唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第87話

「ふふ〜ん、頑張れば尊君にいい子いい子される〜」

 

太刀川隊作戦室のオペレーターデスクにて国近柚宇は上機嫌でパソコンを操作しながら、モニターの一面に映る唯我を見て口元に笑みを浮かべる。

 

唯我は戦術を作戦室で組み立てて、情報を表に出さない傾向があり、今は「シールドを足場にして空中を歩けないか?」というお題に挑戦していて、空中にシールドを展開してその上に乗ってからシールドの形を広げてシールドの上を歩いている。

 

初挑戦だから余り速い移動は出来てないが、そんな唯我を見て柚宇は微笑む。

 

(やっぱり尊君の行動は面白いな〜)

 

唯我は訓練の際には実戦の不向きを考えず、思いついたらとりあえず試してみる傾向がある。中には誰も実戦していない事も試している。

 

現に防御用に作られたシールドを移動用に使えないか実験してるし、以前はスコーピオンにおけるもぐら爪と枝刃を合わせて、そこら中からスコーピオンの剣山を生み出すなど中々面白い。

 

そして実戦的と判断した戦術をランク戦で使い、それを見た隊員の中には真似をする者もいて、ボーダー隊員の戦術の質も少しだが上がっている。

 

そこまで考えていると、モニターに映る唯我は足場にしていたシールドを消して地面に落下すると口を開ける。

 

『柚宇さん、次はエスクードを使えるように調整して貰えますか?』

 

「エスクード?別にいいけど、尊君にエスクードは向かないんじゃないかね?防御力についてはレイガストで充分だと思うよ」

 

エスクードは使い手が触れている地面や壁等から大型バリケードを出現させる防御用トリガーだ。

 

防御力は高いが、非透明であり地面に固定されるので移動も不可という欠点がある。更に消費トリオンも大きいので余り人気にはない。

 

防御に定評がある唯我なら使いこなせると思うが、その反面トリオン量が高くないので、レイガストとシールドがあるからわざわざエスクードを入れなくても……というのが柚宇の考えだ。

 

もちろん使う隊員はいるが今言った欠点もあり、チーム戦における作戦で使う事はあっても、常備している隊員は少ない。

 

(実際エスクードを常備してるのって、S級になる前の迅さんを始め、とりまる君と佐伯君……まさか草壁ちゃんの為?)

 

草壁隊に所属する佐伯竜司はエスクードを2枚トリガーに入れている。

 

柚宇は先ほどのやり取りからもしかして佐伯、ひいては佐伯の隊長である草壁の為にエスクードを利用した戦術を編み出しているのかと思ってしまう。

 

そう考えるとエスクードを入れたくなくなってしまう。もちろんこれは自分の考えで違うかもしれないが、好きな男が自分以外の女子の為に頑張るのだと考えたら嫌な気分になってくる。

 

すると……

 

『いえ。俺は防御力は求めてません。俺はあくまで合流手段として使いたいんです』

 

唯我からは予想外の返事が返ってくる。

 

「え?どういう意味?」

 

これには柚宇も困惑してしまう。唯我はシールドを防御以外にも使うのは知っているが、どうやってエスクードを合流手段に使うのは柚宇にはサッパリ分からなかった。

 

と、ここで部屋にブザー音が鳴り響く。これは唯我と柚宇が作戦室にいる時限定で発動するシステムで、太刀川と出水のトリガー反応が近づいたらブザーが鳴る。そうすることで唯我と2人きりで甘え合う時間を見られないようにと柚宇がプログラムを作成したのだ。

 

しかし今は甘えているわけではないので、特に焦る事なくブザーを消す。

 

「お疲れ様っす。あ、唯我のトリガー研究?」

 

「お疲れ〜。今は尊君のトリガー研究のアシスタント」

 

入ってきたのは出水で千発百中のTシャツが目に入る。

 

『あ、出水先輩お疲れ様です。時間あるならちょっと実験の相談を受けてくれないですか?』

 

「おっ、良いぜ。面白いもん期待してるからな」

 

パソコンから唯我の声が聞こえてくると出水はトリガーを起動してトレーニングステージに入る。

 

それを見送った柚宇は息を吐きながら唯我にエスクードが使えるように設定する。

 

(尊君は本当にフラグ建築士だから万が一を考えておきたいけど、草壁ちゃんに頼み込まれたら嫌だし仕方ないか〜。もういっそ家に呼んだ際に押し倒して既成事実を作ったり、最悪草壁ちゃんとフラグが立つ前に3人で囲った方が良いかもね〜)

 

「尊君、エスクードを使えるようにしたよ〜」

 

唯我は草壁相手にフラグを立てると既に判断している柚宇は目の光の色を薄くしながら唯我にエスクードを使えるようにしたことを告げるのだった。

 

 

 

 

 

 

「よ〜す。で?今エスクードって聞こえたけど、今度は何を考えてるんだ?」

 

トレーニングステージに入ってきた出水は軽い調子でそう言ってくる。

 

「今から実際に見せますが……そうですね、出水先輩はそこで待機してください」

 

言いながら俺は出水から距離を取り、更には住宅地を越えていく。

 

結果として出水とは50メートル近く離れ、俺と出水の間には沢山の住宅地があり互いの姿は見えない。

 

「では実験を始めますが、出水先輩は俺の姿を確認したら合流しようと動いてください」

 

『あいよ』

 

出水から了承を得たので俺は身体を出水がいる方向に向けて、地面に右手をつけて、両足の踵を上げて……

 

「エスクード」

 

エスクードを俺の足元、上部が踵に当たる為に斜め向きに展開する。

 

次の瞬間には足から全身に衝撃が伝わり、俺の身体は宙を舞って、放物線を描くように出水がいる方向に突き進む。

 

出水もそれを理解したようで俺の近くに向かい、俺の軌道上に広げたシールドを展開してくれる。俺はそれにぶつかり、そのまま地面に足を付ける。

 

「いやー、今のは面白かったぜ!まさかエスクードを発射台にするなんてな!」

 

出水はそう言ってくるが、これは前世においてワールドトリガーの前にあった読み切りのネタを参考にしたやり方だ。初めて試してみたが、エスクードの展開速度はかなり速く、発射台としては最高だ。

 

「思った以上には便利ですし練習をしたいですね」

 

『うーん。発想は面白いし、合流には便利かもしれないけど、飛んでる時に当真君や奈良坂君に撃たれる危険が大きいと思うよ?』

 

ここで柚宇がそんな発言をしてくる。まあ一理あるな。最強クラスの狙撃手なら高速で飛んでいようが撃ち落としてくるだろう。

 

しかも俺はトリオン量が高くないから、狙撃手の位置が分からなければガードも出来な……あ。

 

「でしたら出水先輩がエスクードを入れるのはどうでしょう?出水先輩のトリオン量ならエスクードで飛んだ瞬間に、メインとサブのシールドを全身に纏う形で展開すれば防げると思います」

 

ついでに訓練を積めば、狙撃した瞬間のみガードする事も可能になるだろう。

 

『なるほどね〜、出水君のトリオン量ならイーグレットとライトニングの弾なら防げるし、アイビスは遅くて重いから使う人いないし悪くないかもね』

 

「ついでに狙撃してきたら場所がわかるから、ソイツを太刀川さんに獲りに行ってもらうってもアリだな。柚宇さん、俺もエスクードを使えるように頼む」

 

『ほ〜い。今設定したよ』

 

「よっしゃ行くぜ、エスクード!」

 

柚宇がそう言うや否や出水はエスクードを斜めに展開して空へ飛び上がる。

 

その速さはグラスホッパーを使った速さには一歩及ばないが飛距離については充分ある。

 

(更に俺が考えたある戦術を使えば出水の牙は更に鋭く……いや、ダメだ)

 

正直ある援護を出水に施せば出水は射撃戦で無敵になれる……と思ったが、出水以上の火力を持つ二宮が同じ戦術を使ってきたらヤバい。

 

仮にその戦術をランク戦で使い、二宮が真似するようになった場合、原作が始まってから玉狛第二が二宮隊に勝てる確率が0に近くなるだろう。

 

原作と少し変わるのは仕方ないが、バッドエンドに繋がりそうな戦術はやめておいた方がいいな。

 

俺は離れた場所に着地する出水を見ながらそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後……

 

「ふぅ、疲れた……」

 

「いやトリオン体だから疲れねーだろ」

 

そんな風に出水と会話しながらトレーニングステージから出ると、柚宇がお茶の用意をしていた。

 

「お疲れ〜、お茶とお菓子だよ〜」

 

のほほんとした口調で日本茶といいとこのどら焼きをテーブルの上に置く。訓練後の休憩はこれに限るな。

 

そう思いながらも柚宇に礼をして食べる。

 

「それにしてもエスクードって思った以上に使い勝手が良いね〜」

 

「京介は京介で中々頼りになりましたけどね。唯我の場合、予想のつかない使い方してますから」

 

まあ否定はしない。記録を見ると烏丸の場合、エスクードで相手を挟み太刀川や出水に獲らせることをマトモな使い方を得意にしている。

 

俺の場合、エスクードを盾として使わず、発射台として使いさっきまで出水を飛ばし合流や爆撃や撤退させる事を練習していたからな。出水を飛ばして上空から爆撃出来れば、純粋な攻撃手を削れると思ったが、中々面白かった。

 

改善点があるとすれば……

 

「後は発射した際の初速を上げたいですね。エンジニアに頼み、耐久力を下げて展開速度や高さを大きくすれば飛距離や速度を上げれますね」

 

そうすれば狙撃手も狙うのが難しくなるからな。戦術としては悪くないだろう。

 

「エンジニアは複雑だろうな」

 

「防御用トリガーなのに防御を捨てて、移動用トリガーに変えてるからね〜」

 

2人からツッコミを入れられる。まあ防御を目的に作られたのに防御を捨てるように頼んでるからな。

 

「いやいや。寧ろ新しい選択肢の開拓ですよ。使い方を増やせばボーダーの戦力は上がります」

 

 

ボーダーの本質はランクを上げることではなく、街を近界民から守ることだ。ランク戦はあくまで訓練だから、訓練において戦術の共有や構築は必要だ。

 

基本新しい戦術ってのはふとした事から思いつく以外に、誰かの戦術をキッカケに思いつくこともある。

 

その際に俺の戦術が利用されるかはわからないが、各々で戦術の数を考えてそれを使えば、他の戦闘員がまた新しい戦術を生み出す可能性が上がる。

 

「まあそうだね〜、今回の戦術もランク戦で披露したら、機動力を好む草壁隊や王子隊は気にいるかもね〜」

 

そこまで話すと柚宇はジト目で俺を見てくる。え?なんか怒る要素あったか?

 

 

そして出水もジト目で見てくる。

 

「お前、またなんかやったの?」

 

「いえ。特に……あ」

 

もしかして作戦室に来る前に草壁と話した事が関係あるのか?草壁と話した後の柚宇はドス黒いオーラを撒き散らしていたからな。

 

「待てコラ。今「あ」って言ったよな?」

 

「気のせいです」

 

「嘘ついてんじゃねぇよ!お前頼むからこれ以上目立つなよ?!最近C級の間じゃ、お前のとばっちりで俺や太刀川さんを闇討ちする計画があるらしいんだからな!」

 

出水はガクンガクン俺を揺らしてくる。どうやら俺は闇討ちされる可能性があるようだ。そして太刀川と出水もとばっちりを食らう可能性があるとは「もしかしたら可能性はあるかもね〜、さっきまで尊君、草壁ちゃんと楽しそうに話してたし」柚宇ぅぅぅぅぅ!

 

「やっぱやらかしてんじゃねぇか!しかも次は草壁ちゃんだぁ?!テメェは地雷原をタップダンスする趣味でもあんのか?!このマゾ野郎!」

 

「痛ぇ!い、意味がわからない事を言わないでください!」

 

出水は怒鳴りながら俺にヘッドロックをしてくる。その表情には必死さがある。それについては申し訳ないが、暴力はやめてくれ。

 

というか柚宇は余計な事を言うな。やっぱお前、草壁と話した事を怒ってんのか?仕方ないから後で甘やかすとしよう。

 

俺は出水のヘッドロックにより首に痛みを感じながらそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ……首が痛ぇ……」

 

「草壁ちゃんと楽しそうに話す尊君は少しは反省したまえ」

 

帰り道、出水にヘッドロックされた首をさすっていると隣を歩く柚宇がジト目で俺を見ながらそう言ってくる。

 

「理不尽過ぎでしょ……後、別に草壁との会話は楽しんでないですからね。会話なんて戦術オンリーで色気のない会話です」

 

まあいずれは色気のある会話をするつもりだけど。

 

「どうだか」

 

柚宇はプイッとそっぽを向く。その仕草は可愛いが機嫌を直さないといけないな。

 

そう思った俺は人気のない路地の前を通ると一旦足を止めて、そのまま柚宇を前から抱きしめる。

 

「ひゃぁっ!た、尊君、いきなり何をするのかね?!」

 

柚宇はくすぐったそうに身を捩るが全然抵抗はせず、寧ろ俺の背中に手を回して抱き合う体勢となる。

 

「いえ。柚宇さんはいつも俺と抱き合ってる時は機嫌が良さそうですから、機嫌を直す為にこうしただけです。嫌でしたら離れます」

 

言いながら俺は柚宇を抱きしめる力を強め、そのまま頭を撫で撫でする。

 

「む〜、尊君は本当に狡いよ」

 

柚宇は文句を言うが怒りを見せず、俺の胸元でスリスリして甘えてくる。普段のほほんとする柚宇が恥ずかしそうにしている。全く……

 

「柚宇は本当に可愛いな……」

 

「え?」

 

「あ……」

 

ヤベ、思わず呼び捨てにしちまったよ。以前柚宇には前世の俺を見せてしまったのに……

 

「尊君?今呼び捨てにしなかったかね?」

 

柚宇の顔には驚きはあっても怒りの色はない。まあ柚宇は年齢とかを気にしない性格だからな。実際太刀川の事もさん付けではあるがタメ口だし。

 

「失礼しました。実は今日読んだお気に入りの漫画で、後輩が歳上の先輩を呼び捨てにする場面を見た影響かもしれません」

 

何にせよ許可なくタメ口にしたので謝罪が必要である。

 

「なるほどね〜、けどいきなり先輩を呼び捨てにするのはどうなのかな?」

 

柚宇は楽しそうにそんな事を言ってくるが、口調から察するに何かを要求してくるのかもしれないな。

 

「柚宇さんは何を求めているのですか?」

 

柚宇の表情から察するに理不尽な要求はしないと思う。しかし若干の不安がある。

 

 

日頃からしょっちゅう抱きついて甘えてくる柚宇は俺に好意を持ってるだろうが、他の女子と余り仲良くするなって命じてきたらハーレムの設立が歳上極めて難しくなりそうだ。

 

そう思っていると柚宇は息を吸って……

 

 

「じゃあ尊君は今後、私と2人きりの時はさっきみたいにタメ口と呼び捨てね?」

 

「え?」

 

まさかの要求は自分に対してタメ口と呼び捨てにしろって内容だった。予想外の内容に思わずポカンとしてしまう。

 

「今の尊君の口調や言い方は予想外に良かったからね〜。今後2人きりの時に敬語は無しで宜しく〜」

 

「え?ちょっと柚宇さん?」

 

「つーん」

 

慌てて呼びかけるも柚宇は態とらしくソッポを向いてからチラチラ見てくる。その仕草は凄く可愛い。

 

(まあこれはこれでアリだな)

 

柚宇とは更に仲良くなれそうだし、タメ口や呼び捨てを表に出せば多少のガス抜きは出来るだろう。唯我尊に成りきってると偶に疲れるし。

 

「わかったよ柚宇。これで良いか?」

 

「っ……えへへ〜、良いよ〜」

 

柚宇はニコニコ笑いながら俺に抱きつく力を強めてくるので、俺は優しく撫で返す。ま、これはこれで悪くないな。

 

「ねぇねぇ尊君」

 

「何です……何だよ」

 

「普段の尊君も良いけど、今の尊君はもっと良い。何というか……ノリに乗ってる感じかな?」

 

当たらずとも遠からずだな。本来の俺を出せてるのだから、ノリが良いというか気楽だ。

 

「自分の事だがよくわからん。ただ俺は2人きりになった瞬間、甘えん坊になる柚宇は凄く良いと思う」

 

「も〜、尊君は〜」

 

柚宇は口元を緩ませながらも甘えん坊全開となっている。

 

ひょんなことから柚宇に面と向かってタメ口を使うようになったが、次は玲や桐絵にも使えるようになりたいものだ。

 

俺は柚宇を暫く甘やかし、抱擁を解いてから柚宇を家まで送ったが、この場にいない玲と桐絵に対する呼び方の変え方について考えるのだった。

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