唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第75話

旅館を出た俺達は旅館の近くにある階段を利用して崖下に向かう。川と直結している階段なんで直ぐに旅館に戻れるのがありがたい。

 

「あ!見て尊!」

 

桐絵が指差した方向を見れば、川の上にある橋から川に飛び降りてる人がいた。地元の人だと思うが、数メートルの高さから飛び込むのは勇気が必要だろう。

 

「まさか桐絵さんもやりたいんですか?」

 

「当然よ!面白そうじゃない!」

 

そう言うと思ったわ。ま、桐絵なら多分大丈夫だろうけど。

 

「そうですか。俺は正直怖いんで遠慮したいですね」

 

いくらマシになったとはいえ、この肉体のスペックは高くないからな。やるならもうちょっと鍛えてからにしたいのが本音だ。

 

「まあ無理にやらなくてもいいでしょ……っと、漸く着いたけども、荷物はどこに置く?」

 

階段を降りて、川の近くに着いたので桐絵は質問してくる。

 

「まあ貴重品はないですけど、念の為に岩陰に置きましょうか」

 

俺はそこそこ大きな岩が複数ある場所を指差す。あそこなら死角になるし、仮にパクられても鞄に入ってるのは遊び道具やタオルだから問題ない。

 

俺の提案に桐絵は頷くので、2人で岩の近くに行き鞄を置く。そして俺は上着とシャツとズボンを脱いで海パン姿になり、鞄の中からビニール袋を取り出して衣類を入れる。

 

同じように桐絵も服を脱いで鞄の中に入れるが、息をのんでしまう。理由は簡単、桐絵の水着姿を視界に入れてしまったからだ。

 

「な、何よ……似合ってない?」

 

俺の視線に気付いたからか桐絵は居心地悪そうに身を捩るが、その逆で凄く似合っている。

 

桐絵が来ているのはシンプルな赤いビキニであるが、シンプルイズベストを地で行っていて、健康的な手足と桐絵の恥じらいの表情が混ざり合い凄く魅力的だ。

 

「そんな事ありませんよ。思わず見惚れてしまいました。凄く魅力的です」

 

これについてはマジだ。この魅力的な桐絵を独り占め出来る俺は勝ち組であると思ってもおかしくないだろう。

 

「ふぇっ!い、いきなり変な事言ってんじゃないわよ!」

 

桐絵は真っ赤になって慌て出すが、今の桐絵を男が見たら同じ感想を抱くと思う。

 

「で、でもありがとう。尊にそう言って貰えると……嬉しい」

 

や、ヤバい……ツンデレのデレが出てきたが、破壊力が半端ない。あの強気な桐絵がモジモジしながら礼を言ってくるなんて……前世じゃツンデレはウザいと思っていたが、やるじゃねぇか。

 

「ど、どういたしまして。それよりそろそろ遊びましょうか?」

 

言いながら俺は鞄から空気の入ってないボールを取り出し、息を吹き込んで膨らませ始める。すると桐絵は自分の鞄から空気の入ってない浮き輪を取り出して膨らませる。俺も浮き輪を持ってくれば良かったか?

 

そう思いながらもボールを膨らませ終えるが、桐絵はまだ浮き輪に息を吹き込んでいるが思ったより進捗が悪い。肺活量が不足しているのか?

 

「ごめん遅くて。先に川に行ってて」

 

桐絵も俺に気付いてそう行ってくるが、俺からしたら桐絵がいないと意味ないからな。

 

「そんな訳にはいきません。疲れるなら代わりますよ」

 

「えぇっ?!」

 

俺の提案に桐絵は真っ赤になって大声を上げ浮き輪を手から離す。なんか今変なことを言ったか?

 

「あの、どうしましたか?」

 

「い、いや……えっと……その……」

 

桐絵はテンパるだけでマトモな反応をしない。マジで何があったんだ?

 

ともあれ俺がやった方が浮き輪を膨らませた方が早い。暑いから早く川に入りたいので俺は桐絵が落とした浮き輪を持ち、そのまま空気を入れる場所に口を付けて息を吹き込む。

 

「た、尊……」

 

浮き輪を膨らませていると桐絵は真っ赤になったまま上目遣いで見てくる。何で浮き輪を膨らませるだけで一々……あ、よく考えたら間接キスじゃねぇか。桐絵って純情だから恥ずかしいと思っただろう。

 

改めて認識すると俺も恥ずかしい気分になってくるが、ここでそれを言ったら気不味くなるだろうから、間接キスに気付かないフリをしてこのまま作業を続けた方が賢明だろうな。

 

俺は煩悩に蓋をして態度に出ないように注意しながら浮き輪を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(尊の馬鹿……!あたしは散々恥ずかしい思いをしてるのに平然としてんじゃないわよ……!)

 

桐絵は自分に代わって浮き輪を膨らませている唯我を見て恥ずかしい気分になりながら、内心にて文句を言う。

 

この日の為に準備した水着を着た姿を見せたら見惚れただの魅力的だの褒められて、浮き輪を膨らませるのに手間取っていたら代わりにやってくれその際には間接キスをしたのだ。恥ずかしくて悶死してしまいそうだ。

 

しかも当の本人は全く恥ずかしそうにしないで浮き輪を膨らませているので、文句の1つも言いたくなる。

 

しかし文句は言わない。唯我に恋心を抱いていると自覚してからは八つ当たりはしないと決意したからだ。ただでさえ玉狛所属であるが故にライバル2人と差があるので、マイナス要素のある行動をするわけにはいかない。

 

(そういえば玲ちゃんや柚宇さんに尊と旅行に行ってるのがバレたらヤバそうね……)

 

桐絵は唯我との間接キスから現実逃避するかの如くライバル2人の存在の事を思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「やっぱり繋がらないわ……」

 

ボーダー本部基地の廊下にて、那須玲は溜息を吐きながら携帯をポケットにしまう。

 

防衛任務を済ませた玲は自分が恋心を抱く相手、唯我の声が聞きたくて電話をかけたが繋がらなかったのだ。今までは直ぐに出た事もあり不安になった玲は時間を置いて5回電話をかけたが、1回も出なかったのだ。

 

「もしかして国近先輩か桐絵ちゃんとイチャイチャするから電話を切って……」

 

最悪の未来を想像した玲は早足で太刀川隊作戦室に向かう。太刀川隊にいなくても太刀川や出水なら情報を持っているかもしれないし、情報が無かったら玉狛支部にも向かうつもりだ。

 

そしてエレベーターを待っているとドアが開いたので中に入ろうとするが、足を止める。

 

何故ならエレベーターからはライバルの国近柚宇が出てきたからだ。

 

向こうも玲に気付いて不思議そうな表情になる。

 

「おや、もしかして太刀川隊作戦室に用かね?」

 

柚宇の呟きに玲は頷くが、自分の行動が読まれたことから柚宇は那須隊作戦室に向かっているのだと予想した。

 

「その予定でしたが、国近先輩に会えたので用は無くなりました」

 

「うーん、私は那須ちゃんが尊君と一緒にいると思ったんだけど……」

 

「やっぱり、桐絵ちゃんと会ってるんですかね」

 

「ちょっと聞いてみるね」

 

柚宇はそう言って携帯を取り出してスピーカーモードにして電話をかける。ただしかける相手は桐絵ではなく、桐絵が所属する玉狛支部だ。桐絵だと唯我と一緒にいた場合、居留守を使う可能性があると柚宇は判断した。

 

『はいもしもし。ボーダー玉狛支部です』

 

電話に出たのはかつて柚宇のチームメイトだった男だった。

 

「やーやー、とりまる君。久しぶりだねぇ」

 

『国近先輩ですか。お久しぶりです。何でわざわざ支部に電話したんすか?』

 

「色々あってね。小南はいる?用事があったんだけど、携帯が繋がらないんだよねー」

 

『小南先輩すか?小南先輩なら学校の友人と温泉旅行に行きましたよ』

 

烏丸の言葉に柚宇と玲は顔を見合わせる。学校の友人というのは嘘で本当は唯我と言ってるんじゃないかと考えたのだ。

 

「あ、そうなんだ。ちなみにどこの温泉かわかる?」

 

『確か◯◯旅館でしたね。俺からも連絡しときましょうか?』

 

「大丈夫だよ。ありがとー」

 

柚宇は礼を言ってから軽く世間話を数分して通話を切る。そして真剣な表情で玲を見る。

 

「ちょっと太刀川隊の作戦室に来てくれないかね?尊君がトリガーを持ってるなら位置情報がわかるよ」

 

ボーダーのトリガーは紛失や盗難を防ぐ為に位置情報がわかる。柚宇の場合、桐絵のトリガーの位置情報はわからないがチームメイトの唯我のトリガーの位置情報は調べられる。

 

「行きます」

 

玲が即答すると、2人は太刀川隊作戦室に向かう。そして柚宇はパソコンを起動して唯我のトリガーの位置情報を調べると……

 

 

 

 

 

 

「……◯◯旅館の中にあるね」

 

先程烏丸が小南の旅行先として言っていた旅館にトリガー反応があった。

 

「………つまり尊君は桐絵ちゃんと旅行に行った、と」

 

「ふーん……中々の抜け駆けだねぇ。びっくりしたよ」

 

「そうですね。桐絵ちゃんって大胆ですね」

 

玲と柚宇は口調は穏やかだが頬を膨らませ、目の光を薄くしていかにも不機嫌丸出しの表情で位置情報を眺めるのだった。

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