唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ! 作:ユンケ
「失礼するわね」
目の前にいる草壁早紀はそう言って向かい側に座り、店員に注文をする。まさかの展開に俺は呆然とする。
以前桐絵との旅行中に迅から草壁に関する連絡が来たが、もしかして今からのやり取りを見ていたのか?
まあ何にせよ今は草壁とのやり取りに意識を集中しないといけない。
「先ずは相席を了承してくれてありがとう」
「この混雑ぶりなら仕方ないだろ。それよりさっき丁度良いタイミングって言ったが、何の用かあるのか?」
まさか愛の告白……なんてのはないな。顔を見合わせば挨拶をする程度の仲だし、寧ろいきなり告白されたら怪しい。
「ええ。唯我先輩の今日の試合見たけど、どの試合も奇抜な戦術を使っていて勉強になったわ」
「それはどうも。けど中には草壁隊からしたら目障りな戦い方もあったんじゃないか?」
今の俺はレイガストやシールドやグラスホッパーで相手の隙を生み出し、防御不能リボルバー拳銃による徹甲弾を叩き込む戦闘スタイルだ。
そして相手の隙を生み出す為には相手を苛立たせるのが1番だが、中に相手を転ばせたりするパターンもある。
機動力を重視する草壁隊からしたら厄介な戦い方もあり、それを個人ランク戦で使ったので、今後俺以外の連中も草壁隊の面々と戦う時は個人ランク戦チームランク戦問わず利用する可能性もある。
「唯我先輩が考えた戦術をどう使うかは唯我先輩の自由よ。確かにウチの隊からしたら厄介な戦術はあったけど今後対策はしていくし、寧ろ唯我先輩の使った戦術を利用する予定よ」
そうあっけらかんと返す草壁。草壁とマトモに話すのは初めてだが強気ではあるが理不尽な恨みをぶつけてくるような女ではなくて良かった。
「それこそお前らの自由だ。ランク戦はあくまで訓練だからな。それで俺に対して何か用があるのか?」
「そうね。唯我先輩は普段どうやって戦術を組み立てているか聞いてみたかったの」
そういう事か。まあ確かに戦術を尋ねなくても考え方を知れば、これまでとは違う戦術を思いつくかもしれないからな。
教えるのは吝かではないが……
「条件付きで教えるが?」
「条件?まさかとは思うけど身体とかじゃないわよね?」
「んなわけあるか。大企業の社長の息子がそんな要求したら大バッシングだ」
まあ草壁についてもいつか口説き落とすつもりだけど。レベルはガチで難しいと思うが。
「そうじゃなくてお前の意見だ。まずはコイツを見てくれ」
言いながら俺はタブレットを取り出して、例のB級隊員量産計画について記したデータを展開してから草壁にタブレットを渡す。
対する草壁はタイトルを見て軽く目を見開くが、直ぐに真剣な表情になって指を使ってデータを見始める。
5分くらいするとタブレットから目を離し俺を見てくる。
「これは唯我先輩が考えたもの?」
「まあな。これについて忌憚ない意見を聞かせてくれ」
草壁はA級において最年少で隊長になった傑物だ。戦略の構築についても評価が高いし、参考になる意見を出してくれるかもしれない。
「そうね……ボーダーの欠点、その改善案もあるし内容は良いと思うわ。協力者次第だけど、今以上のペースで正隊員を増やせると思う」
そう言って貰えると嬉しいが、内容「は」って事は……
「何か問題があったか?」
「改善案というよりも追加案ね。オペについても手を加えるべきだと思う」
あ、そっか。戦闘員を増やす案ばかり考えていたが、それをサポートするオペレーターについても考えるべきだったな。
「確か部隊オペレーターは研修を済ませた中央オペレーターが、部隊に入る事を希望すれば入れるんだったか?」
「大体合ってるわ。けど部隊オペレーターに希望してる中央オペレーターって人間関係とかを不安に思って余り多くないわ」
「そうなのか?」
「多くないわね。どちらかと言えば、部隊オペレーターが推薦する感じ。宇佐美先輩が風間隊の後任として三上先輩を推薦したり、綾辻先輩が元チームメイトの柿崎さんに宇井先輩を紹介したり」
なるほどな。まあ確かに新人からしたら三輪隊とか二宮隊みたいな隊長が怖い部隊には入るのを不安に思うわな。
「戦闘員を増やす事は部隊も増える可能性もあるから部隊オペレーターについても必然的に増える。その時に備えて部隊オペレーターに転属を考えている人をピックアップして、訓練を施すべきだと思うわ」
「なるほど」
「後は混成部隊における訓練の増加ね。大規模侵攻はいつ起こるかわからず、場合によってチームメイトと合流が出来ず他所の隊員と組む可能性があるわ」
まあ一理あるわな。加えて大規模侵攻では他所のオペレーターとの連携も重要だし、部隊オペレーターについても考えておく必要がある。
そう考えると違うポジションからの意見も重要であると理解させられるな。
「助言感謝する。そっちについても考えておく」
協力者候補に対して行うプレゼンまで後3日。オペレーターについての知識は薄いので10日の発表には間に合わないだろうが、上層部に対してのプレゼンには間に合うようにしたい。
「もし良かったら協力するわよ。現役オペレーターの意見は役に立つと思うけど」
そこで草壁がそんな提案をする。確かに現役オペレーター、それもA級で隊長をやっている草壁の意見となれば価値は高いだろう。
「それはありがたいが見返りはなんだ?」
柚宇あたりならチームメイトだし無償で協力してくれるかもしれないが、付き合いの短い草壁の場合それは考え難い。
「簡単な話よ。発案者の唯我先輩はそのプロジェクトを統括する側の人間になると思うけど、私についても統括する立場に選んで」
なるほどな。つまり助言のみならず、プロジェクトを動かす方にも携わり自身の糧にするつもりか。
確かにオペレーターと隊長を兼任する草壁からしたら大人数が動くプロジェクトの統括をするのは経験値の塊だろう。
「まあそれくらいなら構わない。優秀な人間はいて損はないからな」
「決まりね。じゃあ部隊オペレーターの育成に関するスライドはこっちが作ってあげるけど、発表はいつ?」
「協力者候補メンバーに対しては10日。んで反応が良くて箔をつけれたら上層部に発表だな。理想としては20日までに上層部に認められて、9月の正式入隊日までに始動したい」
俺としては、新入隊員がオリエンテーションを終わってから直ぐに参加できるようにさたい。モチベーションの向上ってのは重要だからな。
「じゃあ今日明日で纏めておくわ。それと発表の時には私も参加するから詳しい場所とかも教えて」
頼りになる奴だ。まあそれ以上に貪欲さを露わにしてるのが怖いけどな。
「10日の14時から第2会議室だな」
そう返すと草壁は紙を取り出して何かを書き込む。
「これ、私の携帯とパソコンの連絡先。完成したら送るから唯我先輩の携帯とパソコンの連絡先も教えて」
そう言われたので俺も紙を取り出して連絡先を書き込み、草壁に渡す。
「これは俺の連絡先だ。改めてよろしく頼む」
言いながら俺は手を差し出す。これについては今後において友好的な関係を築くための布石だ。
そして草壁は拒否しないだろう。これまでの話の内容からして握手を拒否するのは人間性に問題があるからな。
「ええ、宜しく」
草壁は特に怪しむ事なく俺の手を握り返してくる。桐絵や玲や柚宇とはまた違う柔らかさにドキッとするが、長時間の握手は怪しまれるので直ぐに手を離す。
同時に注文した料理がやってきたので俺達は会話を一時中断して食事をするのだった。
草壁についてはかなりの堅物だから、恋心を守る牙城を崩すのは至難だと思うが諦めるつもりはない。前世で草壁の姿を見る前にこの世界に来たが、ビジュアルはガチで好みだし。
とりあえず暫くの間は戦術やプロジェクトなど色気のない話で距離を詰めていくべきだろうな。
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