唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第57話

「やっと追い詰めたよ、レイレイ」

 

遮蔽物の少ない広場に足を踏み込むと、ワンテンポ遅れて対戦相手の王子も広場にやって来る。

 

(あの発言からして、私の逃げ道を誘導してたみたいね……)

 

那須は内心悔しく思う。高い機動力を持つ王子が積極的に攻めるとは試合前から思っていたが、自分にとって不利なフィールドまで誘導されるのは予想外で、嫌でも自分と王子の差を感じてしまう。今の自分にはこのような戦術を思いつけないからだ。

 

そう思いながらも那須はレイガストを展開してシールドモードに変え、周囲にキューブを展開する。

 

「レイガストを使う射手スタイル……侮るつもりはないけど、ブッダのそれに比べると驚異とは思わない」

 

言いながら王子は弧月を構えて那須に突撃する。

 

「バイパー!」

 

那須は叫びながらバイパーを放つが、王子が弾速と追尾重視のハウンドで相殺する。幾ら沢山の弾道を設定したバイパーでも発射直後なら簡単に潰されてしまう。

 

それが嫌だから遮蔽物を盾にして戦闘を進めたが、王子の高い機動力に敵わず、遮蔽物は旋空で破壊されてしまった。ハッキリ言ってピンチだ。

 

しかし那須の中で諦める選択肢はなかった。やる以上は全力で挑むのは当たり前のことだし、何より……

 

(負けるならともかく、尊君が見てる前で諦めるのだけは絶対に嫌……)

 

自分の好きな男は誰が相手でも最後まで泥臭く足掻く男だ。そんな彼に諦めるところを見られるのは絶対に嫌だから、那須は最後まで諦めない。

 

互いの弾丸が相殺されると、2人は刃トリガーをぶつけ合う。王子は弧月を数回振るう。レイガストを破壊する為ではなく、那須のリズムを崩すための軽い連撃だ。

 

対する那須はレイガストを右左に動かして全て防ぐ。好きな人の戦闘記録は何度も見直してるので、それなりの形になっている。

 

しかしただ守っているだけでは勝てない。那須も熊谷相手に練習しているが、唯我の訓練に比べたら温いことは間違いない。

 

(普通にバイパーを使ってもハウンドで相殺されるわね。こんな時尊君なら相手の予想から外れた攻撃をするはず……)

 

そう思いながらも那須はバイパーで牽制しながら王子の斬撃をガードする。しかし付け焼き刃で王子の攻撃は防ぎきれず、少しずつトリオンが漏れている。

 

「これで、終わりだよ」

 

王子の言葉と共に袈裟斬りが那須の持つレイガストを弾く。しかしそれと同時に……

 

「スラスター、ON!」

 

那須はスラスターを起動して、シールドモードのレイガストを王子にぶつける。

 

それにより王子は後ろに跳び体勢を崩す中、那須は手にキューブを展開して27分割する。

 

「ハウンド!」

 

そう叫ぶと弾は真っ直ぐ王子の方に向かう。対する王子は体勢を立て直し、弾を引きつけながら前方に大きくジャンプして、弾丸の上を跳ぶ。

 

ハウンドは追尾性能付きの弾丸なので対処法としてはシールドで防御するか、引きつけてから大きく動くかのどちらかだ。

 

そして王子は今回防御して足を止めるのを嫌がり、引きつけてからジャンプして那須との距離を詰めにかかり攻めようとした。

 

それは戦術として正しい。

 

しかし……

 

 

 

 

 

「っ!」

 

那須が放った弾丸は先程王子がジャンプした地点に着いた瞬間だった。弾は全て垂直に昇り、間髪入れずに花びらが開くかのようにあらゆる方向に広がっていき、内4発が発が王子の両足と脇腹を穿った。

 

それに伴い、王子の両足がボロボロになって脇腹からトリオンが漏れて、空中で体勢を崩してしまう。

 

当然那須はそんな隙を見逃すはずもなく、レイガストをブレードモードにして……

 

「スラスター、ON!」

 

そのまま王子に投げつける。

 

放たれたレイガストは一直線に進み、王子の首を飛ばしてトリオン体が爆発する。

 

 

 

『ここで試合終了!那須選手、Eブロック決勝進出です!』

 

武富の言葉が響き、客席から歓声が上がる。

 

「やるじゃないかレイレイ。まさかブッダのみならず、みずかみんぐの技も身につけてるなんて」

 

王子は身体を起こしながら那須に話しかける。先程那須がハウンドと叫びながら放った弾はバイパーである事を王子は確信している。

 

ハウンドと叫んだことに加え、真っ直ぐ飛んできた事から王子はハウンドと思い引きつけて跳んだが、那須はどこに逃げても削れるような弾道を引いたバイパーを使用したのだ。

 

声に出したのと違う弾を使うのはみずかみんぐ、生駒隊射手の水上敏志が得意とする技術だが、そこそこ高等技術である。

 

「いえ。私の場合、元々ハウンドを入れてないから出来ただけで、ハウンドをトリガーにセットしていたら焦って失敗したと思います」

 

那須は首を横に振る。ちなみに那須の今のトリガーは……

 

メイントリガー

バイパー

アステロイド

メテオラ

シールド

 

サブトリガー

バイパー

レイガスト

スラスター

シールド

 

 

である。今回はトーナメントだからバッグワームを入れてないが、今後のランク戦ではバッグワームを入れ直す予定である。

 

閑話休題……

 

「なるほどね。確かにそれなら起動のミスはしないか……レイレイってブッダの独特なスタイルに影響を受けてるね」

 

「そうかもしれないですね」

 

王子の言葉に那須は頷く。スラスター込みレイガストによる投擲、レイガストのシールドによる拘束など、唯我の戦い方はかなり独特なものであるが、那須自身影響を受けてるのを否定する気は無かった。

 

しかし……

 

「これも愛の力かな?僕の完敗だよレイレイ。決勝トーナメント進出は厳しいだろうが、頑張ってね」

 

「なっ?!」

 

王子のこの言葉にはマトモな反応が出来ず、先程の唯我と香取のやり取りを思い出して那須の頬に熱が生まれ始めた。

 

そんな那須に対して王子はあっけらかんとしながらその場を去って行く。

 

那須もいつまでもここにいるわけにはいかないので訓練室を後にするが、先程の王子の発言が頭から離れない。

 

(愛の力……そうかもしれないわ。私は尊君の事が好き……好きな人の頑張りを見てたから真似したいと思ったのかも……)

 

そう思いながらも客席に戻ろうとすると足を止めてしまう。何故なら唯我の左右には国近、そしてさっきまで自分がいた場所に小南がいて唯我の腕に抱きついていたのだ。

 

同時にムッとしてしまう。幾ら唯我と付き合ってないとはいえ、自分以外の女子が唯我とイチャイチャするのは気分が良くない。

 

那須は早足で唯我達の元に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

王子を倒した玲が戻ってくるがムスッとしている。多分俺の両腕に抱きつく2人が原因だろう。

 

「お疲れ様です」

 

ともあれ試合は終わったんだし労いの言葉を使うべきだろう。

 

「ありがとう。ところで国近先輩は兎も角、何で桐絵ちゃんも抱きついてるの?」

 

玲の言葉に小南は慌て出す。

 

「ち、違うわよ!玲ちゃんや柚宇さんが抱きついてるからどんなものか興味が出て試しただけよ!」

 

凄い言い訳だが、玲はジト目を向けてくる。

 

「そうなの?でも大分試したからもう良いんじゃないかしら?」

 

「ま、まだよくわからないから……!もう少しこうしないとダメよ!」

 

言いながら小南はギュッとしてくるが、可愛すぎだろ?

 

「そう……わかったわ」

 

そう思っていると玲はジト目を向けたままだと思ったが……

 

「うおっ?!れ、玲さん?!」

 

何と後ろから柔らかい感触が伝わってきて、腹に手を回され、終いには俺と小南の頭の間に顔を出して、肩に頭を乗せてくる。もしかして後ろから抱きしめられてる?!

 

「ちょっと?!何してんのよ?!」

 

「それは狡いんじゃないかな〜?」

 

「2人だって似たような事をしてますよ?」

 

小南が怒り、国近も低い声を出すが玲は全く気にしない。

 

俺的には役得極まりないが……

 

(や、ヤバい。C級隊員の殺気が痛い……)

 

男子のC級隊員は殺気を俺にぶつけてきて、胃が痛い。

 

一方B級以上の連中は米屋とか出水、太刀川とか加古は大笑いして、二宮とか三輪はスルーしていて、木虎とか香取はゴミを見る眼差しを向け、オペレーター陣はテンションを上げながらスマホを向けたり雑談に興じている。

 

うん、目立ち過ぎだな。

 

俺は半ば現実逃避しながらそっと息を吐くのだった。

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