学年ワーストのギャルが騎士道で成り上がる英雄譚 作:TT_お休み中
「さて! 準備は良いかしら――!」
「ユリちゃん、大丈夫!?」
現代剣使用試験による模擬戦が始まった。ジャッジは自動判定。無観客試合となった会場には一筋のスポットライトのみが足元を照らす。
「えぇ。わたしは問題無し」
折木講師はウォーミング・アップと言わんばかりに吐血。伐刀者としての二つ名は『死の宣告(ジョリー・ロジャー)』――不利に思える身体状況を利用する実力者は、血の結晶とも言える固有霊装『カットラス』を展開。
「先生、展開くらいは待っててあげるから」
良心的な配慮。だが、その言動からこの試験の意味が分かった。「水際作戦」――上陸しようとする兵士を蹴落とす様な、甘い希望から厳しい現実へと突き落とす。彼女は覚悟した。
「……よし、やるか」
キサラは数年ぶりに固有霊装を抜いた――名は『
軍用として開発された光刃の能力は、最低限の回復能力と光速で展開する旋回速度。ショートレンジのカットラスに対応出来るかは、彼女のブランク次第。
『
これまで耳にするとは思わなかった合図に一瞬戸惑うキサラ。その隙きを狙い、伐刀絶技を展開――『血染めの海原《ヴァイオレット・ペイン》』この世の物とは思えない程の苦痛が彼女を襲う。
自身が山程抱える病を相手に共有させる凶気の能力。「どう? 感じるかしら――死者の様な醜い苦しみが」問いに返せない程の苦痛。
「(これが……ユリちゃんの……力……ッ!?)」
ふと、頭上を見上げると紅いカットラスが間近に迫っていた。
不覚を取られかけたが、痛みを押しバックロールで回避し、光刃でソレを受け止める。――歯を噛み締め、痛みに耐える。だが、その噛み締める力さえ、キサラに対する攻撃へと変貌する。
「普通なら狂う痛みだけど……この痛みに耐えられるなんて、先生感心しちゃう」
一瞬のタメを挟み、寸分の狂いの無くキサラの右腕を斬り付け、ファースト・ブラッド。滲み滴る血肉に似た輝き。そう、これは模擬戦。実際の損傷では無いが、痛みと疲労は現実的に身体を襲う。
震える身体にムチを打ち、キサラは折木を睨み付け、その姿を捉える。まるで死者を食らう魔女の様な姿。
「守りに入るとは、貴女らしくないわよ」
「んなワケ……ッ!」
折木はすかさずキサラの間合いに入ると、横から円を描き、カットラスを振りかざす。だが、閃光がソレを食い止め、阻止する。
「いい勢いね」
光から伝った衝撃を反動させ、華麗に身を回すと、狐を描き、反対方向の首元へとカットラスを振るう。
ショートレンジ特有の速さに戸惑いながらも刃を走らせ、辛うじて対応する。だが、それらはキサラを踊らせるかのような翻弄。
スナップを効かせ、己のカットラスで目の前を弄ぶ様に。――彼女は理解した。スタミナを削り、持久戦へと持ち込もうという戦法。
「センセー……小細工ならヤメて」
「小細工に見えるなら、心外ね――ッ」
居合のスピードが上がる。受け流すような揮いだったが、今度は叩き付ける様な威力の高い物へと変化する。乾いた音が澄んだシンバルの様な甲高い音色へと切り替わる。
「そろそろ疲れたでしょ? 剣士だなんて貴女らしくない。騎士道なら尚更。伐刀者? ――貴女には無理」
分かり切った挑発。攻めの姿勢に切り替えるには酷だという事すら分かり切るかの如く、カットラスは閃光へ問う。「そんなものか?」と。
「んな事……言われ続けたってのッ!」
だが、惨めたらしい生活から脱したい。そんな意地がキサラの動力源となっていた。カットラスの根本を覆し、折木の体勢を強引に切り替える。
しかし、彼女の様に攻めるとなると体力は削ぎ落とされるのみ。間合いに入れば入るほど、遊ばれる。
「(なってない。なってないんだよ)」
勢いだけの剣捌きだと思うと、折木はほくそ笑み、赤子をあやすように朱の刀で容易に返す。
「わたしの猿真似をしても無駄。能力をコピーし、上書きする様な黒鉄君に感化された?」
「影響は……されたカモッ!」
そう、伐刀者としての心を取り戻せそうな程に、彼の勇姿がキサラにとってのトリガーであった。
しかし、折木の言う通り、キサラに一輝の様なコピー能力は持ち合わせていない。彼女の戦法を返すだけでは意味も無い。トリガーを引くだけの無鉄砲。
閃光の速度は無闇矢鱈に上がる一方――「ヤケに打っても、わたしには勝てない」判っている。身体に走る感覚同様、痛いほど判っているのだ。
「あたしだって……あたしだってッ!」
折木の迅速な捌きに、霊装が手から離れてしまった。――「負けたくないッ……!」身体を宙返し、辛うじて脚で捉えたものの、不意を取られ、腹部へと突き刺された朱色の刃。カットラス。
「言ったじゃないか。君には無理だと」
言葉にならない叫びが喉から漏れる。現実を突き付けられたかの様な苦しみ。――実戦では負けと判断される状況。しかし、痛みの中でキサラは気づいた。
「……勝ったって、思った……ッ?」
痛みこそが闘い。彼女は開き直り、デバイス特有の回復能力を封じた。当然、恐ろしいまでの脅威が身体を襲う。
だが、ソレらは『闘いの快楽』キサラはそう実感し、苦しみから吹っ切れた。己の伐刀者としての魂が甦った瞬間。
「――
咄嗟に霊装を引き抜こうとしたその時、キサラの脚へと委ねられた光刃で蹴破られ、彼女の胴を掻っ捌く。
「(嘘だ――ッ!)」
折木は身を崩しかけるも、体勢を立て直そうとする。だが、もう片脚で蹴られ、無理矢理起こされると、お返しと言わんばかりに腹部へ光刃を突き刺す。脚から彼女の手元へと戻ったその輝きは、血流の様な色で折木を貫いた。
「……カットラスが――!?」
「ソレ、お返し」
カットラスは光刃と共に自らの腹部へと突き刺さっていた。蹴り破った瞬間、腹部から抜き取り自身へ突き刺したのである。痛みを乗りこなす
試合終了を告げるブザーが微かに揺れる。遠のこうとする意識を掴み、折木はフラつきながらも立ち上がった。
「君も……困難に挑もうとする者なのかい……?」
「他にも居たの……あたしみたいな無茶やるヤツ」
「それこそ、黒鉄一輝君だよ」
自身に挑み、勝った生徒は一輝だけだと思っていた。しかし、その事実は上書きされ「大道キサラ」の名が刻まれたのである。身を滅ぼす様な無茶。それを振い落そうとしたが、彼女は抗った。
「中々やるじゃん。アイツ」
嬉しそうに微笑するキサラの姿は、無鉄砲な少女ではなく"騎士"そのものであった。――その想いに折れてしまった。そう言い、キサラの想いを受け止めた折木の姿。
照れ隠しの笑いであったが、痛みにも負けない強さと誇りが勝った騎士としての笑顔に、キサラは感極まった。
「いいのよ。人ってね泣くと強くなるの。先生は泣いてもね、ずーっと病気三昧だったけどっ」
「違うの……センセーの気持ちが嬉しくて……」
「あらやだ。そんな事言われるなんて、こっちも感動しそ――!」
「ユリちゃん!?」
涙ではなく血の噴水を吹き出すと、力が抜けたように横たわる。――「全力出しちゃったみたい。でも、明日から復帰するからね☆」相変わらずな笑顔に、キサラも笑顔が戻った。
「あっ……! 伐刀絶技の名前『超ヤバイって』になったんだけど……こういうのって変えられるモン?」
「うーん。ちょっと厳しいかなぁ」
「えー!? それってマジヤバイってーッ!」
この日から『大道キサラ』の物語は始まる。――「若いって良いね」そうつぶやくと、スーッと意識が遠のく。慌てるキサラの声が心地よい。折木有里は微笑み、騎士道の歩みを祝福した。