唯我尊に転生?上等だコラァ!ブラック企業で鍛えられた忍耐力を武器にマトモな唯我尊になってやらぁっ!   作:ユンケ

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第97話

ゲーセンを出た俺達はフードコートではなく、ショッピングモールの屋上に向かった。屋上には小さい遊園地とベンチしかなく、ベンチの周りには物がないので盗み聞きする奴がいたら直ぐにわかる。

 

屋上につくと落下防止用のフェンスに近いベンチを見つけたので、そこに向かい座る。

 

するとワンテンポ置いて柚宇も俺の隣に座る。腕に抱きついてはいないがピッタリとくっついている。

 

「さて、大体予想はつくが聞きたい事は何だ?」

 

俺が尋ねると柚宇は深呼吸を何回もして、深呼吸を済ませると俺を見て口を開ける。

 

「うん……尊君は何者なのかな?」

 

「やっぱりその質問か」

 

「前から尊君は成長し過ぎとは思ってたけど、さっきの殺意は成長で出せるものじゃないとおもうから」

 

まあそうなるわな。少なくとも数ヶ月前は只のボンボンだった唯我には無理だろうな。

 

「そうだな……話すのは構わないが、信じられない話だぞ?」

 

「それは聞いてから判断するよ。でも尊君の事を信じたい」

 

柚宇は珍しく強気な口調でそう言ってくる。そう言われると嬉しく感じてしまうものだ。

 

「わかった。じゃあ結論から言うと俺は唯我尊じゃなくて、別世界から来た人間だ」

 

その言葉に柚宇は目を見開く。多分今までは二重人格と思っていたのかもしれない。

 

「それって……近界民でトリガーを使って尊君を乗っ取ったってこと?」

 

真面目な考察をしてくる。

 

「それは違うが……嘘とは思わないのか?」

 

正直嘘だと言われると思っていたわ。

 

「いやいや。余りにも馬鹿らしい話だから逆に本当だと思ったよ」

 

なるほどな。馬鹿らし過ぎたが故に信じられたようだ。

 

「そうか。話を戻すが、別世界と言っても近界じゃなくて、別の日本……近界民が存在しない日本だ。所謂パラレルワールドってヤツだ」

 

「パラレルワールド……近界民がいないって事はボーダーもないの?」

 

「ないな。ボーダーもトリガーもトリオン兵もこの世界に来て初めて知った。俺は元々会社員だったんだが、ある日駅のホームで酔っ払いに突き落とされたんだよ」

 

これについては嘘をついている。実際は漫画の世界に入ったのだが、そこを説明するのは馬鹿らしいのでパラレルワールドからやって来た事にする。まあ柚宇からしたら別世界の人間であることに変わりはないだろうからな。

 

「会社員……それなら大人っぽかったり、物凄く頭が良かったり、プレゼンテーションの上手さも納得だね」

 

柚宇は納得したように頷く。まあ俺は場面場面で年齢詐称を疑われていたからな。

 

「そりゃどうも。そんで死んだかと思ったら、太刀川隊作戦室にいて出水の蹴りを食らってた」

 

「ほうほう。つまり異世界転生ってヤツか〜」

 

「楽しそうだな」

 

「ないと思っていた事があるんだからそれは興味が湧くよ。それにしてもいきなり蹴りを食らうとは災難だね」

 

そりやそうだ。いきなり蹴りを食らった時は予想外過ぎて怒りも湧かなかったし。

 

「まあトリオン体だったから問題なかったけどな。それで転生した当初は出水に対して「この金髪ダサT、いきなり何しやがる」って思ってたんだが、急に頭痛がして唯我尊が持つ知識が頭に流れてきたんだよ」

 

実際は元々知識を持っていたが、こういう設定にする。実際そこまでの差はないから問題ないだろう。現に柚宇は興味津々だし。

 

「唯我尊の知識が頭に入る際に唯我尊の経歴も知ったんだが……ぶっちゃけダメ人間の象徴のような経歴だった」

 

「まあコネ入隊は良くないよね」

 

ごもっともな意見を柚宇は告げる。しかも原作開始より1年半前から太刀川隊に居座る図々しさもあるからな。

 

「で、社会人の俺からしたらこんなダメ人間でいるのは嫌だったし、トリガーなんて漫画にありそうな存在に興味を持たずにはいられなかったから、全力で物事に挑戦してみようと動いたんだよ」

 

「なるほどね。凄く向上心が出来た理由はそれかぁ〜」

 

実際前の世界ではトリガーを使ってみたいと思っていたからな。まあハーレムについては言わないでおく。

 

「アレ?でも会社員なら殺意を出すのは無理なんじゃないかな?」

 

「ああそれな。俺が働いてた会社は残業、それもサービス残業が月100時間以上は当たり前で、本気で上司をぶっ殺したいって思ってたんだよ」

 

「月100時間以上のサービス残業って酷過ぎない?基本給って幾らなの?」

 

「20万ちょいだな。ボーナスなんて何それ食えんのって話だ」

 

「うわ〜」

 

柚宇はドン引きしている。社会人になってない柚宇でもあの会社の酷さが理解出来るようだ。

 

「その点こっちの世界は働いたら手当がつくし最高だ」

 

「なるほどね……ちなみにだけどさ、転生作品にありがちな特典とかはないの?」

 

そりゃ気になるよな。転生作品といったら特典だし。

 

しかし……

 

「ない。手に入ったのは唯我尊の肉体と記憶だけ」

 

「つまりハード系の転生物語を味わってるわけだね」

 

柚宇の奴、さり気なく酷いことを言っている。まあ唯我尊に転生はハズレだろう。俺もこの世界に来た時は風間や二宮や烏丸になりたかったと嘆いたからな。

 

「とりあえず俺の正体についてはこんな感じだ。今まで黙っていて済まない」

 

幾ら話しにくい事情とはいえ、長い間隠し事をしていたのだから謝るのが普通だ。

 

すると柚宇は途端に申し訳なさそうな表情になる。

 

「あっ……ううん。事情が事情だから話せないのは仕方ないよ。寧ろ私の方こそゴメン」

 

「聞き出したことについてか?」

 

「それもそうだけど、2回も本心を出す原因になっちゃったから……」

 

さっきのナンパと車に轢かれかけたことについてか。柚宇は申し訳なさそうにしているが別に気に病む必要はない。

 

「それは俺が勝手にやっただけだから気にすんな。それに俺を救ってくれた柚宇に怒りなんて湧かないな」

 

「救う?どういう意味?」

 

「俺はこの世界に来た時、正直不安だったんだよ。裕福な生活を送ることができても、本物の家族にはもう会えないだろうからな」

 

「あっ……」

 

会社には不満があったし、家族ともメチャクチャ仲が良かったわけでもない。

 

しかし仲は悪くなかったので、もう会えないと考えたら寂しくなってしまうことは今でもある。

 

「けどな。柚宇がゲームに積極的に誘ってくれた時は寂しさが紛れたんだよ」

 

柚宇は元から子供っぽいが、ゲームをしている時は一層子供っぽくなる。そんな柚宇を見ていると寂しさが紛れたのは間違いない。

 

「今までは言えなかったが、改めて言わせてくれ。俺の寂しさを紛らわしてくれてありがとう」

 

柚宇と向き合いながら頭を下げて礼をする。

 

頭を上げると柚宇は真っ赤になって目を逸らす。

 

「べ、別にゲームに誘っただけだから、たったそれだけの事で改まって礼をしなくても「たったそれだけの事で俺は救われたんだ。そんな風に言わないでくれ」あっ……うん」

 

否定しようとする柚宇を優しく抱きしめると、柚宇は小さく喘いでから優しく抱き返してくる。

 

「ねぇ尊君……じゃないや。本当の名前を教えてくれないかな?」

 

本当の名前か……久しぶりに名乗るな。

 

「神城竜賀だ。苗字は神と城、名前は竜と謹賀新年の賀だ」

 

「そっか……じゃあ2人きりの時は竜賀さんって呼んで良いかな?」

 

「好きにしろ。ただボロを出さないように気をつけてくれ」

 

「もちろん。それとね、もし尊君として行動するのが辛かったら私に言ってね?ガス抜きには協力するから」

 

柚宇はそう言ってくる。確かに昔に比べたらマシだが、普段唯我尊として行動する時は疲れる時もあるから柚宇の提案はありがたい。

 

「わかった。その時は頼む」

 

「うん……それと、さっきは助けてくれてありがとう。凄く嬉しかった」

 

柚宇はそう言って俺を抱きしめる力を強めてくるが、俺は抵抗しないで柚宇を受け入れる。

 

自分の正体を知って尚、態度を変えない柚宇に感謝の気持ちを抱きながら。

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