学年ワーストのギャルが騎士道で成り上がる英雄譚   作:TT_お休み中

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話の都合上、此処から一部キャラ改変が入ってます。予めご了承下さい。


#5 #悪夢 #無法地帯 #予選ヤバすぎ

「何で……ッ!」

 

 少女は土に這いつき唇を噛み締める。彼女の身体はヘドロの様に炙り焼かれ、燻る骨肉が曝け出されていた。苦痛など、どうでもいい。剣士としての誇りが焼かれ落ちる事を、彼女は拒んだ。

 異国の地で力を鍛え、自国へ誇り高い伐刀者として戻る。それが彼女の誇りであり願いであった。だが、脅威が間近に迫る。

 

「絶対……負けたくない……!」

 

 変わり果てた兵士の様な肉体に鞭打ち、光を落とした刀を手にすると、眼の前の敵へ構える。無駄な物か、確実に敵へ睨みつけ斬撃を繰り出そうとする――そんな野望の果ては残酷であった。たった一人の少女を焦土へ返す事など容易な物であったのだ。

 

 

妃竜の息吹(ドラゴンブレス)

 

 

 群青色の空が、炎の如く紅く染め上がる――ソレは、眼の前で燃え上がった。セピア色の悪夢が、皮肉にも彩られるかの様に。

 

 

 

 

「……やっば。もうこんな時間!?」

 

 陽の光が眠気眼に射す。それは、キサラの目覚めを祝福する優しげな暖かさ。輝きへと導かれるかの様に、彼女は急いでデバイスを朝空へ向ける。霊装展開に応えるかの様に、彼女の携帯から『《認識完了。おはよう、キサラ》』――ロックが解除されると、ブレードは恩恵を受ける。

 

「(あんたも朝メシ食べなよ~?)」

 

 一度起きれば、ブレードの力を試しに外へ繰り出す。学園指定のブレーカーとパーカー。ヘッドホンとすっぴんを隠すためのマスク――『反射を鍛えろ』綾辻一刀流道場で学んだ一言を噛み締めるかの様に、一つ一つ振り下ろす。

 

《この風を思い浮かべて欲しいんだ。追い風になる時も、向かい風になる時もある》

 

 絢瀬の言葉が脳裏に過る。意識を集中させ、リズムよくツーステップ。風に靡く木の葉に目掛け、身体を風に任せて舞わし斬る――デバイスが禁止指定されてからという物、雨が降ろうが風が吹こうが、これが毎日の日課。

 

「あー。ノンストップ・ミックス終わっちゃった。戻ろ」

 

 一汗流し、友人が未だ起床していない事を確認すると、急いで化粧台へと向かう。――鏡と直面したキサラは、正夢と向き合う。マスクを取ると火傷の痕――ソレは左頬へと、酷く示されていた。

 

 

「鏡よ鏡のクソッタレ。セカイで一番ブスなのはだーれ……この下り飽きたっしょ? あたしもオンナジ」

 

 

 今でこそギャルであるが、中学生の頃までは洒落っ気とは無縁であった。むしろ、剣士としての誇りがあれば飾り気など必要無い。あの悪夢さえ無ければ、そんな凛々しい姿であっただろう。

 だが、あの惨劇からの執念を再燃させた『黒鉄vs桐原』をスマホで何度も見返す。引き返す気が失せる。

 

「黒髪ロングの清楚剣士……絢瀬センパイとタメ張れるかも。ま、今じゃムリだけどさ」

 

 そんなコンプレックスを塗り固めるかの様に、メイクを施し自らを着飾った。破軍学園へ入学した理由も、当初は伐刀者としての門が低いというヤケじみた志望動機――もうあの頃とは違う。頬の痕を隠し『大道キサラ』へと装った。化粧など、彼女にとって霊装展開と変わり無い。

 

「キサラ……もう起きてたんだ」

「まぁねー。不眠症(ふみんしょー)だし」

 

 ウソ。太陽の様な真っ赤なウソ。弱みを塗り固める事には慣れている。

 

「キサラって何気に早起きだしさー、アタシが起きる頃にはメイクもバッチリキメてるし……なんか、今日ヘンくない?」

「そ、そう?」

「まぁ無法地帯の本番だしねー。流石のキサラでも緊張するか」

「まーねっ」

 

 除光液を取り出すとネイルを手入れ。ゲン担ぎだと言うソレを丁寧に施し、身支度は完了。友人も既に済ませており、静かに寮を後にする。

 何度か電車を乗り継ぎ、道に迷う事、数時間。『無法地帯』の開催場所である街に到着――駅の一歩外に出ると、壁や道には隙間の無いスプレーによる落書き。ようこそを告げる看板には白地で『出て行け』の文字。

 

「ヤバいね」

「うん、そだね」

 

 曇り空の下、歳相応なキャリーバッグを押し転がす音が寂しく響く。この街である人物と落ち合う事となっていたが、約束の時間はとうの昔に過ぎていた。だが、律儀に守ってくれる義理堅い漢がソコに居た。

 

「遅せェぞ。何時間待たせんだ、オラ」

 

 倉敷蔵人。この街に溶け込むアウトロー……そして、前々年度『無法地帯』セミファイナリスト。

 

 

 

 

 蔵人に軽く詫びると、彼の案内。師匠から説教を喰らった上に面倒を見ろという指示。個人的にもキサラ達を見てられないと言い、知り合いの関係者を紹介すると言う。親切には乗ろう、二人は意気揚々であった。

 そんな二人であったが、半ば恐怖心を拭うような、その中の好奇心をさらけ出す事で己を鼓舞。

 

「能天気だなテメェら……アトラクションに行くガキじゃねェんだぞ」

 

 一喝するも、横目から彼女達がお互いに手を重ねていた。キサラ達なりの覚悟を見ると、鼻で笑う「強がるのはコロッセオに入ってからにしとけ」――ソレは圧倒的威圧感で彼女達を出迎えた。

 

「うわぁ……」

「オイオイ、遂にヤバいまで言えなくなっちまったのかァ?」

 

 『ノー・ホールズ・バード・コロッセオ』と記された看板を避けるかの様なストリート・グラフィック。何処かの球場に纏わりつく蔦に負けじと、ソレらは異質を放っていた。

 足が止まりそうな二人をヨソに、蔵人は呆れ混じりに歩み続ける。参加する人間が逆に思える光景だが、参戦するのは大道キサラ。カメラを回すのはその友人。暗がりに足を進めると、人影がポツリ。

 中年ほどの男一名。グレーの作業着に小柄な身を包む彼へ蔵人が一言。

 

「オイ、ちょっといいか?」

「おぉ蔵人。久々じゃねぇか。エントリーリストには載ってねぇけど、一回殺ってくか?」

「止せよ、出るのはこのオンナだ」

 

「は? 頭弱そうなこのギャルか!?」

「はぁ!?」

 

 食って掛かろうとするキサラを友人が宥めると、蔵人は小さき巨人の紹介。

 

「紹介する。事務員のGJ(ジージェー)だ。前々年度はコイツに助けられた。今、お前らが此処に居るのも、GJのお陰だと思っとけよ」

「よろしくな、小僧共」

 

 明らかに三下扱いされるも、彼の恩人ならと溜飲を下げる。蔵人は一言「来世でな」と言葉を残し、そそくさと去ってしまった。

 案内役はGJへと変わる。彼と共にコロッセオの中に入ると、無いも同然な無法地帯のルール紹介。

 予選は勝ち残り戦となり、決勝戦は翌日朝から翌週までのランダム選抜となる。壮絶な勝ち抜き戦になる事もあれば、勝ち抜き瀕死の相手を簡単に退け、次のステージへ駒を進める事もある――既に予選は行われていると言い、彼女達を闘いの最前線へと導く。

 

 

「いいか小僧共、チビんなよ?」

 

 

 入場口を開くと、サッカーコート程のコロッセオに無数の騎士。乱戦の舞台(バトルロイヤル)――魔力の混在で可視化する事もままならない。Fラン、Aラン。そんな物など関係無い。さながら、闘いのバーゲンセール。

 全く同じの予選が複数の場所で行われており、この中では3人のみが生き残る事が許される。そんな生命の福袋争奪戦。スタッフ曰く、此処ならではの挨拶があるらしい。既に蔵人が手本を見せたと言い、軽く放たれた一言。

 

「んじゃ、来世でな」

「えっ、ちょっと待ってよ!」

 

 GJがその場を後にすると、キサラの学生手帳から通知が鳴る。

 

『予選参戦まで、残り30分』――最前列で座るキサラと友人に血潮の挨拶。肉体の欠片と思われる血肉を思い切り浴びてしまった。二人は思わず黄色い悲鳴を上げ、外へ脱出。戦慄に身体を震わせる。

 

「ヤバくない……!?」

「ヤバくないワケないでしょあんなトコ!」

 

 覚悟はしていたが、予想以上。恐怖心が精神を襲う。だが、もう後には引けない――キサラは伐刀者としての魂を思い返し、滾らせる。

 雪辱から始まり、今では地に落ちたソレを血混じりに拾い上げるチャンスを掴もうとしている。友人も側で見守ると言い、少ない語彙力から可能な限りのポジティブ・ワードを彼女へ向ける。

 

「大丈夫、キサラならやれるって……やってくれなきゃ困るし!」

「アリガト。生きて帰ってくるから……マジで!」

 

 二人は強く抱擁を交わし、お互いの意志を確認する。人と言う文字は重なり合って出来る――何処かで聞いた言葉を実感させると、キサラは関係者用控室へと歩を進めた。

 

 

 

 

「あと3分、か……」

 

 ため息にほんの少しの勇気が混じる。唯一自分の力を発揮出来る場所――そう考えれば考える程、スイッチは入りそうになる。が、断末魔の叫びがキサラの鼓膜を裂こうとする。

 不安感を振り解こうと、支えてくれた友人、蔵人、綾辻親子の顔を思い返す。数年振りの大会に怖気付いてなど居られない。

 

「〈ココは闘う場所。絶対生きて帰る、勝つ。アタシは勝つ……!〉」

 

 今から飛び込む場所は、過去の自分から誇りを取り返す場所。もう一度思考のスイッチを切り替えると、両足で軽くステップ。阿鼻叫喚をリズムに乗せる様にウォーミング・アップ。

 気分は生き死にを踏みつけるタップダンサー。残り30秒――道徳観を捨てる準備は完了した。

 

「〈今ならイケる。早く……早く!〉」

 

 ブザー音が鳴り響くと、フェンスが解き放たれる。大道キサラ、入場――その瞬間、大剣がキサラの視界を走る。カウンターで光刃を輝かせると、流して捌く。

 コロッセオは外から見るより密集性が高く、流れるように相手が変わる上にソレらは様々。明らかに戦力が劣る剣士が続々と床へと平伏す――血がつけまつ毛に乗ると、視界がボヤける。その隙きに懐へ入り込もうとする者を斬り捨てる。

 

「あったまきた……どっかいい場所無いワケ!?」

 

 こうなったらもうヤケだ。ひたすら光を振りかざし、迎え討つ相手達をこなす。一撃一撃、計算無しの機転とカウンター。地上でバカ正直に滅多打ちを行っても仕方がない。

 ふと、青空が視界に広がる――垣間見えた太陽へ向け、光で軌跡を創り斬ると、軌道の完成。一歩を踏み締め宙へと舞う。制空権確保。

 

 だが、標的となり易い事も理解していた。ソコで光刃が輝く。眩い光で相手の視界を遮る。息遣いと血生臭い鉄を打ち合う地上に向かい、フラッシュを連続させる。さながら、パパラッチのストロボ連射。

 

「喰らいなッ……!」

 

 次々とよろめき、その場に倒れる騎士達。興奮状態である彼らの視界から脳を乱し、身体に電気的発作を促す。最も近いであろう現象で言えば『相手を見る時は、明るい場所で離れて見てね(光過敏性発作)』――直視すれば思考回路が乱れる。キサラの魔力はその光を受け入れる事。光の先に存在する闇を選別する。

 

「〈あー……友達にサングラス渡すの忘れてたな……〉」

 

 連盟側では禁止とされた現代的戦法。戦力は三分の一へと減っていたが、キサラにとっては、あくまで小手先の技に過ぎないという手段。

 運良く生き延びたという表現が相応しいであろう騎士と殺戮に飢えた生粋のバトルジャンキー。前者と後者。キサラの表情は思わず緩む。

 

「うん、オモシクくなってきたじゃん」

 

 後者に限るが、キサラに向かう相手はどれも手強い。一撃ごとの威力が増し、量より質と言わんばかりの戦況。そんな中、女の高笑いがコロッセオに響く。キサラの耳にクリティカルヒットするかのような愉快な声色。

 

「ネー。去年は雑魚狩りしてて忘れてたけど、今年の無法地帯は面白くなりそうだよ!」

 

 軽妙な言動の先――8本腕の妖艶な女騎士。彼女は一本むしり取ると、そのままもう一本の腕と連結させ、しならせる。さながらムチの体となると、辺りの伐刀者達を一気に蹴散らす。エキセントリックと言うべきか、そんな戦法に一瞬の迷いを感じるも昂ぶりは収まらない。

 

「ヤバいヤツばっか……いいじゃん、ってヤバ!?」

 

 殺気を感じ取り、身体を瞬間的にウェーブさせる――間一髪。他の伐刀者へと射抜かれた矢。存在しない場所から放たれたソレは、如何にも〈やられ役〉と言えそうな伐刀者へと向け続ける。応戦しようとする剣士達も迎え撃とうとするも、舌を舐めずる様に撃たれる。逆効果。

 キサラと8本腕以外は邪魔だと言わんばかりのクレバーなファイト。その戦法に既視感しか無かった。が、信じがたい。そんな彼の名は――最後の伐刀者を撃墜した後に響いた。

 

「アンタ……桐原!?」

 

 鼻で笑うも、現れた姿に顔に一片の変化も無い。全て捨て去ったかの様なソレは異質な意志。

 

「だったらどうだってんだ」

「いや、ずっと引きこもってたってハナシ聞いてたし……ってか、まだ返事貰ってないし」

「言っただろ、〈殺ス〉と」

 

 霊装や戦法、容姿は明らかに桐原静也――だが、異様なまでの冷徹さから見える殺気。気迫という物は可視化出来るのか、そう思える様な威圧。彼は殺戮の狩人へと変わってしまった。無法地帯に狩人。そして、返り血がメイクの一部となったキサラ。

 

「一つだけ望みを叶えても良い……お前も直に殺る」

 

 冷ややかな視線が反れ、彼は悠然とコロッセオの中心に立つ。気付けば〈かつて伐刀者だった人間達〉の山が築かれていた。

 8本腕の女騎士も例外では無く、むしろソレを歓迎していた。愉しげな笑みを見せ、拍手喝采で生存した二人を迎える。

 

「新顔じゃん。ようこそ無法地帯に……私は『崇藤峰子(スドウ ミネコ)』フジコちゃんって呼んでネ。それじゃ、また来世でネ~」

 

 器用に8本腕を振り、その場を後にする峰子――『これにて、選抜予選を終了致します。開催は明日朝を予定しています――』ガイダンスが耳から抜ける程に、血肉が滴るコロッセオを唖然と一望する。我に返ると、惨状から慌てて去る。

 

「〈ヤバイヤバイヤバいって!〉」

 

 傷一つ無く生還出来たのが奇跡に思えると、身体を何度も手で擦る……問題無し。友人の呼びかける声、問題無し。命の保証、プライス・レス。


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