1
アリシアを失ってからのプレシアさんはまるで、別人のようだった。
仕事をやめ、何かの研究に没頭するようになり、部屋から出てくることもほとんど無くなった。たまに顔を合わせてることがあったが、プレシアさんは別人のような表情をしていた。
怖さや居づらさもあったと思う、その頃から僕も、夜以外は家にいることが少なくなり、良くない連中とつるむこともあった。
そして、ある日家に帰ると、僕は目を疑った。
そこに、アリシアがいた。
「プレシアさん……アリシアが、どうして? だってアリシアは」
わけが分からなかった。アリシアは確かに、事故で死んだはずだった。
「ユウキ、アリシアはこの間の事故でずっと眠っていたでしょう? ようやく目を覚ましたの」
「ユウキ、ごめんね?心配かけて」
そう言い聞かせるように言われたが、僕の中では何かが噛み合っていなかった。そんなはずがなかったから。
そして、アリシアと一緒に暮らしていくなかで段々と違和感だけが積もっていった。
魔力光の色も、魔力資質も僕が知っているアリシアとはまるで別人だった。この子は本当にアリシア……? そう思いながらも、嬉しそうなプレシアさんを見ると、何も言えなかった。
2
変化は突然だった。
「あの子はアリシアじゃないわ。あの子はフェイト、アリシアとは違うわ」
突然のプレシアさんの言葉は到底理解できるものではなかった。
「それは! 一体どういうこと…っ!」
「どうもこうもないわ。あの子はフェイト。アリシアとして接するのはやめてちょうだい」
それだけ言い残してプレシアさんは部屋に戻っていった。この頃、更に研究に没頭するようになっていた。アリシアとよく遊んであげたりしていたのは、アリシアが戻ってきてから少しの間だけのことだった。
確かに、アリシアに関しては違和感を感じていたけど……アリシアだと言ったのは、他ならぬプレシアさんだ。それがどうして、急にあの子はアリシアじゃないなんて言い出すんだ…。
「あ、アリシア!」
部屋から出てきたアリシアを見かけて、声をかける。
フェイトだとプレシアさんに言われたのに、アリシアと掛けてしまった。
「アリシア? どうしたのユウキ? 私はフェイトだよ?」
驚愕だった。昨日までアリシアとして生活していたはずなのに。その子はもうアリシアではなくなっていた。自分が昨日まで、アリシアと呼ばれて生活をしていたはずなのに。
こっちの方がおかしくなりそうだ。
「あ……ごめん、フェイト」
気まずそうに謝って、僕はフェイトの頭を撫でた。そうだ。
この子はフェイト、アリシアじゃない。それでいいんだ。
フェイトはアリシアとは違って、大人しくて少し行きすぎてるくらいに真面目な性格だった。アリシアに妹がいたら、こんな感じなんだろうか。
それから間もなくして、プレシアさんはアリシアが生きていた頃からの飼い猫、リニスを使い魔にし、フェイトの教育と魔法の訓練を始めた。リニスの手が空いている時間に僕自身も魔法の訓練をしてもらった。
元々、アリシアと違って魔法には興味があったし。どうしようもなく、これから必要になるような気がしていたからだ。
ある日、リニスに呼ばれて、フェイトとその使い魔アルフと一緒に、デバイスルームに連れてこられた。と、そこには黒と紫、2本の斧のようなデバイス。
「リニス……これが?」
「そう、あなたのデバイス、バルディッシュ。こっちのはユウキのデバイス、ハルバードです。二人のデバイスは兄弟機のような物です。どちらも私が作り上げた最高傑作ですよ」
「これ……おのぉ?」
アルフが訊ねた。
「斧であり、槍であり、全てを断ち切る閃光の刃でもあります」
「わあ。よろしくね、バルディッシュ」
笑顔で言うフェイトに応えるように、バルディッシュは発光した。
「ハルバードか。いい名前じゃん、よろしくね」
僕は相棒に挨拶をする。これから、苦悩を共にする。そんな気がしていた。
3
「プレシア? プレシア、どこでですか?」
「リニス? どうしたの?」
リニスが珍しく、大声を出していたので、気になって声をかける。
「プレシアが見当たらなくて……」
「プレシアさんが? 僕も探すよ」
二人でプレシアさんを探す。研究室の前で書類をバラバラにしながら、倒れているプレシアさんの姿が目に入った。
「プレシア!」
「プレシアさん!」
慌てて駆け寄る。そこで、研究室から光が差していることに気付き、そちらに目をやった。
そして、僕は目を疑った。
そこにはカプセルのような物の中で眠っているアリシアの姿があった。見間違えるはずがなかった……。それはあの日のままのアリシアだったのだから。
「あ……アリ、シア」
プレシアさんが行っていた研究、探し求めている技術について、フェイトとアリシアと。
その真実がそこにあった。
4
その日の夜、確かめに行こうと思い、プレシアさんの寝室の前に行くと、中からから言い争っている声が聞こえてきた。
「あなたに一体何が分かるって言うの。私とアリシアの何が分かるって言うのよ」
「何も分かりませんよ、忘れさせたのはあなたじゃないですか! だけど、山猫生まれの使い魔にだって分かることがあります。今ならまだ、引き返せます」
「いつも仕事ばかりでアリシアには少しも優しくしてあげられなかった。仕事が終わったら、約束の日になったら、私の時間も優しさも全部アリシアにあげようと思ってた。なのに! あんな失敗作に注ぐための愛情なんて!あるはずがないわ!!あるはずがないじゃない。あなたの役目は、使い魔として命は、フェイトが魔導士として完成するまでよ。さっさとフェイトを完成させて……消えてしまいなさい」
リニスが吹き飛ばされたのに、出て行くことも出来ず、僕はただそれを扉越しに聴いてるしか出来なかった。何もかもが崩れていくのを、扉越しに感じていた。何も出来ない自分を呪いながら。
フェイトが魔導士として一人前になると、リニスは消えた。
「ユウキ。フェイトを、プレシアを、そしてーー出来ることならアリシアを宜しくお願いします。こんなことを頼めるのはあなたしかいないんです。あなたしかーー」
それがリニスの最期の言葉だった。僕はまた、家族を一人失ってしまった。悲しみにくれる、それを時間が許してくれなかった。フェイトが一人前になった今、プレシアさんはフェイトに何かをさせるつもりでいる。
プレシアの部屋の扉には鍵が掛けられていた。中で、プレシアさんがフェイトに何かを話しているのが聞こえる。
「フェイト、これは母さんの夢を叶えるために必要なものなの。集めてきてちょうだい」
心底冷たい声。あの優しかったプレシアさんの姿はもう、そこには無かった。
「はい。母さん」
か細い声でそう言って、フェイトは頷いた。そして、ジュエルシード集めに旅立つために、転移魔法を展開する。
「フェイト!!」
扉を叩き開けて僕は叫ぶ。転移する直前、フェイトがこちらを振り向いた。その瞳に写る悲しみを、僕は見逃さなかった。
「プレシアさん!あなたは!」
あなたはあれを見ても何も思わないのか。それほどまでにあなたは。
プレシアさんを振り返り睨む。しかし、その目の冷たさを見て、僕は何も言うことが出来かった。プレシアさんから目を離して転移魔法を展開する。今ならまだ、行く先を追うことが出来る。
フェイト。
お前一人だけに辛い思いはさせない。
僕がみんな救ってみせる。
読んでくれてありがとうございます!!長くなってしまいましたが、プロローグ終わりですー。次から本編に入っていきます。