょっ!柚宇さん?!」

 

国近の質問に小南は焦るが、やはり3人は聞いていたようだ。あの時3人の姿は見えなかったので、物陰に隠れて盗み聞きをしていたのかもしれない。

 

ならば取り繕う必要もない。

 

「はい。俺は何度も国近先輩に助けられましたし、何よりオーバーワーク気味だった俺を止めてくれた事には本当に感謝してます。それらの事から国近先輩には敬愛の念を持ってます」

 

前世の過酷な労働により精神力が鍛えられていた為に苦しくはなかったが、国近に怒られて休憩を挟むようになってからは能率が上がった。

 

前世では休むという概念が無かったから忘れていたが、それを思い出させてくれた国近には感謝しかない。

 

そう返すと国近は先程よりも真っ赤になるが俯きはせず、口元を緩める。

 

「えへへ〜、そっかそっか〜尊君は可愛い後輩だね〜」

 

言いながら俺に抱きつく力を強め、俺の指を自分の絡めた指で揉み揉みしてくる。可愛い後輩とか言ってるが、お前の方が可愛いわ。

 

そこまで考えていると反対の手に痛みが発生する。

 

「あんたは柚宇さんにデレデレしてんじゃないわよ!試合を見なさい試合を!」

 

痛みの発生源を見ると小南がプリプリ怒っていた。確かに……国近の様子が変だったとはいえ、今は玲の試合中だったな。

 

と、ここで国近が爆弾を投下する。

 

「ん〜?桐絵ちゃんは嫉妬してるのかね?」

 

「はぁ?!べ、別に嫉妬なんかしてないわよ!」

 

小南の慌てる声が聞こえてくる。その反応は可愛いが耳元で叫ぶのはやめてほしい。

 

まあ何にせよ今は小南の言うように試合に集中しないとな。

 

そう思いながら訓練室を見れば玲は建物を盾にしながら射撃をしていて、対する王子はハウンドとシールドで巧みに防御しながらも隙あらば旋空を使って建物を切り捨てて遮蔽物をなくしていく。

 

遮蔽物が無くなると射線が通るが、バイパー使いの玲とやり合う場合遮蔽物が多い方が厄介なので正しい判断だ。

 

そんな王子に対して玲は距離を取るが……

 

『那須選手、距離を取るが逃げる先は建物が少ないです!』

 

『王子は建物を壊しながらも、那須が逃げる方向を誘導してますね。そして建物の数が少ない場所で勝負をつけるつもりでしょう』

 

玲は王子の接近と建物破壊に対応してるが、逃げる方向に建物が少ない事にまだ気付いてないようだ。しかも王子の奴、壊す建物のチョイスが上手く、玲の逃げ道の選択肢を減らしてる。

 

原作で王子隊が戦ってるところは読んでないが、常にB級上位をキープしている事から強いとは思っていた。しかし戦闘力以上に頭の回転はかなり危険だ。

 

そしてとうとう、玲は遮蔽物が少ない広場に出てしまう。しかもエリアの端近くなので、下手したらエリアオーバーする危険がある。

 

そして王子もハウンドで玲を牽制しながら広場に到着する。いよいよピンチだな……

 

その時だった。

 

『おーっと!ここで那須選手、レイガストを展開!勝負に出るのか?!』

 

左手にレイガストを展開して王子と向かい合う。俺の影響で使い始めたのだろうが、是非とも勝ってほしいものだ。

 

俺は内心祈りながら訓練室内で相対する2人を眺めるのだった。

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