唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第58話

訓練室では槍と刃が交差して火花が飛んでいる。

 

『Aブロック2回戦第1試合、米屋選手の槍弧月と影浦選手のスコーピオンが交差する!』

 

武富のテンション高めな実況に客席が盛り上がっている。現在米屋と影浦が戦っているが、勝った方が俺と香取のどちらかと決勝で戦う。

 

しかし押してるのは影浦だ。互いの武器がぶつかり合う中で、お互いのトリオン体にダメージが入るも影浦のトリオン体からは殆どトリオンが漏れておらず、逆に米屋の全身には切り傷がありトリオンが漏れている。

 

ここまで差があるのも……

 

「やっぱりカゲ君のサイドエフェクトは一対一だと厄介だね〜」

 

国近が言うようにサイドエフェクトによるものだろう。

 

影浦のサイドエフェクトは「感情受信体質」で自分に向けられてる意識や感情が肌にチクチク刺さる感覚があり、負の感情ほど不愉快な刺さり方らしい。

 

日常生活ではクソの役にも立たないサイドエフェクトだが、戦闘ではとんでもないアドバンテージとなる。

 

まず奇襲が通用しない。どんな人間でも攻撃する際は意識を向けないといけないので、背後から攻撃しようとしてもバレてしまう。

 

次に何処を狙っているかもわかる所だ。国近によれば首を狙おうとすれば首に刺さる感覚が、足を狙おうとすれば足に刺さる感覚があるらしいのでフェイントなどが通用しない。

 

現在米屋は穂先の形を変えるオプショントリガー「幻踊」を利用した攻撃を織り交ぜているが殆どが当たっておらず、影浦が体勢を崩した際に掠るくらいだ。

 

そして俺からしても相性が最悪だ。俺はグラスホッパーを踏ませたり、レイガストで拘束するなどの戦法を利用するが、その際に相手の足や腹を注目する。注目、つまり意識を向けることだから影浦は読んで対処してくるのは明白だ。

 

それにしても……

 

(俺が影浦のサイドエフェクトを持ってたら、嫉妬による感情で鬱になりそうだな……)

 

思わずそう思ってしまう。何故なら現在俺の両腕には玲と小南が抱きついて、国近は後ろから抱きついていて、男子からの嫉妬が半端ないからだ。

 

玲が王子に勝って戻った際には国近と小南が俺の両腕に抱きついて、それを見た玲は後ろから俺に抱きついたのだ。

 

それから暫くその状態が続き俺がトイレに行く為に一旦訓練室を出た。そして戻った際には国近が後ろから抱きついて、玲と小南は俺の両腕に抱きついてきて現在に至る。

 

もう男のC級隊員の殺気がヒシヒシ感じてヤバい。マジで闇討ちされそうだ。

 

 

 

 

閑話休題……

 

そんな訳で影浦のサイドエフェクトが俺にはなくて本気で良かったと思ってしまう。

 

「でもNo.4攻撃手って事は無敵ではないんですよね?対処法とかはあるんですか?」

 

「あるわよ。対処法は3つあって出水や二宮さんみたいに「圧倒的な弾数で押し潰す」、あたしや風間さんや太刀川みたいに「反応速度を上回る剣速で攻める」、東さんみたいに「攻撃する時に感情を乗せない」で、この3つのどれかを使えば勝てるわよ」

 

内心安堵する中、玲が国近に質問すると国近に変わって小南が答える。まあ間違っちゃいないが、俺からしたら難しい。

 

最初にいった「圧倒的な弾数で押し潰す」はトリオン量が少ないから無理。というかそのやり方は出水と二宮だけしか出来ないだろう。

 

次に「反応速度を上回る剣速で攻める」もカウンタータイプの俺には厳しい。

 

最後の「攻撃する時に感情を乗せない」ってのもやろうとして出来るものとは思えない。

 

よって……

 

「つまり、尊君が決勝トーナメントに進出するのは難しいって事になるわね……」

 

玲の言葉は間違いではない。俺のスタイルは影浦のサイドエフェクトと相性が悪いからな。

 

「ま、なんとかしますよ。小南先輩との約束もありますから」

 

「当然よ!言っとくけど、あたしと戦う前に負けたら罰として今度1日買い物に付き合って貰うからね!」

 

「「っ!」」

 

その言葉に右腕に抱きつく玲と後ろから抱きつく国近がビクッとする。

 

「別に買い物くらいなら罰云々関係なく付き合いますよ」

 

「本当?!約束よ!」

 

俺としてもわざわざ誘う手間が省けて助かるからな。

 

「「尊君……随分優しいね」」

 

と、ここで玲と国近の力が強まる。後ろにいる国近の顔は見えないが玲はジト目を向けている。

 

しかし俺は気にしない。気にして弱さを見せず、堂々とするだけだ。

 

「尊敬する先輩に優しくするのは当然ですよ」

 

「ふ〜ん。じゃあ尊君、私のことも尊敬してるみたいだし、以前約束した付き合いとは別の日に付き合ってくれるかね?」

 

「私のことも尊敬してるって前に言ってたけど……私とも買い物に行かない?」

 

そんな風に言ってくる。当然断るなんて選択肢はないが……

 

「もちろんです。なんなら4人で行きますか?」

 

ここは少し大胆に攻める。既に3人からの好感度はそこそこ高いだろうし、時には思い切った一手を打つのも悪くない。

 

「……む〜、そこで4人でって言うのはどうかと思うな〜」

 

背後から抱きつく国近は面白くなさそうに反論するが対応する。

 

「俺としては夏休みは可能な限り訓練に費やしたいですから1人1人付き合うより、3人同時の方がありがたいです。それに敬愛する3人相手に纏めて過ごす方が幸せを感じられそうですから」

 

訓練を理由に出して、幸せになりたいから全員と行きたいと言えば、疚しさを感じさせないだろう。

 

「〜〜〜っ!毎回思うけど、あんたはもう少し言葉を選びなさいよ!こっちは恥ずかしいんだけど、あんたは恥ずかしくないの?!」

 

小南はテンパりながら腕に抱きつく力を強める。玲は真っ赤になって見上げてくるが、国近も玲と似た表情だと思う。

 

「?何で俺が恥ずかしがる必要があるんですか?俺は当たり前のこと、自分の気持ちを口にしてるだけですから恥ずかしくないですね」

 

俺はツンデレなんて回りくどい態度は取らん。大人になったら嘘や欺瞞に満ちた世界で生きないといけないが、学生の内は自分に正直に生きるのが1番だ。その方が楽しいからな。

 

「……馬鹿っ」

 

小南はそう言って頭を叩いて俯くが、全然痛くないので気にしない。寧ろ背後にいる国近の抱きしめる力の方が遥かに強いし。

 

その時だった。

 

『ここで試合終了!影浦選手のマンティスが米屋選手を一刀両断!影浦選手決勝進出です!』

 

あ、途中から試合を見てなかったわ。ま、まあ過ぎた事を悔やんでも仕方ない。ミスを引きずるのは社会人としてタブーだからな。

 

「すみません。次試合なんでそろそろ離れてください」

 

名残惜しいが次に試合がある以上、離れないといけない。まあさっきトイレから戻った際に再度抱きつかれた事から、試合後にも抱きついてくる可能性は高いし気にしない。

 

俺の言葉に3人は離れるので席から立ち上がり、振り返り挨拶をする。

 

「では行ってきますが、応援をして頂ければ幸いです」

 

「うん。頑張ってね〜尊君」

 

「ありがとうございます。国近先輩にそう言って貰えると百人力です」

 

「えへへ〜、ありがと〜」

 

国近ははにかみ笑いを見せてくる。そこからは癒しを感じる。

 

「私、しっかり見てるわ。だから尊君もカッコいい所を見せて……」

 

「カッコいいかはわかりませんが、全力を尽くします」

 

「それで良いの。頑張ってる尊君が1番カッコいいから……」

 

両手を組み、祈るように見てくる玲。その姿は言葉にするのが難しいくらい美しい。

 

「こんな所で躓くんじゃないわよ!強くなった姿をあたしに見せるんでしょ?!」

 

「もちろんです。小南先輩も俺の試合をしっかり見てください。小南先輩に近づきたいという思いで訓練しましたから」

 

「ふんっ!」

 

小南はそっぽを向くが、怒りは感じないし、強い激励により更にやる気が出てくる。

 

最後に一礼して歩き出す。先ずは香取、その次に影浦と二連戦だが負けるわけにはいかない。必ず決勝トーナメントまで上がってやるつもりだ。

 

俺は改めて決意をしながら入場ゲートに向かうのだった。

ヒロインは何人まで希望?4人は確定

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