唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ! 作:ユンケ
8月3日朝9時、俺は旅行鞄を持ちながら駅の改札に立っている。既に金はチャージしているので直ぐに電車に乗れる。
「あ、尊!」
そんな声が聞こえてきたので、声のした方向を見ると桐絵がこっちに向かって走ってくる。
「ごめん、待たせちゃった」
「時間前ですから気にしないでください。それとその服装、凄く似合ってます」
桐絵は涼しそうな水色のワンピースを着ているが、綺麗な手足が惜しげもなく晒されて美しさを感じる。
「当然よ!尊に気に入って貰えるように栞とゆりさんに買い物に付き合っ……って!別に何でもないわよ!適当に選んだだけだから勘違いしないでよね!」
最初桐絵は自信満々だったが、すぐに真っ赤になって慌て出す。やっぱ可愛いなオイ。
「そうでしたか。俺は凄く綺麗で気に入りました。ありがとうございます」
「だ、だから!適当に選んだだけだから!それより早く行くわよ!」
桐絵はそう言って慌てだすが、もう少し攻め込むか。
「そうですね……あ、歩く時は手を繋いでくれませんか?」
「はぁ?!い、いきなりなんてお願いするのよ?!」
桐絵は更に慌てだすが、満更でもなさそうなのは気の所為じゃないと思う。
「いえ。何というか手が寂しいので」
そんな風に返すと桐絵は真っ赤になったままジト目で見てくる。
「それ、玲ちゃんや柚宇さんにも同じ事言ってんの?」
「はい?玲さん達は俺の手をいきなり握ってきますね」
寧ろ自分から腕に抱きついて、指を絡めるくらいだ。
「つまり、玲ちゃん達といる時は尊の方から頼まないって訳?」
「まあそうですね」
「ふ〜ん。まあ尊があたしと手を繋ぎたいなら仕方ないわね」
桐絵はそう言いながらもジト目を消し、満更でもなさそうな表情で俺の手を握ってくる。柔らかな感触が伝わってくる。
「桐絵先輩の手、柔らかくて温かいですね」
「尊の手も温かいわ。ガッシリもしてるし」
そんな風に話しながら改札を通ってホームに行くと、同じタイミングで電車が来たので2人で乗る。
席は夏休みだからかガラガラなので、桐絵を端に座らせてその横に座る。今から1時間近く電車に乗ってから違う電車に1時間近く乗り、バスで旅館に行くので到着は12時前だろう。
「桐絵先輩。今日は誘ってくれてありがとうございます。俺、温泉に行くのは(この世界に来てからは)初めてなんで楽しみです」
「どういたしまして。あたしは何度か行ったけど疲れが取れるわよ」
「あるんですか?てっきりずっとボーダーに関わってると思いました」
何というか桐絵は三門市から離れないイメージが強い。
「まあ間違っちゃないわ。旧ボーダー時代や大規模侵攻直後は三門市から離れなかったわ。けど新しい基地が出来てからは、隊員が増えたら余裕も出来たし最近になって行ってるわ」
「そうなんですか。何にせよ俺は桐絵先輩に誘われて嬉しいです」
「ばっ……へ、変な事言ってんじゃないわよ!」
桐絵は真っ赤になって慌てるが、ここで誉め殺す。ツンデレ桐絵も悪くないが、素直になった桐絵を見たいからな。
「変な事じゃないです。俺は桐絵先輩がいるから強くなろうって頑張れるんです。そんな敬愛する先輩に誘われるのは心から幸せな事です」
「なっ……ちょっ……た、尊……」
俺は桐絵と向き合い、桐絵の右手と繋がっている左手に自分の右手を重ねて桐絵を真っ直ぐ見つめながらそう言う。桐絵はしどろもどろの口調になってわたわたするが逃がさない。
「ですから誘ってくれたのは本当に嬉しいです。俺も桐絵先輩が楽しめるように頑張りますね」
「………(コクッ)」
そこまで言うと桐絵は真っ赤になったまま頷き、そのまま俯く。少し攻め過ぎたか?
そう思いながら俺は右手を離して、正面を向くと左手がくすぐったくなるので再度桐絵を見ると、桐絵は俯きながらも自身の指を俺の指に絡めていた。
まさか桐絵も指を絡めるようになるとはな。顔は見えないが仕草はメチャクチャ可愛いな。
俺は桐絵の仕草に満足しながら手をニギニギするのだった。
暫くニギニギしていると肩を叩かれたので桐絵を見ると真っ赤になりながらも俺を睨みつけて……
「尊。アンタがあたしを楽しめるようにするんだったら、あたしもアンタが楽しめるようにするから覚悟しなさいよね……!」
電車の中であるからか小声でそんな事を言ってくる。
そんな桐絵に対して俺は……
(尊の馬鹿……!あんたは本っ当に毎回毎回人の心を掻き乱すんだから……)
小南桐絵は俯きながらも恥ずかしい気持ちを心中で吐露していた。唯我と温泉旅行に行くのは楽しみだったし、唯我にも楽しんで貰えるように頑張ろうと思いながら自宅を出たのだが……
ーーー俺は桐絵先輩がいるから強くなろうって頑張れるんです。そんな敬愛する先輩に誘われるのは心から幸せな事ですーーー
ーーーですから誘ってくれたのは本当に嬉しいです。俺も桐絵先輩が楽しめるように頑張りますねーーー
そんな事を手を握られながら面と向かってハッキリと言われてしまい、桐絵の心は羞恥と嬉しさでメチャクチャになっていた。
初めて会った当初は自分を尊敬してくれる可愛い後輩だった。しかし会う度に強くなり、その理由が自分のおかげと言って誉め殺してくるので徐々に気になる存在となっている。
そんな相手からの必殺の言葉は矢となって、桐絵は自身の心に突き刺さるのを実感した。
(ってこれじゃあ尊に恋してるみたいじゃない!尊は可愛い後輩!それだけなんだから!)
しかし桐絵の素直じゃない性格により、矢は桐絵の心の表面に刺さりはしたが貫く事はなかった。
(本当にいつもいつも……!だったらあたしもやり返してやるんだから!)
桐絵はいつも自分だけ恥ずかしい思いをするのが悔しく思い、顔を上げて唯我の肩を叩くと唯我は桐絵の顔を見てくる。それに対して桐絵はドキッとするが、何とか押さえ込み口を開ける。
「尊。アンタがあたしを楽しめるようにするんだったら、あたしもアンタが楽しめるようにするから覚悟しなさいよね……!」
そう口にする。正直言って恥ずかしい内容であるが、唯我に一泡吹かせたい桐絵は恥を捨てて唯我にそう宣言した。
それに対して唯我はキョトンとした表情を浮かべるが、直ぐに優しい笑みを浮かべ……
「そう言ってくれるとありがたいです。しかしそれには桐絵先輩自身が楽しんでください。桐絵先輩が幸せそうに笑うのを見るのがこの旅行において1番の楽しみですから」
そのまま桐絵の心の表面に刺さった矢を加速させて、桐絵の心を射抜いた。
(〜〜〜っ!この馬鹿ぁ……!)
恥ずかしい思いをさせようとした結果、逆にこっちが恥ずかしい思いをしてしまう。
しかもさっきよりも数段破壊力がある。自分が楽しむことが1番の楽しみなんてダイレクトに言われた桐絵はノックダウン寸前だ。
桐絵はこの旅行で唯我との関係や唯我に対する気持ちが変わるかもしれないと思っていたが、旅行が始まって1時間以内変わるとは思わなかった。
これまで以上に恥ずかしく、これまで以上に顔が熱くなるのを自覚する。
しかしその恥ずかしさや熱さから今までのように逃げる気は無く、素直に受け止める事にした。
何故なら……
(もう認めるわ……あたしは尊の事が好き……玲ちゃんや柚宇さんに負けたくない……)
既に桐絵の心は唯我の一撃に射抜かれてしまったのだから。
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