学年ワーストのギャルが騎士道で成り上がる英雄譚 作:TT_お休み中
「ねぇキサラ、なんでアタシ達……雑巾がけしてんだっけ……?」
「そりゃ粉塵撒き散らして汚しちゃったからっしょ……倉敷センパイ、どっか行っちゃうし……」
「もう20往復だ。休むな休むな!」
息を切らす二人。主である海斗へ謝罪を含めて事情を説明すると、道場の清掃を命じられてしまった。
「(絢瀬サン、早く来ないかなぁ……)」
決闘後の疲労し切った肉体。侍の厳しい視線を浴びながらも、気合で身体に鞭打つ。何せ、友人まで付き合わせてしまっている。そうなると、真剣に済ます他無いのだ。
「終わりましたッ!」
「ご苦労……では、確認する」
指をなぞると、チリ一つ付着せず。どうやらセーフな様子――こういった事には慣れているのであろう、海斗は大きく溜息を付く。
「すまなかったな。ウチの倉敷が粗々をした様だが……」
「い、いえいえ……無法地帯への対策を教えてもらってただけなので……」
「それは本当か?」
侍の眼が光る。半分は事実であるが、少々苦しい言い訳。蔵人には悪いが敬意を払い、本音を白状する。
「はい。絢瀬さんに弟子入りを黙る条件付きで……すみません」
「――判った。そろそろ娘も帰って来る頃だ。少し食事でもどうだ?」
思えば、既に日は暮れていた。二人共、朝から何も食べていない。喜んで応えると、絢瀬の声が玄関から響いた。
「あっ、キサラさんに……ご友人さん……はっ、はじめまして、綾辻絢瀬です!」
絢瀬ご本人とようやくご対面。右目を隠し、とても緊張げに挨拶する彼女に対し、フランクに返す二人。
「どもども~。大道キサラで~す」
「こんばんは~。トモダチで~す」
海斗は彼女に夕飯の支度を促すと、そそくさと台所へ向かう。客人に振る舞うには、手際は素早く。それが綾辻家のモットーらしい。
その間、キサラは彼から「光刃とやらを見せてくれないか」と言われ、自身のデバイスを展開し、手渡す。
「どうぞどうぞ。眩しいからご注意を……」
輝きをジッと吟味し、一振。片側を眺め、もう一振――「私の世代には存在しなかった代物だ」落日に照らしながら語ると、持ち手の彼女へ丁寧に返す。
「そうか……無法地帯へ足を踏み入れるのか。若気の至りか、そうでないか――」
その瞬間、キサラの眼近に刀が輝る――「"反射"を鍛える必要があるな」寸前で止められた刃に息が止まる。綾辻一刀流の威圧に、思わず生唾を飲み込む。
「父さーん。キサラさん達~。夕食が出来ましたよ~」
「よし、食べるとするか!」
軽くなった緊張感が一気に増した。そんな綾辻家の食卓は、更に凌駕される物であった。
○●○●○
「うわー! マジで美味しそう!」
色とりどりの料理達。とても一人で揃えたとは思えない程の出来栄え。いただきます、と揃え、口に運ぶ。見た目以上に味も美味。
「ホントそれ! 絢瀬センパイ、料理上手いんだねー!」
「い、いや……ぼくは……その……」
「リアルでもぼくっ娘!? やば、可愛すぎってカンジじゃない!?」
「自慢の一人娘だ。可愛い以上の事があるか!」
「やっ、やめてよ……恥ずかしい……」
「娘としては、だ。剣士としては、まだ未熟だがな」
大笑いする海斗に「最近まで入院してたのに」と、愚痴混じりの言葉を溢す絢瀬。その事実に一同は驚愕した。
彼女によると、数年前に大病を患い、現在はリハビリ中との事。とても病を患っていたとは思えない刀捌き――尚更、反射を鍛える必要性があるのか、と痛感させられる。
「早く病に打ち勝たねばな……」
その瞬間、料理が乗ったちゃぶ台が宙を舞う――もしや、キサラは咄嗟に『光刃』を展開。海斗の手元に輝るは日本刀。ゲリラ訓練が行われる。
彼女は思わず残った机達を踏み蹴り、侍の斬撃を交わすと、入口を囲む木枠に脚蹴り、勢い付け振り下ろす。
「少しは成長したか。良い兆しだ!」
すかさず交わされるも、背を合わせるように身体の勢いを切り替える。相対した海斗とキサラ。
「行儀が良いのか悪いのか……もう分かんないんですけどッッ!!」
キサラの叫びがコダマする――鍔迫り合いの体となった二人。必死に堪える彼女の姿に海斗は笑みを溢す。
「いい洒落っ気だ。派手な身嗜みに負けていない……絢瀬、彼女は打てば響くぞ」
「はいっ!」
ひっくり返ったと思っていた食事は皆、綺麗な状態で皿へ盛られていた。どうやら無事な様子。――「また腹が減ってしまったな」何事も無かったかの様に食卓へ戻るサムライ。
「……良く食えるね、アンタ」
「キサラも負けずに食べなよ~。力つけなきゃ、ね!」
友人はお構い無しに舌鼓を打つ。呆れたキサラ。だが、彼女の実力を信用しているのか、ソレはあっけらかんとしていた。
その後も当たり前のように再び食卓を囲むも、いつ何時"反射測定"が有るか分からない。
「(お椀持ってるけど、すぐに持ち替えるんだろうなー……)」
そう考えただけで食欲が減退する。気懸かりという物は恐ろしい。――「気にしすぎだよー」だが、そう友人に促されては、食べるしか無い。夕飯は美味しく完食。
○●○●○
「あっ、あの……お散歩とか、どう……かな?」
「いいね~。センパイのお父さんが居ると、どうも落ち着かなくてさー……あれ、コレって失礼かな?」
「ううん、気持ちは分かるよ……」
控えめだが、気が利く大和撫子な性格なのかと腑に落ちる。辺りは街の喧騒と打って変わり、樹木と竹が生い茂る長閑な山間。軽いハイキング気分で澄んだ空気を身体に収める。
「なんかゴメンね、気を遣わせちゃって」
「いや、いいんだ……無法地帯の件で、呼んだのはぼくだから……」
歩を止め、本題を切り出す絢瀬。蔵人から同じ様なハナシを聞いたとは口が裂けても言えない。だが、概ね言えることは共通していた――『過酷そのもの』だと。
「ぼくも父さんの聞き伝えなんだけどね。でも、無茶だけはして欲しくないんだ……」
自身も道場の再建で無茶を行い、剣士の道を外れた行為に手を染めた事を赤裸々にする。同じ様な過ちを犯してほしくない。一視聴者として、一伐刀者として。並木が揺れ、風が靡く――彼女はキサラと向き合った。
「もし、そうなった時は……この風を思い浮かべて欲しいんだ。追い風になる時も、向かい風になる時もある」
彼女の腰に携えられた刀柄に気付く――親子は似るのか、その時。両者、霊装展開。無慈悲な『緋爪』が顕となった。
「落ち着いた場所だろう? 君を鍛えるには絶好の場所だよ」
「指定区域以外での霊装展開はダメだって知らない?」
「君の動画を見てから、その認識は無くなったさ――大道キサラッ!」
森林に斬撃が吹き荒れる。まるで枯れ葉同士が揺らめき、双葉となり風に身を散らすかの如く、二人は交えた。
闇に走る二つの彗星は文字通り、シノギを削る。視界を照らす様、光刃の輝度を増す――が、絢瀬の姿が無い。
深みを増した森には、キサラただ一人。――微風が頬を伝う。だが、何かが目近に存在するかの様な違和感。身をこなし、ソレを避けた時であった。
「(ッッッ……!?!?)」
背に走る疾風が、彼女の身体に襲い舞う。思わず口から咆哮が漏れる――激痛と共に、キサラは絢瀬の伐刀絶技を理解した。
「やっと気づいてくれたかい……
「……ココまで連れてきたってゆーコトは、それなりな
空間に予めトラップを仕込み、裂かれた傷口を更に広げる――絢瀬の伐刀絶技『風の爪痕』により、斜に刻まれた傷からは血肉が滴る。野鳥や獣が寄り付く様な野蛮な薫り。
光の力により、何とか封じ込めようとするキサラ。だが、一歩動いて抗いでもすれば……小さな傷を開かせ、致命傷へ持ち込む。サムライという宿命に抗うような刹那。
「イイじゃん。そう来なくっちゃ――
頬を緩ませ、キサラは決心した「危なげな
「反射を鍛えるという意。君には理解出来ているのかなッ!?」
「……あったりまえじゃん。夜空に何があるかくらいねッ!!」
無数の刃に閃光を集わせ、その罠を顕とさせる。仕込まれた数は膨大――まるで星空の様な実態が解った。
『輝け……《閃光魔術》』
ならば、月夜の輝きで刃先を輝かせ、身体を舞わせる伐刀絶技――
「喰らいな――ッ!」
慈悲無く振り下ろされた光刃は、絢瀬の眼近で寸止め「どういう真似だ……!?」「コレ、お父さんへのお返し」暗がりでウィンク。ニカっと歯を光らせるキサラ――「……参った」絢瀬は展開を解除。
「父さんの言ってた通りだ。光を魔力へと変換し、デバイスに出力させる……君が持ち得る
「そーゆーコトっ。
徐々にでは有るが、爪痕による傷が癒えている事に彼女は気づいた「ソレも力なのかい?」――あっちゃー。としたキサラ。自身の技名に肩をすくめる。
「さっき、
「うん……」
「アレね、伐刀絶技の名前」
「変わった、名前だね……」
「でしょー……知ってる。
キサラの叫びが山中に響く――絢瀬は少し笑みを浮かべ、彼女に優しげな眼差しを向けていた『個性のある技じゃないか』ふと溢れた言葉に反応するも、慌てふためく。
そんな仲睦まじい先輩と後輩。この夜は月と共に彼女達の親睦も深まったという。